久遠の絆 第43章 痛み 従業員専用のトイレ。 一夜と同僚がならんで用を足し中。 「おう。一夜。お前。なんでこの前帰ったんだ」 「え?」 「裸の付き合いって言葉知らないか? 付き合いってのは人間づきあいの基本だぞ。特に男は 酒と女とで・・・」 一夜はハンカチをポケットから取り出す。 「・・・。そんな付き合いしたくねぇ!」 「”男”がハンカチ?ははは。”裾”で拭いとけばいいのに」 同僚は指先をぬらす程度で手は洗わず。。 「リョーリは清潔が一番なんだろ!」 「そりゃそうだ。けどなぁ。おい。綺麗なこと ばっかりいえねぇのが人間ってもんだ」 「だが料理人は清潔が命だ。お前」 くいっと 同僚の襟をつかんだのは料理長。 「わっ」 「男の付き合いはいいが、その"ツケ"が お客様の口の中にいったらお前、どう責任取るんだ?」 と、トイレのタワシを指差す 「え・・・。あ・・・えっと・・・」 「お前、一ヶ月ここ掃除だ。少し 頭冷やせ」 「は・・・ハイ・・・」 『食中毒警報発令中』 トイレの入り口に でかでかと書いて貼ってあった・・・。 「一夜」 「ハイ」 「確かに料理には清潔が一番だがてめぇの心 が潔くなけりゃぁ・・・。辛いもんだぜ」 「・・・。オレにはまだまだ難しい感覚です」 「・・・。ハハ・・・。それでいい。 自然に任せときゃ・・・」 料理長は一夜の髪をくしゃっと 優しげに撫でた。 (分からなねぇことなら分かろうとするしかねぇ) 翌日。 「一夜。なんでお前・・・」 「ここはオレも使ってる場所ですから」 一夜は同僚と共にモップを持って 長靴を履いている。 「・・・。料理長から言われたのはオレだけだ。 ・・・。一人でやらせてくれよ」 「・・・いえ・・・。やっぱりオレも使う場所は オレで掃除したいから」 「・・・。あのな・・・。男には”面子(メンツ)”ってもんが・・・」 同僚は一夜からモップを取り上げた。 だが一夜も奪い返す。 「・・・。オレが使う場所だから オレもけじめつけたい。それがオレも面子です・・・!」 「・・・。な、生意気な・・・」 きゅっきゅっきゅ。 きゅっきゅう。 黙々と。 便器と 「・・・」 タイルの境目を磨く。 「・・・」 同僚の手も 磨く音につられて 「・・・。かっこつけてんじゃねぇ・・・」 きゅっきゅう。 同僚の手も 動き出す・・・。 きゅっきゅ。 「すげぇ綺麗だな。なんか・・・。 キレイ”すぎて”出るモンがでねぇな。ハハ・・・」 他の同僚達が遠慮がちになるくらいに 真っ白くなっていた・・・。 「えーっと・・・」 大学の帰り。 商店街 (・・・。たまには・・・回り道して帰ろうかな) ガードを通ってお気に入りの雑貨店に行こうと思った。 (ん?) 暗いガードの真ん中 一つだけ灯っている電灯の下・・・ (な・・・) 制服の少女に 若い男が 少女の首に ・・・あてられている 細長い ・・・牙 ゾクリッ (あ・・・あ・・・) ”かすみちゃん・・・かすみちゃん・・・” 手と足の裏 ヌメッとした 冷たくも熱くもない 汗 胃液が あがって 口から飛び出そう 口の中が乾いていく。 ドサ・・・ かすみの膝はがっくんと 折れ、 その場にすくむ。 ”た・・・助けてよ・・・” 少女が かすみに すがるような 苦しい視線を送って手を伸ばす。 (あ・・・・・た、た、たすけなきゃ・・・ッ) 少女の顔が ・・・幼い時味わった あの 恐怖をよみがえらせる。 (壊さなきゃ・・・壊さなきゃ・・・ッいやッ) 「・・・あぁ。あああ・・・!」 かすみは 手に持っていた 傘を 振り上げて 男の後頭部めがけて 振り回した。 ザクッ! 「わ・・・ああああ・・・!血が・・・ 突き刺さって・・・オレの足に・・・」 男の太股に 傘の骨の先端がつきささって・・・ 「ぎゃぁああ!痛てぇ!痛てぇよ・・・!! 痛てぇよ!!!!わぁあああ・・・!」 男は蹲って暴れまわる。 (・・・。痛いの・・・。私も嫌だ・・・) 近所の人間達が騒ぎを聞きつけて 集まっている 「痛いの・・・嫌だ・・・」 周囲の騒ぎなど ・・・かすみは気づかすただ・・・ 深く深く 俯いて 「痛いのいや・・・嫌・・・」 念仏のように 繰り返していた・・・。