デッサン3
〜君と共に生きる明日〜
第21話 みんな大好き。
太陽が水里の部屋で過ごすようになって4日。 流石に3日間も休んだから、明日は休めない。 (でも・・・。太陽を一人にはできない・・・) 悩む水里の背中をポンポン、と叩く太陽。 「なあに?」 『ボク、おるすばんできるよ』 「え・・・。でも夕方まで帰えってこないんだよ・・・。 太陽を一人にはできない・・・。やっぱり学園に戻って・・・」 水里がそう言うと太陽はぎゅっと水里の服をつかんで 首を横の降った。 (・・・そうだよね・・・。学園に戻ったら・・・。学校の先生とか 来てるみたいだし・・・。せめてもう2、3日は私も太陽のそばにいたい・・・) シスターから電話があり、太陽に担任が会いたいと言ってきているという。 しかし太陽はそれを激しく嫌がった。 「・・・となると・・・。手段はただ一つ・・・」 水里は唐沢に電話をかけた。 「店長・・・。お願いします。今週一杯だけ・・・。太陽を つれてきてもいいですか・・・?」 水里は太陽の状態を丹念に話した。 「・・・。やっぱり・・・。駄目・・・。ですよね・・・。 すみません。甘えすぎですよね」 「今週一杯で倉庫のダンボール、全部処理しろ」 「え?」 「それなら・・・。坊主と一緒にいられるだろ。倉庫は暗いがな」 「店長・・・!ありがとうございます!!」 唐沢の許しが出て、水里は太陽をつれて出勤・・・。 当然同僚達は驚く。 「えー!!山野さんて子供いたの!?」 「え、あ、いや・・・」 ”親戚の子です”とでもいおうと思ったが 「もしかしてシングルマザーとか!??凄いねーーー!! なんか憧れちゃう」 完全に話のネタにされてしまい、弁解する暇もなかった・・・ 「・・・あ、あの・・・。ちょっと事情があって、この子は 今、お話ができなくて人見知りがすごいので・・・。そっと しておいてください。宜しくお願いします」 「・・・なーんだ。つまんないの。どーでもいーけど 泣かせないでね。私、子供の泣き声ムカつくんだ」 「・・・」 若い二十歳の女の子。ガムをくちゃくちゃ噛みながら 太陽を見下ろす。 「おい。ガムすてろ。バイトだからって気楽な 態度だったらすぐ首に摺るぞ」 唐沢がそのバイトの少女をにらみつけた。 「・・・ふぁあいうぁっかりましたー」 ふてぶてしくバイト少女はエプロンをして店に出て行った・・・ 「・・・店長・・・。すみません。私の都合で・・・」 「・・・お前が謝るな。坊主が・・・気にするだろうが」 太陽は心配そうな顔で水里を見上げている。 「店長・・・。有り難う御座います。本当に助かります・・・」 「・・・。まりこがもし同じ目にあってたなら・・・多分オレなら犯罪一歩 手前なことしてたな」 「・・・店長・・・」 「・・・。仕事のせいつって・・・。子供の心の傷と向き合えなくて・・。 取り返しがつかなくなっちまったら・・・。ぞっとする・・・」 唐沢の背中が 一瞬震えたように水里には見えた・・・ (・・・店長・・・) 「おい坊主。お前の母ちゃんはすげぇぞ。ふふ。ここで 母ちゃんのお手伝い、してやってくれな。んじゃ・・・」 優しく太陽の頭を撫でて唐沢は倉庫を後にした。 「・・・太陽。よかったね!」 うん!とうなづく。 返事は元気だけれど・・・ (まだ・・・おしゃべりしてないね・・・太陽・・・) 太陽はスケッチブックとくれよんを持参。 くれよんで早速水里との会話を開始。 『このしなものをこのちゃいろのはこにいれるの?』 「うん。そう、ほら。太陽の好きな・・・。”ポケモン文具シリーズ” だよ」 「!」 新作のピカチュウの消しゴム、ピカチュウの鉛筆・・・ 太陽にとってはもう、夢の文具たち・・・ 「太陽。あんた鼻息あらいよ。ふふ。いいあのね? この品物、お客さん様にあげるおまけの商品だから対峙にこっちの 赤いかごの中にいれていくの。黄色のかごは消しゴムわかる?」 ふぁい!! 太陽はVサインを出して赤いかごにはペンを黄色のかごには消しゴムを 丁寧にゆっくりいれていく。 「そうそう。上手上手」 太陽はにこっと笑う。 (太陽・・・) 学園で、水里のアパートでじっと太陽と過ごした方が本当はよかったのかもしれない。 だが、じっとしていたら、考えるのは・・・ (嫌な記憶だけが・・・。蘇ってくるだけ・・・) 大好きなものに囲まれて何かをしていたほうが 太陽の心も・・・少しは安定を保てるのではないかと水里は思った。 (店長に感謝だな・・・。太陽のためにポケモンの 文具の袋詰めを与えてくれたんだから) 「おお!太陽、手馴れてきたねぇ〜」 へへへ・・・といわんばかりに鼻の下を人差し指で擦る太陽。 「よし・・・。お昼まで頑張ろうね!」 はい!といわんばかりに笑顔で頷いたのだった・・・ その様子を・・あのバイト少女が怪訝な顔で見ていた・・・ 「ねぇ。店長」 「何だ」 店長室で、パソコンに向かう唐沢にバイト少女に 「バイトのあたしがいう権利ないかもしんないけど・・・。 仕事場に子供つれてくるって・・・ヤッパ、どうかと思うんだよね 託児所じゃないっつーの」 「・・・仕方ないだろ」 「・・・なーんか店長。最近さー。山野さんに妙に親切じゃない?」 バイト少女は茶髪の束ねた髪を指でいじりながら話す。 「もしかしてー・・・。”個人的感情”とか持ってますー? だとしたらなーんだかなぁ・・・」 ドン!! 机を拳で叩く唐沢・・・。 「・・・お前・・・。下らない邪推してる暇あるならもっと 仕事に専念しろ!!」 「な、何よ・・・!怒鳴ることないジャン・・・」 「・・・子供を持ったこともない人間が、偉そうなことを言うな。 いいか。いくらお前が、オレの知り合いの娘だからって 甘えてんじゃねぇ!!」 「・・・何さ・・・。怒ってばっかり・・・。もうやめてやる!!」 バイト少女はエプロンを脱ぎ捨てて店長室を出て行った・・・。 「・・・ふぅ・・・。自分から辞めてくれて助かったな・・・。 包装もまともにできない奴を雇う程楽じゃねぇ・・・」 パソコン画面を見つめる唐沢・・・。 ”特別扱い”するってことは”特別な感情有り”ってことですかぁ!?? (どうしてそういう思考しかできねぇんだ最近の奴は まりこの恩人の坊主・・。子供の心が傷つくことだけは・・・。オレは 絶えられん) 引き出しを開ける。 まりこの写真が・・・ (まりこ・・・。お前の心をオレは・・・。守れていたんだろうか・・・) 仕事仕事で・・・。まりこに構ってやれなかった・・・ (・・・まりこの親友のあの坊主が・・・。早く元気になって くれるといいな。な、まりこ・・・) 写真の中のまりこに・・・そう心の中で呟く唐沢だった・・・。 そして翌日、翌々日、水里は太陽を店に連れてきて、仕事をこなした。 「店長。三日間、本当にありがとうございました」 ”ありがとうございました!”といわんばかりに太陽も深々と頭を下げる。 「・・・それで坊主の方は大丈夫なのか?」 「・・・・。前のようにお喋りするには・・・。 もう少し時間がかかるかもしれませんけど・・・。でも私が全身全霊で太陽を守ります。 いっぱい遊んで、いっぱいだっこして・・・」 「・・・そうか」 「本当に店長には色々お世話になりました。来週からはまた いつものシフト体勢で頑張りますから・・・」 「ああわかった」 唐沢は従業員出口まで水里と太陽を見送る。 「坊主・・・。またな」 太陽は元気に頷いた。 「あ、そうだ。これ・・・。お駄賃だ。もってけ」 唐沢が太陽に渡したものそれは・・・ (ぴ、ピカチュウ、文具3点セット(下敷き、筆箱、消しゴム)) 太陽の一番欲しかったもの詰め合わせ・・・v 「い、いいんですか!?」 「ああ。売れ残りだしな。もってけ」 太陽はリュックからスケッチブックを取り出して 何か書いて、唐沢に見せた。 『てんちょーさん、ありがとう。みーママをよろしく おねがいします』 「た、太陽。あんた・・・」 「ふはははは・・・!わかったよ。お前の母ちゃんのこと、 びしびしお願いされてやる」 (店長・・・笑い怖いっす・・・(汗)) 「水里さん・・・!すみません。遅れてしまって・・・!」 水里と太陽と一緒に帰る約束をしていた陽春。 息を切らせてはしってきた。 「講義が長引いてしまって・・・。あ、太陽くん、おっす!」 パチン! 太陽と陽春、手を叩き合って挨拶。 「春さん、急がせてしまって・・・。あ、そうだ。紹介しますね。 こちら、うちの店長の唐沢さんです」 「・・・初めまして。唐沢です」 「初めまして。藤原と申します」 互いに軽く会釈しあう。 だが一瞬、互い、”何か”を意識した。 間に水里がいる、という空気を・・・ 「おっと・・・。仕事の途中だったんだ。じゃあ、またな。山野。 坊主」 太陽と水里の頭をポンポンと叩いて・・・唐沢は店の中に戻っていった・・・ (・・・) 何だか胸がモヤモヤする・・・ (・・・なんだ。この感じは・・・。彼は水里さんのただの店長・・・。 それだけだ) 靄々を打ち消した・・・ 心の奥深くに・・・ 水里と陽春達は公園通りを通って帰る・・・ 「水里さん・・・。唐沢さんは・・・。太陽くんのこと よく許してくださいましたね。随分怖い店長さんだって 聞いてたけど・・・」 「ええ。そうなんです。絶対、断られるって思ってたんですけど 太陽のこと、心配してくれて・・・。助かりました」 「・・・そう・・・ですか・・・」 陽春の胸が・・・ じゅくじゅく痛む・・・。 「春さん?どうかしましたか?」 「いえ・・・。あ、そうだ。水里さん。ラベンダーの匂い袋、 ありがとうございました。お陰でとても安心した気持ちで 講義を受けています」 「よかった・・・。私のしてあげられることっていったら 限られ来るから・・・。よかったです。本当に・・・」 嬉しそうに笑みを浮かべる水里・・・ (・・・水里さん・・・) 「・・・姿がなくても・・・。僕はいつも貴方を感じていますよ」 「・・・あ、いや・・・(照)そ、その・・・。あー・・・」 水里はリアクションに困って俯く。 最近陽春はつくづく思う。 (貴方は・・・。すごく照れ屋な人で・・・) 「春さん、あの。あの・・・」 (僕は照れた貴方を見るのが・・・。堪らなく好きなんだ) 「水里さん・・・」 じっと水里を見つめる陽春。 「・・・と、突然、あ、あの・・・(慌)」 視線を送っただけで耳まで真っ赤になる水里が可愛くてたまらない。 「・・・貴方の照れた顔が見たかっただけです」 「え・・・!?な、なにそれ・・・っ」 「ふふ太陽くん。おいで」 陽春はひょいっと太陽を抱き上げ、肩に乗せた。 「春さん、大丈夫ですか?あ、あの・・・」 「はい。僕が太陽くんの喜ぶかおが見たいんです」 (春さん・・・) 「どう?眺めはいい?」 太陽は満面の笑みでVサイン。 「よかったね〜。太陽」 水里にもVサイン。 「よーし。じゃあこのままアパートまで直行だ!」 「あ、春さん、走ったら危ないですよ〜!」 夕陽の橋を3人が歩く。 小さな心が壊れそう 壊れないように 壊れないように 笑顔を絶やさない・・・ (寄り添うしかできない・・・。太陽にも春さんにも・・・。でも・・・ 精一杯寄り添う・・・。ただ・・・ひたすらに・・・) 水里は二人の笑顔を見つめながら・・・ アパートに帰るまでずっと・・・ 二人の横に離れずに・・・寄り添っていた・・・