裸足の女神

ACT4 飛べない鳥
久しぶりの休み。いや、夜はBARがあるが。

今日は朝から部屋の掃除をしている。

大きな図体だが綺麗好きな歩。

ウィーン・・・。


腰を下ろし、ベットの下に掃除機つっこむ。


「見えないところまできちっとしねーとな」


BARでは『クールだが作るカクテルは人を癒す、バーテン』なんて
イメージだが、その実は今時の若い娘より家庭的な面がある男、歩だ。


掃除が終わり、一息つく。


そして、ギターケースを開け、楽譜を取りだし、ベットに広げる。



その楽譜には題名も歌詞もまだない。




あとは歌詞とタイトルをつけるだけなのだが・・・。




(歌詞か・・・。子供にきかせるには分かりやすい歌詞の方がいいよな・・・)



子供向け・・・とまではいかなくても、子供が聞いても分かる歌詞でないと。


男と女の切ないラブソングなんてのは合わない。


また、尾崎豊の「15の夜」みたいな青春賛歌のようなものも
ちょっとイメージじゃないだろう。


「うーん・・・」




病気の子供が喜ぶもの・・・。



煙草をふかしながらベットに寝転がって天井を見つめ、考えるがイメージが湧かない。



「子供が好きなもの・・・。おもちゃ、菓子、遊園地・・・」



子供向け番組の歌、童謡になってしまうのもなんだか・・・。



「あー・・・。わっかんねぇ・・・!」


下ろした前髪をくしゃくしゃっとかく歩。




歩は風にあたろうとベランダに出た。



今日も天気がいい。



うろこ雲の空だ。



「空・・・ねぇ。うーん・・・」



ぼんやりと空を見上げる歩。



チュンチュンチュン・・・!



足元から雀の悲鳴のような鳴き声が。



「ん・・・?」



雀が一匹、翼をバタバタさせて転げまわっていた。



「お前、怪我してんのか?」





茶色と黒のまだら模様の翼から血がでている。




「・・・ちっ。何でオレンとこに迷い込んでくんだ。しゃーねぇな・・・」



と文句を言いながら、白い布にくるみ、翼の傷を消毒した。


チュンチュン。



小さな雀。歩の大きな手内だとなおさら小さくみえる。



怪我した雀を手当てしている自分・・・。


こんな姿を松本に見られたまたきっと

酒のつまみにされるだろうと歩は思う。



だが、ほおっておけないのが歩なのだ。



「・・・。血は止まったが・・・。暫くは飛べねぇだろうな」



歩は雀を布を敷いた小さな正方形の箱にそっと入れた。


「こんなもんでいいのか・・・。まぁ、あとはお前自身の治る力だな」



チュンチュン・・・。



雀はバタバタと片方だが何回もはためかせて。



きっと仲間のところへいこうとしているに違いない。


「・・・。飛べねぇっての・・・」



子供の道徳の時間じゃないが。



一匹の雀から、何か忘れていたものを、気がつかされる感覚
になる。



「・・・飛べない鳥・・・か・・・」



醜いアヒル子。自分は醜い飛べないアヒルだと思い込んでいる。


だが。最後には白鳥になって飛んでいく。


子供の頃、この話をきいたとき、歩はなんだか腹たった。


なぜ、『アヒルの子』のままじゃいけないのか。


飛べなくてもいいじゃないか。飛べなくても見つかる素敵なものがあるのに。



「飛べなくてもいい・・・か・・・」


子供の頃の素朴な疑問が蘇る・・・。


気がつくと、楽譜の音譜の下に歌詞を書きはじめ、鉛筆がスラスラと
動いていた・・・。


で。歌詞を書いてみたのだが。


「・・・ぜってぇ、オレの柄じゃねぇ・・・(汗)」


素直な言葉が連なる。


ロックだと男の本能的な言葉が連なったり中にはかなりエロティックな
歌詞の曲もあるのに。


だけど・・・。



「・・・。ま、悪くは・・・ねぇと思うけど・・・」



本当に心に浮かぶ言葉を素直に書いてみた。


もしこれで誰かが喜んでくれるなら・・・。


”私、あなたの曲、死ぬほど聴きたい!”


そう言って笑うかごめが浮かぶ。



(・・・なんであいつのことがいちいち出てくんだよ)


「んじゃ・・・仕上げてみるとすっかな・・・」


歌詞もできた。あとはタイトル・・・。




『飛べなくてもいいよ』




「で。いっかな。ナンか変かな・・・」


チュンチュンッ!


雀は首を担げて”それでいいよ”と言っているみたい。


「・・・。お前がいいってんならこれにするか。クク・・・」



曲が出来た・・・。



歩は携帯を取り出し、かごめにメールを送った。



『一応、曲は出来たぜ・・・。オレはいつでもきかせても
いいから・・・』




メールの返事はすぐ来た。


『本当!?あの・・・。もしよかった私のピアノとジョイントしない・・・?
これでも保母だから、ピアノは少し出来るの・・・。駄目?』


「じょ、ジョイントって一緒に弾くってことか?」



メールの最後の

『駄目・・・?』


の文字が何だか可愛く感じられて断れなくする。




「ちっ・・・。なんかオレ、だんだんあいつのペースっていうか
ノリになってきてるような・・・」



でも悪い気分ではない。


歩は『了解』


とメールを再び送った。歩がOKを出し、かごめからメールが



来た。



『本当!?よかった・・・!断られるかと思ってちょっと心配だったんだ・・・。
ホントによかった』



「・・・メールの中でそんなに喜ぶなよ」



かごめの弾んだ声が聞こえそう・・・。


歩の顔も自然と綻んで・・・。


更にメールには音あわせがしたいから一度週末に会おうと。その




かごめが音あわせを指定してきた場所はなんと・・・。




「ほ、ほ、週末の夜、保育所!?」





と・・・。




「・・・どういうつもりなんだ」



(しかも夜って・・・)



二人きり・・・。




「はッ。オレは何を・・・(照)」


何故か赤面する歩。



「・・・ま。しかたねぇ。週末は早番だしまぁ・・・」









ぶっきらぼうにそういう歩。


でもなんだか週末が楽しみな気持ちだった・・・。