久遠の絆


第四章 首飾り





”一夜”







『彼の名前は一夜。母親がそう呼んでいたらしい。母親の名前は犬養小夜子・・・。
母親との密接な親子の愛情があったとおもわれる・・・』




パソコンの画面




『一夜日記』とタイトルがつけてある。





一夜の様子を記し始めて十日目・・・






「ったく。あの怪力男・・・。女でも容赦しないんだから・・・」




ドレッサーの前で鼻の頭に絆創膏をはるかすみ・・・




相変わらず一夜は部屋から出ることはほとんどなく
今日も、朝から





「一夜、おっはよー!気持ちいい朝よ。お散歩でもしない?」




といきなり扉をあけたら




バタン!!







いきなり閉められた・・・





(・・・。このくらいで引き下がるか!)





と闘志をもやすかすみ・・・だがいくら声をかけても




必要意外な会話はいっさいしない・・・。











(でもあたしの怪我の成果もなくはないのよね)













「一夜。ご飯だよ。今日はね。カネコさん(月森屋敷のお手伝いさん)が
たけのこご飯つくってくれたの」







かすみはパタパタと内輪でたけのこご飯の匂いを部屋の中に入れる。






(食欲を刺激するのも人間、意欲を引き出すポイントよ)






ちょっと単純なかすみの狙い。











ガチャ・・・。









まだ少し警戒したような瞳が顔を出す・・・








「あ・・・。おはよう」







「・・・飯よこせ」








お盆に盛られた朝食をかすみの手から受け取る。






「ねぇ、今日お天気もいいしさん・・」





バタン!






食事だけ受け取ってやっぱり扉を閉めてしまう。








「・・・。でも・・・今あたしの目、見て受け取ってくれた」






かすみは確かに感じていた。






微かだが




一夜の変化を・・・










(大丈夫・・・。心と心・・・。きっとこの扉を開けてくれる・・・)










信じること。




何があっても信じること。





かすみの信条だ。







(これは私の”闘いでもある・・・”。諦めるわけにはいかないの・・・)










固い茶色の扉。





向こうの頑な魂に






寄り添うために・・・










かすみは一夜の母の20年間付けていた日記をくまなく何度も読み返す






逃亡生活の中産まれ、常に人の目に触れないよう
背中を縮めて大きくなたった。




学校にも行かず、母親と父親以外の人間とのかかわりはほとんどなかった。







『逃亡生活に疲れてくるとあの人はお酒に逃げる。そして呪文のように言うのだ。
”オレはお前らのために犯罪者になったんだ・・・。全部お前らのためだ・・・”
だからこのオレを裏切ったら・・・。殺す・・・”と』






母親の文面から




高岡と小夜子の仲は冷え切り、高岡に抑圧されていたことが伺える。








『高岡の監視は異常さを増してきた・・・。盗んだ1億も
もうとうにない。私が働きに出るしかない。漁師町の小さなスナックで働く。
その間、一夜と高岡の二人きり・・・。とても心配だ。一夜の手に痣があった・・・』









(・・・。高岡が・・・一夜に暴力を・・・)





最後の日記の日付に近づくにつれ
小夜子の文字が歪む。




長年の逃亡生活による疲れが高岡の精神を狂わせてきたのだろうか・・・









『・・・このままでは一夜は高岡に命を奪われかねない・・・。もう・・・
この生活も限界なのだと一夜につけられた体の傷が言っている・・・』










(・・・。だからって・・・。子供を残して心中・・・?そうじゃないでしょ・・・!!
本当の愛情って・・・!!生きつづけて彼から奪った子供時代を一緒に
取り戻すことでしょ・・・!!勝手よ・・・!!!!)







小夜子の日記を読み返すたび・・・




一夜が送ってきた孤独であまりにも荒んだ日々への痛みと
母を奪った高岡への憎しみが入り混じる・・・







(・・・彼が・・・。これから一人で生きていけるようにならなくちゃ・・・。
お母さんが浮ばれなさ過ぎる・・・。お母さんの死の意味がなくなる・・・)








ドレッサーの引き出しを開け、母の写真を見つめるかすみ・・・







(お母さん・・・。私・・・。頑張るから・・・)







写真の中の母の微笑み・・・



かすみを支えていた。



ふと、かすみが次のページをめくると



『4月29日。一夜の誕生日だ・・・。何一つ。親らしいことはしてやれないけど・・・
誕生日だけは祝ってやりたい・・・。私の息子の誕生日・・・』







かすみはカレンダーを見た。





(29日って・・・。明日じゃない・・・!)






一夜は一体どんな誕生日を・・・過ごしたのだろうか。








(誕生日・・・。誰もが唯一”主役”になれる日・・・)





かすみはきっともっと一夜の心に歩み寄れるきっかけにならないかと
考えた・・・













次の日。








「月森先輩!!カネコさん!!足もってください!!」





徹底的に風呂を嫌がる一夜。



かすみと月森、お手伝いのカネコの3人がかりで風呂場まで引っ張っていく。





「離せ!!くそばああ!!(カネコのこと)オレに触るな!!」





「くそばばあだって!??あたしゃまだ50代だよ!!」




カネコさんの怒りに触れたのか、


ひょいと一夜の足を肩に乗せ、無事、脱衣所に到着・・・






「こら!!暴れるな!!ったく・・・。何日同じ服きてるんだ」



服をぬがせようとする月森だが必死にシャツを抑える一夜。






「一夜・・・。今日・・・。貴方の誕生日よね・・・」






「・・・!」






かすみの言葉に一夜の表情が代わった。


「自分の誕生日・・・。お母さんと楽しく過ごしたんでしょうね・・・。だったらさ・・・。
きっとお母さん見てるよ・・・。一夜のこと・・・。お母さんきっと心配してる・・・」






「・・・」








「お風呂に入って・・・。綺麗にしてお母さん迎えてあげようよ・・・」






かすみは腰を降ろし、一夜をじっと見つめた・・・







「・・・。離せ・・・。服ぐらい自分で脱げる・・・」








「一夜・・・」






「風呂にはいってやる。だからみんな、出て行け・・・!!」










風呂場から3人を追い出す。




「・・・。入ってやるってな・・・。どれだけ苦労してお前をここまで引っ張ってきた
と思ってるんだ・・・(汗)」



苦笑する月森。





「ふふv」




「かすみ・・・。どうしてそんなに嬉しそうなんだ?」






「だって・・・。すごい進歩じゃないですか!今まで一言も口聞いてくれなかったのが・・。
私達の目をちゃんと見てくれるようになった・・・。すごいですよ!」




「・・・。君って人は・・・」





細い手の甲に一夜から負わされたすり傷の痕が残っている・・・





「先輩!今日、一夜の誕生日なんです!みんなでお祝いしましょう!
カネコさん!ケーキ作るの手伝ってください」





かすみはエプロンをつけながらカネコとキッチンにスキップして
降りていった・・・。









(・・・少し。一夜が僕は羨ましいよ・・・)














だが。




騒ぎはすぐに起きる。







かすみとカネ子がキッチンで生クリームをあわ立てる・・・





そこへ。





風呂からあがった一夜が物凄い剣幕でキッチンに入ってきた。




「おい!!てめぇら!!どこやった!!!」





「え・・・!?なんのこと!??」





「オレの首飾りどこやった!!!」





かすみのエプロンを掴んで迫る一夜。






「首飾りって・・・」





「オレが母さんからもらった首飾りだ!!!どこやった!!!」





「・・・緑色のやつかい・・・?それなら、コロ(月森の愛犬)がさっきくわえて外に・・・」






「・・・な・・・。なんだと・・・!???ふざけんな!!すぐとって来い!!
返せッ!!返しやがれ!!!!」






一夜は酷く興奮し・・・



かすみを冷蔵庫に押し付け襟をきつくしめる・・・





「ゴホ・・・ッ。く、くるし・・・」





「返せ!!返せ!!返せッ!!!!母さんを返せーーーーっ!!!!」




泣き叫ぶ一夜・・・




「よせ、かすみを離せ!」




月森が一夜をかすみから離そうと腕を引っ張る










「どうしてみんなオレから母さんを取り上げる・・・ッ!!!母さん返せ!!!
どこやった返せ、返せ、返せぇええええッ!!!ウワァアアーーーーーッ!!!」











半狂乱に頭を掻き毟り、暴れる一夜。







「返せ、俺の母さん返せーーーー!!!返せかえ・・・」






ふっと一夜は意識を失った。




「ったく・・・。暴れるだけ暴れて・・・」



月森は一夜を背負う。





「ぼっちゃまかすみ様が・・・」





かすみ冷蔵庫に打ち付けられ気絶している・・・






「・・・。かすみ・・・。すまない・・・。やはり君に頼むべきじゃなかったか・・・。
こんなに傷だらけになるなんて・・・」






かすみの頬をそっと撫でる月森・・・





(ぼっちゃま・・・)






切なげな月森の姿をカネコはじっと見つめていた・・・





















犬トークで『悲劇とか悲恋とかはもう沢山』みたいな ことかいておきながら、結局私もシリアスな展開しまくってます(自爆) でもこう・・・何かと葛藤するかごちゃんを書きたいというかなんとうか(迷) 自分の中でもまだ発酵しきれてない部分がありますが 恋愛要素も徐々に絡めていきますので しばしお待ち下さい・・・(汗)