デッサン
最終話 託されたペンダント








『第二次選考通過いたしませんでした』






薄っぺらい紙切れ一枚を



飛行機に折り、ベランダから飛ばす水里・・・





「まぁそんな甘くはないか。そのショックより・・・
それより・・・」






”もし私の絵が入選したら・・・お店続けてください。お願いします・・・!”






陽春の前で公言してしまっただけに・・・







(・・・。マスター・・・。やっぱりお店、やめちゃうのかな・・・。
私には結局何もできなかったのかな・・・)






ミニピカを抱きながら・・・







ベランダで空を見上げる・・・









「・・・さん」





(ふぅ・・・。なんか憂鬱でマスターの声まで聞こえそうだ)






「水里さん」







「・・・え・・・」









ベランダの水里を見上げる陽春が・・・







「・・・水里さん。お久しぶりです」





「あ・・・は、はい・・・」





何故だか緊張する。





「・・・一緒に散歩しませんか?お渡ししたいものがあるんです」





(・・・渡したいもの・・・?)






クワウン・・・






ミニピカは不思議そうに水里の顔を覗き込んだ・・・












日曜の公園。





夫婦連れやカップルが目立つ・・・







(・・・もっと可愛い服でも着てこればよかったかね・・・(汗))





Tシャツとジーンズ・・・




慌てて着替えた水里。






「・・・あ・・・。あのマスター・・・。すみませんでした。私・・・。
残念ながら入選できなくて・・・」







「・・・」







「あの・・・。でもやっぱりお店は続けて欲しいんです。私の
勝手なわがままってわかってるけど・・・」






(え・・・)





陽春はあるものを水里に差し出した。







カサ・・・







「これ・・・私の・・・絵・・・。どうしてマスターが・・・?」







「・・・すみません。勝手に持ち出して・・・。美術館に行ったとき
偶然移送されるのを見て・・・。どうしても僕の手から
貴方に渡したかったんです」







「・・・マスター・・・」








陽春はふっと空を見上げながら話す・・・



















「・・・聞いてもいいですか?その絵のタイトル・・・」











「・・・。タイトルは・・・ありません。ただ・・・。『四季の窓』が
こんな風だったらなって思っただけで・・・。勝手な想像で描いちゃったんですけど・・・」









「想像じゃないです。この絵は・・・」













陽春が







雪が作り出した空間・・・










幸せの時間・・・










「・・・。その絵は・・・。僕の記憶の中の光景そのものだ・・・。
幸せだった時間がそのままキャンバスに映ったみたいで・・・」









「・・・」








「この絵に・・・。僕の中の雪が生きている・・・」







「マスター・・・」














ベンチの後ろの花時計の花が風に揺れる・・・







そよそよと・・・











「・・・水里さん。僕はやっぱりアフリカに行ってきます。色々考えたけど
僕が出来ることで誰かの命が助かるのなら・・・」






「・・・そう・・・ですか・・・」






しゅんとする水里。









「・・・僕が留守の間、二階に住むことになったんです・・・。
”最近スランプで本が書けないから俺がイケメンマスター代行してやるって”」






「え・・・?それってお店、閉めないってことですか・・・!?」




陽春は微笑んでうなづいた。








水里も嬉しい。






「それで水里さん。夏紀だけじゃ心もとないので
夏紀の手伝いをお願いしてもいいですか?」








「え・・・。あ・・・ハイ、私でいいなら責任持ってお引き受けします!」







ゴッチン!






水里は思わずベンチの背もたれに頭をぶつけてしまう





「ふふ・・・。ではお願いします。それから・・・もう一つ。
この絵を・・・。店に飾らせてください。いいですか・・・?」










「勿論です・・・。はじめからそのつもりで描いたから・・・。置かせてください」










「・・・。ありがとう・・・。本当に・・・ありがとう・・・」









陽春の”ありがとう”が
水里の心にしみ込む・・・








(伝わったのかな・・・。絵に込めた気持ち・・・。
伝わったのならいいな・・・)


















風が吹く








二人は暫し同じ空を眺める・・・












「・・・色々な青があるけど・・・。やっぱり私。水色がすきだな・・・」












「・・・僕もです・・・。優しい穏やかな水色が・・・」

















高い高い空











空の水色










でも地上にも









自分のそばにも







優しい”水色”が在る・・・

















陽春の視線が一瞬水里の横顔に・・・




「・・・ん?どうかしましたか?マスター?」






「いえ・・・。何でも・・・。もう暫く・・・。こうしていますか?」







「はい。今日は本当に気持ちのいい空だから・・・」











空にも






地上にも









自分の好きな色がある。








自分らしい




色がきっと・・・










そして。 陽春がアフリカに発つ日・・・ 大きなリュックを背負った陽春を 水里と太陽と夏紀が見送りに来ていた 「じゃあよろしく頼むぞ。夏紀」 「わかってますって。兄貴より超『イケメン』なオレが売り上げ倍増 にしてやっから」 「それは頼もしいがくれぐれも女の子をナンパする場所には使うなよ」 「・・・ギクリ」 図星だったようで。夏紀。 「大丈夫です。私がちゃんと見張ってますから。このお店の”品位”が 落ちないように。ね、太陽!」 ”うん!”と言わんばかりに陽春に指を立てる太陽 「ありがとう。太陽君。太陽君。それから君ももう一年生だ・・・。 水里ママのお手伝い、ちゃんとするんだよ?」 ”わかってる!”といわんばかりに胸をドン!と叩く 「ようし!約束だぞ・・・!」 陽春と太陽は固い指きりを交わした。 そんな光景を微笑ましく水里は見守っている。 「兄貴。もう時間じゃねぇのか?」 「ああ・・・。そうだな」 大きなリュックを背負い、帽子をかぶる陽春・・・ 「兄貴。キィつけてな・・・」 「ああ・・・。夏紀。ヨロシク頼む・・・」 夏紀は茶目っ気たっぷりに ウィンクした。 「水里さんも太陽君も元気で・・・」 「はい。マスターもくれぐれも体には気をつけてくださいね・・・」 陽春は深く深く頷いた・・・ 「じゃあ・・・。みんな・・・行ってきます」 「行ってらっしゃい!」 陽春は3人に深々とお辞儀をして 歩き始める・・・ 3人は陽春の背中を見守って・・・ しかし陽春は途中で立ち止まり 戻ってきた 「マスター・・・?忘れ物ですか?」 「・・・はい・・・。とても大事な・・・」 陽春はダウンベストのポケットから 何かを取り出した。 「あの・・・。水里さん。これ・・・持っていてくださいませんか?」 (・・・?) 陽春が取り出したのは 薄いグリーンの翡翠の石のペンダント・・・ (・・・それは・・・) 夏紀にはそのペンダントに見覚えがある・・・ 「これは・・・」 「・・・。護り石です・・・。太陽君と水里さんが何事もなく元気でありますように・・・と・・・」 「でもあの・・・。私が持っていていいんですか?何だか大切そうなもののような・・・」 水里は返そうとしたが 陽春は水里の首にすっとかけた。 「貴方に持っていて欲しいんです。貴方に・・・」 「ありがとうございます・・・。大切にします。絶対大切に・・・」 「はい・・・」 陽春は再び歩き出した・・・ 「行ってらっしゃい・・・!」 太陽と水里の声に 陽春は満面の笑みで手を振り・・・ アフリカへと旅立った・・・ 「・・・太陽・・・。今、マスターあの空の上かな・・・」 店の窓から二人で空を指差す。 「マスターも頑張るんだから・・・。私達も負けてられないね・・・」 ”うん・・・”と頷く太陽。 「おい。水里。お前・・・。そのペンダントの”意味”知ってんのか?」 夏紀が尋ねる。 「意味・・・?」 「それはな・・・兄貴にとってマジで大事なモンなんだぜ・・・」 「大事なものって・・・。高価なものなの?」 「・・・。特に高価なモンじゃねぇけど・・・。”それ”をお前にやったってことは・・・」 夏紀は言いかけたが黙ってしまった 「・・・何。一体・・・」 「なんかムカつくから教えねぇ」 「・・・教えてよ!そこまで言ったなら!」 「うるせぇ」 水里に思い切りアッカンベーをする夏紀。 「太陽!夏紀にピカチュウキックお見舞いしなさい!」 ”らジャー!”と水里に敬礼して夏紀の膝にピカチュウキックを 入れる太陽。 「何すんだ。お前ら〜!!」 陽春がいなくなった『四季の窓』から 水里たちの笑い声が聞こえてくる・・・ 陽春が水里に渡した翡翠の石。 (あの石は・・・兄貴が雪さんに渡したもの・・・) そして石には”新しい季節の始まり”という意味合いが・・・ (兄貴・・・。無事で帰って来いよ・・・。『新しい幸せ』を見つけたなら・・・) 兄の無事を 夏紀は毎日祈った・・・ そして・・・ 初夏の公園には彼女がいる 『貴方の幸せのカケラを描かせてください』 白いベンチの横で スケッチブック片手に水里は今日も 公園に行き交う人々を眺めそして 描く・・・ 真っ白なキャンバスに向かって・・・ 心という名の・・・
FIN
『中途半端な終わりじゃないか!』 すいませんすいません(滝汗)ですが、『デッサン2』として 第二部が始まります。 第一部が終了ということで。 長くなっちまったな(汗) でもなんというか在る程度物語が出来上がらないと 主人公とマスターの恋愛話は私の中で発酵しないというか・・・ で、第二部では主人公とマスターこと陽春の二人の関係をもっと 中心に描けたらなぁと というわけで今後もよろしくお願いしますvvありがとうございました