デッサン3
〜君と共に生きる明日〜
第30話 ファーザー
まりこと太陽。
元気に”二人だけの教室”に通っていだした。
朝食を食べて、ピンクのバックを持って靴をはくまりこ。
「パパ、いってきマース!」
「おう。いってらっしゃい!」
久しぶりに聞く娘の”いってきます”
娘が元気に笑っている・・・
ただそれだけで・・・
(・・・こっちも幸せな気持ちになるな・・・)
台所で洗い物をしながらふと感慨深くなる唐沢。
学校でのトラブルにも守ってやれなかった・・・
だが。
男親とは甚だ女の子の敏感な心に疎いものである。
ちょっとしたことでケンカになってしまう。
それは洗濯物を干していたときのこと。
ベランダでまりこと唐沢が二人で洗濯バサミにタオルや靴下を
はさんでいく。
だが、唐沢がとったのは小さなピンクの布着れ。
「まりこ。お前・・・。うさぎのぱんつなんてはいてんのかぁ。
あはは。子供だなぁまだまだ」
唐沢はびろーんとまりこのぱんつを伸ばして大声で言った。
「・・・。パ・・・。パパなんかだいっきらい!!!」
「!??」
まりこは真っ赤な顔をして部屋の中に入っていってしまった・・・
「な、なんで怒ったんだ・・・?」
まりこの怒りの理由が分からず、まりこのぱんつを持ったまま呆然とする唐沢。
唐沢はすぐに機嫌が直るだろうと思っていたが、女の子の心は相は簡単ではありません。
翌日になっても口をきかず・・・。
「まりこ、いってらっしゃ・・・」<
バタン!
乱暴に玄関のドアを閉められてしまう始末・・・
(・・・わからん。怒っている理由が・・・(汗))
娘の心が分からず悩む若き父親唐沢。
やっぱりここは、同じ女の水里に意見を求めてみたのだが。
「・・・当たり前ですよ。女の子に向かってデリカシーに欠けてます!
女の子の下着になんちゅうコメントをするんですか。まったく」
二人でレジに並んで話す。
「お前からデリカシーなんて言葉が出るとは」
「・・・(怒)そっくりそのままお返しします」
「まぁでもまりこもあと四、五年すれは年頃だ。コミュニケーションも
難しくなってくる・・・。うーん・・・やっぱり母親が必要なのか」
「・・・。店長の場合、もう少し繊細さが必要なんじゃないですか。
ま、無理だろうケど」
最近は水里も容赦なく唐沢に言い返す。
「ともかくですね。謝ること。それから、洗濯物干すときは、
まりこちゃんの下着はまりこちゃんに干させること。
触っちゃだめです!いいですね?」
「お、おう」
水里のアドバイスを受け、唐沢は今日、家に帰ったら真っ先に
謝ろうと思っていた。
だが。
家に帰り、テーブルの上においてあった置き書き。
『今日は太陽君のママのおうちにとまります。まりこ』
と書かれたメモが残されて・・・。
「・・・い、家出か。おい・・・(汗)」
唐沢は水里のアパートにすぐ電話をした。
「”パパが反省するまで帰らない!”とまりこちゃんは豪語してますけど・・・。
店長、どうします?」
まりこは電話にも出ず・・・
「・・・すまん。山野・・・。一晩頼む。明日、朝一で迎えに行くから」
「ええ。わかりました」
まりこが家出・・・
こんなことは初めてで、やっぱり戸惑う唐沢。
(仕方ない・・・。ま、時間がたてば機嫌もなるだろう。
夕飯にするか)
冷蔵庫をあけ、一人で夕食の支度を始める・・・
いつもなら、まりこがお気に入りのエプロンをつけて二人でキッチンに立つのに・・・
(・・・寂しいもんだ。やっぱり・・・)
一人分作るのも面倒くさくなった唐沢。カップラーメンをすする。
一方、まりこは・・・
ほっかほかハンバーグ。
「いっただきまーす!」
笑顔で楽しそうにフォークをにぎっております、まりこと太陽。
「まりこちゃん、おいしい?」
「うん!いつもはね、パパとふたりだけだから・・・今日は
大好きな太陽君と一緒のごはん。とってもおいしい!」
父親がカップラーメンを寂しくすすっていることもしらず
まりこは大好物のハンバーグをほおばる。
けど、水里は敏感にまりこの気持ちを感じている。
子供が必要以上にはしゃぐときは・・・
(こころが痛い時・・・)
特に優しい子は痛みを表に出さない。
心配掛けまいとするから・・・
「みぃママ、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
太陽とまりこは二つの布団を並べて眠っております。
水里は明日の朝食の下ごしらえをしております。
時計の針は11時を過ぎて・・・
(さてと・・・。そろそろ寝るかな・・・)
水里が振り返ると俯いたまりこがたっていた
「まりこちゃん・・・。どうしたの?眠れないの・・・?」
「・・・」
まりこは俯いたまま・・・
「まりこちゃん・・・?」
「う・・・。うわぁあん・・・」
突然泣き出すまりこ・・・。水里は背中を泣き止むまで撫でた・・・
「ホットミルクだよ・・・。ほら飲んで・・・」
太陽専用のピカチュウのマグカップに温めた牛乳が
湯気をたたせている。
「・・・パパが・・・。怒ってるって思ってる・・・?」
「・・・」
まりこはこくん・・・と頷く。
「・・・私・・・。パパにひどいこと言っちゃって・・・。でも・・・
なんだかすなおに”ごめんなさい”できなかったの・・・」
「うん・・・」
女の子は敏感だ。
年頃になれば様々なことで悩んだり戸惑ったりするだろう。
(店長の悩む気持ち・・・。少し分かる気がする・・・)
「まりこちゃんのパパ・・・ね、言ってたよ。”まりこはオレの宝物”だって」
「え?」
「もうパパ、まりこちゃんのこと、許してくれているよ・・・。
いや、最初から怒ってないよ。私が保証する・・・!」
「太陽君のママ・・・」
水里はまりこを安心させようと微笑む・・・。
「うん・・・。太陽君のママ、みるく、いただきます」
「はいどうぞ」
まりこの顔に微笑がもどった
ほかほかみるくがまりこの体を温める・・・。
「あー・・・!ずるい。ボクもみるく飲むー!」
みるくの香りに太陽もお目覚め。
二人揃ってナイトミルクと相成りました・・・。
そして翌朝・・・
「ごちそうさまでした」
まりこと太陽、手を合わせて合掌。
顔と歯磨きが終わりました。
「まりこちゃん、こっちおいで髪、結ってあげる」
水里はまりこの腰まである長い髪を
丁寧に三つ編みに結っていく。
太陽はそれをじーっと見ております。
「なあに?太陽」
「・・・まりこちゃんが・・・。だんだん可愛くなって
いくなぁって思って」
「・・・太陽君・・・v」
まりこはぽっと赤くなった。
(・・・太陽。あんた最近、その天然な甘台詞が
春さんに似てきたような・・・(汗))
コンコン。
三つ編みが縛り終えたとき、誰かが尋ねてきた。
「あ・・・!まりこちゃんのパパだ!」
太陽がドアを開けると唐沢が。
「おす・・・」
「あ、て、店長おはようございます。ささ、中へどうぞ」
「いや。いい・・・とろこでまりこは・・・」
まりこは水里の背後に隠れる。
「まりこちゃん・・・」
「まりこ・・・。オレは怒ってない。オレの方こそ
お前に気に触ることいってわるかったな・・・」
(パパ・・・)
水里の背中からひょこっとまりこが出てきた・・・
「まりこ・・・。おはよう・・・!ちゃんと
歯、みがいたか?」
こくん、と頷くまりこ・・・
「顔洗ったか?」
すこし涙を浮かべて頷く・・・
「パパ・・・!」
唐沢に抱きつくまりこ・・・
久しぶりにまりこを抱き上げる唐沢は・・・
重たくなった体重をずしりと感じる・・・
「お前・・・。大きくなったな・・・」
「パパ・・・!」
唐沢に抱きつくまりこ・・・
「まりこちゃん、よかったね・・・」
「うん」
水里に手をふるまりこ。
「山野。世話になったな・・・」
「いーえ。店長。まりこちゃんを是非是非、大切に」
「お前に言われたくない。でも・・・。ありがとう。
助かったよ・・・」
(て、店長がしおらしいなんて)
「太陽君またね!」
「うん。まりこちゃんまたね・・・」
水里と太陽はアパートの外まで出て、まりこと唐沢を見送る・・・。
まりこをだっこして唐沢達が帰っていく・・・
父親に抱かれ嬉しそうなまりこを
太陽は黙ってじっと見送る・・・
(太陽・・・)
「水里さん。おはようございます」
「春さん!」
白いジャケットを着た陽春。
「今の人・・・。確か水里のさんのお店の店長さんじゃ・・・」
「あ、はい。店長の娘のまりこちゃんが昨日、太陽とうちに
泊まったんです。それで迎えに来て・・・」
「・・・。そうなのですか・・・」
陽春は一瞬間を置いた。
(春さん・・・?)
水里は少し陽春の沈黙が気になった。
「ふふ。じゃあ、太陽君、まりこちゃんと楽しい夜だったんじゃないか?」
「うん!」
陽春は太陽をだっこした。
(春さん・・・。太陽の気持ち、わかってくれたのかな)
父にだっこされて嬉しそうなまりこをじっと
見つめていた太陽の気持ちを・・・
「春さん!もっとぎゅ・・・ってハグしてもいい?」
「ああ、いいよ」
太陽は陽春の首に手を回して顔をこすり付けて
くっつく・・・。
「・・・パパ・・・」
(太陽・・・)
水里は初めて見る・・・
自分以外でこんなに誰かに甘える太陽を・・・
(子供には・・・”父親”も”母親”も必要なんだ・・・。
どちらが欠けても子供にとっては寂しい・・・)
水里自身も母親を知らない。
だからこそ・・・
太陽には沢山甘えさせてやりたいと願う・・・
「・・・あらら。太陽君眠ってしまった・・・」
太陽はよほど、陽春の抱き心地がいいのか寝息をたてている・・・
桃色のほっぺ・・・
陽春はつんつんとほっぺをつつく。
「・・・この寝顔を見ていると・・・。なんだか
こちらも心和みますね・・・」
「・・・はい・・・。疲れも吹っ飛ぶます・・・」
水里も太陽の前髪をそっと撫でる・・・
その水里の瞳は・・・
陽春にはとても慈愛に溢れて見えて・・・
「・・・水里さんの寝顔も・・・可愛いですよ」
「え・・・!?」
「ふふ。とっても気持ちよさそうな寝顔だから・・・」
(・・・な、なんか褒められてるのか微妙だな・・・)
ちょっと複雑な水里。
「でも・・・。貴方の寝顔は・・・。他の誰にも見せたくないな・・・」
(え・・・)
「・・・。貴方の寝顔は・・・。僕だけが・・・」
陽春の顔が近づいてくる・・・
(ちょ、ちょっと・・・えええ!??)
水里はただ凝固して・・・
「ふふ。水里さん、口元にご飯粒ついてますよ」
「え」
陽春はご飯粒をぱくっと食べた。
「///あ、あの・・・」
「・・・水里さん。今・・・何か”勘違い”してます?」
「なっ・・・。も、もう〜!!」
耳まで真っ赤の水里・・・
照れくさい
ドキドキの朝・・・。
太陽は父親の温もりを感じて
水里は恋のドキドキを感じて・・・
優しさに包まれた朝。
水里は今日一日の始まりが
この3人で始まる今日という日が
愛しかった・・・