久遠の絆 第二十六章 修行 「なんか・・・やけに一夜最近がんばってるよね」 本気で料理人に目覚めたのかどうかはしらないが 一夜のやる気が本物だと感じるかすみ。 早朝、おじさんより早く起き、 「お、おやじさん、おはよう」 店と厨房のそうじをしていた。 また店を閉めても、 「店の前にタバコの吸殻が落ちてた。掃除しとくぜ」 と背中をちっちゃくかがめて小ぼうきとちりとりでさっさと掃く。 「・・・犬君や・・・。お前さんなんか 変なモンでも食ったんじゃ?」 とおじさんもおばさんも思うくらい。 「おじさんもおばさんも。ふふ。一夜はね元から 強い生命力のあったのよ。それが今、開花してきただけ」 (///) かすみの誉め言葉に一夜の手のほうきの動きが早まる。 ・・・超高速だ(笑) 恋の力は凄い (早く強い男になりたい。早く・・・) キャラクターじゃないことさえ 素直に実行させる力を持っている。 「はい」 「な、なんだ。これ」 「手作りのエプロン」 「・・・///」 ブルーの無地のエプロン。 かすみが昨夜ミシンをつかって作りました。 「頑張ってる一夜見てたら私もなにかしたくなったの」 「・・・(照)そ、そうか」 (み、見ててくれるのか) 好きな人が見ていてくれる。 見守ってくれる。 ・・・からだの底からパワーが溢れてくる。 「うおーし!今日は家中店中そうじすっぞ!!」 翌日からかすみの手作りエプロンを一夜は寝るときも 着たままだったという・・・。 日々。料理の腕と共に一夜の心も成長していく。 かすみの優しい眼差しを感じながら。 だがそんな環境は長く続かない。 「え・・・。修行に?」 「おう。ワシのな、知り合いで和食の料理屋やってる奴がおるんじゃ。 犬君も本気で料理やるなら修行に出てもいい頃じゃと思うんじゃ」 夕食。 今日はお鍋。 ぐつぐつと豆腐や大根が煮えてます。 「・・・それってどのくらい?二年とか三年とか・・・それ以上?」 「そうじゃのう・・・。それは本人にもよるが一年以上は な・・・」 一夜は考える。 実は前からおじさんから話は聞いていたからだ。 「・・・どうする・・・?良く考えて・・・」 一夜は箸を置いた。 「オレ・・・。行く」 「え・・・」 すんなりとこたえをだして、かすみは驚いた。 「オレ・・・。この店好きだ・・・。でも 違う場所で・・・ガンバッテみたい・・・」 「・・・。そっか・・・。そうね。色んな経験しなくちゃ・・・」 「・・・早く一人前になりてぇから・・・オレ・・・行く。 行くよ」 (一夜・・・) 真っ直ぐ言い切った一夜・・・。 (どうしてだろう・・・。嬉しいはずなのにどこか・・・ 寂しいのは・・・) 巣立つ子供を見送る親の寂しさのような・・・。 こうして・・・。 一夜は翌月から隣町の料理屋に住み込みで修行に出ることになった。 修行期間は人によって違うというが、最低二年はかかるという。 荷造りをする一夜。 (・・・///) リュックの中にかすみの写真一枚。 忍ばせる一夜。 (もって行こう・・・///) 「一夜。ちょっといい?」 「・・・!!」 バッっと写真をリュックのポケットのチャックを開けて に突っ込む かすみが一夜の部屋に入って来た。 紙袋を持って・・・。 「準備は出来た?」 「おう」 「ほんとに?じゃあ見せて」 「え、あ、ちょっと・・・」 リュックの中をチェックするかすみ。 (・・・(汗)) 一夜はリュックのポケットが調べられないかと焦る。 「あのねぇ。一夜。旅行に行くんじゃないのよ? こんな少ない着替えてたりると思う?んもうー」 シャツ数枚とジーンズが3枚。 かすみは紙袋の中から男物の下着と冬と春物の着替えを 何着か入れる。 「やっぱり一夜はまだまだ子供ねー」 「・・・っ。う、うるせぇッ」 「ふふふ・・・」 (ホントにこれじゃあ・・・”巣立つ子供を見送る親”じゃねぇか) 切ないがやっぱりかすみにとっては自分は”弟”。 このまま居心地のいい場所にいては 強い男にはなれない・・・。 「一夜・・・。よく決心したよね」 「お。オレだって・・・ちったぁ将来のこととか 色々考えてんだよ」 「ふふ。そうね。偉い偉い」 一夜の頭をなでなで・・・ 「や、やめろって」 「どうして・・・。したいの。だってしばらく できないでしょ・・・?一夜と今みたいに会えなくなるんだから・・・」 (・・・ドキ・・・) 寂しそうなかすみの口ぶりに・・・ 一夜の恋心は否応なしに反応。 「お・・・お前、お、オレと離れるの・・・さ、ささ寂しいのか?///」 「そうね。だってやっぱり寂しいわよ。だって 私の料理ばくばく食べてくれる人、いなくなるのって」 (そ、そっちかよ・・・) がっかり。 「嬉しさと寂しさの両方・・・。ふふちょっぴり複雑な気持ちよ。 だけど・・・一夜。厳しくても頑張って。私応援してるから・・・」 「・・・お、おう・・・」 (言われなくても頑張るさ・・・。かすみお前のために) じっとかすみを見つめる・・・。 「・・・?」 「・・・。オレ・・・オレ・・・」 言葉にしたい。 今すぐに ”かすみが・・・好きだ・・・” 「どうしたの?」 「オレ・・・オレは・・・」 (・・・) 俯く一夜・・・ 「・・・オレは・・・い、一人前になって・・・ この店・・・でっかくしてやる。絶対に」 「一夜・・・」 「だ、だから・・・かすみ。お、お前は・・・ 待ってろ」 「うん。一夜応援して・・・。私もカウンセラーになれるよう頑張る・・・! 握手・・・!」 かすみは一夜に手を差し出した。 「お互い・・・頑張ろうね!」 「お、おう・・・」 握手を交わす・・・ かすみの手の感触と温もりを覚えておこう・・・ 忘れないように ぽた・・・。 「ってナニ泣いてんだッ!?」 畳にかすみの涙が染み込む。 「・・・やっぱりちょっと・・・寂しいな。なんか・・・ 泣いちゃった・・・」 「か、かすみ・・・」 「嬉しいような寂しいような・・・。なんか・・・ 分からなくて・・・」 (・・・ッ) 自分ために泣いてくれる・・・ 一夜の全身にかすみを両手でちからいっぱい抱きしめたい 衝動が走った。 腕が少しあがるが・・・。 (・・・だ、駄目だ・・・。ここで感情にながされちゃあ・・・。 ただの助平野郎と同じだ・・・) 半人前の自分が まだ恋も実っていないの自分が かすみを抱きしめるなんて・・・ かすみを包もうとした腕が ゆっくりと下がった・・・。 「・・・な、泣き虫だな。相変わらず・・・。 ホレ、ティッシュ」 「ありがと・・・」 ティッシュで涙を拭うかすみ。 「今生の別れじゃねぇ・・・。絶ってぇ帰って来るから」 「うん」 「で・・・電話もする。メールも・・・」 「うん」 (か、カレシとカノジョみてぇにな・・・///) 「一夜・・・。本当に頑張って・・・」 「おう」 (お前に・・・”男”として認められるように・・・) そして一夜は朝早く。 かすみ達が起きる前に店を出た。 『一人前の料理人になって帰って来る』 とメモを残して・・・。 ガタンガタン・・・ 早朝の電車は人が少ない・・・ (・・・) リュックのポケットから・・・そっとかすみの写真を取り出す・・・。 (かすみ・・・) かすみに好きだと 堂々といえる男に なりたい。 それが今の一夜の全て・・・ (かすみが・・・オレを生かしてくれた。 だからオレは・・・お前のために生きる) 車窓からみえる朝陽・・・ 朝陽の温もりのようなかすみを包み込める男に・・・ 朝日を浴びて、かっこよい船出をしたと思う一夜だが・・・。 家を出る前にこっそりと かすみの寝顔を盗み撮りしてきちゃいました(笑) (・・・///) 携帯画面のかすみの寝顔に萌えながら・・・ 一夜は新しい場所へと旅立ったのだった・・・