裸足の女神

ACT10 音信不通
コトン。


歩は一階のポストの音に気づき、あわてて


降りていく歩。




ブロロロロ。


郵便配達員のバイクが立ち去って
歩がポストを覗くが・・・。




入っていたのは金融業者の広告だった。



クシャと丸めて捨てる歩・・・。



何故、歩が郵便受けの音に敏感かというと・・・。



「今日で一週間だ・・・」



ペンフレンドの”makiko”から返事。


今までだったら出したらに少なくとも2、3日後には必ず返事が
着ていたのに・・・。



歩は朝刊だけもって部屋に戻る。


(・・・makiko、風邪でもひいたのかな・・・。もう少し待ってみるか・・・)






”makiko・・・オレ・・・好きな女ができた・・・”


そう書いた返事をだしてから、
来なくなった。



「・・・もしかして。オレ、なんか失礼なことを書いたんかな・・・」


焼いたパンをくわえながら
苦悩する歩・・・。



恋愛相談なんてやっぱり迷惑だったのかと
きにやむが。



(・・・まぁ。もう少し待ってみるか・・・)




そう思う歩だった。







けれど、10日経ち、そして二週間・・・。



「こねぇ・・・」



昼間のガソスタのバイト帰りの歩.



郵便受けを覗く。





一向にmakikoからは返事がこない。


ブルーの封筒。


makikoに何かあったのではないかと不安になる歩・・・。




そのことを。



かごめでメールで何気なく話して見た。



『あの・・・オレ、その・・・昔の友達とその手紙やりとりしてたんだ・・・。が、
柄じゃねぇんだけど・・・。それでその友達からの返事が途絶えちまったんだ。
オレがなんか気に触ること言っちまったのか・・・。あ、
悪い。かごめに話すことじゃねぇよな・・・。じゃ、また・・・』





歩のこのメールにかごめのメールは・・・。




『へぇ。手紙か。素敵ね。メールより気持ちが篭ってる感じ・・・。でも大丈夫よきっと・・・。
相手の人はきっと事情があるのよ。私はそう思う。歩が何か気に障ることを言ったとかじゃないと
思う・・・。絶対思う・・・だから・・・信じてあげて。ね・・・!』





”絶対に信じてあげて・・・。ね・・・!”


最後のフレーズが力強く歩に伝わる・・・。




(かごめ・・・。本当、お前の言葉は不思議だよ・・・)



ぎゅっと携帯を大きな手で握り締める・・・。




「なんだ、歩。お前、携帯見つめて、何にやついてんだ」



ハッと我に返る歩。


ステージの上でライブの音あわせの最中。


「す、すんません。松さん」



「歩・・・。お前、惚れた女できたな?」



ギクリ。


「わかりやすい反応だなぁ。ふッ。まぁいいことだ。若いときはな、
思いっきり恋愛しろや。わっはっは!」


豪快に笑う松本。


奥さんがいるらしいが・・・。




「・・・。松さんっていろんな意味ですごいっすね・・・」




(恋愛・・・か)


考えてみたら、かごめに


”付き合ってくれ”


とか


”好きだ。俺の女になってくれ!”




なんていう確固たる意思表示はしていないしかごめの気持ちも
きいていない



(そ、そんなこっぱずかしい事きいたり、言ったりいえるか!!)



「おい・・・。歩、お前誰と話してんだ?」



「え・・・」



またもや一人で問答・・・。




「ふはっはっは!”恋煩い”か。歩、おめぇは本当に純情一直線だな。
はっはっは・・・!」



(・・・(汗))


松本にやっぱり酒のつまみにされそう
なので、歩は恋愛相談など絶対にできないと思った・・・。



その”恋愛相談”していたペンフレンドの『makiko』




2週間経つがまだ返事が着ていない・・・。





(どうしてこないんだ・・・。どうして・・・)






歩は思い切ってこう書いてもう一度makiko宛てに出した。





『makiko、どうしたんだ?返事こねぇから心配で・・・。オレがなんか
気の障ることいったんなら謝る。ただ、なんかあったんなら仕方ねぇけど
できたら返事欲しい・・・。もし、おれとの手紙のやりとりが
嫌に鳴ったのなら仕方ねぇけど最後の返事がほしい』






歩の切な気持ちが伝わったのかmakikoから返事が来た。



バタバタバタ・・・。

バタン!


バイトから帰ってきた歩は
急いで机の中からはさみを取り出し、封を切った。


カサ・・・。



緊張して中身を開く・・・。




『・・・拝啓。稲葉歩さま・・・。ご心配おかけしました。
ごめんなさい』



(なんだ・・・?妙に丁寧な言い方だな・・・。いつもと違うじゃねぇか・・・)


いつもは普通にタメ口の会話だった。


それに微妙に字も違うような・・・。




(まぁいいか。で・・・)




そして。


次の文章に歩は驚く。





『突然ですが・・・。会って下さいませんか?お話があるんです』






「あ、会ってくれだと・・・!???」



考えても見なかった。



makikoの方から会いたいだなんて・・・。



一体なんなのだろう・・・。



(話って・・・)




突然の申し出に戸惑う歩。




次の行には会う日にちと場所と時間が記されていた。



『今度の日曜。午後12時に中央公園の花時計の前まで来てください・・・。
赤い傘を持って待っています・・・』



(・・・一体何があったんだ・・・。ともかく・・・。行ってみるしかねぇな・・・)



今まで何でも相談してきた”makiko”



”makiko”どんな人物だろう・・・。





文章からきっととても優しい感じの女性だとは伺えるが・・・。




その時、何故かかごめの顔が浮かぶ歩。




(な、なんでここでかごめが浮かぶんだよ。)



優しい文体で・・・イメージがなんとなく・・・。




(・・・とにかく日曜・・・だな)



歩はmakikoからの手紙をそっとテーブルの上に置いて・・・。


夜のBARまでの時間を眠った・・・。










いよいよ日曜日が来た・・・。 ゴロゴロ・・・。 朝からどんよりした曇り空だ。 ”赤い傘を持って待っています” 手紙のフレーズが浮かぶ。 「確かに・・・降りそうだが、午前中はもつだろ」 歩はヘルメットをかぶり、エンジンを鳴らし、一路公園に向かう・・・。 「へぇ・・・。中央公園って広いんだな」 駅前からすぐ近い大きな公園。 青々とした芝生。 それを囲む木々は紅葉まっさかり・・・。 公園には紅葉を楽しむ親子連れや夫婦がいて・・・。 「・・・なんか・・・いい空気だ・・・」 のんびりした流れ・・・。 BARがある世話しない忙しい空気とは違ってここはなんだか・・・。 あったかい・・・。 まるで誰かみたいで・・・。 (・・・かごめの顔ばかり浮かぶ。くそ!今はmakikoに会うんだから・・・!) 歩は黄色い菊の花の花時計の前のベンチに両手を組んで座る。 花時計の針は11時30分をさしている・・・。 (ちょっと早く来たかな・・・。赤い傘の女・・・か) 歩は公園内を眺める。 (あ・・・!赤い傘・・・) だが、腰を曲げたおばあさんが近寄ってくる・・・。 (・・・。ま、まさか・・・な(汗)) 「ちょいとお尋ねしますが・・・」 (ま、まさか(!??)) 歩、衝撃の事実判明か? 「駅に行くにはどの道から行けばいいでしょうかのう・・・」 おばあさんの問いにほっと胸をなでおろす歩。 「あの・・・。オレ、近くまでおくります」 歩はおばあさんを公園の入り口まで結局おんぶしてあげた・・・。 すぐ花時計のベンチに戻る歩。 (もうすぐ12時だ・・・) 花時計の針が12時のところで交わった・・・。 公園内の様子をぼんやり見つめながら歩はmakikoを待つ・・・。 だが・・・。 12時半になり・・・。 1時にが過ぎ・・・。 2時になっても・・・。 ”赤い傘の女”は来ない・・・。 (どうしたんだよ・・・。一体・・・) 歩は空を眺めた。 ポツ・・・。 歩の頬に雫が落ちる。 雨が降ってきた・・・。 公園に遊びに来ていた家族連れや夫婦は皆、急いで帰っていく・・・。 既に時間は3時を過ぎ・・・。 雨は本降りになってきた・・・。 だが、歩はひたすらベンチに座って待つ・・・。 セットしてきた髪もびしょ濡れ・・・。 傘ももってきておらず・・・。 だが。待つ・・・。 (きっと来る・・・。きっと・・・) ”絶対に信じてあげて・・・!” かごめの言葉を思い出す・・・。 (そうだ・・・。信じねぇと・・・) ザー・・・。 雨がさらに激しさを増し、歩むは全身びしょ濡れだ・・・。 「っくしょい・・・!」 濡れた体はすぐに冷えてくる。 体が大きくとも・・・。 風邪をひいてはいけない。 バンドのボーカル、BARを休むわけにはいかない・・・ (けど・・・あと10分・・・あと10分だけ) 大きな体を少し縮こめ大きな足を抱える・・・。 体が冷えないように・・・。 (あと10分・・・。あと10分・・・) だが・・・誰も歩の前を通らない。 公園には誰もいない・・・。 (・・・もう少し・・・もう少しだけ・・・) 歩が呪文のように心の中で唱えていると・・・。 「・・・!」 チャプ・・・。 チャプン・・・。 静かな足音・・・。 白い靴がゆっくりと歩に近づく・・・。 ・・・赤い傘をさして・・・。 チャプ・・・。 赤い傘が歩の前で止まった・・・。 (・・・) 歩は一気に緊張に包まれる・・・。 「・・・あの・・・」 パサッ・・・。 赤い傘が閉じられ・・・。現れたのは・・・。 「・・・お、お前は・・・」