一夜の心に沸いた疑問は 忙しい毎日の中で少しずつ薄れていった。 「一夜ー!3番テーブルお願い!」 「なんで俺が運び役なんだ」 忙しいランチタイム。 大学が春休みでかすみも手伝い、一夜はなぜか ボーイさん。 「文句言ってないで!下住みするのも修行のうち!」 (・・・なんで俺がかすみの下なんだ) むっとしていると。 「・・・おお。若夫婦って感じでいいなぁ」 お客の一人がかすみと一夜を見て呟いた。 (わ、若夫婦・・・) ”貴方・・・3番テーブルお願いします” ”おう。任せとけ” 新婚の二人が店を開く。 (・・・。わ、悪くないかも///) ぽわーんと一夜の脳裏では新婚生活が映写されております。 「んもう!一夜。邪魔!さっさと運んで!」 (かすみと夫婦か・・・) 忙しい店の真ん中で 恋する17歳の妄想は膨らむばかり・・・。 恋は 人を変える。 ・・・良くも 悪くも・・・。 「こんにちはー!かすみちゃんいますかぁー??」 或る日。 かすみの友人がかすみの忘れ物を届けにきた。 「犬君〜。ちょっと出てくれんかの〜。ワシ、出られんのじゃー」 利蔵の声がトイレからする。 (ちっしかたねぇな) 玄関で、かすみが使っているファイルを友人から一夜は受け取った。 ピンクの透明のファイル。 (・・・かすみ色だな///) 恋する男は ロマンチストにもなる。 (かすみの机の上に置いときゃいいだろ) かすみの部屋へと上がっていく。 (・・・かすみの部屋か///) 部屋に入る理由ができて嬉しい。 ヒラリ (ん・・・?) ファイルから何かが落ちた。 (新聞記事・・・?) 少し茶色に変色した新聞記事が落ちた。 (なんでい。古臭い・・・) 何気なく記事を読む。 日付は18年前 『白昼の襲撃!!銀行強盗現る!!』 (・・・なんでかすみがこんなもの・・・) 一夜の胸に 微かな不安が過ぎる。 ゆっくりと詳細を読んでいく・・・。 『逃走する際、銀行へたまたま来ていた 清澄さん(25)才を突き飛ばし』 (清・・・澄・・・) 犯人の名前が 一夜の不安にトドメを刺した・・・。 ヒラ・・・。 一夜の手のひらから新聞記事が 崩れるように 静かに落ちた・・・。 全身の力が抜けていく・・・。 知ってしまった真実に・・・ (親父が・・・。かすみの・・・母親を・・・) ”殺した!!” ドスン・・・。 その場に座り込む・・・。 (・・・オレの親父が・・・親父が・・・) いつか かすみが言った台詞の意味が やっと分かった・・・ ”貴方は二人分の命を背負っているの・・・!” (・・・かすみの母親の命・・・。オレの親父が・・・) 脱力していく。 思考が止まってしまった一夜は ふらりと・・・ 家を出た・・・。 夕方。 帰宅したかすみに新聞記事を持った利三が事情を話す。 「・・・これを一夜が・・・」 「ワシがトイレなんかしてなかったら・・・。すまん。かすみちゃん」 「ううん。いいの。いつかは”この日”が来ると思ってた・・・」 そう・・・。 真実を知る一夜と向き合う時が。 「犬君、ショックじゃろうて・・・。どうしたらいいもんか・・・」 「・・・」 一夜のショックは相当なものだろう ・・・かすみの胸がじんじん痛む。 空気が入った風船を 細い針でつついているような 不安感と緊張がかすみを包む。 (・・・一夜・・・。お願い・・・。自棄にだけはならないで・・・) 「おじさんは家で待ってて!私探してくる」 「探してくるっていってったって居場所知ってるのかい!?」 「・・・」 バタン! かすみは夕食もとらずに 探しに出た。 (・・・多分・・・あの場所・・・) 薄闇・・・。 かすみがたどり着いた場所・・・。 そこは・・・。 (・・・お母さん・・・) 18年前。 その場所は小さな銀行の支店だった。 今は更地になっている。 (お母さん・・・) かすみの母が 事件に巻き込まれ倒れた場所・・・。 更地の真ん中に・・・。 ぽつんと一人・・・ たっている 「犬・・・夜・・・叉」 うな垂れた・・・ 大きな背中・・・ 小さく見える・・・ 「・・・かすみ・・・」 絶望感が 絞り出された声から 充満してる・・・。 (二度目の・・・会話が始まる・・・) 一夜と 再び向き合う覚悟を かすみはしていたのだった・・・。