裸足の女神
ACT15 不器用で照れ屋なプレゼント
『今度の休み、空いてたら、映画でもいかない?予定おしえてね』
P!
「ふふ・・・」
保育所の職員室。
昼休み、弁当を広げ、歩にメールを送るかごめ。
「なんだか嬉しそうね〜」
「え?」
「最近なんか綺麗になったと思ったら彼氏できたんじゃいの〜」
同僚につつかれるかごめ。
「え・・・そ、そんなこと・・・」
「教えなさいよ。かごめ先生」
「そうよそうよ〜!」
照れるかごめは更に同僚からの質問攻めに・・・。
ちょっと困った顔のかごめだが、だけどとっても幸せそうな顔である。
そしてこの男も・・・。
「ふふふふ・・・」
ガソリンタンクの前でにたぁっと携帯を眺める歩。
「オイコラ。稲葉。てめぇ。そのにたつき顔に水かけたろか」
ホースを持った店長にも気がつかず
携帯の待ち受け画面をぎゅっと握り締める歩。
歩の周りだけハッピーオーラが咲いている。
「・・・(怒)稲葉、お前、今週休日出勤な!」
「え?きゅ、休日!?」
休日といえば。
かごめと唯一会える時間。
映画をみる約束をしているのに。
「て、店長。ぼ、僕、一生懸命働きますから」
店長のズボンの裾をひっぱってごねる歩。
目をうるうるさせておりますデス。はい。
「は、離せ。てめぇ急にお子様キャラになるんじゃねぇよ」
「店長〜。お願いしますぅ」
「離せー!」
「店長ーぅ」
自らのキャラを壊して店長に直談判したが、
結局歩は週末もバイトとあいなりました。
バイトの合間。
男子トイレで歩はかごめの携帯にかけていた。
「てな訳ですまねぇ・・・。かごめまた、約束できなくて・・・」
「ううん。お仕事じゃ仕方ないわよ」
「ああ・・・。それよりお前、体のほうはすっかり治ったか?」
「うん。歩のおかゆが聴いたのね。ありがと。とってもおいしかった・・・」
かごめの心のこもった可愛い声に歩は・・・
(・・・み、耳がく、くすぐってぇ・・・(惚))
と、腰の辺りがとけていた。
「どうかした?」
「い、いやなんでも・・・。と、とにかくこの穴埋めは必ずするから・・・。じゃあな!」
こうしてせっかくのデートの約束もおじゃんになってしまうこと
数回。
歩は昼間も夜も仕事があるし、かごめも夜は夜で保育所でできなかった
事務的な仕事は家に持ち帰っているし・・・。
「ふう・・・」
夜。テーブルの上で保育所だよりの原稿を書いているかごめ。
歩とは2週間近く会っていない。
メールは毎日ですが・・・。
(・・・やっぱり顔が見たい・・・)
電子の文字じゃ、分からない気持ち。
顔が見えない不安。
携帯を握り締めるかごめ・・・。
”会えない時間が愛をそだてるのさ”理論じゃないが
想いはつのる。
(羽があったら・・・なんて歌詞みたいなこと本気で思ったりして・・・)
「はぁ・・・」
同じ頃。
(会いてぇなぁ・・・)
グラスに浮かぶ顔は自分ではなく
かごめ・・・。
グラス全部かごめに見えてくる、恋する歩君です。
「歩。お前、顔が”恋する乙女”だぞ」
「・・・なっ・・・」
さっそく松本に酒のつまみにされかけてる恋する歩君。
「よ、余計なおせわっすよ・・・」
「クックック。からかいがいのある奴だな。ま、俺が女心のツボ
って奴を押しててやるよ」
「お、女心のツボ・・・?」
松本は缶ビールを片手に歩の肩にうでをまわす
かなーり酒臭いです。
「そ。まぁ、あれだ。女ってのは記念日に弱い」
「記念日・・・?」
「クリスマス、バレンタイン・・・。誕生日を忘れたら終わりだな」
(誕生日・・・?そーいや、かごめの誕生日って・・・)
携帯を取り出し、カレンダーを見る歩。
(明日じゃねぇか!!)
「ま、お前の彼女はブランドにこだわるような高ビー女じゃなさそうだが・・・。
でもそれなりの値段のものじゃねぇどな」
さらに財布の中身を確かめる歩。
(・・・)
夏目漱石、数人しかいらっしゃいません。
「・・・。あらまぁ歩ってば、財布、さむーい」
「ま、マツさん!」
「悪いが給料の前借はなーし!な、いっそのことお前、首にリボンでもつけて
”俺自身やるぜ・・・”とかいって迫っちまったらどーだい!色男!」
完全に酔いがまわった松本。歩の髪をぐしゃぐしゃにして
まとわりつく。
「んー。歩きゅーん、あいしてるぅー」
ブランデーの匂いがするキッスを強要される歩。
「マツさん、その酒癖あらためろーー!」
やっぱりいい酒のおつまみされる歩君でした。
(けど・・・プレゼント、どうしたもんかな・・・)
次の日のバイト帰り・・・。
ショッピングデーパートのブィッティ街を大きな男がのぞいている。
(女ばっかりだな・・・って当たり前か)
「あら。お客様」
「え?」
「何をお求めでございましょうか」
「え、あ、あのその・・・ぷ、プレゼントを・・・」
「それなら、いい色のショールがあるんですの!ささ、こちらへ!!」
実に接客に情熱的な女店員2人に連行される歩。
「あ、あの俺は・・・」
「最新作の色で、この春流行し・・・」
あれやこれやと薦められ、目まぐるしい歩・・・。
「ご予算はおいくらでしょうか?当方はローンもききますし・・・」
電卓を早々を打ち、値段を打ち出す。
「この辺りでいかがかと・・・」
(・・・(汗))
そのお値段は福沢諭吉が十数人・・・。
「・・・。お、俺、やっぱり遠慮する・・・っ」
「あ、お客様〜!!」
するっと女定員の腕をくぐって歩、逃走・・・。
「あー。残念だわ。もう少しだったのに・・・!でも、かなり
いい男だったわね・・・」
「ふぃー・・・」
ベンチに座り、寒い財布を覗き込む。
(覗いたところで・・・中身が増えるわけでもねぇしな・・・)
ぼんやり曇り空をながめる歩。
その前を、一組のカップルが通り過ぎていく。
「えー。嬉しい、今日、食事、連れてってくれるの?」
「ああ、だってお前の誕生日だからな。ちょっと奮発してホテルのレストラン
予約したんだ」
「ホテルって・・・きゃーv」
「バーか、照れてんだよ・・・」
なんともいちゃいちゃした会話が耳に入ってくる・・・。
(よくやるよ・・・。へっ・・・)
呆れるが、でも・・・。
あの二人の幸せそうな顔は・・・。
(悪くはねぇよな・・・)
会いたいときに会える幸せ。
会えないときに会えない寂しさ。
かごめと知り合って・・・色々なキモチを知った。
色んな自分を知った・・・。
”お前が大事なんだよ。だから・・・お前の嬉しい顔がみたい”
さっき男が言った台詞。
気障だけど・・・
(俺もおんなじ気持ちだ・・・)
空が晴れてきた。
あたたかい日差し・・・。
歩の頬に陽が当たる・・・。
(・・・なんか・・・かごめに触られてるみてぇだ)
寒さを和らげてくれる・・・。
元気が出てくる・・・。
(かごめ・・・)
かごめの嬉しい顔がみたい。
喜ぶ顔が見たい。
何でもしたいキモチ。
ヘンな照れや意地にかまっていられない!
「よし!かごめがびっくりすような、プレゼント、探してやるぜ!!」
歩は気合を入れなおしBARが始まる時間まで、ショッピングセンターや
ブティックをまわってみたが・・・。
(夏目漱石があと数十人分はいりそうだった・・・(汗))
財布の寒さが厳しい現実をつきつけて・・・。
とりあえず、桃色のマフラーを買ってはみたものの・・・。
”あんな安物彼女にプレゼントなんて信じられない”
などと店員の小声まで聞こえてきた。
(・・・)
「ふぅ・・・」
ため息をつきながらBARに向かう歩だった・・・。
夜。
BARで、ライブのため、ギターの手入れをしている歩。
「歩。で、彼女におくるモン、決まったのか?」
「え?あー・・・」
うかない歩に表情に松本は”駄目だこりゃ”とため息。。
「ったく。お前って奴は・・・。ギター弾くみてぇなテクで
女とも付き合えねぇのか。まったく本当にそっち方面はガキだな・・・」
「・・・」
「お前、今日、早くあがっていいぞ」
「え?」
「今からケーキぐらい買えるだろ。行って来い。こうなったら
とことん純愛道まっしぐらでいけや」
と、大人な男節でウィンク。
「マツさん・・・。ありがとうございます!」
歩はプレゼントが入ったチェックの紙袋をGジャンの内ポケットに入れ、
かごめのマンションに走った・・・。
「・・・。ったく。世話のかかる奴だ・・・。ヒック・・・」
時計は午後11時半をまわって・・・。
(よかった。まだ間に合う。かごめの誕生日に・・・)
かごめのマンションまであと10分ほどの公園の前まで来たとき。
「ウィックー。ほしがきれいだなー。おっ。きれーな
おにーちゃん!」
酔っ払ったサラリーマン風の男が歩にからんできた。
「なぁ。俺といっぱいやらないか〜」
「やらねぇよッ。離しやがれ!」
男は執拗に歩に絡む。
「なー。にいちゃんよー。いけずなこといなねぇでさー」
「うっせーな離せっての・・・あっ・・・」
男を振り払った拍子にプレゼントの袋がおち・・・
グシャリ。
マフラーにくっきり靴の足跡がついてしまった・・・。
「てめぇ!なにしやがる!!」
「あっらー・・・。ごれはすいませんまさお・・・。ぐへへ」
男のさむーいギャグに歩君、ぶちきれ・・・。
「こんの酔っ払い!!!ごみ袋抱いて寝てやがれ!!」
ボスッ!!
ごみ置き場のクッションに男を頬利投げ、
歩はかごめのマンションへ走った・・・。
「うにゃー。母ちゃんすまねぇ・・・」
男は水色のゴミ袋を本当に抱いてその場で夢の中だった・・・。
「・・・ハァハァ・・・」
かごめの部屋の前に息を切らせて座りこむ
歩・・・。
小窓の明かりは暗くもの静か・・・。
(・・・やっぱもう寝てるよな・・・)
歩は腕時計を見た。
(・・・ちっ・・・。12時過ぎてやがる・・・)
誕生日の内に渡したかった。
(おまけに酔っ払いに汚されちまうし・・・)
好きな女へプレゼント一つ、まともにできない・・・。
(・・・ガキなのかな・・・マツさんの言うとおり・・・)
松本のように、女を喜ばせる術も知らない。
女を夢中にさせる台詞もしらない。
・・・いえない。
(・・・。ただ・・・。アイツの喜ぶ顔がみたいと
思うだけで突っ走って・・・)
「・・・ハァ・・・。帰るか・・・」
重たい腰をあげたとき・・・
「歩・・・?」
「か、かごめ・・・?」
スーパー袋を手に持ったかごめ・・・。
半纏姿だ。
「ど、どうしたの?こんな時間に・・・」
「え・・・。あ、いやその・・・」
歩は思わず、ドアノブにかけた袋をを背中で隠す。
「あ、何か隠したのね。見せてよ」
「あ、ばっ・・・」
かごめは歩の背中のものをひょいっと取り上げる。
「なにこれ」
「・・・・・誕生日だろ・・・。
お前・・・」
「・・・えっ。お、覚えててくれたの?」
「・・・わ、わりぃか(照)」
鼻の頭をぽりっとかく歩。
「・・・これ・・・プレゼント・・・?あ、開けてもいい・・・?」
「・・・あぁ・・・」
カサ・・・。
中身はピンク色のマフラー。端の方が薄汚れてしまって・・・。
「すまねぇ。せっかく買ったのによごしちまって・・・。その・・・」
「・・・。ううん・・・。嬉しい・・・。誕生日、覚えててくれただけで・・・」
「・・・。誕生日・・・か。過ぎちまったな・・・。プレゼントってもんは
誕生日にわたさねぇとあんま、意味ねぇのに・・・」
「歩・・・」
「ごめんな・・・。なんか間が悪いことばっかしちまって・・・。休みもとれねぇし・・・。
どこにも連れてってやれねぇし・・・」
うつむきながら話す歩。
「そんな・・・。私、こうして来てくれただけで嬉しいよ・・・」
「・・・。世の中の男みてぇな洒落たことできねぇ・・・。ギターでなら
どんな気障な台詞も言えるのに・・」
「歩・・・」
「じゃあ。おやすみ」
歩がかごめに背を向けたとき。
「待って。まだ・・・誕生日、過ぎてないわ」
「え?」
かごめは自分の赤い腕時計を見せた。
「ほら・・・。まだ5分あるよ」
赤い時計の針は・・・。
確かに11時55分をさしている。
「だから・・・あたしのあと5分間の誕生日を・・・一緒にすごして。私、
それがほしい、一番欲しい・・・」
「かごめ・・・」
「こっちにすわって・・・。一緒にマフラーであったまろ!」
「え。ちょ、お、おいっ・・・」
歩の腕をひっぱって、二人、ドアの前に
足を伸ばして座る。
ピンクのマフラーを二人で巻いて・・・。
「あったかぁい・・・。ね!」
「お、おう・・・(照)」
マフラーのぬくもりより首筋辺りにかかるかごめの息のほうが・・・。
「歩・・・。あたしはね・・・。気障な台詞も、綺麗なプレゼントより・・・。
こうして隣にいてくれるだけでいいの・・・。それは歩にしかできない
ことなんだから・・・。」
「・・・。そ、そんなもんなのか・・・?」
「ふふ。そんなもんよ」
歩の腕に手を回し、歩に寄りかかるかごめ・・・。
「・・・。かごめ」
「なぁに?」
「・・・。誕生日・・・お・・・おめでとう・・・」
「・・・ありがと。歩・・・」
好きな人がいる、
一緒にいてくれる・・・。
それ以上の贈り物はない。
器用さや煌びやかな物もいらない。
不器用でも素直な気持ちを伝えられたら・・・。
それでいいのだから・・・。
最初、歩はもっとクールで物静かだけど野性的・・・
みたいな男になるはずだったのに、相手役の名前を『かごめ』
とつけてしまったのが仇になってしまった。
かごちゃんにぞっこんの歩はもやは自分の分身です(危)
微妙に犬キャラ無意識に入ってるし(汗)
でも、うちの歩は『昔の女』とかはいないし、
いたとしても本気のつき合いじゃない、
かごちゃん一筋です
かごちゃんのため、全てをかけて生きていく、歩
を今後ともよろしくお願いします(汗)