久遠の絆


第一章 巡り会った過去
 




17年前。



若い男が地方都市の銀行の支店に
強盗に押し入った・・・






”金だせぇ!!あるだけ、あるだけ・・・よこさねぇと
ガキ、ぶっころすぞぉおお!!”





三つ編みの少女の咽下に包丁をつきつける男・・・





母親らしき女性客が青ざめた顔で必死に叫ぶ。





「お願い・・・!!その子だけは・・・傷つけないで!!お願い・・・!!」





「やかましいッ!!オレはガキが嫌いなんだよッ!!!おい、早く金用意しろッ!!!」



男の言うとおり、女子店員はバックの中に札束を詰め込み手渡した・・・






「・・・ようし・・・。てめぇら・・・うごくんじゃねぇぞ・・・!!」



男は少女を連れたまま出て行こうとする・・・




「その子は離しテェ!!!」




母親は男に掴みかかり、少女を奪い返した





「なにすんだてめぇッ!!!」






「きゃああッ!!」




ドン!!




男に振り払われた母親はドアに頭を強打し倒れこむ・・・





「・・・く。くそっ!!」




ジリリリリリ!!


警報装置が店内に響き渡る。男は足早に外に出て
車に乗り込み立ち去った・・・








「・・・おか・・・おかあさん・・・?」





白いフロアーに



赤い血が流れる・・・






物言わぬ母をただ



じっと・・・



少女は眺めていた・・・






少女の




心が





壊れた瞬間だった・・・




「・・・ったく。教授の奴。どこが舗装してある平坦な道よ・・・」 安月給でかった15万の中古の白い軽4が 山道をくねくねと走る。 「自然の中は確かに人を癒すけど・・・。このくねくね道は不健康だわよ」 地図を見ながら運転するのは 久遠かすみ(22)。 大学院で心理学を勉強中の学生であります。 ”人の心と向き合った仕事がしたい” その強い意志を胸に カウンセラーを目指しているのだが・・・ (・・・人の心と向き合う前に。もっと自分自身をしらないとね) そう言い聞かせている。 大学の助教授・月森蓮太郎の別荘に呼ばれたかすみ。 月森には幼い時から何かと世話になっている。 (若い私の”足長おじさん”ってとこかしら) 三十代、男盛り。 「ふぅー・・・。やっとついたわ」 雑木林を抜け、たどり着いた月森の別荘。 洋館のたたずまい (窓の数すごい・・・。何部屋あるのかしら) さすが、”月森財閥の次男坊”だけのことはある・・・ (この部屋のどこかに・・・”彼”がいるのね・・・) そう・・・。 かすみがここに来たのは”彼”に会いに来たのだ。 少し緊張した面持ちで玄関を開ける・・・ キィ・・・ 「こんにちはー!!教授!久遠です!」 シーン・・・ お約束的な豪華な踊り階段と赤マット。 上にはシャンデリア。 (・・・漫画の中だけだと思ってたけど本当にこういう家ってあるのね) 豪華さと珍しさで中を見回すかすみ・・・。 〜♪ (あ・・・。これ・・・) アベ・マリア。 バイオリンの音色がチョコレート扉の向こうから聞こえてくる。 音色に導かれるようにドアを開ける・・・ (・・・月森教授・・・) 白いレースのカーテンが靡く その前でバイオリンを艶やかに弾く白いブラウスの月森が・・・ (・・・。綺麗な音色・・・) 音色だけではなくバイオリンの弦をはじく月森の指先がとても 滑らかで・・・ かすみは目を閉じてしばらく音色に聞き入っていた・・・ 「・・・。君のための独奏会ではないぞ」 音色が終わったとかすみは目を開ける 「あ・・・。すいません。聞き入ってしまいました」 冷静沈着、クールで大人の男・月森。 大学ではそのクールさが女子学生の間で人気だが本人は至って気にもしてない。 「・・・遅刻だ。時間厳守といつも言っている」 「す、すみません。道に迷って・・・」 「一本道のはずだが。それとも君が方向音痴なのか?」 「・・・」 涼しい顔で辛口な月森。 「・・・。何をしている。立ってないで座りなさい。コーヒーをいれて置いた・・・」 (・・・あ・・・) かすみが来るとわかっていのか 大分前から準備していたと思われるコーヒーとお菓子。 最初の頃はかすみも苦手だったけど心理学に対しての情熱と 人への厳しさと優しさを兼ね備えていることをかすみは 知っている 「い、いただきます・・・」 ティーカップから優しいコーヒーの香り。 緊張していた心が落ち着いていく・・・ ドタタターーー!!! バタンーーーッ!!! ガシャーン!!! 「!?」 天井のシャンデリアが揺れる・・・ 二階から物凄い音が響く・・・ ウワァアアアー・・・ 同時に獣ような唸り声・・・ 「・・・。もしかして・・・」 「そう・・・。君が今日会いにきた”彼”さ・・・」 「・・・」 かすみの顔が険しくなる・・・ 今日。 ここに来た目的は”彼”に会うこと・・・ 「・・・君と彼のめぐり合わせ・・・運命なんて陳腐な言葉は似合わないな」 「・・・」 一週間前。 かすみは月森から”会って欲しい、いや診て欲しい人間がいる”と 言われた。 その”相手”を聞かされて 忘れていたはずの過去が一気に蘇った・・・ ”君には残酷かもしれない。だが・・・。これは君自身の戦いでもある・・・ 『彼』と対峙できるのは同じ傷をもつ君しかいない・・・” その相手とは・・・。 (・・・私の一番大切な人を奪った男の・・・息子) 「決意がついたんだな?」 「・・・はい・・・っ」 かすみの真っ直ぐな瞳・・・ 背負う過去と対峙する勇気を月森ははっきりと感じた・・・。 「決意したのだな・・・。じゃあ来なさい・・・」 「・・・」 自分の知らないところで ”過去”が蘇った・・・ 15年目という節目。 きっとこれは誰かが定められためぐり合わせなのかもしれない ”彼”との出会いは・・・ かすみはそう感じられた・・・ ゆっくりと二階に上がっていく・・・ トクン・・・ トクン・・・ 頭にこびりついている・・・ 真っ赤な流れる血の色・・・ 必死に母の名をよんでも起きない 目を覚まさない・・・ ”お母さん・・・!お母さん!” 自分の”唯一”を奪われた・・・ あの日・・・。 ギィ・・・ 階段を上り終える・・・。 一番奥の部屋・・・ 「・・・。かすみ。本当に・・・いいんだな・・・?生半可な根性じゃ 『彼』とは対峙できないぞ」 「・・・」 ドッスン!!バタン!!! 暴れる音が聞こえる 月森の真剣な眼差しに大してかすみは・・・ 「・・・。上等です。どーんとこい!ですよ!過去だろうが誰だろうが、 受けて立ちます・・・!ってね♪」 拳を見せて微笑む・・・。 (この子は・・・。本当に・・・) 芯の強さを感じる・・・ ドクン・・・ 蘇る痛みを抑え・・・ キィ・・・ 扉が開いた・・・ ビュン・・・!! ガシャン!! 「かすみっ・・・!」 月森がかすみをかばう・・・ ドアを開けた瞬間、かすみに向かって ガラスの花瓶が飛んできた ポタ・・・ 絨毯にかすみの頬から滴る血が染み込む・・・。 「かすみ・・・!血が・・・」 月森はかすみにか寄ろうとしたが手で止める・・・ 「・・・大丈夫です。それより”挨拶”しなくちゃ・・・」 かすみは立ち上がり 部屋の隅で膝を抱えて蹲る少年に近づく・・・ 机やベットの破片。 暴れ壊した後がうかがえる・・・ 「・・・こんにちは」 「・・・」 髪の長い少年。 ジーンズを履いている長い足を抱え震えている・・・ 「・・・こんにちは」 かすみは少年の視線まで腰を降ろしてかがんだ。 ギロ・・・ (・・・!) あまりに鋭く・・・憎悪に満ちた眼光に かすみは一瞬ビクッとした。 「・・・てめぇ・・・。誰だ・・・」 睨みつけるその瞳。 何人も近寄らせようとしない・・・ 「あたし・・・?あたしは・・・。久遠かすみ・・・。貴方と友達になりたくて やってきの・・・。よろしくね」 そしてもう一つ・・・ 自分の”過去”と向き合うために・・・
シリアスモードがかなり強くなるかと 思われます。犬かごとかカップリングに拘らず、『何かに立ち向かう女の子』というのがすごく書きたくて。 ・・・でも勿論恋愛要素も入れていきたいし・・・ 年下君と年上君の間に挟まれるかごちゃんにいずれはなるかなぁ・・・ 偉そうに色々目論んでおりますが 頑張りますので「居場所2」同様、よろしくお願いします!