デッサン3
〜君と共に生きる明日〜
第16話 初めてのチュウ。
「・・・」 吉岡太陽。大好きなもの。ピカチュウ。だけどもっと大好きな ものがある。 「はぁ。まりこちゃん・・・」 愛しのまりこから貰ったピカチュウのワッペンを胸に貼り付けて 太陽、水里のアパートのベランダで恋のため息。 「はぁ・・・まりこちゃん・・・」 太陽は最近めっぽう女の子らしく可愛くなってきたまりこに ドキドキが止まらない。 っていうか昨日・・・ ”太陽君・・・。だいすき。” と、なんとほっぺにチューをしてもらっちゃったわけで。 「はぁ・・・。ぼくのまりこちゃん・・・」 完璧に太陽のこころの中はまりこだらけ。 「・・・。ったく最近の子供はイッチョ前に・・・」 洗い物をしながら何だか虫の居所が悪い水里。 (・・・ん?もしやこの苛つきは”姑心”のようなものか・・・) 太陽が女の子の事で悩んでいる。これも成長の証なのだろうが 少し寂しい水里ママ。 「ねぇみーまま」 「んー?」 「みぃママと春さんはチューまだしてないよね?」 がっしゃーン!! 水里、太陽の爆弾発言に皿を2枚、お釈迦にしました。 「・・・な、なんちゅうことを突然・・・(動揺)」 「みぃママ・・・。ボクネ・・・。どきどきがとまらないんだ。 まりこちゃんの顔ばっかりうかんで・・・」 太陽は胸に手を当てて、目を閉じて 何度目かの深いため息。 「・・・。太陽。いい?あのね・・・。簡単にチュウはしちゃいけないんだよ」 「どーして。チュウは大好きな人どおしがするんでしょ?」 「そ、そうだけど・・・。その、何回もしたらなんていうか ”ドキドキ”が薄くなっちゃうんだよ?意味分かる??」 太陽は少し方杖を少しついて考えてから、首を横に振る。 「太陽、こっちおいで」 水里は椅子に座り膝のうえに太陽を乗せた。 「チュウ・・・はね。二人の気持ちがすごーく あったかーくなった時にしたほうが、もっとお互いを好きになるなるの。 ほら、ごはんだって大好きなものを後に残したほうが美味しくて楽しいでしょ?」 「・・・よく・・・わかんない」 水里は言い方をかえる。 「・・・たっくさーんのチュウより・・・。大好きだよーって 気持ちを一生懸命こめたチュウの方が・・・。もっと素敵なの」 「・・・。そうか・・・。うん。みぃママ、わかった。チュウはさいご。 でもハグはしてもいい?」 「うーん・・・。いいけどそれも、まりこちゃんと 二人きりの時の方がいいかな。私は太陽のことだーすきだから いっぱいハグするけどーー!!」 「きゃははは」 太陽を想いっきりだっこする。 大分体重も重くなってきたな・・・と感じる。 体重の分だけ、心も大きく成長している。 (素敵な初恋・・・。大切にしてね。太陽・・・) 太陽の少し重たくなった体が いとおしかった・・・。 太陽の初恋。今日も青い空の下で盛り上がっております。 ”今日は教室でおりがみしようデート” ということで外は雨にて、二人でおりがみをしております。 「ぴかちゅう、でーきた!」 「わぁ!かわいい。ねぇえ、私、うさぎできた」 お互いに作った折り紙をみせあいっこ。 なかなかの出来栄え。 二人は嬉しくてにこにこ。 ”チュウよりもね・・・。大好きな人とにこにこ笑いあうほうが とっても楽しいよ” (好きな人と楽しいこと、沢山する。うん。みぃママ、わかったよ) 水里の言葉の意味が太陽は今、少し分かった気がした。 だが・・・。 「折り紙なんてだせー・・・」 二人の恋を邪魔する奴らが現れる。 まりこをいつもからかってくる男子達だ。 太陽はまりこを守るように前に立ち塞がる。 「あっち行けよ!まりこちゃんに近づくな!」 「はぁ?コイツ、アホか。一人でかっこつけて。 はやらねぇんだよ。バーか」 タカシが太陽にぺっと唾をはいた。 (この・・・!!) かっと血が上るが水里の言葉がそれを食い止める。 (ぼうりょくは駄目。みぃママと約束した) 太陽はぐっと堪える。 「大体お前らいっつもベタベタしてよ。汚い唐沢と一緒に いるお前もゲロイ。キモイー・・・。ぺッ!」 唾二発目・・・太陽の顔面にHITするが それでも堪える。 (太陽君・・・) 太陽の頑張り・・・。まりこの目に涙を浮ばせる・・・。 「けっ。クソヤロウ。こんなもん、こうしてやる!!」 「あっ」 タカシは太陽が作ったピカチュウを思い切り破り、さらに その破片をフンズけ、 「ゴミが!!」 ぺっとまた唾をはいた。 「・・・太陽君のピカチュウになにすんのっ!!」 怒りが爆発したのはまりこの方。 タカシのお腹に一発グーで一発いれた。 「何すんだ・・・ッ!!!!このゲロ女!!!」 タカシが拳を振りかざした・・・ (きゃ・・・) タカシがなぐったのは・・・。太陽のほっぺ・・・。 「あ・・・、太陽くん・・・血・・・」 鼻血と少し唇を切ってぽた・・・っと床に落ちて・・・ タカシの顔が引きつっている・・・ 「貴方達!!何してるの!!」 騒ぎを聞きつけた担任・・・。 太陽とまりこはすぐさま保健室へと連れて行かれた・・・。 「・・・ひっく・・・。太陽君・・・お口、だいじょーぶ?」 「大丈夫だよ。ボク、そんなによわくないよ」 「だって・・・」 涙目のまりこ。ほっぺの絆創膏と鼻に詰め込まれた脱脂綿。 痛々しい太陽の有様にまりこの涙は止まらない。 「・・・泣かなくていーよ。まりこちゃんを守れたから ボクはだいじょーぶ・・・」 「太陽君・・・」 (・・・こ、この子たちったら・・・(照)) 小学生のカップルの会話に頬を染める保健の先生。 ちなみに50歳で孫もおります。 「太陽くん。ごめんね私のせいで・・・」 「いいんだよ。まりこちゃんが傷つく方がボク、 つらいから・・・」 (太陽くん・・・) まりこのちっちゃな胸がきゅん・・・とあったかくなる。 (どうしよう・・・大好きがとまらない) 「太陽君・・・。大好き・・・」 (ええ??) まりこはそっと・・・太陽の唇の先に軽くチュ!。 (えええ???) 太陽は何が起きたのか、分からない。 「あ・・・。ごめん。お口、痛かった?」 太陽は顔が真っ赤にして首をぶんぶんふった。 「よかった・・・。太陽くんがいてくれたら、私、タカシくんたち なんかこわくない」 「まりこちゃん・・・」 見つめあう二人・・・ 昼ドラ並の盛り上がりように50歳、孫ありの保健の先生は・・・ (さ、最近の子たちってば・・・!!秋のソナタでも見てるのかしら!??) と、顔を真っ赤にしております。 盛り上がる保健室にとある大人二人が物凄い勢いで入ってきた。 ガラガラ!! 「太陽ーーーー!!」 「まりこーーー!!!」 とある大人、とは水里とまりこの父親。 「みぃママ!!」 「パパ!!!」 互いに顔を見合って・・・ 「て、店長!??」 「や、山野!??!」 店主と従業員の思わぬところでの遭遇。 帰り道・・・。 「まりこちゃんよかったね。お父さんが迎えに来てくれて」 「太陽君もね」 幼いカップルはラブラブなのに対して。 (まさかまりこちゃんの父親が店長だったとは・・・) (一番会いたくない奴にあった・・・) と、顔を背けて。 保護者達はなんとも気まずい雰囲気まま歩く・・・。 「あ、て・・・店長の早退する理由、一緒でしたね」 「・・・お前と一緒にすんな。ってかお前、子供なんかいたのか。 雇うときそんな話きいてないぞ」 「・・・私の子供じゃありません」 「え?」 水里は少し間を置いてから話す。 「その・・・。太陽の両親はいません。 だから私が時々世話をしているんです・・・」 「・・・。そうか・・・」 「はい・・・」 唐沢はそれ以上何も聞かなかった。 いや、聞かないでくれた。 赤信号。 太陽とまりこはジャンケンをして青に鳴るのを待っている。 「・・・まりこの奴が・・・。おまえんトコの息子に世話になってるらしいな」 「え?」 「アトピーのことを気にして学校へ行くの、嫌がってた 時期があったんだ。正直、オレも戸惑ってたんだが最近じゃあ・・・」 ”大好きな子ができたんだ。だからつらくない” 「って笑って学校行くようになった・・・。娘の苦しみにも気づいてやれ ないでいて・・・。いつのまにか一人で強くなって・・・。 ・・・。父親失格だな。」 「・・・」 いつも従業員を怒鳴り散らしている唐沢とは思えない。 子供の事で悩んだして・・・ (普通の優しいお父さんなんだな・・・) 「・・・おい。別にな、お前に愚痴ってるわけじゃねぇぞ? ただ、娘が世話になったと礼を言ってるだけだ。勘違いすんじゃねぇぞ」 「・・・は、はぁ・・・(汗)」 (礼を言われるのか分からないが・・・) 信号が青になり、渡る。 曲がり角に差し掛かり、唐沢親子と別れることになった。 「まりこちゃん。元気でね」 「太陽君も・・・」 手を握り合って二人の世界の太陽とまりこ。 「・・・(怒)うおっほん。まりこ。行くぞ」 ちょっと不機嫌な唐沢に手を引かれていく。 だが立ち止まり、唐沢は戻ってきた。 「おい坊主」 太陽はドスの利いた声にちょっとビクっと肩を震わせたした。 「・・・これからも・・・。まりこと仲良くしてやってくれ」 「・・・はい・・・!まりこちゃんのお父さん」 「・・・。坊主にお父さんと呼ばれる筋合いはねぇ。じゃあな」 太陽の頭をポン!と軽く叩いてすたすたと帰っていく・・・ 「・・・ぷ。早くも太陽を敵視して・・・。ありゃまりこちゃん を嫁に出すとき相当暴れるな。うんうん」 「みぃママ・・・。まりこちゃんのお父さんちょっと怖い人だね」 「あー。そりゃー見かけもそうですから」 「うん。手、優しい感じがしたよ」 水里と太陽は手を繋いでアパートへ向かう。 「・・・太陽。お口とお鼻、痛くない?」 「うん」 水里は担任から騒ぎの一部始終を聞いていた。 太陽が相手に一切手を出していないことも・・・ (太陽・・・。私との約束守ったんだね・・・) アパートについた。 太陽はランドセルを置いてすぐに手洗い。 (太陽・・・) 「ん?みぃママ?」 太陽をぎゅうっと抱きしめる。 「太陽・・・。今日は・・・偉かったね・・・。私すごく感心した」 「うん」 「でも・・・。太陽が痛い目にあって・・・ごめんね。守ってあげられなくて」 「どうしてみぃママが謝るの?」 「ごめんね・・・」 陽子の分も抱きしめる。 小さな心が傷ついてないか。 体の怪我も痛いけど・・・心の痛みは・・・ 「みぃママ・・・みぃママのハグうれしいけど、おしっこしてきていい?」 「え、あ、ごめん。ふふ。行っておいで」 太陽はにこにこしてトイレへ・・・ 太陽の笑顔が・・・ 本当に愛しい・・・ (太陽・・・。今日は・・・いっぱいいっぱいハグしようね・・・) 水里は今日の出来事を、陽春へのメールに書いて贈った。 「・・・。太陽君・・・。本当につよい子だ・・・」 水里の文面から太陽への愛情がひしひし伝わってくる。 パソコンの画面を微笑を浮かべて見つめる陽春・・・。 (・・・。水里さんの強さは・・・太陽君に引き継がれてるんだな・・・) カチカチ。 水里と太陽の写真。 「・・・ふふ・・・」 (いつか・・・。この二人の笑顔を守れるような男になりたい・・・) ”いつか”じゃない・・・。 (絶対に・・・。なりたい・・・。なるんだ・・・) そう思うと・・・ 力が沸いてくる。 自分がするべき道が・・・ 見えてくる・・・ 陽春は机に座り、の専門書を読み、ノートに書き写していく。 (今のオレの・・・。道しるべだから・・・) ノートパソコンの水里と太陽の笑顔をライトの代わりにして・・・。 眩しい笑顔に照らされて・・・。