久遠の絆 第44章 もう誰もさわらないで・・・ 色んなことが目の前で起きてる。 ・・・私は誰かを傷つけてしまった。 武器を手にして (私は・・・。私は・・・) かすみの心は 止まったまま・・・。 「正当防衛に当たります。寧ろ被害者を守ったわけですから」 弁護士やら警官やら どこから来たのか新聞記者。 「ストーカー男を撃退した心境は!??」 などと、記者やら煩い人間達が 騒がしく・・・ 「うるせぇ!帰れ!帰れ!!」 一夜が追っ払っても 一度たった噂や事柄は 人の口伝いに広まって広まって・・・。 食堂は騒ぎが収まるまで閉店することに・・・。 『おじさんおばさんごめんなさい。 わたしのせいで・・・ごめんなさい』 と、一言メモを残してかすみは部屋から 出てこない。 「一夜君なんとかしてくれんか・・・。 食事も取らんのだ・・・」 駆けつけた一夜。 (・・・かすみ・・・) 静かにかすみの部屋の襖を開ける・・・。 「かす・・・み」 部屋の隅で肩を枯れた葉のように 垂らして 俯いている。 パジャマ姿のままで 髪ははねたままで・・・ 俯いて 背中を亀の甲羅のように 丸くして 縮こまっている・・・。 (・・・あんな背中・・・。前のオレみてぇじゃないか・・・) かすみに初めて会った時 世の中のもの 世の中のこと 全部全部 信じられなくて 嫌で 嫌で 嫌で 嫌で仕方なかった・・・ ・・・暗い場所しか 落ち着けなかった・・・。 (かすみ・・・) 「・・・」 背中が 近づくなといっている。 あの絶望感。 心が痛くて 痛くて 「かすみ・・・」 「・・・っ」 一夜が近づこうとした瞬間。 一夜の影が動いて 肩をすくめる。 ガタガタ 肩を震えさせて 怯えて 「・・・お願い・・・。今は・・・一人にして・・・」 分かる。 ”大丈夫か”と 心に降られた瞬間、 爆発しそうな 八つ当たりしそう ・・・嫌な自分が 飛び出してくる。 (我慢してるんだ・・・。かすみは・・・) だから近づくなと・・・ 「分かったから・・・。けど頼む・・・。メシだけは・・・食べてくれ・・・」 「・・・」 パタン・・・。 ドア一枚。 とても重く遠く感じる・・・。 (でも今のオレには何もできるこなど・・・) 痛んでいる心には 何より 静かな時間が ・・・薬。 それを教えてくれたのはかすみなのに・・・。 (クソ・・・。クソ・・・!) グっと拳を握り締める 今分かる 同じ立場になってやっと感じる 辛い気持ち 大切な人のために 何も出来ないという歯がゆい気持ち。 (・・・) ”男じゃなくてニンゲンって生き物として 寄り添え” 前に 言われた月森の言葉。 「・・・そんな難しいこと分かるかよ・・・」 心の奥底の傷に どう寄り添えばいいのか (わからねぇ・・・) 男という生き物対して 激しく傷つけられた痛み。 恋じゃ救えない 愛だけじゃ救えない 好きだじゃ救えない 愛してるじゃ救えない 「・・・。せめて・・・。女に生まれたらよかった・・・」 ポツリ・・・ 一夜は呟いた・・・。 一方・・・。 (私は人を傷つけた。私は・・・) 覚えている 人の肌を貫通したときの感触。 いくら人を助けようとしたとはいえ・・・ (違う。私はただ・・・。ただ・・・) ・・・憎悪。 自分の魂を傷つけようとする者への・・・ 自分の両手を見つめる。 この手で 人を傷つけた。 (・・・私は汚れてる・・・。私は・・・) あの瞬間。 相手の男なんて消えてしまえば思った。 (・・・私は・・・。駄目な人間だ・・・。 私は・・・私は・・・) プップーーーッ 「・・・ヒャッ!!」 カーテンの外から 車のクラクション プップー!! 「・・・やめて・・・!!」 責めている 怒られている かすみは両手で頭を抱えて小さくなる。 (・・・私は・・・駄目な人間だ・・・) 鳥達のさえずりさえ・・・ 「ごめんなさいごめんなさい・・・」 棘になって 破裂しそうな心を振動させる。 「・・・ごめんなさい・・・。 謝るから・・・。誰も私に・・・触れないで・・・」 誰も私に触れないで 男とか 女とか 正義とか 思いやりとか もうどうでもいい。 さわらないで オネガイ 私の心にふれないで 壊れそうなココロに 「触れないで・・・近づかないで・・・」 闘っているの 今 必死に向き合っているの だから・・・ 安易な優しさなんて 棘になるだけ・・・ その日・・・。 一夜が作ったお結びに かすみが手をつけることはなかった・・・。 翌日も 一夜はかすみに呼びかける。 ドア越しに。 「かすみ・・・。何か食べないと・・・。 頼むから・・・。一口だけでも・・・」 作り直したお結び。 「かすみ・・・」 「・・・。ごめん・・・でも・・・胃が受け付けなくて・・・」 食べようとした。 だが 体が拒否をする 固形物が口にものが入った瞬間 胃液が洪水になって喉をとおり、 ご飯粒の固まりが逆流して 唾液が口の中でぐちゃぐちゃになって 吐いてしまう・・・ 「・・・かすみ・・・」 「ごめんね・・・。心配かけて・・・ごめんね・・・」 「かすみ・・・」 かすれ声の ごめんね・・・が痛々しい・・・。 「・・・大丈夫・・・。ビタミン剤あるから・・・」 「かすみ・・・」 「ちょっと時間がかかってるだけ・・・。 ちゃんとするから・・・」 「かすみ・・・」 「少し眠るね・・・。一夜・・・。 お仕事ちゃんと行ってね・・・」 心配かけまいと 精一杯の言葉・・・ (クソ・・・。オレに・・・オレに・・・ 何が出来る。オレに何が・・・) 励ます言葉も 術も知らない。 「・・・一夜君・・・」 俯く一夜を心配そうに見つめるおじさん。 「おじさん・・・。オレ・・・に何が出来る・・・。 今のまんまじゃ・・・かすみは痩せてく一方だ・・・」 食べるということ。 ビタミン剤だけでは 人間の体は生かされない 「・・・。柚子粥・・・」 「え?」 「昔・・・。かすみちゃんが”あの事件”にあったとき・・・ うちの母さんがかすみちゃんに作ったことがある・・・」 「柚子粥・・・!?それならかすみは 食べられるのか!?」 「ああ・・・。じゃが・・・あれは簡単には作れんのじゃ」 「え?」 柚子粥。 特別な材料が・・・。 「南でしか育たない珍しい品種の柚と・・・。 北で育たない米が必要で・・・昔は簡単に手に入ったんじゃが・・・」 「それをそろえれば作れるのか!?」 「ああじゃが・・・。今の季節。柚はもう収穫していないだろうし・・・。 米も・・・」 「かすみが元気になるなら 南極だろうが北極だろうが駆け回るさっ!! おじさん!柚と米が手に入る場所おしえてくれっ!!」 一夜はドタバタと リュックに荷物を詰めて 準備する。 「一夜くん!待て」 「何だよ!」 おじさんは茶封筒を一夜に託した。 それには 数万円入っていて・・・。 「交通費かかかるじゃろう・・・。 足しにしてくれ・・・」 「おじさん・・・」 「ワシらはこのくらいのことしかできん・・・。 頼む・・・」 ぎゅっとおじさんの手を握り締めて 「絶対オレ・・・。手に入れてくる・・・。 かすみのために・・・!」 一夜は 茶封筒をしっかりにぎりしめて 一夜は食堂をあとにして。 新幹線に乗り込む一夜。 (かすみ・・・。待ってろよ・・・) 側にいることだけが 優しい言葉をかけるだけが 癒しじゃない 物が食べられない その辛さ。 ”おいしいって感じられたら・・・。 幸せだよね” ”食べられる”という幸せを 教えてくれた。 (今度は・・・オレの番だ) 好きな人ために 大切な人ために 一夜は一路、 南へむかった・・・、