裸足の女神
ACT17 俺たちの恋
流行の恋なんてしらない。 本や雑誌に載っているデートスポット。 お金なんてかけなくても 自分達の恋の演出はできる。 時代遅れでも奇麗事でもオママゴトでも 何とでも言えばいい。 俺たちの恋は俺たちしか作れないんだから・・・。
小春日和の日曜日。 歩の部屋のカレンダーに赤いペンで花丸がついている。 「やっと・・・。やっとこの日が来たな」 花丸の下に『かごめと会える日』と書いてある。 ただでさえ会える時間がない二人。 ようやくできたデートの時間に歩は朝からにこやか〜だ。 「おう!かごめ!今日もいい朝だなー。あはははー」 一度助けて懐いてしまった雀。 電線にむかって話しかける歩。 「いい天気だ。実によい天気。ふうー・・・。な?お前もそうもうだろ?」 チュン(?) 首を傾げる雀の”かごめ” 「今日一日、なんつーか。その嫌われないようにしねぇとな。 女とつるむってのは毎晩カウンター越しに見てっけど”本気”の 女にになると・・・」 (・・・) 頬をめる歩君。 「お、俺ったら、本気の女って。う、わぁな何ってんだ。 俺ったらおれったらー・・・はっ」 ベランダ下の通行人。 一人照れ笑いする歩に大注目。 「あー!せ、洗濯モン洗ってたんだ(汗)」 ぴしゃっと慌てて窓を閉める。 「・・・いかんいかん。俺としたことが。思い切り”初デートの少女、日曜日”なんて シチュエーションをかましてしまった」 ・・・どんなシュチュエーションなのか(汗) 「おっと。そろそろ時間だ」 銀の腕時計。 歩は黒の革ジャンを羽織って荒々しく出て行く。 今まで感じたことのないウキウキした気分で。 「・・・。あ、ごめん遅くなってごめーん」 「別に。お前を待ってる時間も大切だからな」 噴水下で待ち合わせた若いカップル。 男が女のおでこをつん、と可愛く突っついて じゃれている・・・。 「・・・」 真横でいちゃつかれ、腕組みをしている歩。 (なにでれでれしてやがる・・・。最近の若いモンは!) と、ちょっと白い目で見ているが・・・。 白いフレアスカートをなびかせて走ってくるかごめ。 「歩!ごめん。待った?」 「い、いや。今来たところだ」 化粧をし、長い髪、毛先がカールしてお嬢様っぽい・・・。 歩ビジョンのにはピカピカ光って輝いてまるでおとぎばなしの シンデレラのように写って・・・。 「あ・・・。なんか・・・変?」 「い、いや、そ、そんなこと・・・よ、欲似合ってる・・・」 「よかった・・・。普段あんまり濃いお化粧ってしないから 慣れなくて。でもよかった」 ”かごめは化粧なんてしなくても綺麗だよ” そんな気障な台詞が浮かんだが 流石にいえない。 「どうしたの?」 「な、なんでもない・・・。これから・・・どこいく・・・?」 「・・・。歩が行きたい所が私の行きたい所・・・。じゃ駄目?」 (う・・・) 自分を見上げるかごめの目線で・・・。 かごめはすらっと歩の魂がとろけそうなことを言う。 歩君はきっと回りに誰もいなかったらかごめをだきしめそう・・・ 「・・・そ、そか(照)・・・。ん、んじゃ歩くか・・・」 「うん」 二人はゆっくり歩き出す・・・。 だけどのっぽな歩。当然、歩幅も大きい。 かごめは少し早歩き・・・。 頭二つ分・・・ 高いところから見える景色はどんなだろう・・・ 歩の横顔を・・・ 見つめる・・・。 「・・・?」 ピタリ・・・。 歩が止った。 「・・・?」 「つかまれ」 スッと腕をかごめに差し出す・・・。 「男が・・・女より先に歩く・・・。か、格好つかねぇしな(照)」 「・・・ありがと・・・」 かごめはぎゅっと身を寄せて細い腕をからめた。 体は大きいけれど・・・ 周囲の小さなことにも気を配る優しさがすき。 自分を支えてくれる 太い力強い腕がすき・・・。 公園の池の水辺を二人、ゆっくりと歩く・・・。 キラキラ光る水面・・・。 アイガモが水草をつついたり・・・。 アヒルの親子がなんとも気持ちよさそうに泳いでいたり・・・。 「空気おいしいね・・・」 「そうだな・・・」 色、音、匂い・・・。 全てが心地いい・・・。 小春日和・・・。 「・・・。風、結構あるね・・・」 掻き揚げられたカールした髪がふわっと靡く・・・。 木の葉が一枚ついて・・・。 「ついてっぞ」 歩は何気なく髪についた木の葉を歩は払う。 かごめはその歩の仕草に頬をぽっと染めた。 「・・・。なっ・・・なんで赤くなるんだよ」 「だって・・・」 体を少しよぎらせて歩に背を向けて照れるかごめ・・・。 (くっ・・・) あんまりそのよじり方が可愛いから歩君の理性がとけそうだ。 (・・・多分ここが外じゃなかったら押し倒してたかも) ちょっとえっちなことを 考えてしまった歩。 「ふふふ・・・」 (?) 中年のご婦人の笑い声がどこからか・・・。 歩とかごめが振り向くと・・・。 「あらまぁ・・・。ごめんなさい。デートのお邪魔をして」 車椅子に乗った白髪まじりのご婦人と、車椅子を押すご婦人の夫らしき初老の 男が一人。 「あなた方の会話があんまり初々しいのでなんだか私までドキドキして しまったの。ごめんなさいね」 「い、いえ・・・(照)」 照れくさくて同時に枯れ葉がおちた地面をうつむく二人。 「まぁ・・・!うふふ・・・。照れるのも息がぴったりね」 ご婦人は歩とかごめの仕草がとても可愛らしくみえて、笑みがとまらないという。 ご婦人の上品でおだやかな微笑みをきっかけに、歩達と老夫婦はべんちにすわり 色々と話し始めた。 老夫婦はこの公園の近くに住んでいるという。 妻の方は季節の代わり目のこの公園の風景が好きだという。 かごめと妻をベンチに置いて、歩と夫は飲み物を買いに自動販売機 まで向かう。 「・・・あなたたちを見ていたらね。若い頃を思い出したの・・・。主人と一緒に この小道をよく歩いたから・・・」 「そうなんですか・・・」 妻はひとつ、ため息をついた。 「あの、どうかされましたか・・・?」 「・・・。若いっていいって思って・・・。 最近は足を悪くしてからはあんまり出歩けなくなって・・・。足腰弱ってきているから車椅子押すのもつらいのに無理して・・・」 夫が無理していることを知っている妻。 自分の体も気にしてくれと妻が言っても無口な夫は”平気だ”の 一言でとりあわない。 「・・・。全部私のせいなのよね・・・」 「そ、そんな・・・」 哀しそうな表情をうかべる妻にかごめはどう励ましていいかわからず・・・。 一方歩も。 売店に前にある自動販売機でホットのお茶を4つ買った。 「・・・。君はいい体をしていていいな・・・」 「は?」 老夫婦の夫が歩の肩や腕をぎゅっと握った。 (な、何すんだよ) 「・・・。妻を散歩にろくに連れて行ってやれない・・・。若い頃に戻りたいものだ・・・」 「・・・」 歩と老夫婦の夫は飲み物を買うとベンチに戻り始める。 「・・・妻はこの小道からみる風景が好きでね・・・。でもワシの足腰が弱っているのを 妻もわかっているんだ・・・。かえって気を使わせて・・・」 「・・・」 「はは。すまないね。年寄りの独り言なんてつまらないことを・・・」 「・・・」 歩はだまって池の向こうのベンチをながめる老夫婦の夫の横顔を見ていた・・・。 「頼子(妻の名前)熱くないか?」 「ええ」 夫がお茶の缶を振って覚まして、妻に渡す。 その何気ない優しさにかごめはちょっぴり感動。 (素敵だな・・・) 「かごめ、コーヒーでよかったか?」 「うんありがと」 かごめにぶっきらぼうに手渡す歩。 「・・・なんだよ」 「ううん。なんでもなーい」 あわててこくこく飲むかごめ。 何のことやらと首を傾げる。 「頼子。休んだあと、もう一周してくるかい?」 「・・・いいわ。もう・・・」 「どうしてだい。まだ陽はあたたかいのに」 「いいったらいいのよ。帰りたいの」 「・・・ワシに気を使うな・・・」 「・・・」 ピチチチ・・・。 池は水面はきらきらしているのに休憩コーナーのベンチの周りの空気が重い・・・。 夫婦のすれ違いの場面にかごめは入っていくこともなかなかできず (・・・私達、離れたここからほうがいいのかしら) と思った。 「あれ?」 歩がとなりにいない。 「ちょ、ちょっと君・・・!何をする気だ!」 歩は老夫婦の妻をひょいっと背負った。 「・・・。ばあさん。行きてぇとこいいな。連れてってやる(照)」 「え・・・」 「・・・。天気のいい日はそう・・・ないからな」 「歩・・・」 必死に照れを隠そうとする歩の横顔。 かごめが一番好きな顔だ・・・ 「ほら。どうした。言えよ」 「じゃあ・・・ハナミズキの道まで・・・。お願いできるかしら」 「・・・おう」 歩は老夫婦の妻を背負いゆっくり歩き始めた・・・。 小さい老婆の体はこれが人間の重さかと思うほどに軽い。 「ばあさん、スピードはこんくらいでいいか?」 「ええ・・・。とってもいい乗り心地よ・・・」 「そうか」 キラキラ光る池のほとりを 藍染の着物を着たおばあさんを大男がおんぶして歩く。 歩の広い背中・・・。 若い頃、夫にこうして背負われた。 ハナミズキの清清しい香り・・・。 ”こうしてずっと・・・貴方を背負って生きて生きたい。この命が尽きるまで・・・” 若い頃。夫の言葉にときめいてときめいて・・・。 ”いやです・・・。私は背負われるなんて嫌。あなたの並んで歩きたい” 若いから言えたような甘い台詞。 ハナミズキの清清しい香りが・・・40年前に戻す。 優しい気持ちと一緒に・・・。 「・・・ありがとう・・・。あなた・・・」 老夫婦の妻は そのまま歩の広い背中で眠ってしまった・・・。 その様子を見守るかごめと老夫婦の夫。 「・・・昔の私達を見ているようだ」 「え?」 「いや・・・。君の恋人は・・・とてもいい男だ・・・。きっと君は幸せに なれるよ・・・」 「・・・はい」 老夫婦の夫の言葉がかごめは嬉しかった。 まるで自分が褒められたみたいで・・・。 かごめと歩は日が落ちるまで、老夫婦と公園を歩いた。 公園の風景をやきつけた・・・。 老夫婦の思い出を聞きながら・・・。 老夫婦と別れた頃にはすっかりあたりは暗くなっていた。 歩とかごめはかごめのマンションまで歩く。 坂道。 電灯がちかちか点滅している。 並んで歩く二人。 その横を腕を組んだいちゃいちゃしたカップルが通り過ぎる。 それは楽しい、ラブラブなデートだったに違いない、 そう想像させるほどに自分達の世界が漂っている。 歩は通り過ぎていったカップルを眺めながらぽつりとつぶやいた。 「かごめ。今日はなんかすまなかった」 「え?どうして歩が謝るの?」 「・・・だってよ・・・。せっかくのデートだってのに・・・。 女ってのはもっとムードのあるデートがすきなんだろ・・・」 さっき通り過ぎていったカップルのように 昼間見た、高校生カップルのように 甘いムードの漂う一日を女は望むのだろう。 「・・・あたしにとっては今日・・・貴重で大切な一日になったよ」 「え?」 「歩と一緒にいられるだけで幸せなの」 「・・・(照)」 「それに・・・」 ”君の恋人は・・・とてもいい男だな・・・。何があっても惚れた女を守り、支えぬく きっとそんな男だ・・・” 老夫婦の夫の言葉・・・。 「な、なんだよ。思い出し笑いして」 「ん?ちょっとね」 好きな人が褒められた。 嬉しくて。 歩に伝えたいけれど、なんとなく恥ずかしいから内緒にしておく。 かごめはくすくすっと一人で笑う。 「・・・変な奴」 首を傾げる歩。 「ねぇ歩」 「あぁ?」 「世間の恋人達じゃなくていい。私達は・・・私達でいこうよ・・・ね!」 かごめはすっと歩の腕につかまった。 「そうだな。俺達のスピードで・・・な」 二人は寄り添って歩く。 世間の流行のような情熱的な恋じゃなくても 自分達の恋をゆっくりと紡ぐように・・・。