久遠の絆 第37章 枯れ果てた鉢植え ・・・真っ暗だった部屋から 連れ出してくれた。 そして 太陽の暖かさを教えてくれたのは・・・ ・・・かすみだった。 (・・・太陽は・・・オレに光をあててくれねぇみてぇだ) 一暴れした部屋。 倒した本棚に飛び散った洋服。 「・・・力が・・・。でねぇ・・・」 かすみからもらった小さな花の鉢。 陽が真っ直ぐに差す窓際に置いていたのに・・・ カラカラに水分もなく 茶色に変色して・・・ ・・・枯れていたのだった・・・。 (・・・出ない・・・) 一方、かすみの部屋の机の鉢の花・・・ (・・・) かすみの瞳に焼きついたいる ”触るな!” 暴言を吐いてしまった 何も知らない 一夜に。 (ごめん・・・ごめん・・・) ”人の心に近い仕事がしたい” 偉そうなことを思っていた自分が今は・・・ ベットの上で、毛布をかぶるかすみ・・・ ・・・毛布を一層、頭から深くかぶり、 隠れる。 窓辺の鉢植え 根まで腐って・・・ (・・・ごめんね・・・) 一夜と一緒に買った鉢植えの花 もう咲くことは・・・ ないだろう かすみはぎゅっと膝を抱え 毛布をかぶって ただ・・・何度も心の中で鉢植えに向かって呟くのだった・・・。
”触るな!!” あれから二週間 (・・・) 厨房で、料理長から命じられた、生野菜の下ごしらえ中の一夜だが・・・ ”触るなッ!!触るんじゃねぇっ” (・・・) ほうれん草 水道の水で垂れ流したまま呆然として・・・。 「犬っころ!!てめぇ!!ちょっと来いッ!!」 料理長は見かねて、一夜の襟をつかんで、勝手口から そのまま外に放り投げた 「いい加減めぇ覚ませッ!!!!!」 バシャンッ!! 思い切りバケツの水を一夜に頭からぶっかける。 「・・・」 だが一夜は無反応で・・・ まるで壊れたロボットのように動かない・・・ 「・・・。てめぇは病気だ。病人に厨房 うろつかれると上手い料理が造れねぇ。暫く休んでろ!!」 バタン!! ガチャ。 勝手口から締め出された一夜・・・ 「・・・」 ポタ・・・ ポタ・・・ 濡れた髪から落ちる雫の音さえ聞こえない・・・ (・・・カゴメにキラワレタ) 聞こえるのは かすみからの”拒絶” (カゴメにキラワレタ・・・オレハキラワレタ・・・) 母親から見捨てられた子供のように 絶望感だけが 一夜を支配していた・・・。 そんな一夜に近づくシルバーのベンツ。 「・・・いいザマだな。初恋少年」 運転席から月森が顔を出す。 「料理長から”休憩”を頂いたようだな。 どうだ。オレと一杯飲もうじゃないか」 「・・・」 月森の声など聞こえていない。 「・・・ほう。ま、好きにしろ。勝手に被害者意識 に苛まれてろヤ」 月森の嫌味もカラスの声も聞こえない。 だが・・・ 「酒のつまみを”かすみ君のトラウマ”にしようと 思ったのに」 (・・・!?) 「ま・・・。自分の心の余裕のない奴には無理か。一人でロンリーに 失恋ソングでも聞いてろや。んじゃ」 「ま・・・待て!!」 一夜は立ち上がり濡れた両手で月森の車のまどを開ける。 「・・・かすみの・・・トラウマ・・・って・・・」 「・・・。ふぅ。ま、ドライブ致しましょう。初恋少年」 気障な言葉と一緒に月森は一夜を運転席に乗せた。 いずれは来るであろう”この時” 自分の役割がやってきたのだろうと少し顔つきが大人びた一夜を 見つめながら思った。 「・・・おい・・・。それでかすみのトラウマって一体・・・」 「・・・まぁ慌てるな。簡単に語れることじゃないし、 語りたくもないんだがね」 「・・・?」 意味深な月森の言葉に、首を傾げる一夜。 (なんでもいいから・・・。かすみの事が知りたい) 焦る気持ちを抑え、一夜は月森の言葉を待つ・・・ 「どこへ行くんだ」 「・・・。”枯れてしまった花畑”かな」 「・・・?」 一夜を乗せた車が向かった場所は・・・ (・・・。小学校・・・?) ランドセルをしょった子供が校門から出てくる。 そこは、とある小学校。 「・・・かすみ君は可愛かったぞぉ・・・。そりゃあもう」 「・・・」 「・・・グランドの隅にある花壇をみろ」 「・・・?」 月森に指差す方向。 (レンガの・・・花壇・・・?) 丸い小さな花壇が・・・ だが花は咲いていなかった・・・。 そして語られる ”滑(ぬめ)った”かすみの記憶とは・・・。