裸足の女神
ACT19  ただいま おかえり・・・
”一緒に暮らそう・・・” かごめが歩の部屋に越してきて一週間がたった・・・ 「ん・・・」 味噌汁のいい香りがする・・・ 味噌汁の香りにつられて寝癖がついたままリビングに行くと・・・ 「あ・・・。おはよ。歩」 「・・・」 ピンクのチェックのエプロン 後ろで束ねた毛先がふわっとなびかせて・・・ 自分に微笑むかごめが・・・ 「どうしたの?座って。ご飯冷めちゃうよ」 「えっ・・・。あ、あぁ・・・」 パジャマのまま座る歩に 茶碗に白いご飯をしゃもじでよそってくれる・・・ ほかほかのご飯が 茶碗越しにあったかい・・・ 「・・・。どうしたの・・・。ご飯とにらめっこして・・・」 「・・・いや・・・。朝飯って・・・なんかいいなって・・・」 「え・・・?」 朝起きて 一人で食べる朝食。そして夕食。 誰もいない部屋で食べる テレビの音がかえって寂しさを倍増させる・・・ そんな一人暮らしだった・・・ 「・・・。歩」 「誰かに作ってもらうメシって・・・。本当にうまい・・・。 なんつーか旨くいえねぇけど・・・。心底ほっとして・・・」 優しい眼差しでかごめが作った朝食を見つめる歩に かごめの心にもぬくもりが灯る・・・ 「・・・。お前が来てくれてホントにオレ・・・。嬉しい・・・。嬉しい・・・」 「歩・・・」 「ありがとな・・・」 「や・・・。やだな。もう。歩ってば・・・」 じわっとかごめの目に涙が溢れてエプロンで拭う。 互いが大切 ささいなことに喜びを感じえられることが とても嬉しい。 「・・・。あたしも・・・歩と一緒にいられて嬉しい・・・。一緒に ご飯食べたりテレビ見たり・・・そんな時間がとても今、愛しい・・・」 「・・・かごめ・・・」 溢れそうな気持ちが 抑えられなくて 歩の右手はかごめの頬に添えられた・・・ 「・・・。飯の前に・・・。味見」 「なっ。は、恥ずかしい言い方しないでよ」 「恥ずかしくなんてねぇよ・・・」 ピー・・・ 歩とかごめの唇が重なるのを遮るように お湯が沸く だが互いを想う気持ちが唇を離さない・・・ 若い二人の そんな朝だった・・・ 「・・・歩。お前最近、顔が緩みっぱなしだぞ」 「えー?」 車のウィンドウ。 ホースで水をかけていた歩だがホースから出る水がハートマークになっている。 「緩んでねぇよ。ふふ・・・」 「・・・。だめだ。コイツ完璧に骨抜きだ・・・」 朝のかごめとのキスを思い浮かべると もう幸せな気持ちで世の中が違う色に見える。 「・・・で。よっぽど”よかった”のか?」 「何がだよ〜♪」←1オクターブあがってる 「体の相性」 ブシュッ!!! 同僚の耳打ちにホースを握っていた手に力が入って水が大噴射 「・・・。き、き、貴様ッ。人の耳元でなに言いやがるッ(真っ赤)」 「だっててめぇがあんまりのろけてるからよー。”あっち”の方がよっぽど 相性いいのかって思ってよ」 「あ・・・。あっちもこっちもねぇッ。お、オレは仕事するぜッ」 歩は赤面する顔を帽子で隠して車をきゅっきゅと磨く・・・ (・・・。な、何が相性だ・・・っ。お、オレとかごめ はそ、そんな淫らな恋愛はしねぇんだッ) と思いつつ歩の思考は 朝、感じたかごめの唇の柔らかさをふっと浮かべていた・・・ そしてガソリンスタンドの仕事が終わり、一度マンションに帰る 今日はバーの方は休みでガソスタのシフトは夕方までだった。 (今日はかごめと一緒に晩飯が食えるぞ) ウキウキして帰ると・・・ (ん?鍵がかかってる・・・。かごめの奴帰ってねぇのか?) ガチャ・・・ 鍵を開けてドアを開ける・・・ ギィ・・・ (真っ暗だ・・・) 朝。 かごめの笑顔があったはずの玄関・・・ 「・・・ただい・・・ま」 ”おかえり・・・!” 愛しい声が帰って来るはずなのに・・・ 「ただいま・・・!」 返ってこない・・・ なんともいえない寂しさがこみ上げてくる・・・ (あ・・・) ポケットの携帯のバイブが震えた。 みるとかごめからのメールが・・・ 『歩。ごめん。今日、お泊り保育だってこと忘れてた・・・。帰りは遅くなるから 先にご飯食べていて。ごめんね』 「・・・。そうか。かごめの仕事も大変だ・・・」 かごめからのメールでほっと安心した歩。 「飯のしたくでもすっか・・・」 冷蔵庫を開ける。 昨日の残り物がちゃんとラップされてあり、それをレンジで暖める歩。 (なんか・・・。虚しいな・・・) 二つある茶碗を一つしか使わない・・・ 「・・・」 一人で食べる食事はこんなにまずかっただろうか かごめがいたら 今日あった出来事を沢山話してくれる。 かごめがいたら 笑顔が絶えなくて・・・ 箸を置く歩。 (かごめがここに来て一週間・・・。一晩いねぇだけでこんな具合じゃ・・・) 歩は隣の部屋のかごめのベットにごろんっと 寝転がる。 身長185もある歩の足が少し飛び出て。 「・・・あったけぇー・・・」 かごめのシーツにくるまる歩・・・ シーツからはかごめのぬくもりがするのに・・・ ”歩・・・” 自分を呼ぶあの声がしない 笑顔が ない・・・ (・・・かもしれない・・・。オレは・・) 8畳の部屋が 監獄のよう かごめがいないから・・・ ”骨抜きになってんじゃねぇのか” (ああ・・・。そうさ。オレは・・・もう一人じゃいられない・・・) ”二人で時を刻む喜びを知ってしまったから・・・” 『おかえり。歩・・・!』 帰って来たとき、自分を迎えてくれる 人がいる幸せ・・・ 幼い頃 いつも一人だった・・・ (・・・かごめが帰って来たら今度はオレが・・・。言うんだ・・・) 『おかえり、かごめ・・・』 と・・・ 「・・・ゆむ。歩・・・」 (・・・この声は・・・) カーテンから薄日が差す。 目を開けると 待ち焦がれた笑顔がそこに・・・ 「・・・かごめ・・・」 「歩・・・。どうしたの・・・?疲れてるの・・・?」 心配そうに自分を覗き込むかごめの瞳がいじらしい・・・ 「かごめ・・・」 歩は起き上がりそっとかごめの手を掴んで 抱きしめた・・・ 「・・・あ、歩・・・」 「おかえり・・・。かごめ・・・」 そっとかごめの髪を撫でながら・・・ 歩は耳元で告げた・・・ 優しい声の歩の”おかえり”・・・ かごめの心に柔らかく沁み込む・・・ 「うん・・・ただいま・・・」 歩の想いをめいっぱい感じ 歩の首に手を回して胸に顔を寄せる・・・ 言葉はいらない。 好きな人が 大好きな人が帰って来た それだけで・・・ 「・・・。やべ・・・」 「え・・・?」 「・・・。その・・・。背景が悪い・・・」 二人が座っているのは・・・ ベット・・・ 「///」 カァッとかごめの頬がそまる。 「・・・。歩・・・。私・・・。ずっと待ってたんだから・・・」 「え・・・?」 「一週間・・・待って・・・たんだから・・・」 (・・・待ってたって・・・) ぎゅっと歩の首につかまるかごめ・・・ 歩の体がカァっと熱くなる。 「・・・。は・・・。歯止めきかなくなるぞ・・・」 「・・・。うん・・・」 「・・・かごめ・・・」 かごめを抱きしめる歩の手が震えてきた・・・ 「・・・。オレ・・・。もう、お前なしじゃ生きられねぇ・・・。かごめ・・・」 「うん・・・」 その澄んだ瞳を 今だけ・・・ オレを オレだけを映して・・・ 「・・・好きだ・・・」 二人の影が倒れ 一つになる・・・ ”ずっと一緒にいよう・・・” お互いの肌を合わせながら 何度も囁き会う・・・ 一人じゃないことを何度も確認しあうように 愛し合った・・・