第20章 守らねばならぬ真実 朝5時。洋食屋の厨房はもう明かりがついている。 「おう犬君、じゃあそれ頼むよ」 「おう」 利三おじさんと一夜がナイフで野菜を切る。 「ほう・・・、大分様になってきたじゃないか」 「そうだろう」 一夜、かなり自信満々。 だが料理人の世界はそんなに甘くはない。 「だがこれはまだお客様に出すほどのモノじゃねぇ。 ワシらの味噌汁の具にしよう」 「な・・・!?」 不満そうな一夜に利三おじさんはあの”呪文”を言う。 「一に修行、二に修行、三、四の向こうにかすみちゃんの愛!」 「う・・・っ」 「・・・恋も修行も年季がいるよ。犬君や」 「わ、わかったよ・・・ちぇ・・・」 「ふふ・・・」 ”利三おじさん、一夜・・・きっと前向きに、 きっと頑張るから・・・。見守ってあげて。お願い” かすみが利三にそう頼んだあの頃から比べて大分 素直にそして元気になってきた。 (ワシの力より・・・犬君の原動力は かすみちゃんじゃよ) 不器用にジャガイモを切りなおす一夜の姿に 利三おじさんは穏やかに微笑んだ・・・。 「今日は私、大学の方、早く終わったの。お店、手伝うわ」 ちょうどお店が書き入れ時の12時。 かすみは白いエプロン姿でお店のウエイトレスにはや代わり。 (///) かすみのウエイトレス姿に一夜、ちょっとウットリ・・・。 「いいのう。若い子は・・・。かすみちゃんみたいな ウエイトレスがいたら店に花が咲くわい」 「・・・う、うるせぇ(照)」 厨房の男達の会話に。 「枯れたウエイトレスで悪かったね!くっちゃべってないで 仕事しな!!」 菊枝おばさんがどん!と注文表を持ってきた。 「・・・。犬君。女は怖いもんじゃ・・・。 かすみちゃんはああならないようにしっかりハートを 掴んでおくんじゃぞッ」 「・・・う、うるせぇったら///」 しゃかしゃかと、泡だて器で卵を溶く一夜。 店から聞えてくるかすみの声に とある未来予想図が描かれた。 ”一夜、注文ははいったわよ!お願い” ”おう!” 自分がシェフになり、かすみがウエイトレス。 二人でお店を開いて・・・。 (・・・か、かすみと二人で・・・。け、結婚して・・・ ・・・それから、それから・・・) ”ダーリン・・・。愛の結晶・・・できたみたい・・・” (///お、俺とかすみの・・・vv) ニタニタ・・・にやにやv 恋する犬君の想像は尽きません(笑) 「犬君、泡立てすぎじゃ〜!!」 想像しすぎて泡だて器が壊れるくらいに・・・v 「いらっしゃいませー!」 お昼は近所の会社のサラリーマンやOLさんなど お客さんの波は絶えない 1時半をまわるとようやくひと段落・・・。 「あ、八百屋の高おじさんいらっしゃい!」 「おー。かすみちゃん一段とかわいいねぇ」 野菜を注文している近所の八百屋の高おじさん。 かすみは幼い頃から可愛がられた。 「うう。おぢさん、かすみちゃんみたいな かわゆいこみるとこう・・・ムラムラきちまう」 「んもー。おじさんたら相変わらずなんだから」 ・・・助平なところが玉に瑕。 「かすみちゃん。おじさんの嫁に来ないかい? かすみちゃんの花嫁姿みてぇなぁ」 (なっ) かすみの手を握ろうとしたおじさんを一夜は割って入って 阻止。 「お。居候のぼっちゃんかい」 「うっせぇ!助平じじい!」 「こら!一夜!」 「ははは、威勢がいいねぇ。男は助平で何ぼだぞ。坊や。 お前さんもかすみちゃんのこの姿にくらくらっときたろー??」 (・・・///) 大分きてた一夜(笑) というか萌えてたね(笑) 「もう。おじさんも一夜からかわないでよ。まだ子供なんだから」 (こ、子供・・・) ショックな犬君! 「ふははは。でもなぁ犬君。おめぇは幸せモンだ。 かすみちゃんにこんなにしてもらって・・・。昔のあの”一件”が あったから・・・」 「あの一件・・・?」 (!!) かすみと利三おじちゃんははっと高おじさんの口をふさいだ。 「ふががが!」 「あ、おじさん、もう帰っていいよ。じゃあね!」 バタン!かすみは無理やり高おじさんを店から追い出した。 「・・・おう。なんでい”あの一件”ってのは・・・」 「な、なんでもないわよ」 「・・・?何隠してやがるんだ。言えったら!」 「なんでもないって言ってるでしょ!しつこい男は嫌いよ!!」 ”嫌いよ・・・嫌いよ・・・” (・・・(傷心)) 一夜の心にガガーンとエコー・・・。 「い、犬君・・・。だ、大丈夫かい?」 目が点になってる犬君・・・。 利三おじさんは一夜の顔の目の前でパタパタ意識確認・・・。 「こりゃだめだ。犬君。失恋の一度や二度なんじゃ。 しっかりせい!」 (かすみに嫌われた・・・。嫌われた・・・) それから1時間、一夜は固まったままだった・・・。 合掌(笑) 一方、かすみは一夜とは全く違うテンション。 シリアスで深刻な顔で自分の部屋で母の写真を見ていた。 (・・・。絶対に”過去のこと”だけは・・・。 一夜に知られちゃいけない・・・) 過去のこと・・・。 それは一夜の両親こと・・・。 (・・・両親の過去こと・・・。両親が警察に追われていた・・・。 ことは知ってるみたいだけど・・・。”何をした”かまでは 知らなかったはず・・・) せっかく前向きになってきた一夜には絶対に知られたくない。 そしてもう一つ・・・。 (一夜のお父さんの事件に私の母が巻き込まれたこと・・・) これだけは これだけは知られてはならない。 (やっと築けた・・・一夜と信頼が・・・。壊れてしまう・・・。 それだけは・・・それだけは・・・) かすみは母の写真ぎゅっと胸で握り締める・・・。 (守らなくちゃ・・・) かすみはこの”真実”だけは 隠し通そうと改めて誓った・・・。 一方・・・。 (かすみに嫌われた嫌われた・・・) かすみの言葉にいまだ、意識が戻らない一夜。 「かすみちゃんや。犬君、復活せん。なんとかしてくれ」 「んもう〜。一夜。私、一夜のこと、嫌いじゃないから安心して」 嫌いじゃないから・・・ 嫌いじゃないから・・・ かすみの声が一夜の脳細胞を復活させていく。 「はっ。あ、当たり前だろ。俺はお前に嫌われるようなことなんて してねぇからな!」 やっとふてぶてしい犬君が復活! (よかった・・・。嫌われてなくて・・・) 初恋少年一夜。 ハートブレイクしたり、忙しい恋する少年です。 「ところで・・・。”あのこと”ってのはなんだ。 気になるだろ」 「え?あ、そ、それは・・・」 「それはー??」 テレビのリモコンをマイク代わりにかすみに突きつける一夜。 「・・・い、一夜と・・・私が・・・」 「俺とお前がー?」 「・・・恋人同士に見えたって高おじさんが言ってたの。 て、照れくさいじゃない・・・」 テレビのリモコンを頬に当てて 照れくさそうに身をよじるかすみ。 そんなかすみに一夜が・・・さらに。 (・・・萌///) 「な、なんでお、俺とお前が・・・っ。お、オレ、 ちょっと部屋もどるぜッ」 明らかに声がうわずって嬉しさが溢れてますよ犬君(笑) 「あー・・・。重症じゃの。犬君はかすみちゃんに」 「え?どういう意味?」 「・・・かすみちゃんの鈍感さも重症じゃのうほっほっほ」 利三おじさんは湯飲みをぐいっと 置いた。 「・・・でもおじさん・・・。一瞬焦ったね・・・。昼間は・・・」 「そうじゃの・・・。高蔵(高おじさんの本名)のアホが 口走りおって・・・」 かすみも利三おじさんも一転、シリアスな顔に・・・。 「・・・隠し通さなきゃ・・・。やっと一夜が元気になったんだもん」 「・・・万が一・・・。知れてしまったときはどうすんじゃ・・・?」 「・・・。私が全身全霊で・・・話し合うから・・・」 一番恐ろしい結末 一番重たい展開。 (そうなったとしても・・・私・・・。私は逃げないわ) かすみの願いは唯一つ。 一夜が強くそして幸せに生きていくこと・・・。 (・・・お母さん・・・。私と一夜を・・・見守って・・・) 居間の窓から月を見上げるかすみ・・・。 願わずには居られない。 やっと幸せへと歩き出した一夜が・・・立ち止まることが無いように・・・。 其の頃一夜といえば・・・。 ”私、一夜のこと、嫌いじゃないわよ” (嫌いじゃない=好き=恋愛感情・・・(想像)) 枕をだきしめて妄想を膨らませていた・・・。 (・・・嫌いじゃないのか・・・(喜))