朝。洗面所で歯磨き中の水里であります。
しかし歯ブラシは動いておらず・・・
”今度はキスしましょうね”
(はっ・・・。い、いかん!また”春さんの爆弾発言”
リピートしてしまった・・・)
最近、陽春の爆弾発言がお約束的になってきており、水里の
頬の照りが消えない。
「・・・。何だか・・・。嬉しいんだけど・・・」
自分が誰かに”想われる”なんて経験がないから
ただ、くすぐったくて、戸惑うばかり・・・
(ぜ、贅沢な悩みなのかな・・・。で、でも、不意打ちの
春さんの発言は・・・、か、体がもたないっていうか・・・)
ピー・・・!
「う、うわぁ!」
やかんが沸騰した音に以上に驚く水里・・・
「・・・。はぁ・・・。本当に・・・。体にもたないな・・・(汗)」
好きな人からの
心躍る言葉。
それはきっと全部、宝物。
ドキドキしすぎて・・・
慣れないドキドキで・・・
(こういう相談は夏紀くんにした方がいいかな)
というわけでメールで夏紀で素直に相談してみた。
還って来たメール。最初の分が
『こんの贅沢者めがぁあああ!!!』
だった。
(やっぱそうっすか。夏紀大先生・・・)
『けどお前が戸惑うのもまぁわかる・・・。前の兄貴なら
滅多には甘い台詞を簡単に吐くタイプじゃなかったからな。
大人だった』
(・・・。私は心のどこかで前の春さんと今の春さんを比べてるのかな・・・)
少し自己嫌悪が沸いてくる。
『オレが思うに・・・。今の兄貴は””17歳”なんだ』
(17歳?)
『高校生の初恋・・・っていうのかな。何にも縛られず、ただ
自分の想いを素直になる・・・。ティーンエイジャーの恋愛感って奴だな』
(・・・流石自称・純愛小説家(汗))
『お前を見つめる兄貴を見てたら・・・。17歳の時兄貴が可愛がってた
子犬を思い出すよ』
(んな!?)
マウスを持つ水里の手が思わず止まった。
『拾ってきただけどそりゃぁまぁ可愛がって可愛がって・・・。
寝るときも一緒だったよ』
(ね、寝るときも・・・!?って、ワンちゃんだ、ワンちゃんの話)
ちょっとだけ想像が脱線いたしました、水里。
『その子犬が死んだときの兄貴の激しい落ち込みようが凄くて・・・。
でも兄貴は人に心配かけまいと・・・。ホントに兄貴は何事にもストレート
過ぎるんだ』
(・・・)
『兄貴の生きる現実=お前なんだよ。だから・・・。お前は兄貴の”新しい記憶”
だから懸命に生きようとする・・・。またそういうとお前にプレッシャーかける
みたいだけど・・・”17歳”の兄貴と向き合ってくれ・・・』
夏紀のメールに・・・
水里はただ俯く・・・
(・・・プレッシャーなんて滅相もない。
・・・逆に私でいいのかなって・・・。春さんにとって私でいいのかなって・・・
・・・春さんはずっと”憧れ”だったから・・・)
世の中の人が聞いたらやっぱり贅沢なことだって言うかな。
好きな人に想われて戸惑うなんて。
陽春がくれたペンダントを見つめる・・・
(・・・春さんに言ってくれた言葉に見合うような・・・私も人間にならなきゃ・・・。
ならなきゃ・・・)
好きな人から言葉。
全部宝物。
水里はペンダントを握り締めて
眠った・・・
※
「陽春ちゃーん!」
(よ、陽春ちゃん!??)
陽春がリビングでくつろいでいると綾がひょこっとソファの後ろから登場する。
「ま、また貴方は勝手に人の家に・・・」
「・・・うふふー。勝手口が開いてたヨン♪はい。私からの愛の鯛焼き♪」
綾はテーブルの上に紙袋を置いた。
「言ったでしょー?恋も夢も私はストレートだって♪」
「って離れてくださいよ!」
陽春にまとわりつく綾。
「・・・。今日は弟さんいないのー?じゃあ・・・いいことしちゃおうか・・・??」
「・・・。いいことって何ですか。気味悪いこと言わないでください。
あ、お客さんがきたようです」
陽春はすたすたとリビングに綾を残し、勝手口へ・・・。
(・・・実年齢とはかけ離れたリアクション・・・。そこがまた
たまらなのよねぇ♪)
鯛焼きを一口ぱくっと食べながら綾も勝手口に行く・・・
(んー?誰?あの女・・・)
陽春の声が弾んでいる。
水里が来ていた。
綾の女の勘が働く。
(あの子が”鯛焼きの子”なんだ・・・ふーん・・・)
陽春と水里のほんわかした空気。
(・・・ちょこっと突っついてやろうかな)
綾は上着を脱いで勝手口に・・・
「陽春ちゃーん。お客様??」
「・・・!?」
陽春に背中からがばっと抱きつく綾。
水里は突然の出来事に面食らっている様子・・
(ふふ。どんな反応するか・・・度胸試し)
「ねぇーえ・・・。”いいこと”の続きしようよ?」
「は??何のことですか。暑苦しいから離れてください」
離す陽春だが、水里の目の前で陽春に執拗にまとわりつく。
「ねぇ。陽春ちゃん♪」
「いいことなんてしたくありません。離れてください。もう!」
これ見よがしに水里に見せ付ける綾・・・
(さぁ。どうする。鯛焼きの彼女さん・・・。引くか対抗するか・・・)
「・・・。じゃあ私と”いいこと”しましょう。春さん」
「え?水里さんと?」
「はい」
水里はにこにこして、陽春も何故か頷いてすたすた2人は中へ・・・
(ちょっとおいおい?これってどういう展開よ!?)
綾は訳が分からず、二人の後を着いてリビングへ。
(はぁ!??これのどこが”いいこと”なのよ!)
「アハハハ!水里さん、これよく借りられましたねー」
「はい。”借りたて”ですよ」
ソファに並んでドリフのコント集のビデオをみて笑う二人。
まるで平和な家庭のようなフレンドリーな空気に綾は・・・
(・・・そういう”戦法”できたか)
ちょっと困惑気味らしい。
「・・・ねぇどーせみるなら、秋ソナとかみよーよ。今時
ドリフをなんてさー」
リモコンでプチッと停止ボタンを押す綾。
「何するんですか。綾さん」
リモコンを綾から奪還する陽春だが、綾はつんけんしている。
「彼氏彼女で見るならやっぱり恋愛ものでしょ?
普通」
「・・・。私はあんまり純愛ドラマは好きじゃないです。甘い言葉の連発なんて
何だか肌に合わないし」
「恋愛なんてね、雰囲気をたのしむものなの。甘い台詞を言いまくって何ぼのものでしょ!」
「・・・そんなの本当の言葉じゃないですよ!!」
水里と綾は息をきらせていい争う・・・
(なんだか凄い気迫が)
ちょっと慄く陽春。
「・・・。私は・・・。私は・・・。貴方のように・・・。テレビドラマの
ような色恋事は出来ません・・・。でも・・・。大切な人に
気持ちを伝えるときは・・・言葉を選んで・・・ゆっくり伝えたい・・・」
(って・・・なんか偉そうなこと私言ってるな・・・)
若くて可愛い綾。
そんなことに嫉妬している自分が情けない。
”兄貴と向き合ってくれよ”
夏紀の言葉がお手本のように水里の心に響く。
「・・・。はぁー・・・。なんか、この”ほのぼの”さに
力、抜けちゃった。アタシ」
綾は脱いだジャケットを着なおす。
「・・・。アタシ、やっぱり情熱的な恋愛の方が性にあってるみたい」
「綾さん」
「帰るね。鯛焼き、一個もらったよ。じゃあね。藤原さん」
綾は鯛焼きを頬張って
綾は帰った。
(なんか・・・嵐が去ったあとのような・・・)
鯛焼きの甘い匂いと
拍子抜けする水里と陽春が残されて・・・
「・・・。水里さん。鯛焼き・・・。食べましょうか」
「・・・そうですね」
そして静けさが戻る。
「・・・。綾さん・・・。でしったけ?とっても個性的で・・・
チャーミングな人ですね」
「え、ああ・・・でも水里さんあの・・・」
「・・・なんかすごく偉そうなこと言って・・・。言葉でならなんとでも
いえる・・・」
大好きな鯛焼きも
今は食べきれない。
「・・・偉そうなんかじゃ・・・。じゃあ・・・。
貴方が伝えたいことって何ですか?」
「え・・・?」
”大切な人に気持ちを伝えたい・・・”
「あ、え、な、何だろう・・・。えっとうんと・・・」
水里、自分ではいた台詞なのに
なにも浮ばず・・・
「・・・ふふ。貴方らしいな」
「す、すんません・・・(汗)」
(わ・・・っ)
陽春は水里の三つ編みにそっと
触れる・・・
”17歳の兄貴を・・・見てやってくれ”
(・・・夏紀くん。違うよ・・・。春さんは春さん。
”今”目の前にいる人を私は・・・私は・・・)
「・・・あ・・・。すみません・・・。水里さん、嫌・・・でしたか?」
「・・・え、そ、そんなことは・・・。た、ただ、そ、その・・・。
・・・だ、誰かに・・・想ってもらうことってなかったから・・・
ど、ドキドキしすぎてるだけで・・・。そ、そのあの」
「・・・。僕は・・・。きっと以前の”僕”より幼くて・・・。頼りない
所が沢山あると思います」
「そ、そんなこと・・・」
水里は一瞬、心を陽春に見透かされた気がした。
「だからこんな風に強引なスキンシップや照れくさいこと・・・
沢山しないと自分の気持ちを伝えられない・・・。でもね。水里さん・・・
」
もじもじする水里をそっと
引き寄せる・・・。
「・・・貴方がとても大切だってことだけは・・・。伝えたい・・・」
「春さん・・・」
トクントクン・・・
陽春の鼓動が聞こえる。
「伝わってきます・・・」
目を閉じれば・・・
大切な人の生きていると音が聞こえる・・・
「・・・水里さん」
「はい」
「・・・今度・・・二人で”いいこと”しましょうね・・・」
(!???)
一片に水里の顔がユデダコに。
「・・・ふふ・・・」
(春さん、な、何ですか!その意味深な笑いは・・・(照))
陽春の爆弾発言も水里にとっては
全部宝物。
好きな人の言葉
大切な人の表情・・・
全部全部宝物。
それ、全部には深い深い想いが詰っているから・・・