綺麗な愛じゃなくても
中編



「おかゆぐらいしか作れないけど・・・どうぞ」





長い髪を束ねたかごめ。



白い肌のうなじに目がいってしまう蓮。




自分の思考に自己嫌悪する。








「・・・どうしたの・・・?」





「い・・・いやなんでもない・・・。いただきます」






自分の心を悟られまいと
蓮はおかゆをかきいれる。








(・・・おいしい)






あたたかなおかゆ。たまごが入って甘みがある・・・








「・・・。蓮君。似てきたね」





「え・・・?」





「・・・純に・・・」






蓮の箸が止る。






「かごめ姉さん・・・。何がいいたいんだ・・・?」






「・・・。蓮君は・・・。私の大切な弟・・・。今も昔もそうよね・・・」







蓋を閉められた。





密かに抱いていた想いに



かごめの言葉が蓋をした。



蓮のこころは激しく動揺した。






「・・・蓮君・・・」






「・・・将棋じゃないんだ・・・。”先手必勝”か!??俺の気持ちを
知っていたくせに・・・!!」





蓮はかごめの腕を思わずつかんで声をあげた。




「離して・・・。私・・・。私・・・」





「かごめ姉さん・・・いや、もう姉さんじゃない。かごめさん・・・。
俺はずっとずっと・・・っ!」






「・・・結婚するの」






「!?」






かごめの言葉に・・・




蓮は掴んだ手を離した・・・







「・・・お見合いして・・・。プロポーズされてるの・・・。OKしようかなって思ってる・・・」








「・・・んだよそれ・・・。兄貴は・・・?兄貴のことはどうなるんだよ・・・」







「・・・。純のことはずっと好きよ・・・。でも・・・。思い出だけじゃ
生きていけない・・・。私は生きているもの・・・」







ガシャンッ!!






蓮はカアっと頭に血が上り思わずおかゆのなべをひっくり返してしまった。






「帰ってくれ・・・」






「蓮君・・・」






「帰れっっ!!!!」






蓮の怒鳴り声にかごめは肩をびくっとさせる。





「・・・蓮君・・・。ごめんなさい・・・。でも・・・。蓮君には
私なんか駄目・・・。私は誰かに愛される資格も愛する資格もないの・・・」





「・・・」






「蓮君・・・。さよなら・・・」




ハンドバックをそっと持ってかごめは部屋を出て行った・・・







(くそ・・・。かごめ姉さん・・・)






ひっくり返されたおかゆが・・・




切なく絨毯の上にこぼれていたのだった・・・













かごめが結婚する。




その事実に蓮はただ、呆然とするしかなかった。





少なくとも



自分の想いが実らなくても、かごめはずっと兄の純を想いつつけるのだと信じていた。



だからこそ諦められるし、弟でいられたのに・・・








(かごめ姉さんの想いはそんなモンだったのかよ)







蓮のバイオリンの音色が荒々しい。



練習室から激しい音が響いて聞こえてきた・・・











「・・・あら。あんた知ってたの?かごめちゃんのお見合い」




実家に帰った蓮。



かごめのお見合いの話を母から聞く。




「あたしがすすめたんだよー。いっつまでも純にこだわってちゃ
あんないい子、幸せになれないからね」



お茶をすすりながらせんべいをぼりぼり食べる母。





「・・・兄貴がかわいそうだ」





「は?あのね。きっと純だってお天道様の上でかごめちゃんの幸せ
願っているさ。何器のちっちゃいこといってんだ。失恋したぐらいで」




「ブハッ」




お茶を吐く蓮





「フン。息子の気持ちぐらいわかってたさ。かごめちゃんにホノ字だってね。
でもあんたじゃ駄目だ」





「どうしてだよ」






「・・・。自分で考えなッ。あー。お茶が美味しいわー」






ひた隠しにしていた自分の心。



母にまで知られていたとは・・・





(俺って顔に出やすいのかな・・・)



鏡をまじまじ見つめる蓮だった。






それから2ヶ月ほどたって。




かごめの結婚は着々と進んでいるようだった。




蓮は・・・







「なぁ。蓮。合コンいかねぇか」





「パス」





他の女にも気を向けようと思ったがなんとなく気が乗らなかった。




(それじゃあかごめ姉さんと一緒じゃねぇか)






音楽室から見上げる空。




”あたしは誰も愛する資格も愛される資格もないの”




かごめの言葉が妙にひっかかっていた。




(どういう意味だったんだろうか・・・)




考えてみれば



かごめの事はあまり知らない。



保母をしていることと、母親と弟がいる・・・ということだけで。





(・・・知られちゃいけない過去とかあったりして・・・)





あらぬ想像を駆け巡らせる蓮。






(気になるな・・・。行って見ようか。思い切って・・・)







かごめの実家・・・。





一度だけ、純に連れられて行った事がある。










集合団地。



母と弟が暮らす。



かごめは一人暮らしだった。





「まぁまぁ・・・。確か蓮・・・君だったわね?お久しぶり」





かごめとよく似た朗らかな笑顔のかごめの母。




突然尋ねた蓮を心よく迎え入れてくれた。





「あの・・・。かごめ姉さんが結婚するって聞いて・・・」




「そうなの。何だか急にかごめったら話を進めて・・・」




急須にコポコポと湯飲みにお茶を注ぐ母。


どこか浮かない顔をしている。




「相手の方はお医者様でかごめには勿体無いお話なのだけど・・・」





(・・・。医者・・・ね)




蓮はずずっとお茶を飲む。



「でもなんとなく・・・私は気が乗らないのよね」





「どうしてですか?」






「世間的にはそりゃ立派な人かもしれないけど・・・。なんとなく
女性関係が派手そうなヒトに思えたの。実際、かごめとお見合いする直前まで
付き合っていた女性がいたって聞くし・・・」





「・・・かごめ姉さんは知ってるんですか?そのこと」






「知っているわ。でも構わないっていうの。ともかく”早く結婚して
忘れなきゃ・・・”って・・・。純君のこと引きずって欲しくないとは
思うけどでもなんか妙に焦ってる感じがして心配なのよ・・・」






かごめのどこか不自然な行動・・・




蓮は気になって仕方ない。





母に探りをいれにきても何も知らなさそうだ。







「きっと姉貴、けじめをつけようとしてんだよ」





坊主頭でガクラン姿。かごめの弟の草輔だ。




「久しぶり。蓮兄ちゃん」




「ああ・・・。ところで草輔君。今のどういう意味なんだ?」





「・・・。蓮兄ちゃん。ちょっと話ある。部屋まで来てよ」




難しそうな顔の草輔。




母親は来るなと、蓮だけ部屋に連れてきたが・・・







「話って何・・・?」







「蓮兄ちゃんは姉ちゃんのこと、好きなんだよな」





「えっ・・・」





まさか。



かごめの弟にまでばれてたとは・・・





かなりの衝撃が走る。





「・・・。蓮兄ちゃん、いっつもせつなそうーな
視線、姉ちゃんに送りまくってただろ。すぐわかるよ」





「///」




照れていいものなのか・・・心中複雑な蓮。







「そ・・・それはそれとして、かごめ姉さんが結婚を焦る理由と
どう関係があるっていうんだ?」





「・・・おおアリなんだよ」





「だから。どうあるんだよ」




「・・・」






草輔は引き出しからあるものを取り出した。




「これ・・・」





「蓮兄ちゃんと姉ちゃんの2ショット写真」





純と蓮、かごめと草輔の4人でキャンプに行ったときの写真だ。



川原で蓮とかごめの2ショットの写真と撮った。






「これが・・・なんだっていうんだ」





「・・・姉ちゃん純兄ちゃんの写真は今でも姉ちゃんの机の上に飾られてるんだ」





「それで?」





「・・・この写真はね・・・。机の奥の奥の奥に・・・。まるで隠すようにしまってあったのさ」






「・・・。なんでそんな・・・」





蓮は草輔が何をいいたいのか分からず首を傾げる。






「鈍いよな。ホント・・・。蓮兄ちゃんが自分の気持ちずっと隠してきたように
姉ちゃんも自分の気持ち・・・机の奥にずっと封印してたのさ。この写真と共にね」







「・・・!」









”あたしには誰かを愛する資格も愛される資格もないの・・・”





かごめの言葉が浮ぶ。








「・・・。そ・・・そんなこと・・・。あるわけ・・・」









「姉ちゃんさ・・・。ずっと蓮兄ちゃんの視線びんびん感じてたんだ・・・。
感じてたけどずっと見てない不利してた・・・。そのこと、純兄ちゃんは気がついて
いたんだよ・・・。それであの日・・・事故にあった日も・・・」





「!?」






草輔がこれから語ること・・・




蓮の心はただ驚きと衝撃で揺れてゆれて



揺れ動いていた・・・