久遠の絆 第36章 恋の叫び 『かすみ、お前のことが好きだ。だから俺について来い』 夜、自分の部屋で、ノートに書いた台詞を 正座して練習する。一夜。 相手はピンクのうさぎちゃん人形(笑) 「かすみ、お前の人生は預かった、返してほしくば、 オレと付き合え!」 どっから購入したのは不明ですが、ウサギちゃん人形、笑ってます。 (・・・。これじゃあ強盗だ(汗)。 もっとかっこよく!大人の男のように!) 一夜の脳裏に月森の顔が浮かぶ。 (・・・。ナルシストっぽくアイツ風にやると・・・) 一夜、腕を組んでちょっと斜め視線。 「かすみ君、ずっと・・・君のことが好きだったんだよ・・・」 (・・・) 「だぁあ!!ムカツク!!あんな奴のキャラなんて!!」 鏡の中の一夜、 告白方法に悩んでいます。 (くそ・・・。こうなったらいきなりだきしめて・・・) うさちゃんをぎゅっとハグ。 (そんで、いきなし・・・) うさちゃんにチュウ!! 一夜・・・ かすみの柔らかそうな唇を妄想・・・ (///・・・vv) 「ってそ、それじゃあ痴漢じゃねぇか!!・・・ぺっ。毛玉だ」 うさちゃんのピンクの毛を吐き出す。 「ふぅ・・・。難しいもんだな・・・。告白って・・・」 恋する男、一夜。 かすみに会えば会うほど好きって気持ちが大きくなるのに 全身からそのオーラはきっと出ているはずなのに (気持ち伝えるのって・・・。本当に大変だな) ”私ね・・・。人の気持ちを聞いてあげられる、 とにかく何でも聞いてあげられる・・・そういうことやりたいの” (・・・オレはぜってぇんな仕事できねぇ・・・) 自分の気持ちで手一杯なのに 他人の心も背負うなんて・・・。 ゴロン・・・。 (オレ・・・。もしかしたらすげぇ女・・・。 好きになったのかも・・・な・・・) 目を閉じると思い出される・・・ 自分の殻に閉じこもって 誰も寄せ付けなかった頃の一夜。 体を張って 自分より倍近く大きい男に立ち向かってきた。 (・・・かすみを投げ飛ばしたりなんかしてオレ・・・。 とんでもねぇガキんちょだったんだな・・・。かすみ、ごめん) 正座してうさちゃんに謝る一夜。 「ごめんな・・・。オレ・・・」 ”ううん。気にしないで” 一夜にはうさちゃんがそういっているように聞こえております。 「・・・かすみ・・・」 この瞬間、うさちゃんの名前がかすみに決定(笑) 「・・・オレ・・・。ほんっとうにお前のことが・・・」 ”私も・・・。一夜のこと・・・。ダイスキ・・・” 「かすみ・・・」 ”キスして・・・” 「かすみ・・・」 一夜の目には・・・。 完全にうさちゃんがかすみに見えていて・・・。 「かすみ・・・ッ好きだッ!!」 おーっと!一夜、うさちゃんを押し倒したぁ!! 「かすみ・・・。すきだぁあッ!!」 一夜、うさちゃんのワンピを脱がせちゃいました!! 「かすみ〜ッ!!!」 嗚呼・・・うさちゃん・・・ うさちゃんはこの夜、大人になってしまったのでした・・・(笑) そんで一夜の口の中はチュウのしすぎで うさちゃんのピンクの毛玉だらけになったのでした。 そして約束の日・・・。 (ドキドキ。ワクワク) ちょっとお洒落した一夜君。 (ソワソワ) (に、似合うかな。似合うかな) かすみがくれたスーツを着て見ました。 ちょっとだけサラリーマン風で (・・・ちったぁ・・・”大人の男”に見えるかな・・・) 持ってきた手鏡でチェック。チェック。 (うし。とりあえず大丈夫だろう) 昨日、メンズ雑誌をこっそり買ってきて、 色々研究しました。 恋する二十歳君。 「一夜ー!!」 (あ・・・) 横断歩道を渡ってかすみが走ってくる。 (・・・あ、あの服は!) 一夜がかすみに贈った白のワンピ。 (・・・か、かすみの奴・・・。お、オレのためにき、着てきたのかな・・・///) 「ごめんね。遅くなっちゃって・・・」 「・・・///」←ニンマリ。 「?どしたの?」 不思議そうに一夜の顔を見上げるかすみ。 (・・・そ、そんなに見つめんじゃねぇよ///) 背中がくすぐったい。 一夜のアドレナリンは今日、 なんかすんごく出やすくなっているようで・・・ 「一夜、あんた汗描いてるの?」 「え、い、いやぁッなんでもねぇッ。さ、い、行くか」 一夜、自分でもコントロールできない感情に戸惑いつつ・・・。 「・・・手つなごうか」 (え・・・) かすみから静かに手を握ってきた・・・ 「さ・・・。いこ♪今日は一夜がエスコートしてくれるんでしょ?」 「///お、おう。え、エスカレーターしてやる」 「ぷっ。エスコートよ。ふふ。可愛いんだから・・・」 (・・・か、可愛いか・・・。それより頼りがいのある男って 思ってほしい。見てほしい) 欲がドンドン出てくる。 好きになってほしい 愛してほしい ゲームセンターの前を通りかかった。 UFOキャッチャーが目に入る。 かすみがふと一言漏らした。 「わー。あのぬいぐるみ可愛い」 「あれがほしいのか!?わかったよし!!」 「え?」 かすみが何も言う間もなく、 一夜は財布とポケットから取り出して コインをいれ、UFOキャッチャーをプレイしはじめた。 「あの赤い着物の耳ついてる人形だな?よし!まかせろ!!」 (かすみの欲しいもんは俺も欲しい) 硝子に顔をべちゃっとくっつけて 必死にぬいぐるみを取ろうとする。 UFOキャッチャーの機会がガタガタと揺れるほど。 「い、一夜・・・も、もういいよ」 「いや。かすみ待ってろ!オレに任せろ。うりゃぁああ!」 ガタンがタン! 物凄い音にゲームセンターの店員が一夜を止めにはいってきた。 「わぁあ、やめてくれー!」 「離せ!かすみのためにエンヤコラァ!」 ゲームセンターに・・・ 一夜の愛の雄たけびが響いたのだった・・・。 「・・・へへ。よかったな。かすみ。あの人形もらえて」 「・・・もらったというより・・・。無理やりもらったっていうか・・・(汗)」 ”人形なら差し上げますから、機械壊す前にお引取り下さい” ゲームセンターの店長から人形をもらって追い出されてきた・・・。 「はぁ・・・。大人になってると思ったらまだまだ、子供っぽいところ あるんだから・・・」 「え?何かいったか?」 「ふふ。なーんでもないよ。アンタらしいのが一番」 「??」 背中も背筋も また伸びた。 心も・・・。 おおきくなったけど 根っこはかわってない。 (一夜らしさは・・・。変わって欲しくないから) 「・・・うし。入るぞ。予約はいれといた」 「・・・で、でも・・・(汗)」 なんだか横文字の看板。 白壁にツタのツルがのびちゃって、とっても 高級感と素朴感の調和したお店です。 ちなみにお、フランス料理がメインらしい。 「・・・は、入るぞ。人生で一回くらいこういうトコで 食ってみてぇしな」 「・・・。あそこの定食屋さんが私はイイナ」 「な、なぬ!?お、お前な、オレもお前も こんだけめかし込んできたのに・・・」 「おしゃれだけじゃおなかいっぱいにならない。 私達らしくなれるところでいいのよ。さ、いこ!」 一夜が着ているスーツの袖をひっぱって定食やさんへGO! 「か、かすみ・・・」 「あんたの気持ちだけで充分・・・。伝わってるから・・・。 アリガトね・・・」 (・・・つ、伝わってるって・・・。それってそれって・・・) 一夜、ちょっと期待しちゃいましたが・・・。 「一夜、はい。私のお肉もあげるよ。食べたかったのよね」 「・・・お、おう・・・(涙)」 かすみは一夜が肉を食べたかったのだと思ったらしく・・・。 (甘かった。俺(汗)) 「おいしー★おかわりおねがいしまーす!」 がっくし一夜。 目の前のかすみは一夜よりほかほかとんかつの方がダイスキなようです。 (・・・。ま・・・。いいか・・・。かすみの・・・。かすみの こんな笑顔みられたんだから・・・) 「はー・・・。うん。ワインよりやっぱりごはんとお味噌汁よね」 幸せそうなかすみの ・・・笑顔。 一番ダイスキな・・・。 「・・・あ・・・」 (えっ) かすみを見つめていたら・・・。 ・・・見つめ返された・・・? 「・・・。ごはんつぶついてるよー」 「・・・あ、そ、そうか(汗)」 とってくれてパク・・・ってな展開はなしでした(笑) (ったく・・・。かすみ・・・。お前はしらねぇだろうな・・・) 「あ、見てみて一夜・・・。赤ちゃん連れ・・・。かわいいねー・・・」 公園を二人で歩く・・・。 (しらねぇだろうな・・・。かすみ・・・。オレがこんなに・・・ こんなに・・・) かすみの・・・ 笑顔がまぶしいことを・・・ まぶしいことを・・・。 「一夜・・・」 「えっ。な、なんだよ!?」 「手、繋ごうか」 「え」 ぎゅ・・・。 かすみから・・・ 一夜に・・・ (・・・。かすみ・・・) かすみが 自分に向ける微笑は 『恋』じゃないとは分かっていても 手から伝わる 愛しい温もりが かすみの心が欲しいと 欲しいと ・・・募らせる・・・。 (かすみ・・・) 空はいつのまにか夕暮れ。 橙色の夕焼けがどこかせつなく優しく。 かすみ達は公園の真ん中にある噴水の前にいた。 「・・・かすみ、すまねぇな」 「ん?なんで謝るの?」 「だってよ・・・。オレは今日一日・・・。 おめぇをカッコヨクエスコートしたかったのに・・・」 「ちゃんとしてくれたわよ?私・・・。楽しかったもの・・・」 ポチャン・・・。 かすみは噴水の縁に座り、片手で水を 静かにすくう・・・。 チャポン・・・。 かすみの手が・・・ 綺麗な波紋をつくって・・・。 かすみの笑顔が・・・ 映る・・・。 (かすみ・・・) 優しい笑顔 母のような 頼もしい姉のような・・・ だがどれでもなく たった一人の・・・ (・・・オレの好きな・・・”女”だ・・・) 夕映えが 一夜の瞳にかすみの横顔を 美しく 艶やかに 映し出す 「・・・?どうかした・・・?」 「・・・」 「あの・・・」 (・・・。どうしたんだろ・・・。なんか・・・) 一夜の目つきが違う・・・ (・・・怖い・・・) かすみはすっと視線をそらす・・・ 「・・・!」 ぐいっとかすみの腕を掴む・・・ 「かすみ・・・ちゃんとオレのこと見てくれよ・・・」 「い・・・痛い・・・。離して・・・」 怖い 照れくさそうに幼さを垣間見える 一夜のあの笑顔じゃない 目の前にいるのは・・・ ・・・生身の男性。 「・・・。オレ・・・オレ・・・」 「・・・離して・・・」 一夜の手を跳ね除けようと 抵抗するが・・・ 「・・・っ!ちゃんとオレの顔見てくれよッ!!」 かすみの態度に苛立ちが 力任せに抱き寄せる。 (・・・ッ) ゾワゾワッ かすみの全身に 悪寒が駆け巡り、産毛まで逆立つほどに 不快感が走った ”かすみちゃん・・・おいで・・・楽しいことしよう・・・” (・・・ッ) 「・・・ぎゃああ!!!気持ち悪いさわるんじゃねぇよッ」 「・・・!!」 バシャン!! 激しく かすみの両手が一夜を噴水の中へ突き飛ばした・・・。 (な・・・な・・・) ・・・男のような 低い・・・声 かすみが発した声に 一夜の思考も 体の動きも 時間も ・・・止まった・・・ 「・・・あ・・・あ・・・」 かすみがガクガク 肩を震わせ・・・。 「・・・な・・・なん・・・だよ・・・」 チャポ・・・ かすみに・・・ 近づこうとすると・・・ 「ヒャ・・・ッ!!来るなッ!!!」 バシャンッ!! 一夜の顔に まるで唾を吐くように 水をかけて 尋常じゃない ・・・拒絶・・・ 「なんだ・・・なんだよ・・・なんだよ、なんだよなんだよ・・・っ!!!!」 「・・・あ・・・」 「そりゃ・・・。突然・・・だったかもしんねぇけど・・・ そんな・・・そこまで・・・」 「・・・」 「・・・そっか・・・。オレ・・・。そんなに・・・ 嫌われて・・・たのか・・・。そっか・・・」 力が抜けていく・・・ 浮かれていたのは自分だけ 恋じゃなくても ・・・大切に思われていると・・・ 思い込んでいた (・・・オレ・・・馬鹿じゃねぇか・・・) 「・・・あ、あの・・・」 「・・・悪かった・・・な」 「あ、あの・・・」 「もう・・・。馬鹿なこといわねぇから・・・ッ」 視線を落として 俯いたまま・・・ 背中を尖らせて ・・・走って行った・・・。 「・・・あ、あぁ・・・」 ストン・・・。 真っ直ぐな紐が 落下するように脱力・・・ 「・・・犬・・・夜叉・・・ごめ・・・。ごめ・・・ごめんなさい・・・」 酷いことを言った 一夜の気持ちを 踏み倒して、ねじって これでもか!と、言わんばかりに 突っぱねた いや・・・ ・・・拒絶反応 「ごめ・・・ごめ・・・」 誰にもいえない 誰にも見せたくない かすみの胸の奥の 奥の痛みが・・・涙となって 涙となって ・・・噴水の水に凍みこんで行った・・・。 「ハァハァ・・・」 ”さわるんじゃねぇ!!” (カゴメニキラワレタ、カゴメガオレヲキラッタ) 「クソォッ!!!」 ガッ!!! 人の家の灰色の塀に 額をぶつける (カゴメニキラワレタ・・・カゴメハ・・・オレを好きじゃない) ”触るんじゃねぇ!!” 男の声に豹変させるほどに 嫌悪されていたなんて ・・・気色悪いと思われていたなんて・・・。 「・・・う・・・っ・・・うッ」 情けない 男が泣くなんて・・・? 好きになった女から拒絶されたぐらいで・・・ (・・・でも痛てぇ・・・いてぇ・・・) 心臓に 鋭く削られた鉛筆を突き刺されたよう 切り裂かれたよう だってそれは・・・ (・・・かすみがオレの”心臓”だから・・・だ・・・) 心臓が止まったら 人は生きていられない 死んでしまう (どうしよう・・・どうしよう・・・) こんなことなら 告白なんてしなければ良かった (嫌われるくらいなら・・・) 「・・・う・・・ッ・・・う・・・ッ」 お母さんに ポイっとゴミ駄目に捨てられた子供ように 電信柱の影で 背中を丸くしてすすり泣く・・・ ・・・心臓の痛みに支配されて・・・ (かすみ・・・) ・・・余裕はなかった (かすみ・・・) 今の一夜に 察する心の余裕が なかった・・・ かすみの胸の奥に誰にも言えない ”何か”が在ることを・・・。