デッサン2

水色の恋
第6話  純愛 A

「太陽。良い報告がある。今日・・・。マスターと一緒にお買い物いくよ」





「!!」




ピカチュウのリュックを担ぎ、お買い物準備万端の太陽。



水里からの報告に・・・







「やったあああ」






ミニピカと抱き合い、ダンス。






(ますたあとおっかいもの。おっかいもの〜♪)




手を取り合い、喜びの舞。





「太陽。嬉しいのはわかるけどちゃんと大人しくしてなきゃだめだよ。分かってる?」





ラジャーー!!といわんばかりに親指をたてる太陽。





「よし・・・。じゃあお出かけの前にちゃんと御トイレしておいで」




太陽はミニピカをつれたままトイレに直行。






「ふぅー・・・。洗濯物も干したし・・・とりあえず支度はこんなもんかな」





水里はふと鏡の自分を見る





特別おしゃれするつもりもなかったけど・・・






髪は高めに水色のバレッタでとめ、


水色のブラウス・・・




白のジャケットにパンツ・・・






(少しはね・・・。年相応にしなくちゃ・・・ね)








普通の巷の女の子なら・・・




デートの時はきっと念を入れてお洒落するんだろうな・・・






ファッション雑誌をチェックして




美容院へ行って・・・








それが楽しい。





それが恋をしているってことなのかな・・・







(おいおい。恋って柄じゃぁないよな。自分・・・)







世の中の26歳はもっと大人の女性なんだろうな



仕事をばりばりこなして会社が終わったら恋人と
バーなんかでお洒落に飲んだり。




そろそろ結婚願望が現実化して
お見合いパーティーなんかにめかし込んで出てみたり





結婚した女性ならば子供ために頑張って・・・





色んな26才がいる。



色々な四十才もある。




年齢でその人の価値や存在を意味づける権利は誰にもない。




権利があるのは『自分』だけだから・・・






(・・・。人それぞれ・・・。私みたいなのが一人くらいいたって
いいよね・・・)







悶々と鏡の前で考え込む水里を




太陽とミニピカは不思議そうに見上げていた・・・






(ミーママ・・・。なにかんがえてるのかなぁ。あ、お昼ごはんのことかなぁ)
















「・・・太陽君!」




「ますたあ!!」






太陽は陽春めがけて抱きつく。







「重くなったなぁ。太陽君」




「うん」






相変わらず太陽を温かくつつんでくれる・・・










「あ、水里さん、おはようございます」




「お、おはようございます・・・」






ベージュのTシャツにジーンズ・・・






(わ、若い・・・!マスターがジーンズって珍しい・・・)






陽春にあわせて、水里は少し落ち着いた雰囲気に着てきたつもりだったが・・・



(下手すると私の方が年に見えるかも・・・。そりゃないか(汗))







「ん?どうした太陽くん」





太陽はぼそぼそっと陽春に耳打ち・・・








「水里さん。そのブラウス、よく似合ってますね」





「えっ。そ、そうですか」





「水色で統一して・・・。とっても似合ってます」




「ははは、そ、どうもです・・・。バーゲンで買ったさんきゅっぱなんですけどね・・・(照)」




照れくさすぎて庶民的なことを口走ってしまう不器用な26歳です。





さて。太陽が陽春に耳打ちしたこととは・・・






”ミーママね、いっぱいおしゃれしたの。だからかわいいでしょ?”




と・・・









水里たちが行ったのはホームセンター。 日用品から家財、インテリア用品など様々なものが取り揃えられている。 休みとあって家族連れが目立つ・・・ ショッピングカーとを押すのが太陽は大好き。 木工用品のコーナーで陽春と太陽が看板になる板を模索中。 「うーん・・・。杉は日持ちするんだけどペンキがなぁ・・・。太陽君。 君はどの木材がいいと思う?」 太陽も一著前に腕組みをして品定め。 太陽はヒノキを指差した。 「ひのきか・・・。香りもいいし・・・。うん、いいな!太陽君、君は 目が肥えてすばらしい!」 パチン! と手を叩きあう二人・・・ 人見知りが激しかった太陽が嘘のように 陽春に心を開いている・・・ 水里はそれがとても嬉しい・・・ (ありのままの太陽を受け止めてくれてる・・・。ありがとう 春さん) ホームセンターには様々なものが本当にある。 「お!!これは!!」 水里はカラーボックスに注目。 「これ、すごく収納ができていいですよね。俊さんそう主輪いませんか?」 「そうですね。色々手を加えたら台所にも使えそうだし・・・」 収納の話で盛り上がる陽春と水里。 太陽はそんな二人をじっと見つめている・・・ (ミーママとますたあが仲良し・・・。ボクもなかよし。みんな、なかよし。 うれしいなぁ) 太陽の真横を親子連れ3人が通り過ぎる・・・ 「・・・」 太陽は陽春と水里の間に入って手をぎゅっと握る 「太陽・・・?」 水里は太陽の視線の先を追う・・・ そこには3人の親子連れ・・・ 少年が父親と犬小屋を楽しそうに選んでいる・・・ (太陽・・・) 「ようし!太陽君!ミニピカの家の看板もつくろうか!」 陽春は太陽を抱き上げた 「どの木材がいいか、選んでください!太陽隊長」 「ラジャー!!」 太陽は敬礼して木材を食い入るように眺める・・・ 「ミニピカの看板だから、いいの選んでくださいね」 「うん!!」 太陽の目をしっかり 見つめ話す・・・ 包んで・・・ (ありがとう・・・。春さん・・・) 水里は心の中で何度も呟いた・・・ お昼は公園ベンチでお弁当。 「いっただきまーす!」 水里がつくったピカチュウおにぎりをほおばる太陽。 白いおにぎりにノリでピカチュウを描きました。 「どう?太陽?」 太陽はVサインを出す。 「よかった。何せ、太陽との合作ですからね」 太陽はピカチュウバスケットの中からアルミホイルに包んだピカチュウおにぎりを 陽春に手渡す。 「え・・・?僕も食べていいのかい」 太陽は快くうなづく 「じゃあ・・・。いただきます」 (・・・) 陽春の反応を少し緊張して待つ水里 「・・・うん。美味しい!僕、ツナすごく好きなんです」 (・・・ほ・・・) はっきり言って陽春の方が料理は旨いと思っていた水里。一安心。 「・・・太陽君。食後の運動しようか!サッカーボール持ってきたんだ」 太陽はにこっと笑って陽春に芝生の広場にとことこついていった (・・・太陽を気遣ってくれてありがとう。春さん) ホームセンターでの出来事・・・ 太陽は表情にも言葉にも出さないが 物事が分かってくる年頃だ ”親”という存在が自分にはないことを太陽なりに 理解していかなければいけない (だからこそ・・・。春さんの様に太陽をそのまま受け止めてくれる大人が もっと必要なんだろうな・・・) 水里はピカチュウのリュックを撫でながらサッカーを楽しそうにする陽春と太陽を見つめていた・・・ そして午後2時。 『世界の果てで愛を呼びたい』 恋愛映画だけあってカップルが目立つ。 水里達は真ん中辺りの席に座る。 太陽を挟んでに水里と陽春は両脇に ”どんな映画なんだろう?” 太陽は水里にそう尋ねたら 『大人の男と人と女の人の恋人同士の映画だよ』 と言った。 (こいびと・・・。こいびとかぁ) 水里と陽春の顔を覗き込む 「なに?おトイレなら映画始まる前にしてこないとね」 太陽は首を振った。 「そう・・・。あ、太陽。疲れたら寝ててもいいからね」 「ねない。おとなのえいが、おとなのえいがーvv」 興味津々のようご様子。 (また変なこと覚えなきゃいいけど・・・(汗)) ちょっと心配に想いつつ、映画の幕があがる・・・ 「ZZZ・・・」 物語の中盤ほどして・・・ 流石に太陽は、はしゃぎ疲れたのか夢の中。 (やっぱり太陽にはまだ難しかったかな) 水里は自分のジャケットをそっと太陽にかけた 冷房が効いているのか少し寒い (え) ふわ・・・ 今度は陽春が水里にジャケットをかけてくれた・・・ 「体が冷えるといけないですから・・・」 「・・・ありがとう・・・ございます」 あんまり優しい掛け方だった 照れる暇さえないほど・・・ 不意をつく 思いやりという言葉よりもっと 柔らかい心・・・ 水里の心は スクリーンをまっすぐに見つめる陽春の横顔に 止まる・・・ (・・・) 映画のスクリーンではなく陽春の横顔に夢中になって・・・ 「・・・ぐすっ・・・」 (・・・!???) 背後から聞こえたすすり泣く声にはっと気がつく水里・・・ 後ろの女性がハンカチで目を拭っていた (・・・) 別の世界から引き戻されたような感じ・・・ ふとスクリーンに視線を戻す・・・ 丁度ラストシーンで、主人公の青年が若いときに死に別れた恋人からの テープレコーダーを崖の先で聞いているシーン・・・ テープレコーダーの中身が朗読される 『天国がどんなところかちょっと先に見学に行ってるね・・・。 卓ちゃん。先に行っちゃってごめんね・・・』 恋人が残したメッセージ・・・ 一番心打つ場面だろう 『卓ちゃんと恋した時間・・・。私が一番綺麗だった時間・・・。 それが私が生きた証・・・。忘れないで・・・。忘れないで・・・』 あちこちで涙する女性達・・・ だが水里には映画より陽春がどう思い、見ているのかが気になる・・・ (・・・春さん・・・) 自らの状況と重ねてみている・・・? いや、映画は映画だと客観的にみている・・・? 深く深く結びつきあった二人が一人になる・・・ 恋愛ストーリーではこれ以上の盛り上がる展開はないだろう。 それもやりきれない病気となれば切なさも倍増だ けれど現実は・・・ まだ生きられる筈だったのに 第三者に突然、恋人の命を奪われた 事故という突然の出来事に奪われ踏みつけられた 一時の甘く切ない感情では済まされない・・・ 一生、喪失感と憎しみと悲しみと闘わなくてはいけない 囚われてしまう 仕事も人間関係、生活全てに影響する・・・ 『幸せだよ・・・。卓ちゃん。私幸せだったよ・・・』 テープの最後のメッセージ・・・ 感動も最高潮でハンカチを取り出すバックの開け閉めする音が 響く 陽春は表情一つ変えずただ画面をまっすぐ眺めている・・・ (・・・。春さん・・・) 映画のラストシーン・・・ 水里は陽春の横顔しか覚えていなかった・・・ 「ふぅ〜・・・。久しぶりに映画なんて見たので肩こりました。春さんはどう?」 「そうですね。長い間座っているのは腰や肩にきますから」 陽春の車。後部座席で太陽はすっかりお休み中・・・ 「それにしてもあの映画・・・。あちこちで泣く声がきこえて 映画よりそっちの方が気になっちゃいました」 「そうですね。でも映画やドラマなどを見て泣いたり、笑ったり怒ったり・・・。 感情を引き出されるというのは体にとってもいいことなんですよ」 「・・・はは・・・そうですか・・・。医学的ご意見・・・」 水里、苦笑い・・・ 「・・・」 映画の感想についての会話は水里はそれ以上聞けなく俯いてしまった 「あ、か、看板の下書き、に、三日したら持ってきます」 「お願いします」 会話がぎこちなく・・・ 「・・・。水里さん。僕は・・・。僕は大丈夫ですよ」 「え?」 「映画は映画・・・。正直気持ちが重なるフレーズもあったけど・・・。でも 映画より僕は・・・ 今日という日。とても充実していた」 「・・・」 陽春はバックミラーに映る後部座席の太陽を見つめた。 「水里さんと太陽くんの美味しいお結びが食べられて・・・。サッカーもして・・・。 今日という一日がとても・・・楽しかった・・・。明日、生きていく元気を もらえたんです」 「・・・」 「だから・・・。僕は大丈夫です。ね・・・!」 陽春を気遣う自分の心が見透かされたような気がして・・・ 水里はなんといっていいかわからなく・・・ 「春さん・・・。私も今日という一日・・・。もしかしたら明日に哀しいことがあったとしても 今日という日を大切にします」 映画館のなかでジャケットかけてくれたあの 優しさを垣間見れた今日という日を・・・ 陽春は穏やかに笑って頷いた・・・ 「・・・ラジオでも聞きましょう」 カチ・・・ スイッチを入れると偶然、あの映画の主題歌が・・・ ”季節は変わっても君のにおいも 笑顔も 消えはしない 瞳を閉じれば秋の紅葉のように 冬の雪のように 蘇る君の記憶 君を失った痛みはじわり じわり 疼きながら 時間は過ぎていく 時間は過ぎていく” 「・・・」 「・・・」 水里も陽春も黙って聞いている・・・ ”新しい季節が・・・始まってるのか?” 夏紀の言葉が過ぎる・・・ 「・・・新しい季節・・・か・・・」 「・・・え・・・?」 陽春と水里の視線がぴた・・・と合う・・・ 「・・・」 「・・・」 ラジオサビの部分に差し掛かかる・・・ 『次の季節を迎えてもいいか・・・? 僕は次の季節を見つめていいか・・・?』 「ピッカチュウ。むにゃむにゃ」 太陽の寝言・・・ 「・・・!」 「!」 太陽が目覚め、はっと我に帰る二人。 窓を覗くともう家のすぐ前だった・・・ 「うーん・・・。あ、おうちだ」 前髪にちょっと寝癖をつけてお目覚めの太陽です 水里は眠たそうに目を擦る太陽をだっこして車から降りる・・・ 「春さん、今日は本当にありがとうございました」 「いえこちらこそ・・・。太陽くん、おやすみ」 「ますたぁ。さようなら」 水里の背中であくびをしながらVサイン・・・ 「じゃ、春さん、また・・・」 「あ・・・。水里さん」 水里を呼び止める陽春。 「・・・。いえ・・・。おやすみなさい」 「おやすみなさい。看板、頑張りますね」 「はい。おねがいします」 パタン・・・ 水里は陽春に二、三度会釈して家に入っていった・・・ 二階の明かりがぱっとつく。 窓に水里と太陽の影が見える・・・ 『新しい季節を迎えていいか・・・?僕は君を胸に次の季節を迎えていいのか・・・?』 ラジオから流れる曲、サビの部分が連呼され・・・ プツ・・・ッ 陽春はラジオを切った・・・ 「・・・」 ”新しい季節を迎えるのか・・・?” 「新しい季節なんて・・・。オレは・・・」 車のサイドボードを開け、あのペンダントを取り出す・・・ ”逝ってしまったヒトの魂を思い出し、沢山の人たちの記憶に残す・・・それが 生きている人間のすべきこと” 「・・・」 パタン。 サイドボードにペンダントをしまう。 (・・・新しい季節は迎えられないけれど・・・。今日という日を・・・ 大切に・・・) 二階の窓から漏れる明かりをチラリ見て・・・ 陽春はアクセルを踏んだ・・・