はなちゃんは道徳が好きな科目の一つですが、今日の課題にはちょっと複雑な気持ち。
黒板の真ん中にテーマが「いじめについて」です。
道徳の教科書にクラスでいじめられた男の子のお話が載っていて、それについてみんなで話し合おうというのが今の時間の課題。
田中先生は田中先生なりの何かがあるのかもしれませんが、はなちゃんはちょっと話し合いになかなか入っていけません。
「このクラスでも、たみちゃんがお休みしているね。それについて今はどう思うのかな?」
ちらっと窓際の席をいっせいにクラスのみんなはみました。
一人の子がてをあげました。
「私はいつか、たみちゃんには来てほしいと思っています。私達がたみちゃんにしたことをまずあやまらないといけないと思います」
「そうだね。まずしなければいけないことはそうだね」
田中先生はそう言いましたがはなちゃんはそうは思えません。
(・・・実際今まで謝ったのいないのに)
「それとこのクラスにたみちゃんの居場所を作ってあげること。それが一番大事だと私は思うの」
田中先生は少し目を潤ませながら言いました。
その姿にクラスのみんなは驚いて、でも、反対に何だか感動したみたいでその後、道徳の時間はとても盛り上がったのでした。
そして道徳の時間終了後・・・。
「はなちゃん」
田中先生にはなちゃんは呼び止められました。
「先生」
「はなちゃん、今日の五間目どうだった・・・?ちょっとはなちゃんにはつらい課題だったかなって心配したのだけど・・・」
「・・・そんなことは・・・」
はなちゃんは少し顔を曇らせました。
「ごめんなさいね。でもどうしてもあの授業はやってみたかったの」
「・・・先生」
「なあに?」
「今のこのクラスには・・・。たみちゃんの居場所は無理かもね」
はなちゃんは少し顔を俯かせていいました。
「じゃあ、さようならッ」
はなちゃんは田中先生におじぎをしてあわてて帰って行きました・・・。
”このクラスにたみちゃんの居場所はない”
「はなちゃん・・・」
田中先生にはなちゃんの言葉が心に響いていたのでした・・・。
次の日曜日。
はなちゃんはたみちゃんの家に遊びに来ています。
一緒に勉強。
透明なテーブルで教科書を開いています。
シャーペンをまわしながら、田中先生のことをたみちゃんに話すはなちゃん。
「田中先生にいいすぎたかな・・・」
「はなちゃん・・・」
「でも・・・。でもね。今のクラスにはなんていうか・・・。”こころの机が”ないっていうか・・・。たみちゃんや私が笑顔でいられるかっていったらわからないと思ったの」
国語が大好きなはなちゃん。やっぱり例えが詩的です。
「・・・クラスのみんなも今は嫌なこととかしなくなってきたし、たけしくんとかも大人しくなった。でもね。みんなとすぐ打ち解けられるかっていったら・・・」
「・・・」
たみちゃんもはなちゃんも黙ってしまいました。
”たみちゃん、はなちゃんごめんね”
そう、みんなに謝ってもらったら、すぐ許せられるか・・・。
こころの痛みは残っています。
ちくちくちく。
「わからない。私・・・。まだそんなに強くなれてないから・・・」
心の痛みはお医者さんの薬ではなおりません。 ではどうしたら痛みは和らぐのでしょう・・・? たみちゃんもはなちゃんも方法はいくら考えても見つかりません。 「でも私ね、思うの。私にはお母さんもお父さんもいる。それからはなちゃん もいる。そう思うとね、元気、でてくるんだ!」 「私も!たみちゃんがいると思うと元気でてくるよ!」 グー。 はなちゃんのお腹の時計が鳴りました。 「・・・ついでに”食欲”もでてきたみたいです」 「ふふふ。おやつのケーキ持って来るね」 「お願いしまーッす!」 二人は笑っています。 心の痛みは消えたわけじゃないけど・・・。 たみちゃんもはなちゃんも一人じゃない。 一人分の痛みは二人でおやつのケーキみたいにはんぶんこ。 だから、二人は大丈夫。 大丈夫です・・・。 「お母さん、はなちゃんと公園で遊んできまーす!」 勉強が終わって、たみちゃんとはなちゃんはちょっと遠くの公園に遊びに行きます。 近くの公園にはクラスメートの子たちがいるかもしれないから。 たみちゃん護衛係のはなちゃんとしては、たみちゃんの心と体の安全を 第一に守らなければいけません(笑) 「ではたみちゃん。これから隣町の公園まで護衛します。 私のあとをついてきてください」 「はい!よろしくお願いします。はなちゃん隊長!」 はなちゃん隊長は背筋を伸ばし、アイアイサー!と元気よく言いました。 となり町の公園まで二人は自転車に乗っていきます。 20分ほど掛かったでしょうか。 そこは大きな団地の中の公園です。 なのではなちゃんもたみちゃんも知らない団地に住んでいる子がたくさん遊んでいました。 「わぁ。結構大きいね」 「たみちゃん。バトミントンしようよ」 「うん!」 芝生の少し広場で二人はバトミントンを始めました。 「いくよー!たみちゃん!」 「いいよ!」 「よーし。はな、スペシャルサーブだ!えいッ!」 「わー!」 ”はなちゃんスペシャルサーブ”は追い風で木を飛び越えて 団地の方まで飛んでいってしまいました。 「あちゃ・・・。ちょいと力がはいりすぎたワイ」 相変わらず口調がおじさんのはなちゃんです。 「私探してくるよ。はなちゃんはそこで待ってて」 「そんな訳にはいきませんのじゃ。たみちゃん護衛隊長は どこへでもお供いたします!」 「ふふ。はなちゃんたら・・・。じゃ、一緒に探しに行こう!」 「はいな!」 二人は手をつないでバトミントンの羽を団地のほうまで捜しにいきました。 公園を抜けるとそこは12階ほどあるマンションが。 マンション前には自転車置き場で、何台も停められていました。 「えーっと羽は・・・」 たみちゃんとはなちゃんはしゃがんで自転車の陰に羽がないか探しました。 「あ、あったよ!」 羽はたみちゃんが見つけました。 「あれ?」 羽を見つけたのと同時に・・・。たみちゃんは見慣れないものをみつけました。 「どうしたの?たみちゃん」 「はなちゃん、あれ、何だろう・・・」 自転車置き場の隅っこに・・・ 可愛いコスモスの花が瓶に入って咲いています。 「きれい。でもどうしてこんなところに・・・」 たみちゃんはコスモスの花びらをそっと触ります。 (これ・・・なんか・・・) はなちゃんは何だかそれがお供えの花に見えました。 しゃがんでコスモスを見つめる二人の背後から人影が・・・。 二人が振り向くと優しそうな女の人が立っていました。 「ささ・・・桜子ッ!!!!」 「わわッ!???」 女の人は突然、はなちゃんに抱きついたのです。 「桜子・・・!桜子・・・!」 そう何度もつぶやいて泣きながら・・・。 はなちゃんもたみちゃんも何が何だかわかりませんでした・・・。