久遠の絆
第14章 夢中になれるもの



17歳。




体力が有り余る年代だ。






昼間、店をてづだい、夜、勉強のため塾へ行く。




そんな生活が始まって3ヶ月。






「ねぇ。一夜、あんた・・・。背、伸びた?」






朝、二階の廊下で寝癖の酷い一夜とすれ違い様にかすみは言った。








「あー?んなことしるかよ」





「ほら!やっぱり伸びてるよ!」








(わわッ)






一夜に至近距離で近づき手を伸ばしてみるかすみ。






かすみの顔が目の前に・・・それに・・・






(・・・いい匂い・・・がする・・・)






一夜は頭の芯がじわぁっと熱くなる。






(なんだ・・・。この感覚・・・)





「5センチは伸びてるよ・・・」





「・・・」






「あれ・・・?あんた、何赤くなってるの?」





「・・・!なっ。なんでもねぇよッ」






一夜はあわてて部屋に戻る。









「??変なの・・・」











だがかすみは一夜の変化が嬉しい。





成長が嬉しい。








(彼が・・・。前向きな気持ちになってきてる・・・。
お母さん・・・)














夏の日差しに母を思い浮かべるかすみ・・・












「あっと。今日、レポート閉め切りだったんだわ。
全く・・・。学生の本文だけどふぅ・・・」











(一夜には・・・何か夢中になれるものが出来るといいな・・・)








かすみが一夜に最近思うこと。









人は何に没頭できるものがあれば、毎日生きているのが楽しくなる。







嫌なことが多少あっても




頑張ろうと思える。







(何かないかな・・・)











大学へ行く車の中でかすみはふと考えていた・・・











その日の夜。



「一夜、あんたどうしたの。その頭・・・」





一夜がおでこにたんこぶをつくって塾から還って来た







「ったく・・・。あの鋼牙って野郎・・・が・・・」









「・・・鋼牙くんが・・・?」







一夜の話によると休み時間にバスケに誘われたので
体育館で試合をしたのだが・・・







一夜と鋼牙は別々にわかれ、ゴールしたでボールを取り合っていたとき







”てめぇ!かすみ先輩と一つ屋根の下に住んでやがるって本当か”??”







”本当だったらなんかあんのか。やせ狼”






そう一夜が返事したときには鋼牙のバスケットボールではなく
拳が飛んできて・・・







結局試合は中断し、鋼牙のチームが勝ったことに・・・




「それでケンカしたっていうのね・・・。もう・・・」






かすみは消毒薬をしみこませた脱脂綿で一夜の額の傷を消毒する。









「だって。あの痩せ狼つっかかってきやがって・・・」






「全く。図体はでかいくせに中身はまだまだ子供なんだから・・・」





「ガキあつかいすんなッ!痛・・・っ」






傷口を押さえて痛がる一夜。






「消毒を嫌がるうちはまだまだ子供よ。ふふ」







かすみは笑いながら救急箱に絆創膏を閉った。






「・・・くっそ!!あんの鋼牙って野郎!今度ふざけたまねしやがったら
ぼこぼこにしてやる!」




と拳をあげて息巻く一夜。







「駄目よ!!何いってんの!暴力はだめ!!絶対だめ!!」









「う・・・」




かすみの迫力に負ける一夜。



だが負けたまま引き下がるなんて一夜の根性が許さない。






「だったら試合で勝ちなさい!特訓よ!」








「へ・・・?」









かすみはこれはチャンスだ、と思った。





慣れない環境で一夜の中で鬱憤がきっと溜まっていただろうと感じていた
かすみ。





それを発散させるならば・・・






(バスケはうってつけだわ。ふふ・・・)








・・・という訳で。










「いい?一夜。バスケはね。スピードと力だけじゃ勝てないのよ」






近くの空き地。







仮設のゴールをつくり





Tシャツとジーンズ姿のかすみがバスケのボールをついて
一夜にパス。






「って何する気だよ」





「何ってバスケの練習に決まってるでしょ!」





「練習?けっ。めんどくせぇ」



一夜はぽいっとボールを捨ててしまう・・・




「何よ。あんた鋼牙くんに勝つ自信ないんでしょ?」




「・・・。んだよ。オレがあの痩せ狼負けるだと?笑わせるな」



「じゃあ練習しましょう?どれだけ強い口叩いたって結果をださなきゃねぇえ?」



かすみの挑発的な言い方に一夜、すぐ乗ってきた。




「へっ。わかったぜ。結果って奴を出してやらぁ。でもな、オレは
練習なんてメンドクサイこ・・・」





かすみはボールをついて走る



かすみのTシャツ姿がなんとも・・・





可愛ゆく・・・



(///ミッキーマウスのTシャツだなんてかわいーもん着るなよ)




「ほら!ぼやっとしてないで私からでないとあんたのボールとるわよ!」






(・・・仕方ねぇな。付き合ってやるか)







一夜はかすみのミッキーマウスのTシャツに釣られて(笑)練習開始。






「へへ。かすみ。お前、本当にオレからボール取れると思ってンのか」



「ふふ。バスケはね。からだの大きさやスピードだけが
能じゃないのよ」





かすみよりはるかに大きい一夜。





力では当然勝てるわけがない





「ほーら。取れるものならとってみやがれ」




一夜は人差し指でボールを余裕の顔で回す。







かすみは一点をじーっと見つめて・・・



一夜に突進!








(///)




かすみのミッキーマウスの揺れる
Tシャツの二つの膨らみにドキッ









「!すきあり!!」





パアン!



かすみはジャンプしてボールをはじき、一夜からボールを奪取!





「あっ・・・。て、てめぇ!!」



「へへーん。ぼうっとしてるからよ」



不意を突かれた一夜。


バスン!


かすみは容赦なく軽くジャンプしてボールをゴールさせた。




「どう?体が大きいことだけが武器じゃないわ」





「・・・お前は体を武器にしたじゃねぇか。違う意味で・・・(ポソリ)」



「え?どういう意味よ」




(///)


一夜の視線がかすみの豊かな胸元に・・・



「な、な、なんでもねぇよッ」



「へーんなの。ま、いいわ・・・。ねぇ一夜。人間ね、何か
”夢中になれるもの”があるって大切なのよ」



「・・・また説教かよ」




かすみはボールを突きながら話す。



「現実が楽しくなかったり辛かったりしても・・・。夢中で無心になれる
ものがあるとね・・・。すごく支えられる・・・」





「・・・ちっ。説教臭せぇ話はいい。仕方ねぇから相手してやる」




「うん。じゃあ、今度は一夜が私からボールとってみてね・・・!」






夜のバスケコート。





街灯の下で一夜とかすみがゴールに向かって走る、飛ぶ・・・




体を動かしていると



少しだけ忘れられる・・・。辛い記憶も歯がゆい現実も・・・。




二人だけのコート。





一夜はからだが軽くなっていくのを感じる。



一つのことに打ち込む。


その楽しさ。その快感・・・。





(スポーツって・・・。悪くない)


素直にそう思う自分を感じる一夜。



そして何より・・・




「ほらほら〜。一夜。ちゃんとボールよく見て!」


「うっせぇ!ちょこまかとお前は動き回るから・・・」




目の前にいるかすみの笑顔が嬉しい。



自分がゴールにボールを入れれば



「よし!!やるじゃない!!一夜〜!!」


拍手して体全身で喜ぶかすみが・・・



嬉しい。




かすみの心が、今、自分だけを相手にしてくれている。


それを感じられて


・・・嬉しい。




(・・・もっともっとかすみを喜ばせたい)
一夜の心は・・・ バスケのボールのようにかすみの微笑を見るたびに・・・弾んだのだった・・・。 そして試合当日。 土曜日の夜7時。学校の真新しい体育館。 夜だけ、地域の人々に貸し出している。 そして今宵は塾のメンバーの貸切です。 ホワイドボードに『塾かすみちゃんのキス争奪バスケット大会VV』 なんて事が描いてあります。 「ちょっとちょっと、みんな、なんなのよーー!これは」 「だぁってさぁ♪こうしたほうが盛り上がると思って☆」 おかまばー『蛇』の五月ママさん。面白いことだ大好きなんです。 「ほおら。とくに狼さんが・・・」 五月ママが指さすのは資産家の狩谷家の御曹司鋼牙。 (かすみ先輩のキスはオレのものだ!) と、意気揚々。 「・・・。一夜ーー!!絶対勝ってよねーーーー!」 と、一夜に葉っぱをかけるかすみ・・・ (・・・。痩せ狼にまけらねぇ!) 一夜もガッツが入る。 そして試合が始って・・・。 一夜のチームが鋼牙チームに追いついて同点。 「一夜!!右右ーーー!!」 かすみのゲキが体育館に響く ゴール下で一夜と鋼牙の一騎打ち・・・ 一夜より少し大きい長身の鋼牙。 両手を広げてディフェンス。 「へっ・・・。犬っころにかすみ先輩の唇をやれるかってんだ! オレのディフェンス、抜けられるモンならやってみな!」 「・・・ハァハァ・・・」 息を切らせながら一夜はかすみの言葉を思い出す。 ”大きいだけが利点じゃないわ。どこかかならず”隙間”があるはず・・・” (・・・。あそこだ!) 「な・・・!??」 一夜は鋼牙のわき腹からボールをスルッとくぐらせる・・・! そして高く高くジャンプして・・・ ゴール・・・! 「やったぁ!!一夜ーーー!よくやったぁ!!」 かすみはコートに走ってきた一夜に飛びついた。 (な・・・!!!) その光景に鋼牙、ショック! 「は、は、離れろよ!!み、みんなが見てるだろ!」 「いいじゃない!嬉しいんだから!!うふ!一夜。かっこよかったよ!」 「///」 コートの真ん中でひっつく二人に五月ママが・・・ 「じゃあお二人さん。お約束だよ。CHUーして☆」 「だぁああ!!やめろーーー!し、神聖な唇がー・・・」 バキ! 暴れだそうとしている鋼牙を五月ママがねじ伏せる。 「じゃあ。一夜。用意はいい?」 「よっ。用意って・・・(照)」 向かいあう二人。 一夜は目を閉じてかすみのキスを待つ・・・ (キ・・・キスって・・・。ど、どんなモンなんだろ・・・(ドキドキ)) 一夜、緊張しております・・・ 「はい。私からの贈り物V」 CHUv 「なっ・・・」 かすみのキスはキスでも、なんと投げキッス。 「私の練習に付き合ってくれたご褒美だよ。ふふ」 「ご、ご褒美って・・・、そ、それだけかよ!」 「・・・それだけって・・・。あんたまさか本当にキスするって思っていたの?」 「・・・!べ、べ、べ、別に・・・っ」 「あのねぇ!!女の子のキスっていうのは本当に好きな人とするもの なのよ。バスケの試合の景品でできるわけないでしょ」 (ほ、本当に好きな人・・・って) 何だかちょっぴりがっかりな一夜です。 「一夜・・・。バスケ、楽しかった?」 「あ?ま、まぁそれなりに・・・な」 「それなりに・・・か。うん。それで充分。楽しいと思えたことが大切なんだから」 ”夢中になれることがあるってとても幸せなこと” 今ならかすみの言った言葉がすごく分かる気がする・・・ 「一夜。私も楽しかったよ・・・。一夜が元気な顔でバスケに夢中になってる姿をみられて・・・」 「けっ・・・」 「これから一緒にもっと・・・。楽しいこと、嬉しいこと、見つけていこうね・・・」 優しい微笑み・・・ 一夜ははっきりと自覚する・・・
(オレが今夢中なのは・・・かすみだ)
芽生えた17歳の恋心。 その結末は・・・。 まだ誰も知らない。