久遠の絆 第31章 二十歳のディナー 一夜がかすみの元から離れ、修行に出て二年が経った (もうすぐ・・・誕生日ね) カレンダーを見つめるかすみ。 その日付は一夜の二十歳の誕生日。 『・・・二十歳の誕生日に・・・。オレが考えた料理・・・食べてほしい』 一夜からそう言われ、 明日、店の厨房を使ってかすみにご馳走してくれるという。 「楽しみだな。ふふ」 修行に出て二年近く。 まだまだ半人前扱いだが、一夜にも後輩ができ、たくましくなったという。 「お母さん・・・嬉しいね・・・」 ”そうね・・・” 写真の中の母がそう笑いかけているよう・・・。 「お母さん・・・」 一夜の成長。 嬉しい。 「お母さん見て。ほら、一夜、雑誌にも載ったの」 マップ情報誌。 一夜の店が特集されて厨房の様子が映っている。 写真の端っこに顔半分だけ・・・ かすみは綺麗に記事を切り取って保管。 「・・・ふふ。一夜ったら緊張してたのね。顔がこわばってる」 目つきがちょっと悪く映って。 (自分の子供の活躍が嬉しい親の心境・・・ってこうなのかしら) 成長していく一夜の姿。 「はー・・・私も置いていかれないようにしないといけないんだけど・・・」 今年で3回目。 国家試験を受けるのは。 「はー・・・。三度目の正直目指さなきゃ」 資格が取れたとしても 勤め先が見つかるかどうかは分からない。 (・・・。いつまでも・・・。契約社員ってわけにもいかなけど・・・。 自分の夢は諦められないわ) 大学を卒業してかすみは小さな印刷会社の契約社員として働いている。 学歴の時代は終わったに等しい。 その名残はあるが、国立を出たといっても有名企業に入れる保証はない。 「・・・よし!今日も勉強勉強!」 一夜の成長が 嬉しくも有り、切なくも有り ・・・少し悔しかったり。 二人それぞれの道を 歩いている日々・・・。 ”姉と弟” ”母と息子” 二人のそんな感覚も変わってくる頃・・・? 「・・・///」 (かすみと会える日) カレンダーにハートマークなんか書いちゃってる一夜。 感覚がちょっと昭和かな? コンコン。 「はい。誰・・・」 (う・・・。またか) ショートカットの少女。 果歩。 料理長の一人娘だ。 『きゃぴきゃぴ』という擬音が背中から花火のように 飛び散っている。 「一夜さんおはよう!ふふ。来ちゃった」 「くんじゃねぇ!!人の部屋を勝手に・・・」 『一目ぼれしちゃった!私!』 とか言って一夜に言い寄っている。此処一年前から。 「ねぇねぇ。いい加減メアド教えてよ。別にカノジョに してくれなんていわないからさ」 「・・・いってるよーなもんだろ。ガキが帰れ」 「一個しか違わないジャン。ねぇ」 腕を絡ませてくる。 現代っこ気質剥き出しの果歩に一夜はほとほとうんざり。 「てめぇに構ってるひまはねぇ!」 (かすみに食わす料理の練習しねぇといけねぇのに) 冷蔵庫を開く。 材料を買ってある。 これで練習したいのに・・・ 「あ・・・今、好きな人のこと考えたでしょ?」 「な!?」 「分かりやすいんだからー。でもそういう素直なところが ツボをつくんだよねぇ。ふふー・・・」 (・・・汗) 「さ、帰った帰った!」 果歩を強引に部屋から追い出す。 バタン! 「あーん!もう!女の子なんだから丁寧に扱ってよね!」 コツン!とドアを蹴る果歩。 (・・・あのさっきの顔・・・。何かあるんだ。そういえば カレンダーに印つけてたな・・・) 恋する女子高生。にやっと小悪魔的に笑う・・・。 (一夜さんの好きな人の顔・・・。拝んでやるわ) 「さーて!邪魔者は退散した。練習すっか!」 一夜が始めて自分で創作した料理。 料理長にも試食してもらったところ・・・。 『80点。店に出すモンにゃならんがまぁ・・・悪くねぇな』 と結構な言葉を貰って自信がついた。 (かすみに一番に食ってもらいたい・・・。そんで・・・) ”あ・・・どうしよう。こんな時間だわ” ”と、泊まってってもいいぜ” ”・・・え・・・。そうなの・・・じゃあ・・・。泊まってってもいい?” 「・・・///よ。よーし!!上手いもん作るぜ!」 ちょっとおいしい展開を妄想しつつ。 明日、かすみのために作る料理を下ごしらえを し始める一夜だった・・・。 そして日曜日。 コンコン。 (あ・・・このノックは) ノックの音で誰だかわかるのはやっぱり恋のなせる技だろうか。 ガチャ。 ドアを開けると・・・。 「こんにちは。ひさしぶり」 (かすみ・・・) 半年振りのかすみの笑顔。 (・・・駄目だな・・・。なんか体がぽっ・・・てなってくる) 真っ暗闇がぱあっと太陽にが差し込むみたいに ・・・温かい・・・。 「半年振り・・・。あー、また部屋の中、汚くしてない?」 「し、してねぇよ!オレだってそうじぐれぇできてる!」 部屋を見渡すかすみ。 「ホント。綺麗に掃除してるのね。ふふ・・・」 「ったりめぇだ。さ、ここ座れ」 「うん」 一夜はすばやくピンクのクッションを敷いた。 「・・・。一夜。ずいぶん可愛らしいクッション買ったのね」 「え、あ、そ、それは・・・」 この間、果歩が強引に置いていったもので・・・。 「ふかふか。ありがと。一夜」 「お、おう」 かすみが妙な勘違いしないか、一夜は焦る。 (かすみ・・・変なことがんがえなかったかな) 恋心。 色んなことに神経が回る。 「一夜。雑誌見たよ」 「あぁ?あれか。オレは写りたくなかったんだが勝手に撮っていきやがったんだ」 「ふふ。横顔半分しか写ってなかったけど私嬉しくて雑誌3冊も買っちゃった」 「///そ、そうか(喜)」 かすみの誉められた。 一夜のやる気がぐんと上がる。 「暫く待ってろ。オレの料理食わせてやるから」 「うん」 一夜はエプロンをつけ、料理の支度を始めた。 慣れた手つきで包丁を取り出した。 よく見ると、一夜の名前が掘ってる。 「一夜・・・。それ、もしかして一夜専用の・・・?」 「え?ああ、俺専用っていうより・・・料理長がくれたんだ。 むかし使っていたやつだって。すげぇ使いやすいんだ」 「そうなんだ・・・」 料理長の使った包丁を貰った・・・ かすみは料理長が一夜を信頼しているんだと感じた。 トントン・・・。 リズミカルな聞いていても心地いい包丁の音。 野菜を切るのも早い (すごい・・・。二年前はりんごの皮さえ向けなかったのに・・・) 一夜の手つきと真剣な横顔。 料理人としての誇りが感じられてかすみは嬉しく・・・。 (お母さんの写真たて持ってきて見せてあげたいな) 母に直に一夜の姿を見せたい。 (かっこいいね・・・) 背もまた伸びた・・・ (エプロンももっと大きいものに作り変えてあげなくちゃね) 広く大きくなった背中。 見守りたい。 ・・・見つめていたい (見つめていたい・・・?) 「な・・・何みつめてんだよ」 「え、あ、ごめん。一夜・・・」 かすみの視線に頬を染めつつ包丁を動かす。 (・・・。なんだろ。今の感覚) 一夜の背中なんて何度も見てるのに ・・・一瞬ドキっとしたような・・・ (・・・ときめきじゃないまるで。ふふ。まさかね) 一夜も年頃。 (・・・彼女の一人くらいいてもおかしくないか・・・。ふふ) 息子を持つ母親もきっとこんな気持ちなのだろうか。 「出来たぞ」 「わぁ・・・ッ」 一夜が作ったのは ロールキャベツと根菜スープ。 一見、どこにでもある普通の二品だが・・・。 「とにかく食ってみろ。食えばわかる」 「え・・・う、うん。じゃあ頂きます」 箸で割る。 ふわっと湯気があがって 煮汁があふれ出して・・・。 一口食べると・・・ 「・・・!これって・・・」 「ああ魚の白身だ」 「すごい、魚の臭みもないし言われなきゃ気がつかない。 おいしい」 「そうだろう。それなら歯の弱いおじさんやおばさんでも 食えるんじゃねぇかって」 一夜はスケッチブックに描いた デッサンをかすみに見せて説明した。 「・・・一夜・・・」 「・・・。な、なんでいッ」 「・・・。いや・・・。顔つきが本当に・・・ 料理人っぽくて・・・なんだか見惚れちゃった」 「///ばばばば馬鹿いってんじゃねぇッ」 一夜、嬉しくて声が裏返ってます。 「と、とにかく全部食え!お、お前のために・・・ つくったんだからな」 「うん」 かすみはぱくぱくとロールキャベツを食べつくした。 「・・・ふぅ・・・。ごちそうさまでした」 「おう」 「心の篭ったお料理・・・ありがとう。本当においしかった・・・ 一夜の真心が一番おいしかった」 「・・・(照)」 かすみに誉められると・・・ 背中がくすぐったい 嬉しくて・・・ 小さな羽根がぱたぱた動くみたいに ・・・嬉しくて 「・・・ごうそうさまでした。一夜シェフ」 (シェフ・・・///) かすみに誉められる。 認められる。 一夜にとって料理長に料理を誉められるより 嬉しい。 (かすみの喜ぶ顔が・・・一番だ。もっともっと見たい) 「一夜・・・。本当に立派になったね・・・。なんか・・・。 感動だよ」 「お、大げさな・・・。そ。それにおれはまだまだ修行の身・・・」 「うん。でも・・・。一夜は今日から大人よ」 かすみは紙袋の中から 一着スーツを取り出した。 「二十歳の誕生日、おめでとう!一夜!これもらってくれる?」 「え・・・。で、でもこんな高そうなモン・・・」 「ううん。これね。おじさんの昔のスーツを私が少し仕立て直したの。 ちょっとデザインは古いかもしれないけど、ねぇ着てみて」 かすみは一夜を鏡の前に立たせ、 「はい、腕通して」 「お、おう」 かすみに背広を着せてもらう。 (な、なんか・・・新婚みてぇだな///) 新妻が夫に背広を着せる、そんな朝を妄想した一夜。 「うん!ぴったり!にあってる!」 「そ、そうか」 「成人式一夜してなかったでしょ。だからせめて 背広をプレゼントしたかったの・・・。気に入らなかった?」 「い、いや・・・。お、俺、余所行きの服もってねぇから 助かる・・・サンキュー・・・」 一夜の言葉に・・・ 「うん!よかったぁ!」 (・・・///かすみからのプレゼントなら・・・。全部宝モンだ・・・) かすみのために作った料理。 かすみの笑顔ももらえ 誕生日のプレゼントも・・・。 (・・・。最高の誕生日だな・・・) 「・・・かすみ」 「え?」 「ありがとう・・・。すげぇ・・・。嬉しかった・・・。 誕生日・・・。お前と過ごせて・・・」 一夜はまっすぐに・・・カゴメを見つめる・・・ 「かすみ・・・。オレは・・・」 「な、何・・・?」 「・・・オレは・・・」 真剣なまなざし・・・ (・・・。一夜・・・?) 「・・・かすみ・・・」 (・・・なんか・・・なんだか・・・。いつもと違う・・・) 切なげな・・・ 熱く熱く 熱く・・・ 「かすみ・・・オレは・・・」 バタン!! 「こんにっちはーーー!!」 果歩が突然部屋に乱入してきて・・・ 「一夜君ぱっピーバースディ!!今日は私自身をプレゼントしにきましたーー!」 「わっ。なにすんだ!」 一夜に抱きつきく果歩。 (だ、誰?) ただ驚くかすみ・・・。 「あ・・・?あなたもしかして・・・”かすみ”って人?」 「え、ええそうですけど・・・」 「ふーん・・・」 果歩は足元からかすみをじろじろと観察。 「・・・まぁまぁ美人ね」 (な・・・(汗)) 「でも年増じゃない。ねぇ犬君」 「うるせー!てめぇ!出て行け!」 「なによー。お誕生日だっていうからお祝いに着たのにぃ」 一夜と果歩のやりとり・・・ (一夜のガールフレンドかしら・・・。現代っ子ね・・・(汗)) 「かすみさん。私、犬君のこと好きなの。だからちょっかい出さないでね」 「なッ。て、てめぇ!!かすみによけーなこと・・・」 「余計なことじゃないわよ。ライバル宣言しとかなくちゃ」 一夜にまとわりつく果歩。 「離れろ!!オレはお前なんかなんとも思ってねぇ!!」 「今はそうでも先はわからないでしょ?ふふ」 かすみの目の前で果歩は必要以上に一夜の体に触れて、 かすみに見せ付ける。 「離れろ!!オレはオレは・・・」 チラッとかすみに視線を向ける・・・ 「・・・オレは女なんかいらねぇ!!一生いらねぇんだ!!」 そう・・・ かすみと果歩の前で言い放つ・・・。 (・・・かすみ以外の女はな・・・) 「そんなことありえないでしょー。もう、若いんだから」 つんつんと一夜を肘付く果歩。 「うるせぇえ!お前は帰れ!」 「・・・あ、あの。私帰るわ」 「え、か、かすみ・・・?」 ハイヒールを履いて立ち上がるかすみ。 「あの・・・。果歩さん・・・。でしたよね?一夜は 無愛想な所ありますが、優しいです。これからもよろしく お願いしますね」 「はーい!お願いされちゃいまーす!」 「じゃあ一夜。またね」 (あ・・・) パタン・・・。 かすみが帰ってしまった・・・。 せっかくの二十歳のバースディ。 もっと一緒にいたかったのに・・・。 「犬君の好きな人ってあの人なんだ・・・。ふふ。でも あの人は犬君のことは想ってなさそうね。あの感じだと 片思いかぁ〜。切ないよね〜。ふふ・・」 「・・・。オレは女はいらねぇ」 「え?」 「・・・。オレにとって大事な女は・・・生涯・・・。かすみただ一人だ・・・。 例え・・・。報われなくても・・・」 初めて聞く・・・ 一夜の低い 切なげな声・・・。 「・・・。そんなに・・・好き・・・なの?」 一夜は黙って俯く・・・。 「・・・。一生・・・”弟”だっていい・・・。かすみのそばにいられるなら・・・。 オレは・・・。かすみの幸せが・・・オレの全てだ・・・」 「・・・犬君・・・」 「・・・。だから・・・オレにはもう構うな・・・」 (犬君・・・) 始めてみた一夜のシリアスな顔・・・ 流石の果歩も少し強引ペースが崩れ・・・。 「まぁ今日の所は帰る。じゃあまったね〜!」 お茶らけ笑顔で一夜の部屋をあとにした・・・。 (・・・。犬君の恋は・・・。かなり深いのね・・・。 でも・・・。私、諦めない。後悔はしたくないから) 心の中でそう呟く果歩・・・。 一方かすみは・・・。 「ふぅー・・・」 一人車で家路を行くかすみ。 ”私、一夜君のこと好きですから” 果歩の宣戦布告が頭から離れない。 (一夜にも・・・彼女くらいいて可笑しくない年頃よね。 でもなんだか複雑だな・・・) 急に 一夜が”生”の男に見えてきて・・・。 (・・・一夜は・・・。あの子のことどう思ってるのかな・・・) 胸の奥が なんとなくもやもやする。 プップー!! 「わっ。いっけない!」 後ろの車のクラクションにはっとしてアクセルを踏むかすみ。 (・・・。ぼうっとしてちゃ駄目じゃないの・・・) 一夜の成長。 嬉しいはずなのに どこか寂しく もやもやするのは何故だろう・・・。 (・・・一夜は料理人。私はカウンセラー。それそれの夢のために 今は頑張るだけよ・・・) かすかに感じる自分の気持ち。 かすみはそれに強引に蓋をするように アクセルを強く踏んで 家に帰る。 ・・・気づいてはいけない気持ちを消すように・・・