日曜日。一夜がかすみに申し出た。 ”かすみの母の墓を参りたい” と・・・。 かすみは快諾し、二人は車で1時間ほどの郊外の大きな寺の墓地へ向かった。 桶に水道の水を汲み、一夜が持ち、かすみの母の墓の前 まで歩く・・・ (オレの命を・・・救ってくれた人) 一夜は墓石に刻まれた戒名をそっと撫でる・・・ 「母はね・・・花が好きだったから・・・」 百合という漢字が入ってる・・・ (百合・・・。かすみに似合いそうな花だな・・・) 墓に水をかけ・・・ 線香にひをつけるかすみ。 「・・・私は仏教徒ってわけじゃないけど・・・。 こうやって手を合わせる姿が好き・・・。天国の人へ・・・ ”ゆっくり眠ってね”って・・・祈ってるみたいで・・・」 そう呟くかすみの横顔は・・・ とても慈悲深くて・・・。 (・・・菩薩みてぇ・・・って何ガラじゃねぇこと 想像してんだ///) 「・・・ほら。一夜も手を合わせて」 「お、おう・・・」 二人並んで・・・手を合わせる・・・。 (・・・かすみのおふくろさん・・・貴方のお陰で・・・オレは・・・) かすみと出会えた。 「お母さん。彼が一夜です。あえっと本名は・・・ 犬飼一夜。素敵に成長したでしょう?」 (す、素敵・・・///) 「え、えとあの・・・その・・・」 なんだかまるで、婚約者として紹介されている気分。 一夜の答えをまつように 百合の花が揺れている。 「・・・オレは・・・。オレはずっと・・・。ずっと 生まれてきたことを呪っていました・・・。なんでこんな 苦しいだけの世の中に・・・オレは生まれてきたんだって・・・」 長い長い逃亡生活。 その日の食事にも困ったときもあった貧しさ。 温かなものなんて 世の中にないって思ってた 「見るもの全部恨んで憎んで・・・。死にたかった 消えたかった・・・」 (一夜・・・) 「でも・・・。貴方の娘さん・・・かすみ・・・いやかすみさんに 出会って俺は・・・。大事なことを叩き込まれた」 (叩き込まれた・・・?そんな乱暴なことしたっけ?) 「・・・暴れる俺に・・・何度も立ち向かってきてくれた・・・。 オレは・・・かすみさんの根気に負けたんです。そして・・・教わった・・・ この世には・・・宝物みたいなことがあるって・・・」 (宝物?) 「・・・オレは・・・一人じゃないって・・・」 (一夜・・・) かすみに視線を送る一夜・・・。 「・・・オレ・・・あんま上手なこといえねぇけど・・・。 あの・・・ありがとうございました・・・。オレ・・・貴方の分までちゃんと・・・ ちゃんと強く生きていきます・・・!」 母の墓石の前で 一夜は真っ直ぐな瞳で誓った・・・ 「・・・うっ・・・ふっ・・・」 「・・・!?」 突然泣き出したかすみ・・・ 「ど、どどどうした!?」 「だって嬉しくて・・・。一夜があんまり立派なこというから・・・」 「・・・し、失礼な。オレだって言うことはいうさ・・・///」 あの一夜が・・・ 暗い部屋で大きな体を小さくうずめていた一夜が・・・ 強く生きていくって 頑張るって・・・ 「・・・だぁあ。な、泣くな・・・///お、オレが弱いものは お、お前の涙なんだから」 「え?」 「い、いや、と、とにかく泣くな。お、オレは 根性入れてくって決めたんだから・・・」 「一夜・・・」 「ハンカチねぇから・・・ティっしゅでふけ」 ポケットティッシュをかすみに手渡す。 「ありがと・・・。本当に優しくなったよね」 「・・・そ、そんなに意地悪な男かよ。オレは」 「ううん・・・。元から優しいのよ・・・。隠れてだけ・・・」 (そ、そんな見つめんな・・・) 「・・・おかあさん・・・。私本当に嬉しい・・・嬉しいの」 一夜の姿を見せられて・・・。 百合の花がそっと揺れた。 「ふふ。お母さんが応えてくれた」 「・・・そうだな」 他人のことでないて笑って・・・ 百合の花を静かに触れるかすみ。 (・・・) かすみの横顔に惹きつけられて止まない・・・ 守りたい ずっと見ていたい ・・・いつか好きになってもらいたい (強い男になって・・・オレは・・・。かすみのお袋さん・・・ オレは・・・) 誓う。 救われた命を粗末にしないこと 活きていくこと そして・・・ (・・・かすみのために生きていくこと・・・) 「守りますから・・・」 「え?ナニ?」 「な、なんでもねぇ・・・。そろそろ行くか」 「うん・・・」 二人は墓の前でもう一度手を合わせ・・・。 静かに墓地を跡にした。 「ねぇ一夜。ちょっと寄っていきたいところがあるんだけど」 墓地の裏に広がる 百合畑。 「ふふ。これぜーんぶ野生なのよ」 「に、匂いがくせー」 白い百合の花が群生している。 「臭いってなによーもぅーこんなに綺麗なのに」 白い百合畑に入っていくかすみ 「ふふ・・・。あ、みて、黄色の百合もある」 百合の香りをかいではしゃぐかすみ・・・ 母親が好きだった花に囲まれて嬉しくてたまらない・・・ (・・・オレはのオヤジは・・・かすみから母親との時間も奪ったんだな・・・) かすみの人生の大切な時間を 父が奪った。 (・・・オレは・・・償うために強くならなきゃならねぇ・・・) どんなことからもかすみを守れる男に・・・ 「一夜ー!」 百合畑の中からてをふるかすみ。 (///・・・い、一枚撮っておくか) あんまりかわいいんで携帯でパシャリ。 かすみの笑顔を激写。 「ふふ。沢山摘んじゃった。お店に飾ったらおじさんたち 喜ぶわね」 「ああ。お、お前に似合ってる・・・」 「・・・え?」 かすみはかなり意外な顔をした。 「な、なんだよ。そのリアクション」 「う、ううん。アンタらしくないなって思って・・・」 「わ、悪いか。お、オレだってたまには 気の利いた台詞・・・」 かすみは一夜の頭を背伸びしてなでなで・・・。 「な、なにすんでいッ」 「一夜・・・。本当に成長したね・・・」 「こ、子供扱いすんなッ」 「子供よ。・・・まだ半分は」 (・・・(汗)) ちょっとショックだけど (しかたねぇ。今は・・・) 「けっ。そ、そろそろ帰るぞ!」 「うん」 (えッ・・・) 一夜と手をつなぐかすみ。 「・・・”弟”と一緒にお家にかえりましょう♪」 (お・・・弟・・・(切ない) 嬉しそうに鼻歌を歌う。 かすみの心の中で自分はまだ”弟”なのか。 (・・・まぁいい・・・。かすみのそばにいられるなら 弟でもなんでも・・・) いつかは かすみをドキドキさせる男になりたい。 かすみの頬をそめるような強い男に・・・ 「かすみ・・・。待ってろよな」 「え?なに?」 「なんでもねぇッ///」 かすみの手の中の百合の花。 いつか いい男になったらプレゼントしよう。 つながれた手と手・・・ かすみの手の温もりに一夜は改めて・・・ (お前を守れる男になるから・・・) と誓ったのだった・・・