デッサン3
〜君と共に生きる明日〜
第33話 ラブストーリー
(ん・・・。あったかいなぁ・・・)
その日。水里はとってもとっても心地いい夢を見ました。
自分が子猫になって、陽春の腕の中で眠っている夢です。
(・・・あったかい・・・。気持ちいい・・・。ずっとくるまっていたい・・・)
頬擦りしてうずくまる水里子猫。
すると陽春が頭をなでてくれます。
(いい夢だなぁ・・・。さめないで欲しい・・・)
けれど朝が来てしまいました。
確かに聞こえる陽春の声。
「・・・おはようございます・・・」
(夢の続き・・。あと少しだけ・・・)
「んにゃ・・・。あ、おはようございます!」
(・・・ん・・・?)
「おはようございます。朝ですよ。水里さん」
やけにリアルに聞こえる陽春の声。
(夢にしては・・・色が鮮明な)
陽春の頬をなでなでしてみます。水里。
(あったかい・・・。ってことは・・・?ってことは・・・。ってことはーーーーーー!????)
)
「・・・くすぐったいです」
生身の陽春がそこに♪
「ふんぎゃああああああああぁああ!!!!」
↑(覚醒&瞬間爆照)
「水里さんッ。大丈夫ですか!?」
状況が飲み込めない水里の思考回路は停止し、30分、そのまま
微動だにせず座ったまま・・・
「いかん!水里さんをまた気絶させてしまった・・・」
陽春は水里そのままこたつで寝かせ、
(何か作って食べさせないと・・・)
そして30分がたち。
(はッ!!)
美味しい珈琲とトーストの匂いで水里の思考回路はやっと動き出しました(笑)
「すいません。勝手に冷蔵庫の中のもの・・・使わせていただきました」
「い、いえ・・・」
こたつの上にはトーストと珈琲が。
しかし、水里には今は朝食のメニューより重大なことが・・・。
(さ、さ、昨夜は一体・・・”何”があったんだ・・・。いや、
服は着たままだったから”何”ってことがあるはずない・・・って
何を妄想しているんだ、自分ーーー!!)
一人頭を抱えて問答。
「水里さん。昨晩はすみませんでした」
「え!!??」
(な、何で誤るんですか、っていうか謝らなきゃいけない
何か、があったんですかーーー!!??)
完璧に混乱の海に陥っております。水里。
「その・・・。水里さんがすやすやあんまり気持ちよさそうに
眠るんで僕もうとうとと・・・。そのまま寝てしまいました。
気づいたら朝で・・・」
「・・・。ね、眠った・・・”だけ”ですか・・・?」
「え?」
「い、いやぁ(焦)あ、あの決して深い意味の質問ではありませんでッ」
(じ、自分で墓穴ほってどうするーーー!)
とにかく自分で突っ込み、自分で返答しております。水里の脳内。
「男として不甲斐なかったです。もし、不快に思われたなら
本当にすみませんでした」
頭を下げる陽春。
「い、いえッ。そんなっ。か、顔を上げてください。と、とっても寝心地はよかったです!」
(って、何言ってんだーー!私!!!)
「よかった・・・。嫌われたらどうしようと思ってました・・・」
「春さんを嫌うなんてことあるはずないですよ。そんなこと・・・」
「水里さん・・・」
なんとも柔らかい視線を送る・・・
(だっ。だからそんな見つめないでくれと・・・(照))
「・・・。なんか・・・いいですね」
「え?」
「髪・・・おろしてるから・・・。ちょっとドキドキします・・・」
薄笑みを浮かべる陽春・・・。
(ーーーッ。春さん照れ方が乙女ってます。いや、こっちが
照れますーー!!)
がシャン!
「わっ」
珈琲をこぼしてしまう水里。
「わー。ごめんなさい。春さん」
「慌てんぼうだな・・・ふふ」
水里の手を拭く陽春。
(ですが春さん、それふきんです・・・(汗))
ドキドキがとまらない朝。
(嗚呼。今日、会社行けるだろうか・・・)
火照る体に戸惑う二十年とウン年の水里の朝でありました・・・
「ふー。締切り間に合った!!偉い。俺は偉い!」
パソコンに向かって腕を組む夏記。
出来上がった原稿にご満悦だ。
「夏紀さん。珈琲如何ですか?
「おっ。いいねぇ」
陽春はパソコンの横にカップを置いた。
「今度はどんな小説なんですか?えーっと・・・『水色の恋』?」
パソコンの画面にはそんなタイトルが・・・
タイトルからして陽春はなんとなく嫌な予感がした。
「もしかして・・・」
「うん。そうそう。主人公は童顔の物凄くぶきよーな
絵が好きな二十歳の女の子。それから元医者の若者の純愛ストーリー♪」
くすくす頬えむ夏紀の笑顔に不安が的中。
陽春はどんな内容かとパソコンを読んでいく。
「・・・。こ、これ。ほとんど現実と同じじゃないですか。そ、それに・・・」
かなり生々しいラブシーンが・・・
「えー。いやー。だってさ。リアリティ出したくてさー。ふふ。
あ、ラブシーンの所はまだか。現実の方が。あはは」
「ラブシーンの部分カットしてください・・・(怒)」
「えー。今更無理・・・」
「しなさい!!」
(わ!!)
陽春は仁王立ち<・・・
「わ、わかりました・・・。て、訂正致します・・・」
「ったく・・・」
かなりご立腹の陽春。
(ふふ。んっとにくそ真面目な恋愛すんだからな・・・)
でもそんな兄が好きだ。
記憶なくても・・・。
「・・・夏紀さん」
「何だよ」
「この本では・・・。男性は・・・。最終的にラストでは
相手の女性と結婚していますよね」
「ああ。純愛ものじゃ・・・できるだけハッピーエンドが要求だれるもんだ。
といっても普通のラストじゃ面白くねぇから色々脚色したがな・・・」
「・・・。本の中では・・・。純愛として終われても・・・。現実、
結婚となれば・・・」
急に陽春のトーンが下がった。
(兄貴・・・?)
「・・・。兄貴・・・。水里の奴となにかあったのか?」
「・・・。いえ・・・」
陽春は夏紀の本を置いた
「・・・。時々・・・。いまだにやっぱり・・・。以前の”自分”と
今の自分を対比させてしまって・・・って、あ、でも前向きさは忘れていません」
「・・・兄貴・・・」
夏紀はしばらく間をおいて考えた。
「兄貴・・・んじゃぁ俺がアドバイスしてやろう」
「はい」
夏紀は陽春の耳元でぼそっとアドバイス・・・
「・・・(怒)もういいです!」
バタン!
ものすんごい力でドアを閉めて怒って出て行った・・・
「あらら・・・。やっぱちょっと刺激が強すぎたアドバイスでしたか」
夏紀が陽春の耳元でささやいたこととは・・・
”アイツと結ばれちゃえば”
(・・・実質年齢17歳・・・だもんな・・・。俺にも兄貴が織り成す
純愛模様は書けません。ふふ・・・)
兄思いの弟・夏紀。少しだけ、兄の恋愛模様に手助けしようと
とある提案を水里にしかけます。
「な・・・何!?い、今、なんと言った!??」
水里宅の黒電話。
受話器を持つ水里の手が震えています。
「だーかーらぁ。兄貴に”愛してます”っていってやって欲しいわけ」
「なっ・・・。なな何でそんなことを
夏紀くんに指示されなければらないんですか」
緊張のあまり、妙な丁寧語になっております。
「大体さー。お前、兄貴からはたっくさん甘いおことばもらってんのに
おまえ自身はあんま、いってねぇだろ」
「・・・」
そういえば・・・。
今までの台詞的に天然台詞を連発され照れまくる自分は
何度も感じたが
(わ、私から・・・っていうのはないな)
「兄貴に囁くだけで一年は兄貴、おちこまなぇとおもうんだ。
な、頼むよ。人助け」
「・・・け、検討してみましょう・・・」
とは言ったものの・・・。
鏡の前で・・・
声に出さず、口パクであ、い、し、て、い、ま、す、と動かし見る。
(・・・チェ・チウ風にピュアな女性風に)
水里は手を前で組んで瞳を潤ませて・・・
「・・・愛しています・・・」
とやってみるが
(・・・が、柄じゃなさすぎる!!)
今度はちょっとプレイガール風なおきゃんな感じで
「春さん!おっはー!あいしてるよーん♪」
(・・・春さんぜったいに引く・・・(汗))
「・・・だっだめだぁ・・・!」
どーしても照れが入ってしまう。
鏡の前で頭をかかえて転がる水里。
自分がこんなに照れ症だったのかと改めて気がついて・・・
(そうだ・・・!伝える方法は何も言葉じゃなくてもいいんだ!)
水里は、机の引き出しから便箋と封筒を取り出す。
水色の便箋と封筒だ。
「よーし!書くぞー!」
春さんへ・・・と最初の一行まで書けたのだが・・・
(・・・え、鉛筆が・・・動かん・・・(汗))
愛・・・という漢字までは書けるのだが・・・
(だぁッ!!!たった6文字なのに何故書けんのだー!)
それから3時間粘ってみるが・・・
「・・・なんで・・・?どうして私の手は動かないんだ・・・」
どうやら水里の照れ症はかなり重症らしく・・・
(・・・さもなくば・・・あの”方法”しかない・・・)
ぐっと鉛筆を握り締め、水里、気合を入れなします・・・
「よし・・・!では作業開始・・・!」
頭にタオルを巻いて朝方まで水里はかかって書いたのだった・・・
「ん?」
朝。陽春宅の郵便受けに水色の封筒が・・・
(・・・水里さんだ!)
そう直感してその場で封を切って中の便箋を広げる・・・
「ん?兄貴どーかしたのか」
あくびをしながらおきてきました、今日はお目覚めはやい夏紀くん。
「あの・・・水里さんからの手紙らしいんですが・・・」
「んー?・・・。な、なんじゃこりゃ(汗)」
便箋に書かれていたのは不可解(?)な絵文字・・・?
アイスの絵からから椅子がひかれて、胃袋の絵の後に、四つの手のひら、それに
また、胃袋の絵にサザエさんのマスオさんの絵がかいてあり・・・
「・・・。もしかして。これで”愛してます”って読ませるつもりか・・・?(汗)
兄貴、そうなのか?」
「・・・た、多分、そういう解読かと・・・(汗)」
わかりやすすぎる絵文字でした(笑)
「だーーー!!アイツの愛情表現方法の幼稚さにも程がある!!
幼稚園児だってこんなことしねーぞ」
夏紀はもはや呆れ顔を越えて怒っている。
「・・・ふふ。でも僕は嬉しいですよ・・・絵は上手だし。
水里さん、どんな顔で書いてたんだろうなぁ・・・。想像したら
なんだか微笑ましいな」
(絵の上手下手じゃねぇと思うが(汗))
それでも陽春は本当に嬉しそうである。
気持ちを伝えるのに
幼稚も大人っぽいもない・・・かも?
と少しだけ思う。
(ま・・・なんにせよ伝わればいいんだがな)
流行の本やドラマの純愛ほどドラマチックで涙を誘うような
ストーリーじゃなくてもいいじゃない。
自分たちのラブストーリーを紡げたら
それが一番ドラマチック。
子供っぽいことってわるいこと?
大切な人に気持ちを伝え合えればそれでいいじゃない?
「・・・兄貴・・・(汗)朝飯さめちまうぜ・・・」
「ふふ。ふふ・・・」
朝食中も水里の手紙ににこにこさわやかスマイルの陽春。
(・・・。やっぱ俺には書けねぇ(汗)兄貴と水里の
恋愛感がわからねぇもん・・・(汗))
ラブストーリー。
大人も子供も
親子も友達も
それぞれに
綾なせばいい。
相手を思いやる気持ちを持ちながら・・・