太陽とまりこの様子も大分落ち着いてきた。 (しばらく休養だね・・・こころの休養・・・。じかんはたっぷりあるんだから・・・) 二人の心に元気が戻るまで見守ろうと思う水里。 そんなほっと一安心していた水里に一通のメールが届いた。 『水里へ。兄貴が大学の方でもてまくってるぜ。咲子って看護婦+ 思い込み激しい渋谷系女の綾。この二人。要注意。警告しとくぜ』 夏紀からそんなメールが届いた。 「警告って・・・(汗」 しかし大学では陽春が誰とどうして過ごしているか・・・ なんて分からないし。 (別に・・・。私は春さんが楽しく勉強できればそれで・・・) と思いながらも綾と咲子という名前は水里の脳にちゃんとインプットされた。 「・・・。うおおし!今日も一日頑張るぞ!!」 水里はパソコンの前で頬を叩いて気合を入れて 今日も出勤・・・ (ん・・・?) 道路の向こうの陽春の店の前を自転車で通り過ぎると・・・ 見慣れぬ赤い車。 そこから茶髪の派手な服の若い女が降りてきた。 水里は街路樹の陰に自転車を止め、様子を伺う。 (あ・・・。春さんが・・・出てきた!) バックを肩にかけた陽春が出てきて、綾が陽春を 車に乗せようとドアを開けた。 陽春は一度は乗らないと断ったが綾が執拗に腕を引っ張る (・・・確かにしつこそうな感じがするけど・・・) 陽春は困った顔をしながらも車に乗った (の、乗るの!??春さん・・・) ブロロロ・・・。 去り行く車を・・・水里はただ見送った・・・ (・・・春さんは優しい。うん。年下の女の子に優しいだけだ。 深く考える必要はない) ・・・女の子に優しい・・・? でもそれはちょっとひっかかる気も・・・。 (と、とにかく!私は仕事に行かねば!!) 「わぁあ!」 すっころびながら水里は店へと向かう・・・ 一方。 「・・・。綾さん。変な男はどこですか?」 「うっそでーす!だーって藤原さんはそうでも言わないと 乗ってくれないでしょ?」 「・・・嘘をつく人はあまり感心しない」 陽春は綾と視線すら合わせない。 「そういうはっきりものを言うところがすきv今の男は ちゅーとはんぱなお軽い奴しかいないんだもーん★」 「・・・(汗)」 現代っ子のこの奇妙な逞しさに陽春は困惑・・・。 「あの・・・。もっと若いカッコいい男の子は沢山いるだろう」 「年下はアウトオブ眼中。藤原さんはおにいちゃんに似てるからかな」 「お兄ちゃん?」 右手でハンドルを握りながら、綾は左手でバックミラーに貼り付けてある 写真を指差す。 綾と車椅子の青年が一人映っていた。 「アタシのお兄ちゃんね・・・。交通事故に遭っちゃって。 ナンパばっかしてた罰があったのね」 笑いながら話す綾。 「お兄ちゃんのことがあるからあの大学選んだって訳じゃないけど・・・。 いつか、私は沢山の介護士を派遣する事業を起こすの。そしたら にいちゃんも一人暮らしとかできるでしょう?」 「綾さん・・・」 「ふふ。それで藤原さんは私の公私共にパートナー♪ ってことでよろしくね」 「・・・はは・・・。塚本さんのバイタリティには負けた・・・(汗)」 人それぞれ・・・ 何かしらの思いやビジョンを心に持っている (オレも頑張らなくちゃな・・・) 綾と兄が写った写真を見つめて陽春は 自分に誓った。 自分の行くべき道へは常に前進あるのみ。 だが、恋路の方は・・・どうもそうすんなりとはいかないようで。 「・・・どうして塚本さんがうちに居るんですか(汗)」 「お邪魔してまぁすv」 「いやー。びっくりしたよ。家の前で可愛い子がいるなぁ と思って声かけたらさぁ、兄貴の大FANだっていうから」 夏紀と共になぜかリビングでくつろいでいる綾。 「兄貴。若い子に迫られて大変だなぁ。なぁ、綾ちゃん なんならおれに乗り換える?」 「ごめんなさーい。幾ら藤原さんの弟さんでもぉー・・・。それは無理 私、一途だからv」 陽春の腕にわざとらしく掴まる綾。 だがすぐに離れる陽春。 「塚本さん・・・。申し訳ないけれど僕は好きな人がちゃんといる。 それに迷惑だ。こんな強引なことは」 「恋愛はハードルがあるからこそ燃え上がる!昼ドラじゃないけど 私は恋愛に臆病にはなりたくないんです。とことんやりつくすまで!」 綾はなんとも悩ましげに再び腕を絡ませてくるが・・・ 手で払いのける。 「相手が嫌がる事を押し付けていい理屈にはならない。 それに・・・。僕の恋愛に貴方が”ハードル”になるなら闘うまでだ」 (おお。兄貴の方が昼ドラ的台詞。小説んなかで使わせてもらおう) ネタ帳(?)らしきものをポケットから取り出してメモる夏紀。 「・・・。藤原さんの恋が勝つか・・・。私の恋が勝つか・・・。 勝負ってことですね!ふふ♪俄然ファイトが沸いてきたーーー!!」 「・・・(汗)」 綾の不屈の闘志に流石の陽春も 言い返せなく・・・ 「あ、でも。やっぱり常識を超えた行動は控えますねっ。 だたのヒステリックな女じゃないから。私は♪」 「・・・(汗)」 存在自体が常識をかなり超えたキャラだと思う陽春。 (その情熱は学業に向けてくれ・・・(汗)) 車まで綾を見送る陽春。 「あ・・・」 郵便受けから漂う甘い匂いに気づいて 開けてみると。 紙袋が一つ。 「ふふ・・・。やっぱり」 「何がやっぱり何です?」 綾が紙袋の中をかかとを伸ばして覗きこむと・・・ 「・・・。タイヤキ・・・?」 「はい。僕の好物なんです・・・。あんこがぎっしり詰ってる・・・」 嬉しそうに紙袋の中の鯛焼きを覗く陽春・・・ それはまるで・・・ (お菓子を買ってもらったときの少年のよう・・・v) 綾の母性本能が疼いたらしい。 「でもその鯛焼き・・・。誰が持ってきたんですか?」 「・・・。僕の・・・”姿無き・・・恋人”かな」 (姿無き恋人・・・?) 「別々の生活を送っていても・・・。こうして姿を変えて僕の 側にいてくれる。・・・とっても美味しいものに・・・ふふ」 「・・・」 大学に居る間、陽春の側にしょっちゅういたけれど 今ほどに柔らかい笑顔を見たのは初めて・・・ (・・・アタシは・・・”鯛焼き”に負けてるわけ・・・?) なんだか・・・ (どんなキャラで攻めたらいいか分かんなくなっちゃった) 鯛焼きの甘い匂いが 綾の心も柔らかくする。 「藤原さん・・・。今日の勝負は”鯛焼き”に軍配があがったようですね。でも 私、諦めませんから」 「・・・すごいパワーだな」 「それだけが取り柄です。じゃあ!」 赤い派手な車。 綾の元気さがエンジンの音の如く軽快に・・・ (オレも・・・。頑張らなくては・・・。自分のやりたい事も・・・ それから・・・) まだ・・・ほかほかの鯛焼き・・・ (・・・大切な人のことも・・・) 陽春はすぐ水里にお礼のメールを送った。 鯛焼きをくちにしながら・・・ 『鯛焼き、有り難う御座いました。美味しく頂きながらこの メールを書いています。郵便受けのカタン・・・という音が聞こえたら・・・ すぐに家から出てきて貴方かと・・・思ってしまいます』 「・・・ど、どうも・・・(照)」 水里はパソコンの画面にむかってお辞儀。 『・・・会えない時間が最近多いですね・・・。でも・・・。 貴方の姿がなくても・・・。今日みたいに貴方は僕の側に いてくれる・・・。鯛焼きの姿で』 「ふふ・・」 『・・・大学には・・・。色んな人たちがいます。僕より十も若い 世代も人たちが・・・。正直、そのパワーに・・・圧倒されて・・・。 発作への不安も相まってたまらなく心細くになるときがあります』 「春さん・・・」 陽春の弱音・・・。いや弱音ではない。 好きな人の言葉は・・・ (全部大事な大事な・・・言葉・・・。全部・・・) メールの文字を・・・ 水里は指でなぞる・・・ 大切に 大切に・・・ 『僕は・・・。最近つくづく思うのです。色々な人の優しさに 囲まれているんだなって・・・。特に貴方の優しさに・・・支えられています』 「そ、そんなこと・・・ないよ。私なんて・・・」 『そういう人たちに・・・。応えなくちゃ・・・応えなくちゃ・・・。 と思うのに・・・。それを負担に感じてしまう自分に・・・時々腹が立ちます・・・』 「春さん・・・」 好きな人の言葉・・・ こころのことば・・・ 一字一句・・・刻む・・・ 『そんなとき・・・。貴方の笑顔を思い出すと・・・ 心が落ち着くんです・・・。離れていても会えなくても 僕の心には何時も・・・貴方がいてくれる・・・』 (私も同じです・・・私も・・・) 『だから・・・。僕は一日を精一杯・・・。生きられる・・・。 大袈裟だけど・・・。本当にそう思います・・・』 (春さん・・・) 冷たいパソコンの画面・・・ でも指先が温かく・・・ 陽春の心の内の温もりが 伝わってくる・・・ 『一日一日を精一杯・・・。僕は生きたい・・・。 自分のために・・・。そして・・・好きな人のために・・・』 (春さん・・・私も・・・私も一日を・・・自分なりに 精一杯・・・) 画面におでこをつける・・・ 想いを伝えるように・・・ 『明日・・・。晴れるといいですね・・・。今度の休み・・・ 何処かへ行きましょう。それを楽しみに僕はまた頑張ります・・・』 「私も頑張ります・・・。明日・・・明後日・・・。 一日一日を・・・」 画面の言葉全部が・・・ 嬉しい・・・ 愛しい・・・ 自分が必要とされている 自分も相手を必要としている・・・ それが嬉しい。 それが・・・ 愛しい・・・ 『おやすみなさい。楽しい夢が見られますように・・・。 陽春』 「・・・おやすみなさい・・・。春さんも・・・素敵な夢を見られますように・・・」 布団に入った水里が願う。 (神様・・・。夢で春さんに会いたいです・・・。会いたい・・・) 目を閉じて・・・ 瞼に浮ぶのは 陽春の姿 (・・・夢で会いたいほどに・・・こんなにこんなに・・・好きになってるんだ・・・) 体全身が ほかほかしてくる・・・ 心地よい 温もり・・・ (・・・春さん・・・おやすみなさい・・・。夢の中で・・・ 会おうね・・・) 瞼が閉じられていく・・・ 溢れる想いがまるで夢の中に誘うように・・・ 姿がなくても 会える 側にいる・・・ 明日という日を迎える力に変えて・・・ 水里は眠りに付いた・・・