久遠の絆
第22章 深まっていく疑問 恋する一夜17歳。 恋をしていたら何にでも 変身する。 (・・・。誰と会うんだ) 喫茶ってんに怪しい黒い野球帽の男がひとり。 「あの・・・。ご注文は・・・」 「あ?水くれ水」 戸惑う店員をよそに 一夜は二つ先のテーブルに座るかすみから目をそらさない。 (・・・今日は大学とかいっておきながら・・・。 こそこそと・・・) 何だかこれじゃあストーカーな状態ですよ(笑) (あ・・・) かすみの向かいに座ったのは (なんだ、あのやぼったいおやじは!?) 中年の男だった。 恋する少年の想像。 (ま・・・まさかかすみの奴。道ならぬ恋を・・・!?) 目くるめく想像。 禁断の恋をかすみはしているのかと一夜君は昼ドラ並の 想像を巡らせる。 (ん!?なんだ、かすみの奴に何か見せてるぞ!?) 何か紙切れを男はかすみに差し出して かすみの表情がかなりこわばった。 (あ、あの親父・・・ま、まさかかすみに・・・。 無理やりに・・・!!) 犬君の妄想劇場。 なぜだかかすみちゃんがお姫様で親父が悪代官。 ”ぐははは。いいではないか” ”きゃあ。あーれー” お約束の帯をひっぱってくるくるまわるかすみ・・・。 (あんのおっさんめーーー!!) 「くぉっら!!てぇめぇえ!!」 「い、一夜!?」 「表にでろい!!」 一夜は男の襟をつかんで店から飛び出した。 「汚い手でかすみに触るんじゃねぇよ」 一夜は男をゴミ捨て場に追い込んだ。 「一夜!やめなさい!!」 「んだよッ。かすみ。こいつ、かすみに手荒な真似を・・・」 「その人は私の恩師なの」 「え・・・」 一夜の手が男の襟からぱっと離れた。 「もう〜。はやとちりなんだから〜」 男は背広のボタンをしめてたちあがる。 「ふははは。この少年が一夜くんかい。 話には聞いていたけれど元気がいいねぇ」 「先生ごめんなさい」 (先生!?) 状況がつかめない一夜。 3人は公園に移動した。 中年の男の正体は・・・。 「私が小さい頃・・・。いろいろお世話になった学校の先生なの」 「・・・学校の先生?」 男の名は杉田。 今は退職はしているが元教師だ。 「そ、その先公がなんのようなんでい」 「実はね。今度還暦を迎えられるっていうから 私、そのお祝いを渡していたのよ」 杉田はぴらっと スーツの懐から万年筆を取り出した。 「どうだい。なかなかの代物だろう?ふふ」 「けっ」 一夜、とんだ自分の勘違いに ただ、そっぽをむくだけで・・・。 「ほほほ。これまた噂どおりの意地っ張りなこと。 ワシも頑固だが君には負けそうだな」 「うっせー。ふんっ」 一夜の高飛車な態度にかすみはフォローできず。 「じゃあかすみちゃんワシ、そろそろ行くよ」 「あ、はい。じゃあ杉田先生、また・・・」 かすみは杉田の背中が見えなくなるまで何度も 会釈して見送った。 そして一夜とかすみの帰り道。 かすみはむっつりとした顔。 (・・・やっぱ・・・怒ってるか) 一夜、ちょっと背中を丸めてかすみの後ろを 歩いています。 「な・・・なんでい。へこへこして」 きっとかすみは一夜を睨んだ。 びびって立ち止まる一夜。 「あのねぇ!!あの先生は私の命の恩人なの!! あの先生がいなかったら私は・・・」 はっとかすみは口を手でふさいだ。 「私は・・・。なんだよ」 「な、なんでもないわよ。と、とにかく・・・。 もう絶対に杉田先生には失礼なこと言わないでね!じゃ!」 「あっ」 すたすたとかすみは先に帰ってしまう。 (くそ・・・。なんでい) かすみのあの態度・・・。 (”色々”って。何だ) かすみの幼い頃・・・。 母親は亡くなったと聞いてはいるが・・・。 (・・・知りテェな) かすみのことは何でも知りたい。 恋する欲求は止められない。 「あの・・・。もしもしあの・・・」 一夜がこっそり電話をかけた相手は・・・。 「で。話とはなんだい?」 杉田だった。 あの喫茶店に呼び出した一夜は・・・。 「こ・・・。この間はすんませんでした!」 頭を下げる一夜。 「いやいや気にしてはいないから」 「そ、それならいいんですが・・・」 一夜はゴクゴクと水を飲み干す。 「あ、あの・・・それで・・・」 「かすみちゃんの小さい頃のことを聞きたい、そうじゃろう?」 「えっなんで・・・(汗)」 「わはは。年寄りは勘が鋭い・・・というか、君の顔を見たら誰でも 分かるワイ」 (・・・どういう意味でい) 分かりやすいということです。 「かすみちゃんの子供のころかぁ。ふふ。めんこかったぞー。 そりゃあもう・・・」 「そ、そうでスか。つーかかすみの母ちゃんとかのこと聞きたいんですけど・・・」 「かすみちゃんのおっかさんも美人だったなぁ・・・」 「・・・で。あ、あの・・・。どうして亡くなっ・・・」 どおん!! 杉田は突然テーブルをけたたましく叩いた。 (わっ。なんだ!?) 「かすみちゃんのお母さんは生き取るワイ!!かすみちゃんの・・・。 かすみちゃんの心の中でな・・・うっうっ・・・」 「・・・(汗)」 ハンカチを取り出しておいおいと泣き始める杉田・・・。 一夜は何だかそれ以上聞けなくなってしまって・・・。 (妙に・・・。話を逸らされた気がするぜ・・・(汗)) 「いやぁおごってもらって悪いねぇ」 「いえ・・・。呼び出したのはこっちスから」 喫茶店を出た二人。 「んじゃあワシはこれで。楽しかったよ」 「は、はぁ・・・」 本とはモット詳しくかすみのことを知りたかった・・・。 とぼとぼと 帰る一夜を・・・。 「一夜君」 杉田が呼び止める。 「・・・ワシの口からいえることは唯一つ・・・。 どんなことがあってもかすみちゃんを信じるんじゃ」 「え・・・?」 ”何があってもかすみ君を信じられるか” いつか、同じような台詞を月森から聞いたことが過ぎる。 「そんじゃあな」 杉田の紺色のスーツの背中を・・・。 一夜はただ見送る。 ”かすみちゃんを信じるんじゃぞ” 杉田の言葉の意味を必死で推理しながら・・・。 「ただいま・・・」 「あ、一夜ちょっとキテキテ!!」 曇った心のまま帰るとかすみが一夜の腕を引っ張って自分の部屋に 連れて行く。 (な、なんなんだ) 一夜、ちょっと大人な想像を一瞬めぐらせた。 ・・・17歳。 「じゃーん!」 かすみが一夜の見せたものは・・・。 「それ・・・」 「フフ。スカーフ縫っちゃった。ほら。ここに 名前いり☆」 赤色のスカーフに白で一夜と刺繍してある。 「これ・・・。シェフ服に似合うと思うんだ」 背伸びして一夜の首にそっと巻く。 (・・・ドキ) かすみの息が少しかかって 緊張する、17歳。 「よく似合ってる。ふふ・・・」 「・・・い、いやそういうわけでもないけど・・・」 「私ね、厨房に建ってる一夜、すごく好き」 (すっ好き!???!??) その二文字は 恋する17歳にとってこのうえなく 心躍る言葉。 (お、お、オレいまもしかして・・・。コクハクされてんのか!??) 言葉を大きく解釈して・・・。 「沢山の人に一夜のつくった料理、食べてもらいたい。 っていうか・・・私が食べたいのかな」 (わ、私を食べて欲しい!!!??) 言葉をかなり勘違いしたり・・・。 「あ、ごめん。妙なプレッシャーかけちゃうね。 こんな言い方」 「べッ別に気にしてねぇ」 それより かすみの部屋の香りに 全身のアンテナが・・・。 「お、俺も・・・。ま、まぁやってみるさ・・・。 りょーりは嫌いじゃないしな・・・」 ちょっと照れくさそうにかすみから視線をそらして呟く。 「一夜・・・」 (わわッ!!!!) かすみはがばっと一夜に抱きついた。 突然の抱擁に 一夜はパニックやら・・・ でも・・・ (・・・い、いい・・・いにおい・・・だ・・・) 嬉しいやら・・・。 (お、女の体って・・・や、やわらけぇ・・・) どさくさにまぎれて 抱き返してみたり・・・。 「あ、ご、ごめん。一夜が嬉しいこというからつい・・・」 (・・・///) 前向きなことを言って その都度、抱きしめてくれるなら 何度でも言ってもいい。 そんな気持ちにさえなる・・・。 「・・・私も一緒に頑張るから・・・。一夜」 「お、おう・・・///」 ”何があってもかすみちゃんを信じるんじゃぞ・・・” 杉田の言葉に どんな意味があるのか分からない。 少し不安だけれど・・・。 (・・・俺は・・・。頑張る・・・。自分のために・・・。そして かすみのために・・・。かすみを信じて・・・) かすみを信じる・・・ 不思議な力が沸いてくる・・・ (かすみを信じる・・・) 一夜は何度もその呪文を唱える・・・。 温かなチカラが 沸いてくる・・・。 深まる疑問を払拭したのだった・・・。 だが・・・。 一夜が真実を知る日は 近い・・・。