裸足の女神
ACT18 ストーカー
「・・・?」
保育所の職員会議が長引き
暗い道をかごめは一人帰る
「・・・」
奇妙な気配を感じる・・・
(誰か・・・つけてる・・・?)
かごめはゴク・・・っと息を呑む。
コツコツ・・・
ヒタヒタ・・・。
かごめの足音に同調するように、もう一つ足音が響く・・・
(や・・・やだ・・・。ついてくる・・・!)
かごめは駆け足で走る。
ヒタヒタヒタ・・・!
追いかける足音も早まり・・・
「・・・おい・・・」
「きゃああああーーー!!」
かごめは思い切りハンドバックを振り回した。
ビタン!
バックは何かに命中したらしく・・・
「痛てて・・・」
街灯の下にいたのは・・・
「歩!?」
「お、オス・・・」
顔面にハンドバックの四角い跡がくっきりついている。
「もう・・・。脅かさないでよ・・・」
正体が歩だとわかってほっと胸をなでおろすかごめ。
「どうしてあとなんかつけたの・・・?」
「めっメールでお前が何だか最近変な奴につきまとわれてるって
言うから・・・///」
照れくさそうにジーンズの後ろポケットに両手を突っ込む歩。
「ふふふ・・・」
「わ・・・笑い事じゃねぇよ。さっきの驚きよう・・・。なんかまたあったのか?」
「・・・えぇ・・・」
憂鬱になるかごめ。
異変を感じ始めたのは1ヶ月ほどまえだ。
最初は無言電話から始まった。
”はいもしもし・・・”
かごめが出るが相手は何も言わない。
切りもしない。
更に・・・
”今日は遅い帰宅だね・・・。ちゃんと眠れてる・・・?”
限られた人しか知らないはずのかごめの
メールアドレス。送り主のアドレスはかごめは知らない・・・
「どこどいつだ!こんな姑息な真似しやがる奴は・・・」
かごめの携帯に向かって怒る歩。
「毎日来るの・・・。私がいつお風呂に入ったとか
今日はどんな服着てるかとか・・・。それにね。
あたしがいないとき部屋に・・・誰かにはいられてる感じがするの」
「なっ。何だと・・・!?」
「警察に言おうとも思ったんだけど・・・。なんとなく行きづらくて・・・。
ごめんね。昨日、メールしちゃって・・・。あ・・・あたしは
平気だから・・・」
歩ははっとした・・・
かごめの手は震えている・・・
笑顔で震えている・・・
歩はかごめをそっと抱きしめた・・・
「・・・。おまえが謝ることねぇ・・・俺こそすまねぇ・・・。何も気づいてやれなくて・・・」
「歩・・・」
「心配すんな・・・。俺がいる・・・。絶対守るから・・・」
「歩・・・」
歩のTシャツをぎゅっと掴むかごめ・・・
歩の鼓動に安心したのか手の震えは止る・・・
(・・・どこどいつか知らねぇが・・・。かごめを傷つける奴は
ぶちのめしてやる・・・!!)
決意をあらたに・・・
その日からかごめのボディーガードとなる歩・・・
「松さん、わりぃけど、しばらく、休みくれ」
BARに長期休暇を頼む歩。
歩からその理由を聞いた松本は
「惚れた女を守れない男は俺のギターにゃいらねぇ」
と、二つ返事で快諾。
朝と夜。かごめが保育所に出勤するときと
帰宅するとき、付き添うことにしたのだ。
「ねぇ・・・。清澄先生。ちょっと外見てよ」
職員室からかごめと同僚が外を伺う。
保育所の門の前で一人やたらでかい男、そう歩がたってかごめを待っていた。
「清澄先生の知り合い?さっき、
門の前で尋ねたら清澄先生の知り合いだって。怪しいわよねぇ。ストーカーかしら?」
「え・・・?い、いえ、あの・・・」
「でもぉ・・・美形のいい男・・・v彼だったらストーカーされてもいっかなv」
うっとりした目で歩を見つめる同僚にかごめはちょっと・・・
(・・・ムカッ)
「彼は私の恋人です!!」
「えっ・・・」
「それじゃ、お先に失礼します・・・!」
職員室のドアをピシャッと強く締め、かごめは出て行った・・・
「・・・。清澄先生って・・・意外と大胆なのね・・・」
門の前で携帯をいじくっている歩。
「歩・・・。お待たせ」
「もう終わったのか?」
「うん」
「そうか。なら帰るか・・・ってかごめ・・・?」
かごめはスッと歩と腕を組む。
「・・・嫌・・・?」
「い、嫌じゃねぇけど・・・」
やけに積極的なかごめに歩、ちょっとドキドキ・・・。
かごめは帰り際にチラッと職員室に視線を送った。
(やっぱりまだ・・・見てる)
かごめの同僚がかごめ達の様子を伺っていた
かごめはこれ見よがしに、歩にぐっと身を寄せる・・・
(な・・・。一体どうしたってんだ・・・(喜))
二人の熱烈ぶりな光景にかごめの同僚がポツリ呟く・・・
「あー・・・。あたしも男、欲しいーー!!」
一方。かごめたちは。何事もなく無事、マンションまで
かごめを送り届けた歩・・・
「ありがとう。歩・・・。でも本当にいいの・・・?
毎朝と夕方ボディーガードって・・・」
「ああ。俺だってその・・・なんだ。仕事にならねぇんだよ」
「え?」
「・・・。お・・・お前のことが・・・しっ。心配で・・・」
鼻の頭をぽりぽりかきながら話す歩・・・
「・・・。嬉しいな・・・。あたし・・・。こんな素敵な彼を持って
幸せ・・・」
「かごめ・・・」
玄関の前で見詰め合う二人・・・
いい雰囲気が流れるが・・・
「・・・あの。すいません。いちゃつくなら部屋はいってからにしてくれませんかね?
勉強の邪魔です」
かごめの隣の部屋の受験生の青年が小窓から顔を出して言った。
「あ・・・。ご、ごめんなさいっ。あ、歩、な、中にどうぞっ」
かごめはぺこり、受験生に頭を下げて歩を中に入れた。
「何だよ。あのがり勉野郎は」
「受験生なのよ。半年ほど前に引っ越してきたんだけど・・・」
「けっ。インテリはすかねぇ」
「でも時々おみかんとかくれるいい人なのよ・・・」
ガシャン!!
「かごめ!??」
台所から物音に歩は駆けつけると・・・
床にぺたりと座り込むかごめが・・・。
「どうしたんだ!??」
「・・・。冷蔵庫あけたらこれが・・・」
『野菜が少なかったから買っておいてあげたよ。それから
賞味期限きれてたものは捨てておいたからね・・・』
見覚えのない野菜類の上に
一枚メモが置いてある・・・
さらにベランダに干してあったはずの
洗濯物が綺麗に畳まれている・・・
「・・・や・・・やっぱり誰かこの部屋に入ったんだわ・・・」
「かごめ・・・しっかりしろ・・・!」
歩はショックで座り込むかごめをそっとたたせた。
「合鍵は管理人さんしかもっていないはず・・・。管理人さんは
優しいおばあさんよ。こんなことするはずない・・・」
「・・・」
「・・・もしかしたらどこかに盗聴器とか隠されていたり・・・」
疑心暗鬼になったかごめは
台所の食器棚やガス台の下やあちこちを混乱して家捜しし始める。
「かごめ落ち着け・・・。かごめ」
「だって・・・。この間テレビで一人暮らしの女の人の部屋に
盗聴器が・・・って・・・だからだから・・・」
「かごめ・・・!!」
歩の声にはっと我に帰るかごめ・・・
「・・・。歩・・・」
「・・・。落ち着け・・・。俺がいる・・・。絶対
お前を守る・・・」
「歩・・・っ。ごめんね・・・」
「お前が悪い訳じぇねぇ・・・。どこどのどいつか
しらねぇが。絶対にかごめに指一本触れさせねぇ・・・」
震えるかごめを再びだきしめる歩・・・
(畜生・・・。洒落にならなくなってきやがったぜ・・・)
姿見えぬ影に
かごめも歩もリアルすぎる恐怖を確かに感じたおだった・・・
次の日。
すぐに管理人に頼んでかごめは新しい鍵につけかえた。
さらに念のため、警察にも連絡はいれたが・・・
事情を聞き、時々かごめのマンションの周りをパトロールしてくれる
と約束はしたが・・・
「・・・。警察ってのは・・・どうも信用できねぇ」
「そんなことなかったわよ。警察の人、とってもよく
話聞いてくれたし・・・。警察きらいなのね」
「・・・」
傍若無人な十代の頃は”なにか”と関わったのでちょっと苦手な歩君です。
「警察なんてあてにならねぇ。案外犯人は近くにいるかもしれねぇ」
「誰かを疑ったりしたくないわ。あたしは大丈夫よ。だって・・・。私には
歩がいてくれる・・・」
コーヒーを飲む歩の背中をそっと包むかごめ・・・
「///。お・・・お前なんか・・・」
「なあに?」
「いや・・・」
(なんか・・・積極的だよな・・・)
自分を守ってくれる広い背中・・・
熱い想いがこみ上げてくる
しばらく二人は・・・
そのまま目を閉じて互いのぬくもりを感じあっていた・・・
「・・・歩・・・?」
「スゥー・・・」
いつのまにか歩のめは閉じられて・・・
「歩・・・。ありがとう・・・」
かごめはそっと歩に自分のカーディガンを着せた。
コンコン。
「はーい」
かごめがドアを開けるととなりの受験生だった。
「あの・・・。宅配便預かってるんですけど・・・」
「え?そ、それはすみません」
かごめはエプロンを玄関の靴だなに置き、かごめは宅配便を取りに
受験生の部屋に・・・
だが、受験生の部屋のげんかんには
それらしいダンボールや包みはない・・・
「あの・・・。宅配便は・・・?」
「・・・」
ガチャリ。
「!?」
受験生は何故か突然鍵をかける・・・
「やっと・・・。二人きりになれたね。僕の君・・・」
「!?」
受験生はポケットから・・・
カッターナイフの刃を光らせる・・・
「・・・貴方だったの・・・!?今までのこと全部・・・」
「そうさ・・・。俺はここに越してきたときから君に首っ丈・・・。
なのに・・・。君は他に男を・・・。俺にストーカーさせたのも君さ」
「や・・・」
かごめの首元にカッターを切りつける・・・
「大きな声を出しても無駄だよ・・・。君の男は俺が仕込んだ
くすりでぐっすりさ・・・」
「!?」
「コーヒーの粉に入れておいたのさ・・・。君の部屋にはこの鍵で
出入りできるからね・・・」
つくりかえたはずの鍵。どうして・・・
「管理人の家に上がりこんだとき作ったのさ。ふふ・・・」
かごめは両手をつかまれそのまま部屋に引き釣り困れた・・・
「・・・。てあらなことはしたくないけど・・・。僕の君になるまで
我慢してね・・・」
「ぐ・・・」
手足を縛られ、かごめは受験生のベットに寝かされた・・・
受験生の部屋・・・
かごめはぎょっとした。
部屋中・・・隠し撮りしたと思われるかごめの写真が貼りつくされていた・・・
「もう・・・写真だけじゃ我慢できなくなったんだ・・・。君があの男のモノに
なる前に僕と・・・」
「ぺッ!!」
かごめは思い切り受験生につばをはいた。
「あんたに触られるくらいなら舌かんで死ぬわッ!!!!!」
「・・・フフ・・・。舌を噛むより絡めようよ・・・ボクト・・・」
ブチッ。
カッターナイフでかごめのブラウスのボタンを引きちぎる・・・
「やっぱり生の白い肌はいいな・・・。僕だけのものだ・・・」
(や・・・歩・・・っ助けて・・・っ)
ガシャンーーーーっ!!!
「かごめーーーーっ!!!!」
ベランダの窓を蹴破って歩が突入してきた・・・!
歩の目にかごめのはだけた胸元が目に入る・・・
「テンメェ・・・」
「か・・・っ彼女は渡さないぞッ!!彼女は僕の女神だっ。
全部僕のモノになるんだっ!!!」
「・・・かごめは俺の女だ・・・。腐った手で触るんじゃねぇ・・・」
パリ・・・
割れたガラスの破片を素足で踏み潰し、受験生に近づく・・・
歩はすごい形相で
受験生を見下ろす・・・
「く・・・来るなったら・・・っ。彼女を傷つけてもいいのか!??」
「・・・その前にてめぇの腕へし折ってやる・・・」
「く・・・来るなっ」
「やかましい・・・」
歩の形相に慄く受験生・・・
「く・・・クルなぁッ!!」
ヒュッ!!
受験生はカッターをぶんぶんと振り回した。
歩の頬に少しかすったが、歩はぐっと受験生の腕を掴み
背中でひねった。
「うがぁああッ!!!!」
「こんなモンじゃぁハエ一匹とまらねぇぞ・・・。てめぇ・・・」
「ご・・・ごめんなさい・・・、ぼ、僕が悪かった・・・っ。受験失敗して・・・
イライラしてたんだ・・・」
「てめぇのはけ口でかごめを散々苦しめやがって・・・。俺はゆるさねぇぞ・・・」
「ガァアアアッ」
歩はボキっとすごい音が鳴る・・・
「二度と勉強できねぇ腕にしてやろうか・・・。てめぇ・・・」
「やめてくれ・・・っ。た・・・頼むっ」
「歩。やめて・・・っ」
「かごめは黙ってろ!今コイツにわからせねぇとまたかごめに何するか・・・」
「でも暴力は駄目・・・っ。お願い・・・。やめて・・・」
かごめの言葉に歩の手はすっと緩められた・・・
「・・・。てめぇ・・・。かごめがいなかったら俺はてめぇを
活かしちゃおかなかった・・・。いいか・・・俺らの前に二度とその面見せるんじゃねぇ・・・」
「・・・」
受験生は歩の迫力に相当参ったのか何度もうなずいた・・・
「かごめ・・・!!」
歩は受験生の手足を柱にしばりつけ、かごめの縄も解いた。
「歩・・・っ!!」
手足を解かれたとたん、歩に抱きつくかごめ。
「かごめ・・・。すまねぇ・・・。側にいたのにこんなめにあわせて・・・」
「ううん・・・。いいの・・・。信じてた・・・」
「かごめ・・・」
歩はかごめを抱きしめながら
自分の不甲斐なさを噛み締めただった・・・
かごめのマンションの前に2台のパトカーが止まっている。
受験生が警官に抱えられ、パトカーに乗る。
歩のドスが効きすぎたのか
ほとんど怯えており・・・
「また明日、事情を伺いに来ますが・・・。大丈夫ですか?」
「はい。もう大丈夫です。彼がいてくれますから」
警官は歩をチラッと見た。
歩は何故か顔を俯ける。
「・・・。そうですね。”彼”がいればきっとだいじょうぶでしょう。
では失礼します・・・」
片方の年配の警官は歩にウィンクして部屋を出た・・・
「・・・?」
「・・・」
警官と歩のやりとりに首を傾げるかごめ・・・
その理由はその後わかることに・・・
「歩・・・。頬・・・!!」
頬の傷に今やっときずく歩。
「こんなもん舐めときゃ治る」
「そんなことあるわけないでしょ・・・!」
かごめは慌てて救急箱を持ってきて脱脂綿に消毒液をしみこませ
傷口につける・・・
ぺたっと絆創膏を貼る。
「・・・ごめんね・・・。私のせいで・・・」
「・・・。かごめ・・・」
「私・・・。歩に甘えてばっかり・・・。甘えていいんだって
どこかで図に乗ってたの・・・。ごめんね・・・」
かごめは一粒涙をこぼした。
「・・・。甘えてかまわねぇだろ・・・。オレは・・・そういう存在でいたい・・・。
・・・ってな(照)」
ぽんぽん照れくさい言葉が出てくる。
だけど。
素直になれるときはとことんすなおにならなくちゃ・・・
「・・・かごめ。お前・・・。・・・引っ越せよ」
「でも・・・。そんな急に手ごろなお部屋見つかるかどうか・・・」
「そんなモン、見つけなくていい・・・」
「え・・・?」
歩はかごめの腕をぐいっとひっぱっり一言
告げる・・・
「・・・。一緒に・・・暮らそう・・・」
(・・・!)
「・・・。もう気が気じゃねぇ・・・。お前が・・・
他の野郎にもっていかれそうで・・・」
かごめを抱きしめる歩の手が強まる・・・
甘い台詞が信じられないほど口から飛び出す
信じられないけれど・・・
「・・・嫌・・・。か?」
「・・・。嫌なわけないでしょ・・・。歩っとずっと一緒にいられるんだもん・・・」
本当は
心のどこかで歩のその言葉を待っていた。
守られるより
一緒にいて・・・
歩のことをもっと好きになりたい・・・
知りたい・・・
「・・・オレんとこに・・・来い・・・」
「・・・はい・・・」
ふわっとしたかごめの前髪を
歩はあげる
少し広い額に・・・口付ける
それから・・・
いつも見つめていた桃色の唇
その柔らかそうな感触をいつも想像していた・・・
目を閉じて・・・
やっと触れる
触れられる唇と唇・・・
「ンッ・・・」
好きな人とするキスがこんなに・・・
幸せだと思わなかった・・・
そして
一緒にいることも・・・
歩とかごめの恋がひとつ・・・前に進んだ・・・