久遠の絆
第11章 新しい部屋 新しい灯り


オレの帰る場所はどこだ・・・








”ここだよ・・・”





オレは・・・








生きてていいのか・・・?









”生きていていいよ・・・”














オレの・・・








生きていい場所は・・・















「ん・・・」














目を開けると・・・







真っ白な天井。










そして・・・











手のヌクモリ・・・










「・・・かご・・・め・・・」











一夜の手を握り締めたまま眠るかすみ・・・
















(オレは・・・。またお前に助けられた・・・のか・・・)














微かに耳に残ってる・・・







”あなたは生きていていいの・・・”







”帰ってきて・・・。ここに・・・”







優しい声










つつむ声・・・








乾ききった咽に注ぐ水のよう







心が潤って・・・







生き返った・・・














(かすみ・・・。こいつ・・・。かすみ・・・)









握られている手・・・












とても心強く・・・ とても・・・










一夜も握り返す・・・











この温もりは信じられる・・・












この温もりは















(かすみ・・・。久遠かすみ・・・)









”ひとりじゃないよ・・・”


















かすみの手を握り返す・・・









(オレは・・・ひとりじゃ・・・ない・・・)









そう確かめるように・・・









「ん・・・」






「!!」






パッと手を離し、布団にしまう一夜。







「あ・・・。一夜気がついたのね。よかった・・・」










「・・・。なんで・・・。オレのことなんか探したんだよ」





「なんでって・・・。ほら・・・。窓辺みて」








枕元に





満開のサクラソウが・・・







「・・・これ。見せたかったんだ・・・。貴方が育てた」






「・・・」





かすみの微笑みがくすぐったくて




一夜は少し目を逸らす・・・




「それと助けた子犬も生きてるから・・・」






「そうか・・・」








ほっと安心する一夜。




視線を下ろすと泥だらけのかすみのスカートの裾が目に入った・・・







「・・・。わる・・・かった・・・な」








(え)






「今・・・なんて言った?」






「・・・。迷惑・・・かけて・・・」






「・・・一夜・・・」








「フンッ・・・」





口を尖らせ、かなり偉そうに謝罪。






「・・・。ぷっ・・・。ふふふふ」






「な、何が可笑しいんだ、何・・・が・・・」








言い返そうと思った一夜だが・・・。言葉が出なく・・・
かすみの笑い顔に心が止まる






「謝ってるっていうより威張ってるじゃない。うふふ。貴方らしっていうか
ふふ・・・」








(・・・)







くすぐったい








胸の辺りになにかが住みついて動き回ってる







くすぐったい・・・








「・・・どしたの。人の顔じっと見て。見惚れたとか??」







「・・・ん、んなッ!!!ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!いい気になるなッ!!」








一夜はバッと布団をかぶった。







「・・・あら。また機嫌斜めになっちゃった。ほんっとに
分かりやすいんだから」













布団の中の一夜・・・











(アイツの顔見られねぇ・・・くそ・・・。なんだ・・・?胸ンとこが・・・なんか・・・なんか・・・)








くすぐったい






(ふわふわする・・・心臓が風船みてぇだ・・・)











甘い綿菓子







心が溶ける・・・













今まで感じたことのない






キモチ・・・














コンコン。






「具合はどうだ?うちの暴れ家出犬は」









白衣すがたの月森。




長身の若き医師という感じ。



月森はここの心療内科の医者でもある




「な、誰が家出犬だーー!!」



がばっと起きる一夜。





「・・・この通り、元気です。骨折もないし、に、三日すれば退院していいって」




「そうか。なら心配ないな。かすみ。君も少し休め」




「はい。ありがとうございます・・・」





優しくかすみの肩に触れる月森




大人〜な物静かな会話に横の暴れ犬が暴れだす。





「おいこら、てめぇら、オレ無視で会話すんじゃねぇ!!」













一夜の頭のケガも大したことはなく検査も終わり、三日後に退院した。





かすみが車で一夜を迎えに行き、病院を後にする







「おい・・・。どこ行くんだよ。ツキモリん家じゃねぇのか」





「貴方の新しい部屋よ」




「あ・・・新しい部屋!??」







サイドミラーに驚く一夜の顔が・・・








「あ、新しい部屋って・・・」




「ふふ。それはついてお楽しみ」





「・・・。オレは・・・。またお前に助けられて・・・」





一夜は浮かない顔を浮かべる。












「一夜・・・月森教授とカネコさんの話聞いたんでしょそれで・・・。貴方・・・
ヒトリで生きていこうって・・・」







「・・・!」







「ねぇ。一夜・・・。人に・・・。助けられるってそんな恥ずかしいことじゃない
よ」






「・・・。そんな弱っちぃ人間・・・。生きていたって仕方ねぇだろ」







一夜は車窓に流れる街の風景をぼんやり眺める・・・








車が赤信号で止まる・・・






「そんな哀しいこといわないで・・・。少なくとも私はね。一夜・・・。
貴方には生きていて欲しい。何があっても生きていて欲しいって思ってるのに・・・」






「弱い人間は・・・。ハジカレルだけだろ・・・。この世の中・・・」








横断歩道の真ん中で・・・







松葉杖の少女が転ぶ・・・







他の歩行者達は無視・・・








「自分に特にならねぇこととはしねぇ。かかわらねぇ。それがこの世の中だろ」






一夜はその様子を見つめながら虚しそうに言う・・・






ガチャ・・・


かすみは手助けしようと思わず車から降りようとした









「あ・・・」





だが、サラリーマン風の男と学生が少女に肩をかし手助けを
した








少女は学生達に何度も頭を下げお礼を言っている






”ありがとう”と










「弱い人間なんていないわ・・・。みんな生きてく強さを持ってる・・・。
そして”誰かを助けられる”優しさも・・・」








少女はまっすぐ前を見て力強く歩く。






もう既に信号は赤だというのに・・・





少女が完全に渡りきるまでドライバー達は車を発進させなかった・・・










そして信号は青に・・・







「一夜・・・。これだけは覚えておいて・・・」





「・・・」






「私は・・・貴方が生きてるだけで嬉しいの・・・。そして救われる・・・」






「・・・どうしてお前が・・・」











一夜がバックミラーを見た・・・


















「・・・お願いだから・・・。前を向いて生きて・・・」

















祈るような










かすみの微笑み・・・























トクン





トクントクン・・・











(・・・あ・・・。また・・・だ・・・)









トクントクン・・・












かすみの微笑みに心が捕まれる











心が






踊る









楽しいような






嬉しいような










心地いい・・・






この鼓動・・・












(・・・かすみ・・・。なんでお前にこんな・・・こんなに・・・)














惹き付けられる・・・?















一夜は心は車が新しい場所に着くまで・・・








バックミラーの中のかすみの瞳から離れなかった・・・

















「着いたわよ!」





車が停車しても一夜はぼうっとどこか上の空・・・






「一夜ったら!何魂抜けてるの!」




はっと我に帰る一夜・・・






「な、なんでいッ。もうついたのか!??」






「そうよ!降りて♪」





車から降りると・・・






(ん・・・?)







トマトソースのいい香りが・・・






『洋食・ワッフル』





オレンジ色の看板。レンガつくりの外壁にイギリスの国旗がはためいております








「・・・。今日からここが貴方の新しいおうちよ」





「お、おうちって・・・(汗)」





「さ。ハイって入って♪」







カラン・・・






ドアを開けると鐘が鳴り、トマトソースの匂いは強くなる





店の中はこじんまりとしているが白壁ベースでアットホームな感じの
雰囲気・・・






「かすみちゃん!おかえり!」





「ただいま!おじさんおばさん!」




オレンジ色のエプロン姿の老夫婦が出迎える・・・






「ほおお。彼かい。かすみちゃんのカレシってのは・・随分若いねぇ」




(///)


赤くなる一夜。


一夜をまじまじ見る老夫婦。



「違うわよ。私、年下は興味ないから」




(・・・)


5秒で失恋?一夜君ちょっと哀しそう??





「えっとまず自己紹介しますね。こちら犬飼夜摩斗クン。通称”一夜”です。
で、私ね。ここの二階でお世話になっての利三おじさんとキクおばさんよ一夜」





「初めまして。一夜クン。ワシは香川利三じゃ。こっちは女房のキク。
よろしくな」





しわだらけの手。





一夜は恐る恐る握手・・・









「ほう・・・。いい手をしておるなぁ。料理人に向いておる手じゃ」




利三はどこからともなく虫眼鏡を取り出し一夜の手のひらを観察・・・




「まぁ。貴方ったら。初対面でそんな・・・。ごめんなさいね。うふふ」






なんとも個性的な夫婦・・・





「ほら。一夜、挨拶しなさい!」




「・・・けっ・・・」




かすみ、一夜の頭を無理やり下げる





「お世話理なります。おじさんおばさん」







「はい。よろしくね」







(だぁあ。かすみの奴。あとで覚えてろ・・・!)












挨拶も済んだところで一夜とかすみは二階へ・・・










「さ。今日からここが一夜の新しい部屋よ」








キィ・・・












ドアを開けると清清しい風が










新しい畳の香りが漂う・・・









「8畳あるし、押入れ、それから机。タンス。ベット一通りは揃ってるから」






「・・・」





一夜は部屋をまじまじと眺める





「月森教授の別荘から見たら狭いけど・・・。日あたりもいいし・・・。
気に入らない・・・?」






「いや・・・。別に」






「よかった。それから突然だけど明日からお店、手伝ってね」





「え?」





かすみは一夜の荷物をベットの上に置いた。





「て、手伝うって・・・。お、オレ料理なんてつくれねぇぞ」





「ただで居候ってほど、私、お人よしじゃないわ。
おじさんの助手だから平気よ。貴方結構料理嫌いじゃないでしょ?」





「・・・」





一夜、何故か何も言えず・・・





「それと・・・。明日、一緒に学校行こう」






「が・・・学校!???ま、待てよ。勝手に」







「いーからいいーから。ま、今日は休んで」





かすみは部屋を出て行こうとした。






「おいっ。かすみ・・・っ」







「なーに??」





一夜は少しもじもじしながら尋ねる。




「・・・お前の部屋は・・・どこだよ」





「隣よ。あ、そうだ・・・。忘れてた」








かすみは一夜に手を差し出した。










「改めてよろしくね。お隣さん」










「・・・」










一夜はかすみの手を握る・・・















トクン









トクントクン・・・











手を握るのは初めてじゃないのに・・・















緊張するのはなぜ・・・










ずっと握っていたいと思うのは・・・








何故・・・?












「・・・一夜・・・」










名前を呼ばれるだけで






こころ 踊る・・・










新しい部屋 新しい窓・・・







そして新しい






この未知のキモチ











再び





かすみと一夜の共同生活が始まったのだった・・・