デッサン3 〜君と共に生きる明日〜
第28話 恋人の条件
陽春と夏紀がソファに座り何気なくテレビを見ている。 『結婚相手に望むもの』 女性が男性に求める項目を街灯アンケートしたという内容。 上位を占めたのが ルックス・清潔感・ファッションセンス・そして収入。 さらに優しさ・誠実さ・・・など等。 「けっ。くっだらねぇ・・・。もっと面白い企画はねぇのか」 夏紀は醒めた目でリモコンでチャンネルを変える。 「結婚なんてのはな、タイミングだ、タイミング。自分の理想を全て兼ね備えた 相手なんているわけねぇだろ」 するめをくわえながらぶつぶつ言う夏紀。 「・・・。女性は結婚相手にそんなに求める項目があるんですね・・・」 正座して洗濯物をたたむ陽春。 (・・・兄貴は水里のことを気にしているのか・・・) 「兄貴・・・。兄貴がそんなこと言ったら、巷の男達から苦情殺到だぞ。 ルックス良し!清潔感、優しさ良し!金だって貯金も定期預金・その他保険・・・たんまり(オレより) あるから心配ねぇ」 「・・・。でも・・・。それは”以前”の僕の事で・・・。”今”の 僕には何も・・・」 (・・・。ちょっと嫌味に聞えるぞ(汗)) 「兄貴。水里の奴は他人に何かを求める前に 自分がふさわしいかどうかで悩むそういう奴だよ。苛つくくらい 謙虚で臆病で・・・」 「・・・。辛気臭くなって・・・。僕、お茶入れてきます」 陽春は綺麗にたたみ終えたタオルを棚にしまい、パタパタとキッチンへ・・・ 「・・・。家事もこなす男・・・。っていうか主婦化してるきも(汗)」 陽春はその夜。 学生時代のアルバム、卒業証書・・・ それらを出して眺めてはため息をついていた。 (・・・何くだらないことに拘ってるんだ・・・) 前の自分の”肩書き”や”人物像”にコンプレックスを持つなんて。 元医者だといえば、社会的に”高位置”な視線で見られるだろう。 アルバムには友人達との思い出が沢山張られていて・・・ ”誠実で思いやりに溢れた人間像” そうアルバムの写真たちは物語り・・・ (・・・今のオレはオレで頑張るって・・・。決めたじゃないか・・・) けれど・・・ 時々不安が過ぎる。 周囲の人間達が”前”の自分と”今”を比較してみているのではないか。 小さなコンプレックスが沸く瞬間がある。 特に水里から自分はどう見られているのか・・・。 「・・・ええい!気合いれろ!オレはオレ!!」 (大体・・・。こんなコンプレックス持つなんて。 彼女が上辺だけの条件で人を見る、そんな軽い人じゃないかと 疑ってるみたいじゃないか・・・) 陽春はアルバムの中の自分にポツリとつぶやく・・・ もう一人の自分は 出来すぎる”お手本” (”お前”っていう壁は・・・。厚くて高いよ・・・”藤原陽春”・・・) アルバムの中の陽春は・・・ ただ笑顔だった・・・
(あ・・・) 大学の帰り、陽春は本屋にいて、水里を見つけた。 追いかけて声をかけようとしたが・・・ (え・・・) 水里が立ち止まったとある本のコーナー。 (・・・。結婚情報誌・・・?) ブライダル雑誌や女性誌、婦人向けのコーナー。 水里の隣の女性が手にしている本は『後悔しない結婚との出会い方』 なんてタイトルの本だ。 (水里さんもああいう本を読むのだろうか・・・) 陽春は少し離れたコーナーから水里の様子を伺っていた。 水里の隣にいた女性がその場を離れ、水里が手にしている本の タイトルが陽春の目にはいった。 それは。 『おいしいおでんの作りかた』 眉を細めてかなり真剣な眼差しで読んでます。 (・・・。ふふ・・・。ホントにおでんがすきなんだな) 昨日のメールでおでんのだしがいまいち上手に出ないと 描いてあった。 あんまり水里が力んだ顔で読んでいるので可笑しくなる陽春。 ”兄貴。アイツは他人に何かを求める前に 自分がふさわしいかどうかで悩むそういう奴だよ。ムカつくくらい 謙虚で臆病で・・・。兄貴と一緒だよ” (・・・そうだな・・・。相手に求める前に・・・。自分が 成長しなくちゃ駄目だよな) つっかえていたものがフっと軽くなるのを感じた陽春。 「水里さん、こんにちは!」 「おっ。春さんこんにちは!」 水里はおでんの本をさっと後ろに隠した。 バレバレなのに必死に隠す。 「・・・ふふっ」 「・・・?」 水里はなぜ、陽春が笑ったのかわからない。 「水里さん、もしよかったら公園に寄り道していきませんか?」 「え、あ、はい」 こそっとおでんの本を陽春に見えないように元の場所に置く水里。 完全に、陽春にバレバレなのに本人は上手く置けた、と思って 安心しきっている水里。 「・・・ふふ・・・」 (・・・春さんのこの微笑みはなんだろう(汗)) くすぐったいほのぼの感。 水里と一緒にいるとこのほのぼの感に包まれる。 角ばった心が丸くなるみたいで・・・ 「花が・・・大分咲きましたね」 「そうですね」 水里と陽春が立ち寄ったのは通称”ラベンダー公園” 遊具は少ない小さな公園。 だが公園の花壇はラベンダーが咲き乱れ、香りが公園中 香っていた。 「・・・ここのラベンダーは近所のおばさんが植えかえてそれが 自生したんです。すんごい生命力!」 「そうですねなんだか貴方に似てますね」 (・・・そ、それは褒め言葉なのか(汗)) 「水里さん・・・」 「はい」 「・・・。僕は・・・。未だに現在の自分、には自信が持てずにいます でも・・・。そんな自分ごと、受け止めようと思います」 (春さん・・・) 「・・・”どういう自分になりたいか”と、悩んでいる自分 をそのまま受け止めようと・・・」 ラベンダーが風になびく。 ゆらり ゆらり・・・ 水里は前髪がなびく陽春の横顔をじっと見つめる・・・ 「・・・。カッコいいです」 「え?」 「あ、いや・・・えっと・・・(照)何かに一生懸命悩んだり 考えたりしている春さんはもっとカッコいいなって・・・」 (水里さん・・・) 「し、失礼なこと言ってごめんなさい。あ、えっと・・・。春さんは いつも素敵だけど、今日は・・・その特にそう見えたもんで・・・(照)」 体を丸くして照れる水里。 水里のくすぐったさが陽春にも伝わって なんともいえない優しい気持ちが湧いてくる。 そのまま抱きしめたいくらいに・・・ だが、そんな二人の雰囲気を壊しそうな人間が近づいている。 (あ・・・。あの車は・・・) 赤い車が後援の入り口に止められた。 「水里さん、こっちに隠れて・・・!」 「え!?」 陽春は水里の腕をつかんでベンチの後ろの大きな茂みに二人 四つん這いになって隠れた。 「あれ・・・?おかしいな。確かに藤原さんの姿が見えたのに」 綾がキョロキョロ辺りを見回す。 「・・・見間違えかそれとも逃げられたか・・・。とにかく 辺り探さなくっちゃ」 綾は車に戻るとエンジンをきかせて去っていった・・・ 茂みに隠れた水里と陽春。 小声で話す。 「・・・シツコイんだからホントに・・・」 「あ、あの・・・春さん・・・。いつまでこうして・・・」 (あ) その時水里は気づく。 (・・・しゅ、春さんがこんなに目の前に・・・) あと20センチも近づけは 唇が触れ合う距離・・・ (え!??) 陽春はじっと水里を見つめて頬に手を添えた・・・ (ちょ、ちょっ、ちょっと(慌&混乱)) ゆっくりと陽春が瞳に入ってきて・・・。 (あ、あああ、ど、どどどどどうしたらっ(混乱)) 思考回路は停止寸前だが 水里は瞼を閉じて・・・ 閉じて・・・ (・・・ん?あれ?) 何にも起きない。 「水里さん、もう出てきていいですよ」 水里が目を開けて茂みから出る。 「あ、あの・・・」 「水里さん。すみません。髪、葉っぱだらけにしちゃって・・・」 パンパンと水里の前髪の葉っぱやチリを叩く。 真っ赤な顔の水里とは対照的に陽春はいたってマイペース。 「・・・あ、じゃあそろそろ帰りましょうか」 「え、あ、そ、ですね・・・(汗)」 何だか緊張の糸が抜ける水里。 「・・・。水里さん」 「はい・・・」 「・・・今度はちゃんとキスしましょうね」 (!???) 水里はおもわず立ち止まる。 「さ、帰りましょう。水里さん」 (・・・(錯乱)) お約束の爆弾発言に錯乱したままの水里の手を引っ張り 余裕の笑顔の陽春。 (・・・春さんの爆弾発言は最近狙ってきている気がする・・・(汗)) 自分をドキドキさせてくれる恋人。 それもまた・・・ 恋人の条件。 それは人それぞれ、求める”条件”は色々だけど そこに”安らぎ” や”思いやり”がなければ幸せな恋もに結婚にも 出会えない。 だから とりあえず、 笑顔でいよう。 それが素敵な恋の条件だから・・・