久遠の絆
第二章 ぶつかり合う日々の始まり
息を荒くして・・・
かすみを睨む少年・・・
まるで今にも牙をむいて飛び掛ってきそうな気迫だ・・・
「・・・。じゃあ今度は貴方。貴方の名前、おしえて」
「・・・うるせぇ・・・。オレに近づくな・・・」
震える手には・・・
ガラスが握られている・・・
「・・・おしえてくれるかな・・・」
「・・・出ていけ・・・」
少年の手は・・・
まるで中毒症状のように不気味に震える・・・
「・・・」
「出て行けっていってんのがわかんねぇのかーーーーー!!!」
ガタン!!
「・・・出て行け・・・」
グ・・・
かすみの首を・・・
少年の長い指が締め付ける・・・
「かすみ・・・!!」
駆け寄ろうとする月森をかすみの手が止めた。
「・・・。みんな出て行け・・・。でないと殺す・・・!」
月森を睨み、近づけさせない・・・
「・・・!?」
すっと・・・
少年の頬に
触れるかすみ・・・
「ごめん・・・」
「・・・」
「そうだよね・・・。いきなりごめん・・・」
かすみの瞳をじっと射抜くように見下ろす・・・
「・・・。ごめんね・・・」
微笑みかける・・・
「・・・」
少年の手が
静かにかすみから離れた・・・
「かすみ!!大丈夫か!」
「・・・大丈夫です・・・。彼・・・。全然力入れてなかった・・・。
私、しゃべられた」
「え・・・?」
かすみはスカートのしわをポンポンとはたいて立ち上がった。
「大丈夫か・・・?本当に・・・」
「初対面でへこたれてられないもの・・・。それに”彼”との最初の関わるきっかけを・・・。どうしても
どうしても作りたいんです・・・」
かすみの真剣な眼差しに月森は一息ついて頷く
「きっと名前・・・教えてもらいます。彼の言葉で・・・
まずはそこからはじめなくっちゃ!」
頬の傷を気にもせず
張り切るかすみ・・・
かすみは再び部屋の隅に座り込む少年に少し近づいてしゃがみ話した。
「・・・。私ね。今日からここにしばらく泊まるの・・・。よろしくね」
かすみの言葉に少年は
背を向ける・・・
「・・・。明日、また、会いにくるね・・・!」
パタン・・・
扉を閉め、かすみたちは部屋を出た・・・
「ふぅー・・・。最初の挨拶・・・。こんな感じかな・・・」
「・・・。かすみ。本当に大丈夫なのか・・・?」
「先輩・・・。私・・・。彼の目、みたら今、逃げちゃいけないって思った・・・。
彼から逃げることは
自分から逃げることになる・・・。だから私・・・。諦めません」
「かすみ・・・」
頬の傷も気にせず
手の甲の擦り傷にも痛がらず・・・
笑顔を見せるかすみ・・・
かすみのこの強さはどこからくるのか・・・。
月森がかすみに一目置いている理由はそこだ・・・
「・・・じゃ!あたしも荷物の整理とかあるので失礼します」
「待ちなさい」
月森はハンカチでかすみの頬の血をそっと拭き取った・・・
「絆創膏を後でお手伝いに持たせる・・・。ちゃんと手当てしておきなさい」
「・・・は、はい・・・」
紳士的な月森の行動にちょっと頬を染めるかすみ・・・
「じゃ、おやすみなさい!」
部屋に戻っていくかすみの後姿を月森は
じっと見送った・・・
その夜。
パジャマ姿のかすみは机に向かい
日記をつけた。
『第一日目。”彼”と出逢った』
彼は
かすみと運命的な絆がある。
机の上の一冊の古い新聞・・・。
日付は17年前の今日だ・・・
『北岡銀行駅前支店に白昼に強盗が入る』
そんな記事が載っている・・・
『犯人・高岡俊樹(31)は銀行から逃走する際、人質にした女性客の久遠初子さん(30)を壁に突き飛ばし
頭部を強打させ・・・』
クシャッと新聞を握り締め、ゴミ箱に捨てるかすみ・・・
ゴミ箱の新聞記事の続きはこうだ
犯人の高岡俊樹は身重の女をつれて逃亡・・・
時効も過ぎ・・・
事件は迷宮入りするかと思われた
そして一ヶ月前・・・
山に囲まれた小さなまちのアパート・・・。
初老男女の遺体が発見された・・・
男は高岡俊樹。
17年前。かすみから母を奪った男・・・
そして女は高岡の内縁の妻・犬飼小夜子。
病死したと思われる高岡の横に・・・
小夜子も後を追うように倒れていた・・・
枕元には薬の瓶が倒れて・・・
滞納していた家賃を催促にいったアパートの大家が発見したのは
それだけではない。
動かぬ母が横たわる布団の横で
髪の長い若い少年が震えていた・・・
それが『彼』だ・・・
保護された少年・犬飼夜摩斗。
彼は完全に心を閉ざし、保護され、栄養状態も悪く入院した。
だが・・・
”離せ。離せえぇえええーーー!!!”
暴れ錯乱する彼は
何度も病院を脱走を図り・・・
誰も手が付けられずこの一ヶ月、病院を転々として・・・
そして・・・
月森が”後見人”として彼の治療を託されたのだ・・・
”君に会わせたい人がいる・・・”
そう切り出され、月森から彼の心と向き合うことを依頼されたかすみ・・・
17年。
かすみにとっても彼にとっても
長すぎるそして重過ぎる時間。
親子3人、身を潜めて逃亡生活を送ってきた
時効がすぎても
彼らは人を避けるように至る所を転々としていた
母親が書いたと思われる日記・・・
その日記には17年間の逃亡生活の全てが明確に記された。
特に息子のことを
警察の追っ手から逃れるため、子供にまで偽名を使わせ、
ロクに学校へも行かせてやれなかった・・・
日記には息子への贖罪の念が綴られており・・・
日記のコピーをくまなく読み返すかすみ・・・
「ふぅー・・・」
ベットに寝転がるかすみ・・・
コピーをぼんやり見つめる。
「・・・お母さん。このめぐり合わせはお母さんの仕業なの・・・?」
母の写真を見つめ問うかすみ・・・
一週間前だった・・・
”月森から高岡俊樹の息子を君に診てほしい・・・極度の人間不信・・・社会への拒絶・・・。
君に彼の心と向き合ってほしいんだ・・・”
突然の月森の申し出に
かすみはただ驚愕した・・・
高岡俊樹が生きていたこと・・・
20年たって発見されたこと・・・
そして息子がいたこと・・・
自分の母を奪った男の息子
”君に彼の心と向き合って欲しいなんて・・・残酷極まりないと
わかっている・・・。だがこれも何かの運命だと思わないか・・・?”
月森の申し出に
かすみは最初、とても迷った・・・
"かすみ逃げて・・・!"
母のあの必死な瞳が忘れられない
自分の存在を疎むものばかりだったこの世の中で
無二の唯一の存在だった
母
命をはって娘を守ろうとした母・・・
(・・・高岡俊樹・・・。貴方は絶対に許せない・・・。生きていたらきっと・・・)
かすみは何度も寝返りを打つ・・・
自分から宝物を奪った男。
その息子の心とぶつかり合おうとしている・・・
(私に・・・できる・・・?私に・・・)
日記の続きを読むかすみ・・・
息子にまともに学校へもいかせてやれなかったこと、
怯え育っててしまったこと・・・
息子への懺悔がぎっしりと書かれていて・・・
『この日記を発見した人にお願いです・・・。残された息子を
どうか・・・。どうか、人並みの生活ができるよう、導いてやってください・・・
不幸な親の元に産まれてしまった息子を・・・。この子には罪はないのです
・・・。どうか・・・。どうか、この子に人並みの幸せを与えてやってください・・・』
小夜子の最後の日記にそう・・・しめくくられていた・・・
(・・・人並みの幸せ・・・。ならどうして罪を償おうって思わなかったのよ・・・。
彼を残して勝手に死んで・・・)
子供を残して死ぬ・・・
きっと母親は苦渋の選択だったのだろう
(どうして”死”ぬことで全てを片付けるの・・・!!あなた達が死んでしまったら
お母さんは・・・お母さんは・・・)
グシャリ・・・!
日記をクシャクシャにし
枕に顔を埋めるかすみ・・・
この湧き上がる憎しみと虚しさと
向き合おうと決意したのに
まだ時々負けそうになる・・・
(・・・。お母さん・・・。お願いよ・・・。あたしを・・・
導いて・・・。お母さん・・・)
眠るかすみの頬を・・・
小さな粒が静かに流れ、枕に染み込んだ・・・
次の日から
かすみと少年の心のぶつかり合いの日々が始まった・・・
・・・シリアスすぎますか(滝汗)シリアスでも、かごちゃんの
ようにカラットした前向きさをもった女の子がいれば
シリアスも息苦しくはならないと思います。
なんか第二章は説明的になってしましました。色々な設定入れ込みすぎかな。
でも頑なな心に向き合う、寄りそうかすみちゃん・・・というか
そんな女の子がすごく書きたくて。
・・・二股とか三角関係とかという設定に少々疲れてきたり(え)
獣のような犬っちの心をかごちゃんはどう
接していくのか。そういう辺りをゆっくり書けたらなぁと思います。