久遠の絆
第33話 オレの気持ち かすみの気持ち
”お前だってかすみ君の後姿に・・・”
(違う・・・オレはそんなヤラシイ男じゃ・・・)
月森の一言がその夜、一夜にちょっぴり嬉しい夢を見させた。
「一夜・・・あの・・・私・・・。一夜が好きなの」
「え!?」
気がつくとかすみが目の前に居て。
何故か肩が肌蹴ていて。
「・・・好きなの・・・」
「え?え、あ、あの・・・」
「一夜ッ!!」
(わぁああ!!)
チュンチュン。
一夜ご起床。4時半。
(夢か・・・)
かすみの手作りエプロンを抱いたまま一夜は目を覚ました。
ちなみに夢の中でかすみが着ていたエプロンは、まさにそれでした。
・・・そしてやっぱり裸でした(笑)
(・・・。俺って奴は俺って奴は!やましい夢を!)
ポカポカ!
頭を叩いて理性を呼び覚ます一夜。
「・・・オレは今、修行中なんだ!色恋は二の次!」
冷たい水で顔を洗う。
(一人前になるまで・・・オレの気持ちは封印・・・)
封印はしても、心の中だったら、かすみといちゃいちゃ、許される・・・?
なんて理屈自分でつくっちゃいまして。
そんで、夢の中のかすみを思い出してみる一夜。
(・・・///)
おいおい、一夜君。蛇口のお水が出たままですよ?(笑)
「おッ!!いけねぇ!」
一夜は急いで着替え、厨房へ向かう。
(・・・夢の続き・・・また見たい・・・ナ)
とか思いつつ☆
その日の昼休み。
店の裏で、先輩達がなにやら楽しそうに話している。
(・・・何の話だ?)
興味わいた。
裏口のドアの影から耳を済ませる一夜。
「おー。俺のカノジョって遠恋だろ?数少ない休日に会うと
夜もえちまってさー」
「おいおいー。色恋沙汰禁止って料理長いってんのにいいのかよ?
ははは」
「いやいや。料理長ってよ、奥さんと駆け落ち同然だったらしいぜ?」
「おー!演歌の世界!料理長ならやりそうだな。キャラっぽいし」
若い青年達。
やっぱり話題は女の子のことに。
(・・・そうか。皆、恋は・・・してるのか)
ちょっと安心。
だが恋に溺れてしまうのはいけない、と思う一夜。
「休憩終わりだ。店の掃除もう一回しとくか」
好きな人を想うのは仕方ない。
だが何かをおろそかにするような恋は・・・
諸刃の剣。
「犬くーん!!」
(げ)
制服姿の果歩が勝手に厨房に入ってきて一夜に抱きついた。
「あいたかったぁ!」
「わ、馬鹿ヤメロ!離れろ!」
(もうじき料理長が来るってのに・・・)
料理長は娘を溺愛していると聞く。
その料理長にこんな現場を見られたら・・・。
「キスしてもいいよ」
「しねぇ!!」
(料理長に見られたら・・・)
いやーな予感が一夜の背中に寒気となって・・・
「なにしとる」
(はッ!!)
いやーな予感的中。
「りょ・・・りょ、料理長・・・」
仁王立ちしている料理長がそこに・・・。
「あ、パパぁ!」
「パパって言うな!お父さんと呼べといっとるだろうに!」
「えー。いいじゃん。パパはパパなんだから」
恐持ての料理長。
娘の前ではただのお父さん。
一夜はくすっと笑ってしまった。
「笑うな!犬っころ!」
「あ、す、すんません・・・」
「おう。ところでおめぇ。うちの娘とはどういう付き合いでい」
「・・・いや、オレは付き合っては・・・」
果歩は一夜の腕をつかんでこう言った。
「私・・・。もう実は・・・できちゃったの」
と、果歩は腹部を摩った。
(ーーーー!?????!○△■☆☆)
↑一夜と料理長、思考停止。
「な・・・な、なに言って・・・」
「い、犬っころ・・・て、てめぇ・・・オレの娘を傷物に・・・」
料理長、無意識に片手がグーになって震えてます。
「ち、違います。オレ何にも・・・」
「したよねぇ?あの夜・・・」
果歩の言葉に料理長の怒り爆発。
「てめぇえええ!!!」
一夜につかみかかる料理長。
さすがにヤバイと想った果歩が止めに入る。
「パパやめてったら!冗談だってば!」
「うるせぇはなせ!」
興奮している料理長に耳なし。
「料理長オレには・・・オレには・・・
オレにはかすみって世界一好きな女がいるんだーーー!!!
」
店じゅうに
店の外にまで
一夜の告白が
響き渡る・・・。
(・・・オレ・・・。今・・・何を・・・)
自分の発言に
呆然とする一夜・・・。
「・・・。なんや。犬っころ。お前、好きな女おるんかいな」
「え、あ、あ、あの・・・」
「はーっはは。果歩。お前の片思いらしいな。はっはっは」
娘の恋が片思いと知り、料理長、急に元気になる。
「何よ・・・。パパなんかだいっきらい!」
ガラガラ・・・。バタン!
果歩は店を飛び出していった・・・。
「あ、あの料理長すみません。オレ・・・娘さんに答えて上げられなくて・・・」
「いやいいんだ。はっきり言ってくれた方がいい。
アイツはすぐ調子に乗るからな」
「すみません・・・」
「気にすんな。おめぇはおめぇの惚れた女を大切にしろ。
そして料理の修業に励んで早く一人前になれ・・・!あんな大声で
叫んじまったんだからな。はっはっは」
「・・・(汗)」
一夜のこの大告白。
先輩達全員に周知の事実となってしまい。
「おう。犬っころ。かすみちゃんとやらとは
どこまでいってんだ?」
「もしかしてこの前お前の部屋に来ていた
美人のおねーちゃんか?」
などと責められて大変なことに・・・。
(ああ畜生・・・。もうどっか遠いところへ行ってしまいたい・・・)
自分の部屋の布団の中でもぐって
自己嫌悪に陥っている二十歳の一夜君でした・・・(合掌)
一方その頃。
(諦めないんだから!)
怖いものなしの女子高生果歩。
果歩がやってきたのはかすみの家の前。
(ここ定食屋・・・。パパの知り合いがやってるってきいたことが
ある・・・)
「おじさんおばさん。ちょっと買い物いってきまーす!」
カラン。
食堂の入り口からかすみが出てきた。
「あ・・・。あなたは確か・・・」
「犬君のカ・ノ・ジョ!・・・候補よ」
「・・・こ、候補・・・?」
「話があるの。ちょっと来てくれる?」
(な、何なのかしら・・・?)
困惑しつつ、かすみと果歩は近所の公園に向かう。
「単刀直入に聞くわ。貴方・・・。犬君のことどう想ってるわけ?」
「え?」
「弟だとか親友だとかそういう曖昧な答えは却下!
男として惚れてるかどうかきいてるんだからね!」
「・・・(汗)」
本当にストレートに聞いてくる果歩にかすみはただただ戸惑うばかりで・・・。
「どうなの!」
「・・・ど、どうって・・・。わ、私は今は恋愛とかそういうことは・・・」
「アンタがその気じゃなくても犬君はその気なのよ!?
アンタだって本当は分かってるはずでしょ!?気がつかないフリなんて
したって私にはわかるんだからね!」
一方的に喋る果歩・・・。
その必死ぶりに・・・
かすみは感じる・・・
「・・・。果歩さん・・・貴方・・・。本当に一夜が好きなんだね・・・」
「・・・。そうよ・・・。だから何でもする・・・。
好きな人のためなら・・・」
「・・・。凄いね・・・」
(え・・・?)
急にかすみの声のトーンが変わった・・・。
「・・・貴方みたいに・・・。真っ直ぐに気持ちになれるなんて・・・。
自分の恋愛に立ち向かえるなんて・・・」
「な、何よ。何が言いたいのよ・・・」
「・・・。私は・・・。一夜のことは・・・。大切に・・・
想ってるわ・・・」
「・・・だから。男としてかどうかって聞いてんじゃない」
「・・・そうね・・・。一夜は・・・大人の男の人よ・・・。
もう立派な・・・。分かってるわ・・・」
会うたびに
感じていた
・・・心のときめきを・・・
「やっと認めたわね。じゃああんた達は両思いってわけか」
「・・・。ううん・・・。違う・・・」
「何が違うのよ。あんたも犬君のこと、好きなんでしょ?」
かすみは立ち上がり・・・
深く息をついた・・・。
「私は・・・”恋愛”が出来ないの・・・」
「・・・は?」
「・・・。ごめなさい・・・。果歩さん・・・。
旨く応えられなくて・・・。じゃあ私行くわ」
かすみのシリアスさに
果歩はただかすみの過ぎ去る背中を見つめるしかなかった・・・。
(何なのよ。あの不可解な笑みは・・・。わけわかんない!!)
一夜とかすみの間になにがあるというのか・・・?
かすみに何があるというのか・・・?
”じゃあ両想いってことでしょ”
(・・・)
”一夜の気持ちわかってるくせに・・・”
(・・・)
果歩の言葉が・・・
かすみの心に突き刺さっている・・・。
(果歩さんが言ったとおり・・・。私は気がつかないフリをしてた・・・)
一夜の自分を見つめる熱い視線。
切ない瞳。
感じていたのに
気づいてはいけない
気づいてしまったら
・・・今の関係が崩れてしまう・・・。
(・・・駄目・・・。私は今のままがいいの・・・)
生臭い男女間の関係を持ち込んだら
いや持ち込めない
(・・・私は・・・私は・・・)
”かすみちゃん・・・おいで・・・”
「・・・嫌ッ!!」
耳の奥に残る
そして肩に残る痕・・・
(・・・。私と一夜は今のままでいいの・・・
いいの・・・)
”恋にしちゃいけない”
・・・ベットにもぐりこむかすみは
呪文のように呟いていた・・・