裸足の女神
〜天使の歌〜
エピソードT 小さな音楽隊 こちら稲葉家。 新婚家庭まっさかり。 「うおーー!さくらに歯が生えてきてるーーッ」 愛娘・さくらの口の中の変化に歓喜の叫びを上げる歩。 「あ、ほんとだー!」 フリルのエプロンすがたのかごめもさくらの乳歯に大喜び。 「今日はさくらの乳歯第一本生えてきたよ、お祝いだ〜!!」 完全に親ばか街道をひた走る新米パパ歩。 この日、さくらのためにさくらが大好きなキティのぬいぐるみを 何個も買ってきた。 「んもー。パパったら甘やかしすぎよね。さくら」 おむつを替えてもらってさくらも嬉しそう。 「歩。さくらの新しい紙おむつ、取・・・」 「ZZZZ・・・」 さくらのベビーベットの横でキティのぬいぐるみを抱えたまま 眠る歩・・・。 「・・・ふふ。パパの方が先に寝ちゃった」 かごめはそっと毛布をかける・・・。 そしてさくらもおねむのようで・・・。 「・・・やっぱりさくらはパパ似みたい」 口を半開きにして眠る顔がそっくり・・・。 幸せを感じる瞬間。 歩はさくらを心の底から愛してくれて 家族のために頑張ってくれている・・・ だが一方でかごめは最近気になることがある。 (・・・) 押入れの中にしまいこまれた歩愛用のギター。 結婚してからめっきり・・・触れることがなくなった・・・。 (あんなに歌が好きだった歩が・・・) ガソリンスタンドの店長を任されて仕事が忙しいということも あるが・・・。 (・・・歩自身の夢・・・どうなったのかな・・・。 私とさくらのために諦めちゃったとか・・・) 少し不安になるときがある。 (歩・・・。私、幸せだけど・・・。貴方はどう・・・?) さらっと歩の前髪に触れるかごめ。 「んー・・・。かごめ、さくら愛してるよー・・・」 寝言で晃はかごめに応える・・・。 「・・・私もよ」 CHU! 歩とさくらのおでこにキス・・・。 大切な家族の寝顔を見つめ続けるかごめだった・・・。 とある休日。 歩宅に歩の友人が久しぶりに訪ねてきた。 「うわー。新婚って感じだな〜」 「ふははー。うらやましいか。俺の幸せが」 さくらを抱いてミルクを飲ませる歩。 かごめは台所で夕食を作り中。 たずねてきたのは歩の親友・河野。バンド仲間でもあった。 「だけど河野お前だって幸せ絶頂期じゃねぇか。 念願のメジャーデビュー決まってさ」 「ああ。それで今日は話があってきたんだ・・・」 「話・・・?」 河野は真剣な顔で話はじめる。 「歩・・・。お前も一緒にやってみないか?ボーカルとして」 「え??」 突然の申し込みに歩は驚く・・・。 「ボーカルがまだ見つからなくてな・・・。俺は お前の声ならメジャーでもやっていけると思ってるんだ」 「・・・。悪いけど受けられねぇな」 「どうしてだ!?メジャーで歌歌うのがお前の夢だったはずだろ!?」 「歌よりも・・・大事な”夢”ができちまったから・・・」 歩は優しい瞳で腕の中のさくらを見つめた・・・。 「俺の分もお前が頑張ってくれ・・・。応援するから。な!」 「・・・歩・・・」 歩たちの会話を・・・。 かごめが複雑な顔で聞いていたのだった・・・。 河野が帰ってから・・・。 どことなくかごめの元気がないことに歩は気づいた。 「かごめ・・・。どうかしたのか・・・?」 「・・・別に・・・」 「・・・疲れたならごめん・・・。河野の奴、突然来るから・・・」 「違うのッ。そうじゃなくて・・・」 かごめは起き上がり俯いた。 「どうしたんだ・・・。ちゃんと話してくれ・・・」 「・・・」 かごめの背中が固く丸まってシリアスだ。 歩は切羽詰ったものがあるんだなと感じた。 「歩は・・・。幸せ?」 「え?」 「・・・夢だった音楽・・・諦めちゃって・・・幸せ・・・?」 「かごめ・・・」 河野と自分の会話を気にしていた・・・。 歩はやっと悟った。 「歩の仲間の人が成功して・・・。歩は焦ったり・・・ してないのかなって・・・。歩の夢つぶしたのは私なのかなって・・・」 「かごめ・・・。そんなわけないだろ・・・」 歩は不安そうに話すかごめをそっと抱きしめた。 「かごめ。ごめんな・・・。余計な心配させて・・・」 「いいの。でも歩・・・。私・・・。歩に音楽続けて居欲しい・・・。 生活のことなら気にしなくても私も働くし・・・」 「・・・かごめ。オレ、音楽諦めたわけじゃねぇぜ?」 「え?」 にこっと歩は笑って机の引き出しから楽譜を取り出してきた。 こっそり実は曲つくってた・・・。お前のパートもあるだぜ?」 「ピアノパート・・・ってこれ・・・」 「・・・オレの新たな夢・・・。家族楽団作りたい」 「家族で・・・?」 「ああ!俺の夢は音楽で世間に認められたいわけじゃない・・・。 沢山の人と音楽を通じて出会いたいんだ。そして一緒に歌いたい・・・。 なんて、な。気障かな」 照れくさそうに笑う歩・・・。 「・・・本当にいいの?それでいいの・・・?」 「勿論だ。っていうかかごめと一緒に夢をかなえたいんだよ。 協力・・・してくれるか?」 「・・・うん!」 楽譜をぎゅっと握りしめた。 「・・・かごめ・・・」 腕の中のかごめが愛しくて 歩は口付けを・・・。 〜♪♪ 「!!」 口付けをしようと思ったら突然、おもちゃのピアノの音が 鳴った。 「あぶぶあぁあ〜♪」 見るとさくらがおもちゃのピアノの鍵盤を叩いている。 「・・・ふふ。さくらもどうやらやる気まんまんらしいぞ」 「そうみたいね。うふふ・・・」 楽しそうに鍵盤を叩くさくら・・・。 家族3人 一緒にいつか歌えたら・・・。 こうして・・・ 歩一家の新たな夢が始まった。 新しい夢が・・・。
・・・お久しぶりの歩一家です(笑)家族ものってすごく好きなですね。 余裕があればエピソードUをまた書いて見たいと思います。 そのときはまたヨロシクです。