裸足の女神
ACT20 恋に溺れてもいいだろう
チュンチュン・・・。 「ん・・・」 長い髪が歩の鼻をこする (いい匂い・・・) 目を開ける・・・ 「おはよ・・・」 (・・・!!) ふわふわの髪が自分の胸元にながれ・・・ 裸身のかごめが隣に・・・ (そうか・・・。おれたち・・・) 昨夜の甘い甘い夢。 生身の男と女になって・・・愛し合った。 「かごめ・・・」 「歩・・・」 昨夜の余韻が蘇る 互いの荒い息遣いと愛しい喘ぐ声と・・・ 「・・・な・・・。なんか照れくさくてどんなかおしていいのかわからねぇな・・・」 「あたしも・・・」 かごめは歩の心臓の音を聞くように頬をあてる・・・ 満ち足りた気持ち 幸せな朝・・・ 「・・・。あ・・・。もう時間かな・・・。朝ごはんの支度しなくちゃ」 かごめがもそっとシーツをめくってベットを出ようとしたが 「きゃ・・・」 歩がベットに引き戻し、かごめを下にして 見下ろす・・・ 「・・・。お腹・・・すいちゃうよ・・・?」 「・・・もう満腹だよ・・・。かごめでな」 おでこにちゅっとキスをする 「だからもう少し・・・。このままでいよう・・・」 「・・・うん・・・」 歩はかごめの顔のラインを手の甲でそっと撫でる・・・ 自分でも驚くほどに 甘い言葉が出てくる・・・ かごめの肌のぬくもり 感触・・・ がそうさせるのか・・・ 「・・・。今まで生きてきて・・・。一番幸せな朝だ・・・」 「・・・歩・・・」 かごめは目を閉じる・・・ 「・・・好きだ・・・。ん・・・っ」 再び深い口付けをして 二人は・・・ シーツがゴソっとベットから落ちる・・・ 二人は 再び激しく愛し合った・・・ そして午後。 歩はガソリンスタンドのバイトだった。 「・・・おい。稲葉の奴・・・なんかひとり天国じゃねぇか?」 車体にワックスを塗り、拭く歩。 その顔はゴムがぬけたズボンのようにゆるみっぱなし・・・ ”私・・・。嬉しい。世界で一番好きな人に・・・全部 受け止めてもらえて・・・” かごめが囁いた言葉・・・ (・・・”初めて”かぁ・・・。そうかぁ・・・。 オレが『初めて』なのかぁ・・・。オレだけがかごめの・・・) 「ムフッ」 思わず噴出してしまう歩・・・ (かごめ・・・) きゅっきゅきゅ。 かごめの微笑を浮かべながら磨いているのは 車体ではなく・・・ 「はっ。店長!!」 店長のいかつい顔はワックスでぴっかぴか。 「稲葉お前・・・。今月の給料半分カットだーーー」 「そ、そんな・・・(涙)」 「全く・・・そのにやけ顔もなんとかしないと更にカットだぞ!!」 店長のきびしーお言葉ですが。 (かごめ・・・) ほわーん・・・歩の顔は一人お花畑。 「・・・(怒)」 「稲葉、今月給料なしだーーー!!」 ガソリンスタンドに店長の怒涛が響いた・・・ 一方かごめも・・・ ”この印はかごめがオレのものってしるしだ・・・” 首筋の痕をそっと襟を正して隠すかごめ。 (歩・・・ったらあっちこっちにつけるんだもの・・・(照) 着替えするとき大変だわ) ”かごめ・・・かごめ・・・” 「・・・」 吐息を吐くように 耳元で囁かれながら 力強い腕に 抱かれた・・・ 『この世でかごめを抱いていいのは俺だけだ』 「やんッ!そ、そんなこと囁かないで・・・(真っ赤)」 シーン・・・ 積み木であそんでいた子供達がかごめ注目・・・ (・・・や・・・やだ。あたしったら・・・!!職場でなにを・・・!) 「あ、あはは。みんな、さ、ほら、積み木してあそぼッ」 慌てて積み木で家をつくるかごめ・・・ 「かごめせんせぇ、お顔まっかかだぁ〜」 子供達に笑われたかごめ・・・ 歩もかごめも 結ばれた喜びが体中を駆け巡った一日だった・・・ 「・・・歩。お前・・・。幸せオーラ出っ放しだぞ」 「え〜♪そうっすかぁ♪」 声が一オクターブあがっている。 ギターの手入れをしながらも歩の顔はにやけっぱなし。 「・・・相当、彼女にお前は骨抜き、みてぇだな。あっはっは」 「///」 煙草の煙をぷはーとはきながら松本はドラムの調律をする。 「・・・。見た目は”ヤクザも恐れるクール・ガイ”ってなモンなのに 中身は純情一直線。いいねぇ。若いってのはー・・・で。ちゃんと”あっち” の方は計画的にやってんのか」 「あっち?と申しますと?」 松本はぼそっと耳打ち。 「”明るい家族計画”」 バキッ 歩、思わずビックを折る。 「な・・・。な、な、何イッテンスカ!いってんすか!!(大混乱)」 「大事な問題だぞ。若い頃は体もDNAも元気だからなぁ。つい、 欲情に流されちまってついてでに自分の分身も流しちまう。 恋愛を謳歌するときはちゃぁあんと男の方で”出来ちゃわないように”しねぇと!」 (欲情・・・DNA・・・出来ちゃった結婚・・・)←巡るめく妄想。 「・・・って何想像して発情してやがる・・・」 歩、ちょびっと鼻から流血・・・ 「ふはっはっは・・・。若いねぇ・・・」 「ま、ま、松さんが変なことばっか言うから・・・(照)」 「だがな・・・。歩。恋に溺れすぎるなよ」 「え・・・?」 煙草をじゅっとガラスの灰皿にこすりつけて消す松本。 「松さん・・・?」 「燃え上がる炎は消えるのも早い・・・。心底惚れてる女だからこそ 息の長い関係を保つようにしねぇと・・・。恋に溺れて 相手のことを思いやることをわすれちゃいけねぇ」 遠い目をして松本は話す。 歩には松本の言葉がよりリアルに聞こえた。 音楽が原因で家族と別れて暮らす松本の言葉だから・・・ 「・・・松さん。オレは決して軽い気持でアイツと付き合ってない。 ・・・。ずっと一緒にいたいと思ってる・・・」 「・・・。結婚か・・・」 歩は深く深く頷いた・・・ 「・・・正直・・・。今すぐって訳には行かないけどだけど・・・。 オレがこれから生きていく隣には・・・アイツにいて欲しい・・・」 「・・・。なら彼女を労わることを忘れちゃいけねぇぞ・・・。オレみてぇに 自分の”夢”と欲望で汚しちゃいけねぇってことさ・・・」 「松さん・・・」 助平なことばかり言う松本だったが・・・ 二本目の煙草を口にくわえ、火をつける仕草が・・・ やけにニヒルで渋く歩には見えたのだった・・・ 朝5時。 BARの仕事も終わってようやく家路につく・・・ (恋に溺れるな・・・か・・・) 松本の言葉が浮ぶ。 かごめと一緒に住み始めてから 自分の中の『男』の部分が抑えられない。 好きな女がそばにいて、自分の名を呼び そして自分のとなりで眠る・・・ 早く部屋に帰ってかごめを抱きしめたい キスしたい (んなことばっか考えてる・・・男の欲望に流されちまってるな・・・) ”女を労わるそんな愛し方をしろ・・・” (労わる・・・か・・・) 好きな女を抱きたいと思うのも好きな男に抱かれたいと思うのも 自然な気持ち。 けれど それに嵌ってしまって、見失うことがないだろうか。 触れ合いは 肌の触れ合いともう一つ大切なことが・・・ 「おっと・・・。アブネェ」 コンクリートとコンクリート間から咲く露草の花。 「・・・。労わるように・・・。包むように・・・か・・・」 青紫の小花を人差し指で撫でる・・・ (きっとかごめがいたら・・・。可愛い花ねって言うだろうな・・・) 花を見て、綺麗だと一緒に想える、そんな恋人同士がいい。 朝日を一緒に見て、笑いあえる仲がいい。 (・・・早く帰って・・・。かごめに『おはよう』って言おう。 それから露草が可愛かったことも・・・) 歩は走ってマンションに帰る・・・ 早くかごめに会いたいから・・・ ガチャ・・・ 「ただいま・・・」 物音を立てずにしのび足で台所を通る奥へいく歩 (あ・・・) テーブルの上に、ラップで包んであるカレーライスとサラダが目に入った。 すぐ温められるように きちんと・・・ ”労わることを忘れるな・・・” (・・・『これ』が労わることなんだよな・・・) 椅子に座り眠るかごめの髪を撫でる・・・ 露草と同じ 心が和むその寝顔・・・ 「ん・・・。あ・・・。歩」 「悪い。起こしたか・・・?」 「ううん・・・おかえり・・・。歩・・・」 ずっとここで待っていたのか・・・ (かごめ・・・) 愛しさが込み上げる。 「・・・ただいま・・・」 歩はかごめをそっと引き寄せ抱きしめる・・・ 「・・・うん。おかえりなさい・・・」 欲望だけじゃない 相手を思いやる気持ちを持って・・・ 「・・・かごめ」 「なあに?」 「・・・。お前の薬指・・・。空けといてくれよな」 「え・・・?」 薬指をチュッとキスする歩・・・ 「俺とお前の”未来”のために・・・。俺以外のだれかの指輪は しないでくれよな・・・」 「嬉しい・・・。ありがとう・・・」 ぎゅっと歩の首に手を回し抱きつくかごめ・・・ 「・・・。大好き。歩」 「俺もだ・・・」 キスも 優しいキス・・・ 溺れるような激しい恋より もっと素敵な・・・ あったかい恋を これから二人は育てていく・・・