第42章 感覚的な男 「一夜。飲みに行くか」 「はい?」 先輩の同僚にのみに誘われることが多くなった。 「でもオレ・・・」 「あのなぁ。先輩からのお声がかかってるんだ。 付き合うのが礼儀ってもんだ。ふふ。いい女が そろってるいー店あるんだ。来い」 (いい女が揃ってる・・・?) いわれるままに、同僚につれていかれる一夜。 『夜の女子高後夜祭』 (妙な名前の店だな) 居酒屋をイメージしていた一夜だが・・・。 ピンク色の証明。 「あー。いらっしゃーい!」 (な・・・) ミニスカートと水着姿のお姉さんばかりなお店。 「ふー!解放される!やっぱり若い女のにおいはいいよなぁ〜」 ソファに座るとねこ耳のカチューシャをつけた ゼブラ柄の水着の女の子たちがお酒を持って 隣に座った。 「あら。新人さん?可愛い顔してるわね」 「そうなんだよ〜。オレの後輩でね。ふふ。今日は ”女の味”を教えてやってくれ」 ゼブラ柄の水着姿のお姉さん。 一夜に擦り寄って顔をくっつけてきた 「なにすんだ!やめろよ!」 突っぱねる一夜。 「あらぁ〜。本当にチェリーボーイ? 鍛えがいがありそうだわ。ふふ」 「・・・な、ち、近づくなッ!」 思わず立ち上がる一夜。 「おいおい。一夜〜。お前そこまで 子供じゃないだろ?おねえさんから”女のエキス”貰っとけ。 若いときはとくにな」 「・・・。い、いらねぇよッ。そんなん!帰る!!」 一夜は店を出ようとした。 だが立ち止まり・・・。 水着のお姉さんをチラッと見た。 「あら。機嫌治してくれた?ふふ」 「・・・。アンタ・・・。楽しいのか?」 「え?」 「楽しいならいいけど・・・。なんか辛そうに見える。それと・・・。 手の甲。傷口まだかさぶたはってないみてぇだから・・・。じゃあな」 「・・・」 一夜はそっとポケットから絆創膏をテーブルから置いて 店をあとにした。 「ったくよ〜。ネンネ過ぎるぜ。ま、 アイツも男だ。そのうち女が恋しくなる。 女の色香ってのは男を労うためにあるモンだってことが」 「・・・。違うわよ」 「え?」 「・・・。あの子は違うわ。アンタとは・・・」 「おいおい。どうしちゃったの急に・・・」 「・・・。ごめんなさい。ちょっと化粧落ちてきちゃった。 お手洗いってきますー」 と水着のお姉さんは席をたった。 トイレの鏡の中を 「・・・」 ”楽しいならいいけど・・・” 「・・・。鋭い子だわね。ふふ・・・」 前髪をそっとあげる。 額がない出血していて・・・。 (・・・。ご意見・・・。ありがとうね。チェリーボーイ君) 水着のお姉さんは絆創膏をそっと 胸元に仕舞った。 そして再び営業スマイルを浮かべ、店に戻っていった・・・。 「えらい場所だったな・・・」 商店街から少し路地に入った場所。 (・・・。繁華街・・・。男の憩いの場ってやつなんだろうが・・・) 何かが ・・・痛い。 この間偶然、時代劇を見ていたら。 ”吉原”で女性が柵の中いて 侍が指差して品定めをしていたシーン・・・。 「選んでんじゃねぇよッ!!」 と、叫んで、一夜は思わずチャンネルを変えた。 チカチカと光ネオン。 『ストレス解消!萌えなあの子と 一夜限りの夢・・・』 可愛らしいイラストの看板。 「・・・。女も男も・・・。”売り物”じゃねぇ・・・。 ストレス解消なら・・・別でしやがれ・・・」 ポイっと 営業のチラシをごみ箱に捨てて 一夜は捨てて立ち去る・・・。 「魂が・・・。傷ついたら駄目なんだ」 一夜の脳裏には かすみの叫んだ姿が過ぎったのだった・・・。 一方。 かすみは”実習” その名札をはって 患者が集える 食堂やフリースペースと呼ばれる場所で 患者との”触れ合い”が目的だという。 (・・・。いいのかな。人の心と 向き合う時間を”実習”なんて・・・。) 迷いと戸惑いを感じつつ・・・。 かすみは一人の若い女性の患者と 話をしていた。 「・・・。あんたどこの大学の人?」 「え?あ、ああ。○○学院です」 「ふーん・・・」 年下だろうか。 患者という割には化粧も濃く、かなり顔色は良く見えるが・・・。 「ねぇ。アンタさ、男いんの?」 「え・・・」 「なんか可愛い顔してるからさ。どんなカレシがいるのかなぁーって」 「い、いえカレシなんて・・・」 ドン! 女性は拳をテーブルに打ち付けた。 一瞬、辺りは騒然とするが・・・。 他の看護士たちは”またか”という顔をして 自分たちの職務に戻る。 (ど、どうして知らん顔するの?) かすみは他の職員の助けが欲しいと思ったが・・・。 「・・・。なんで嘘つくのさ。いるくせに」 「わ、私嘘なんて・・・」 「いるんでしょ?もしかしたら、私の男の相手って あんたなんじゃ・・・」 「そ、そんなことあるわけ・・・」 「あるわけないって証明してよ!!じゃあ!!目に見える形でさ・・・!!」 「きゃ・・・」 女性患者はかすみの襟を掴みかかり 「ユウリちゃん。もう。カンシャク起きたのね。 こらこら。屋上行こうね。屋上行って”深呼吸”きますか」 一人の年配の看護士が女性に促してその場を離れいった。 「深呼吸しに行ったんじゃないわよ。ハイ。飲んで」 「あ・・・ありがとうございます」 他の看護士がかすみに珈琲を手渡す。 「スモーキングタイム。あ、っていっても ホントの煙草じゃなくて、ニコチンパッチみたいなやつ。 今、禁煙真っ最中なの」 「あ・・・。そうなんですか」 「ちょっと色恋沙汰で最後は喧嘩で救急車・・・。 色々複雑なの。でも根はいい子なのよ」 「・・・そうなんですか・・・」 (・・・そうなんですかしか言えない・・・) 悠々とさっこのユウリという少女ことについて 話す看護士。 「・・・落ち込みなさいな。落ち込んだ方がいいのよ」 「え?」 「落ち込んだり泣いたりした方がいいわ。 メンタルなお仕事目指すならなおのこと・・・。 ”感覚的”になり過ぎても駄目だけど、どんな仕事もね ”感覚”がなくなったら大切なこと忘れちゃう」 「・・・。感覚的・・・」 「私たちの場合は患者さんの”体温”を忘れちゃいけない。 肌の温度と表情をみてるの。ドクターはデータや数値ばっかり気に することが多いからなおのこと・・・」 話す看護士の語り。 かすみの表情を伺うように タイミングを取るように話しているように 感じた。 「お説教っぽく聞こえたらごめんなさいね。ただやっぱり 若い人にこそ感じて欲しくて・・・。人の心に ”マニュアル”なんて本当に通用しないってこと・・・」 かすみの脳裏に 一夜のことがよぎった。 「本当にそうだと思います・・・。お天気より難しいから・・・。 心は・・・」 窓の外の空。 テレビの画面では”天気予報”が流れている 「・・・。”人の心予報”があったら少しは 私たちの仕事も楽になるかしらね。ふふ・・・」 と、くすっとかすみと看護士は笑いあった・・・。 ・・・空のように 色んな形がある。 「雨の日も曇りの日も・・・。私は嫌いじゃないわ」 大学から帰る道。 商店街の雑貨屋さん。 ”今、禁煙中なの” ユウリという少女ことが過ぎった。 「・・・」 かすみは雑貨店に入り 星の形をいたキャンディのびんをみつけた。 「これください!」 そしていちご味のキャンディを入れた。 (・・・食べて・・・くれるかな) 実習最終日。 ユウリという少女とはあれ以来、会話をしていない。 病院の許可を得て、ユウリがよく座るという 窓際の席にかすみは 雑貨屋で買ったキャンディの瓶をそっと置いた。 (あ・・・) 少し機嫌が割るようにユウリという少女が 席に座った。 かすみは遠めに様子を見る。 「あー・・・ウザイ・・・。ムカツク・・・ダルイ・・・」 ぶつぶつなにか言いながら外の景色を見つめている。 苛苛しているのか貧乏揺すりが始まった。 「ん?」 ユウリという少女はキャンディの瓶に気付いたようだ 「・・・」 何が入っているのかと瓶を手にとって 瓶の底から、横から まじまじと眺めている。 「・・・飴か。ふん」 といいつつ、 瓶のふたを開けた。 くんくんと匂いをかいで・・・ (あ・・・) キャンデイの包みを一個手にとった。 そして パクっと口に一個入れた。 「・・・。甘すぎ・・・」 飴玉をほおばりつつ ユウリの貧乏ゆすりが止まった。 (よかった・・・。食べてくれた) かすみの実習は終わった。 ユウリという少女とは会話もなかったけど・・・ (食べてくれた) その事実は かすみの日記に確かに記されたのだった・・・。 「モグモグ」 「・・・」 久しぶりに一夜と会う。 公園のベンチで ぼんやり木々をながめつつ。 ユウリが食べた同じキャンディを 一夜にもあげてみた。 「あんたって・・・。感覚的?」 「あ?なんだソレ」 「えーっとうん・・・。その飴、おいしい?」 「ああ。甘いモンは結構好きになったぜ? 疲れてるときはほしくなるもんな」 「・・・。よかった。じゃあ”感覚的”ね」 「??」 一夜は首を傾げる。 「私・・・。感覚的な自分。忘れない」 「??意味分からん」 「分からないことも感覚的。それでいいのよ」 かすみもキャンディを口に含む。 「甘い・・・。おいしい」 空があって 雲があって 木々があって 「おいしいなぁ!」 おいしい味があって・・・。 かすみと一夜 同じ味と空を見上げていた・・・。 だが・・・ その空が その後 暗いものになろうとは・・・ なろうとは・・・