裸足の女神

ACT13 大好き・・・
天気のいい中央公園。


銀杏のの葉が見事に黄色く染まっている・・・。



「・・・。歩・・・。妹と何を話していたの・・・?」




「・・・」



かごめの問いに歩はなぜか顔を赤く染まらせた。




(・・・何で照れてるのかしら?)



不思議に思うかごめ・・・。




〜♪



そのとき、銀杏の木の向こうの通りからギターの音が聞こえてきた。



さっき、歩とかごめがいた場所。


中央公園西口。電話ボックス前。




少年が路上で弾き語りをしていた・・・。




ベンチの後ろを振り返る二人。




「・・・オレも。あのくらいの時・・・あの場所で夢中になってギター片手に
歌ってた・・・」



冷たい視線で通り過ぎていく通行人。



そんな視線も気にせず、ただ、歌っていた。



「・・・知ってる・・・。雨の日でも歌っていたよね・・・。歩・・・」





「・・・」




かごめがまだ高校生の頃。



この公園が好きで学校帰りによく立ち寄ってこのベンチで風景を眺めていた。



そんなある日。



自分の後ろからなんとも心地いいメロディラインが耳に入ってきて・・・。




音がする方へ行ってみると二十歳前の歩が一人、歌っていた。




誰も振り向かない。



時には「へたくそ!」


と罵声を浴びたことも・・・。




かごめはその日から歩を見つめ続けていた。






「・・・さっき。お前の妹・・・真樹子から聞いた・・・」




「・・・真樹子ったら・・・」




”私のせいなの。歩がお姉ちゃんを好きだって手紙で書いてきて・・・。私とお姉ちゃん
なんかギクシャクしちゃって・・・。お姉ちゃん、私のために
歩ともう会わないなんて言い出して。・・・お願いお姉ちゃんを許してあげて。
だって、お姉ちゃんの方が歩のこと好きなんだよ。ずっとずっと昔から・・・。”




真樹子の言葉で思い出した。



路上ライブをしていた頃。誰も自分の唄に見向きもしなかったけれど・・・。


一人だけ制服姿の少女が


熱心に聞いてくれたことがあった・・・。









「・・・お前、確か三つ編みで同じ髪型だったよな」





「や、やだ・・・(照)へ、変だった・・・?」





「い、いや・・・」




(すごく可愛かった)



肝心な部分が言えない照れ屋の歩クン。






「・・・。私ね・・・。歩の唄に助けられたんだ・・・」




「え?」



「・・・進路で悩んで親と喧嘩して家飛び出しちゃったの・・・」





自分は保母になりたいと願った。


だが、よりもっと上の大学進学を願った母は反対した。




自分の気持ちが分かってもらえなくてもどかしくて・・・。



かごめの足は自然と歩の元へ向かう・・・。








寒い冬。



そそくさと家路に向かう通行人。



誰も見向きもしないのに、歩は必死に歌う。



笑顔で歌っている・・・。




”あきらめるな。あきらめるな。オレのゴールは今じゃない。
スタートさえしていないのだから・・・”



そんな歌詞のフレーズが心に響いて・・・。




「歩・・・あの時、最初に私になんて言ったか覚えてる?」


「え?いや・・・」



必死に思い出そうとする歩。




三つ編みの少女。


一人夕暮れに哀しそうに・・・。






”迷子か?交番ならすぐそこだぜ?”






「よ!私、すごくショックだったんだから・・・」




「なっ・・・。だ、だってよ。ずっとつったってっから
親とはぐれちまったのかと・・・」





「17才の私が迷子になるわけないでしょ。もうッ」




「・・・わ、悪かったよ・・・(汗)」




申し訳なさそうに謝る歩・・・。




「うふふふ・・・。変わってない・・・素直な所。すっごく
照れ屋なところ・・・」




「そ、そうか・・・?(照)」



「うん。それから・・・歩の作る歌が・・・。私は大好きってこと・・・」






かごめはじっと歩を見つめた・・・。












(・・・そ、そんなに見つめるな・・・)










たまらなくなった歩。



思わず視線を逸らし、立ち上がった。






「あ、歩・・・」




「・・・。で、出るか・・・」




「う、うん・・・」







昔の思い出話に一瞬、二人の心は通い合った
感じがしたが・・・。



なんだかまた気まずい雰囲気に・・・。







二人、ゆっくりと住宅街を歩く。






(歩・・・。やっぱり・・・まだ怒ってるんだね・・・)



かごめより一歩先に歩く歩の背中。




物言わない背中がかごめを不安にさせる・・・。






「・・・あ、やだ・・・」




「ど、どうした?」



かごめのストッキング。



伝線して亀裂が入っていた。





「どうしよう。代えは持ってるんだけど・・・」




近くに女子トイレもコンビニもない・・・。





「・・・。仕方ねぇな。オレんちでよけりゃあ・・・寄ってくか?」




「え・・・いいの?」




「・・・ああ。すぐそこだから・・・」





歩の部屋。




かごめはちょっとドキドキした。









「・・・ちょっとち、散らかってるが・・・。どうぞ」




「お、お邪魔します・・・」





かごめは緊張しながら入った。




男一人の部屋。散らかっていると言ったが。




(・・・私の部屋より・・・綺麗・・・)



ビシッとしわもないベットのシーツ。



本棚はきちっと大きさ別に分かれ
整理整頓されていた・・・。




「あ、あんまりじろじろみんなよ・・・」



「ご、ごめん。でも歩らしくってすてきな部屋ね」




(・・・うッ・・・(照))



かごめのスマイル。


歩のみぞおちあたりにHIT。





「お、お前、破けた靴下、は、早く着替えろよ」



「あ、そうだった。じゃあ、バスルーム借りるね」



「お、おう・・・(真っ赤)」





パタン。




”バスルーム借りるね”



そのフレーズになぜか反応する歩。



(・・・。べ、別にかごめが泊まっていく訳じゃねぇ。・・・
泊まっていく・・・?)






(・・・)





・・・歩クン、なにかちょっとエッチな妄想に飛んでしまいました。




ガチャ!





「・・・!!」


かごめが出てきてオーバーリアクション。歩。



「歩。ありがとう。バスルームも綺麗ね」





「・・・い、いや別に・・・(汗)」




下心が芽生えてしまった事を自己嫌悪しております、歩クン。




かごめに背を向けて照れを隠す。






(やっぱり・・・。歩・・・まだ怒ってるんだ・・・)




歩の態度を勘違いするかごめ。



俯いて部屋を出ていく・・・。






「・・・じゃ、じゃあ・・・。私、行くね・・・」




「え・・・?も、もう行くのか・・・?」




「うん・・・。だって長居しちゃいけないでしょ・・・。私・・・。
歩の彼女でもないから・・・。じゃあね・・・」






「・・・じゃあ、なってくれよ」






「えっ・・・?」












グイ・・・ッ。








歩はかごめの腕を引っ張り、両手で抱きしめた・・・。















「・・・。なって・・・くれよ・・・。オレの彼女ってやつに・・・」




「・・・で、でも・・・。わ、私・・・。歩に嘘ついてたのに・・・。
わ、私でいいの・・・?」






「・・・。お前以外の女考えられるか・・・」













もう押さえられない気持ち・・・。







歩の腕はかごめをいっそう力強く抱きしめた・・・。







柔らかい髪。





細い体・・・。







好きで  好きで  かなわない。






























「・・・。歩・・・。好き・・・」



















「・・・。俺もだ」
















やっと抱きしめられた。





照れもすっ飛ばして





ずっと抱きしめたくて




自分だけの笑顔にしたくて




したくて   したくて・・・。
















どれだけの時間だろう。





二人は互いの気持ち




玄関のドアの前で身を寄せ合って・・・。






確認した・・・。
























「・・・!」




歩のポケットの携帯のバイブが震えた。




多分BARからだ。






「・・・。もう歩。行く時間なのね」





「わ、悪い・・・」





「ううん。いいの・・・。私、今すっごく幸せだから・・・」







(くッ・・・)





けなげなかごめの台詞に歩。


もっとかごめを抱きしめていたい衝動に駆られる・・・。










「・・・じゃあ行くね」





「あ、ちょっと待ってくれ。これ持ってくれ・・・」






歩がかごめの手に握らせたのは・・・。





「これ・・・」





歩の部屋の合い鍵だった・・・。







「・・・。いつでも来ていいから・・・。だから持ってろ」





照れくさそうに言う歩。







「・・・うん!絶対なくさないようにするね・・・」




ぎゅっと鍵を握るかごめ・・・。








「・・・。お、お前だけに渡すんだからな・・・」




「うん・・・」





この鍵から二人の恋が始まる・・・。





二人の恋の歌が・・・。