久遠の絆
第24章 真実と決意
一夜の背中が 近づくなと物語っている。 「・・・。来んな・・・」 ジャリ・・・。 かすみは近づく。 「・・・来るなっていってんだろ!!」 一夜の怒鳴り声も かすみは全て受け止める。 「・・・頼むから・・・来ないでくれよ・・・。お前にオレは・・・ 顔・・・向けられない・・・」 「・・・わかった・・・。でも私、ここにいる」 「・・・」 「私・・・。貴方と出会えてよかったって 思ってるよ・・・」 きっと。今はどんな言葉を言っても無駄かもしれない。 (でも逃げちゃ駄目なんだ) 「一夜・・・。お願い私の顔を見て・・・」 「・・・」 一夜の背中は・・・ アスファストのコンクリートより固くかすみを拒絶して・・・。 「・・・頼むから・・・。一人にしてくれよ・・・」 かすみの顔を見られない かすみの大切な母を奪ったのが ・・・初めて恋した人の母の命を奪ったのが 自分の父だなんて (・・・頭ン中がぐちゃぐちゃだ・・・) バン!! バン!! 「一夜!?」 一夜は自分の額を地面にゴンっと打ち付ける 「や、やめて・・・!!」 「オレは・・・オレは・・・オレは・・・ッ!!」 「きゃあッ!!」 凄い力で跳ね飛ばされるかすみ・・・ 「ああぁ・・・オレなんかオレなんか消えちまえばいいんだ・・・っ!! こんな人間・・・ぁあああああッ!!!」 小さな子供が癇癪(かんしゃく)を起こすように 行き場のない怒りを 不安を 固い固いコンクリートに打ち付ける 打ち付けるしかない・・・ コンクリートに 赤い血が滲んで・・・。 「一夜・・・!!やめてお願い・・・!!お願いだからやめてぇ・・・ やめて・・・やめて・・・」 かすみのすすり泣く声も 錯乱した一夜には届かず・・・ 「あぁああ!!オレはぁオレはぁあッ!!!消えたい わぁああッ!!!」 パン・・・ッ!! かすみの平手が・・・ 一夜の頬を打って・・・ 一夜の癇癪が止まった・・・ 「嫌よ!!アンタが消えたら私の心が死んじゃうものッ・・・!!」 「かご・・・め・・・」 ハッと我に返ったら・・・ なんてかすみは哀しそうな顔をしているんだろう なんて痛々しい瞳をしているんだろう 「・・・私の・・・母の命が・・・アンタのここに・・・ ここに繋がってるのよ・・・」 止まらぬ涙をぐっとこらえつつも・・・ かすみは一夜の心臓に触れる・・・ 「お願い・・・。わがまま言ってもいい・・・。愚痴ってもいい・・・ ・・・消えたいだなんて・・・。自分を否定だけはしないで・・・。 母の命を・・・否定しないで・・・っ」 「かすみ・・・」 それはまるで ”私を否定しないで” と聞こえるのは何故・・・? 「・・・たった一つのしかない命・・・。 お願い・・・お願いだから否定しないで・・・」 かすみの両手は・・・ そっと一夜の頭を抱き寄せる・・・ 「・・・恨んでなんてない・・・。あなたに出会えて嬉しかった・・・。 だから・・・。消えるなんていわないで・・・。そばにいて・・・」 「・・・かすみ・・・」 (聴こえる・・・) トクントクン・・・ かすみの心臓の音・・・ 優しい音・・・ 一夜の荒れた心を 落ち着かせる・・・ 「・・・かすみ・・・。暫く・・・。こうしててくれ・・・」 「いいよ・・・。一夜が消えないように・・・ ずっとこうしてる・・・」 冷たいコンクリートの絨毯・・・ だがかすみの腕の中は・・・ 春みたいに暖かくて・・・ ・・・真っ暗なビル街 かすみに抱きしめられた一夜は 母のお腹にいる子供のように ただただ・・・ 不安な心をぬくもりで落ち着かせていく・・・ 衝撃的な真実は代えられない でも・・・ (・・・アッタカイ・・・) この温もりを遺して 消えたいなんて 思えない ・・・それだけ自分にとってかすみの温もりが必要なのだと・・・ 実感した夜だった・・・。
月森の別荘。 豪華なソファでティータイム中の月森の向かいで 一夜があぐらをかいて絨毯に座っている。 「・・・で・・・。お前は真実を知って・・・癇癪を起こし、 清澄君になぐさめてもらったおこちゃまなわけだ」 「だっ誰がお子様だッ!!茶化すんじゃねぇ!」 真実を知ったあの夜から かすみに対してどんな態度を取ればいいか やはりまだ戸惑う一夜。 とりあえず?相談する相手もいなかったので、 月森の所へやってきた一夜。 「・・・ったく・・・。お前はまだまだ体のデカイだけの ガキだな」 「う、うるせえッ///」 でもかすみの腕の中で泣いちゃったのは事実。 「・・・で?何がどうわからないというんだ・・・」 「・・・。オレのオヤジのせいで・・・。かすみのお袋が 死んだのは事実だ・・・。そんなオレの面倒をどうしてかすみが みたのかわからねぇ・・・」 「・・・。そうか。お前は清澄君の気持ちが”同情”だったのかと 疑って不安なわけだ。恋する男は器がちいさいねぇ」 「・・・!ち、違・・・ッ」 図星のようで、くるっと背中を見せる。 「・・・。青いねぇ・・・」 「・・・て、てめぇみてぇなボンボン育ち野郎にはわかんねぇよ・・・」 かすみが自分に献身的に尽くしてくれたのは かすみの母のことがあったから ・・・同情という名の感情から・・・? 「・・・。お前にいいものを見せよう」 「なんだよ」 月森はドサっと絨毯の上に何冊ものノートを放り投げた。 「それには清澄君の君への”想い”が凝縮してある」 「・・・?」 一夜はペラっと一ページ目をめくった (・・・こ・・・これ・・・) 『○月×日。晴れ。今日、一夜が始めておはようって 返してくれた・・・嬉しかった。少しだけ彼に近づけた気がした』 びっしりと5冊のノート。 1年近く一夜の様子を綴ったノートだ・・・。 一日として欠けた日はない。 「・・・清澄君のお前へのキモチがどうなのかは知らんが・・・。 そのノートを見て、単なる同情だと想うのならお前は本物の バカだ」 「・・・」 「・・・いいか。この一年。少なくともお前はかすみ君のたった一度の人生の 時間をお前だけに費やしてたんだ・・・。それに”報いる”という 意味をお前は考えろ」 「・・・。難しい言葉・・・遣うな・・・」 ノート一冊一冊をくまなく読む一夜の背中・・・ かすかに震えている・・・ (・・・ふ・・・まぁ・・・。今のお前なら・・・) 『今日は朝から天気が良かったから・・・。 一夜と一緒に部屋のそうじをした・・・。顔は暗いけど体力はありあまってる みたい。ふふ。やっぱり男の子ね』 『一夜が料理に興味を持ち出した・・・。案外、コックさんが 似合ってるかもしれない・・・。いい傾向だ。一夜に自信がついてきた ことが・・・本当に嬉しい・・・』 かすみの文字が 文字が 悦びにあふれている。 かすみの日記なのに自分自身のことは何一つかかれてない 一夜との日々だけが・・・ 綴られている・・・。 ”同情”なんていらない 軽々しい興味本位の”同情” 同情でこんなに日記を書けるだろうか 同情だけで他人のために泣いたり笑ったりできるだろうか・・・ (・・・同情だって・・・いい・・・。 オレは・・・かすみに甘えてばかりの俺は・・・オレは・・・) 同情だろうが なんだろうが かすみが注いでくれたあたたかい大切なもの かすみが教えてくれた大切な言葉 ソレ全部に偽りはない・・・ 「・・・。一夜。そのノート貸してやってもいいぞ?」 「・・・いらねぇ・・・。もう・・・オレン中に刻み込んだ・・・」 「そうか・・・何よりだ!さぁ悩める少年よ。お前は 家に帰るんだな」 ”かすみが待ってる” 「・・・ああ・・・オレは・・・帰る・・・」 (そして・・・。変わる・・・。強い・・・人間に・・・) パタン・・・ 来た時とは一転して・・・ 新たな決意を感じさせる律とした顔で一夜は帰っていった・・・。 (やれやれ・・・やっと少しはマシになって帰って行ったか・・・) 窓から一人帰っていく一夜を見送る・・・。 ”お前はこの一年、かすみ君の貴重な時間を独占したんだぞ!” 一夜に言った台詞・・・ (少し・・・嫉妬も混じってたかな・・・ふふ・・・) ジャスミンティに映る月森の瞳は・・・ 少し切なげだった・・・。 ガラガラ・・・ バタン! 「一夜・・・!おかえりなさい!」 (かすみ・・・) ”おかえりなさい・・・” かすみの出迎えの言葉が・・・ 胸にしみる・・・ 朝から急に姿を消した一夜を心配して・・・ かすみは玄関でずっと待っていた。 「・・・また急にいなくなるから・・・。 家出かと思ったよ・・・」 かすみはほうっと息をついて胸をなでおろす。 一夜は無言で玄関にあがり、 二階へ・・・ 「・・・一夜・・・あの・・・」 「・・・かすみ」 「えっ。あ、な・・・何・・・?」 何か言いたげな一夜。 少しかすみは緊張する。 「・・・オレ・・・。強く・・・なるから・・・。 お前のお袋さんの・・・分も・・・」 「一夜・・・」 「・・・助かった命・・・。活かして・・・。オレは・・・ 強くなる・・・。強く・・・」 真っ直ぐな瞳で かすみに伝える・・・ 「・・・一夜・・・」 「///って、訳だからよ・・・お、おやすみッ・・・」 一夜の心強い言葉は かすみの胸に刻まれた (お母さん・・・聞いた・・・?お母さんが守った命が・・・ 一生懸命に生きてる・・・) 母の写真を見つめるかすみ・・・。 その隣の部屋で月森の言葉をかみ締めて 眠る一夜。 ”生かされた命・・・。たった一つの命・・・。 かすみ君を守り支えられる男なれ。お前の命題だ” (・・・かすみのお袋に助けられ、かすみに守られたオレの未来・・・。 お前のためにオレは・・・生きる) 半月の夜。 一夜にとっての衝撃な”真実”が ”強い決意”に代わった夜だった・・・。
まず最初に更新停滞してしまってすみません(汗)