久遠の絆 第45章 消えたい 活きたい 消えたい・・・ ”焦らせる言動は一番いけない” ”聞き手に徹すること。それが基本姿勢” ”時間はたっぷりあるから” 当事者でない自分がカウンセリングしていた相手に よく言ったせりふ。 今はそれらが”気休め”に思えてくる。 (自分のことになると・・・ぜんぜんだめなんだね) 心理学 精神分析 専門分野の言葉は頭に人より沢山入っていても (私・・・駄目だ・・・) 一夜にしてきたこと全部が 言ってきた言葉が ”あなたは大丈夫よ” ”負けないで” 嘘っぱちに思えてくる 前向きな言葉など なんの役にも立たないことは 自分が一番知っているのに・・・ (私は・・・半端な人間だ・・・) 冷たい 冷たい 虚しい 気持ちが心を支配していく。 かすみはただ、うつむき、畳に映る自分の黒い影を 見ていた。 (苦しい・・・) 色んな理屈や 感情が湧いてぐるぐるまわってる。 壊れたラジカセのように リピートして ”お前はだめだ 何をしても駄目だ。ならいっそ・・・” 一番最悪なイメージが湧いてきた。 (でも・・・でも・・・私は生きてなきゃいけない) 心臓が動いている限り 生きていかねばならない ”ねばならない” 母が命懸けで守ったこの命。 好き勝手してはいけないという理屈は分かりきっている 分かっているからこそ 尚更・・・ (辛い・・・) 体は停止させられない なら・・・ (消えたい・・・。こころを消したい・・・) 何も感じなくしたい。 重たい理屈も 記憶も全部・・・ 消して 体だけは動いて いればいいんだ (・・・神様・・・。私から”感覚”を消して・・・) 真っ暗な部屋で・・・ かすみは 頭を畳にこすりつけたまま・・・ 動かず じっと 自分の黒い影を見つめたいた・・・。 ※ その頃・・・。 (かすみ・・・!まってろよ!今・・・すぐ帰るからな・・・!) 新幹線の中。 一夜2日間かけて某県の農家中を探しまわり ”勝手にやってきてなんだい!無礼なやつだ!” と水をかけられても ”見ず知らずの奴にやるもんはない” と冷たく断られても一夜はあきらめなかった。 足の裏は歩きすぎたせいで血豆が沢山出来 靴下は血が滲んでいた。 ようやく見つけた貴重な柚子ひとつ・・・ そして、米も貴重なものをもらうのに 一夜は農家の作業の手伝いをした。 慣れない手つきで 稲を狩り・・・ 畑を耕し・・・。 一夜の手のひらも血豆で 潰れて皮がはがれている・・・。 ”そこまでされちゃあ、渡さねぇ訳がいけねぇな” やっともらえた3合ほどの少ないお米。 (これでかすみが・・・元気になるなら・・・!まってろ!) 新幹線の中で 一夜は少しでも早く着いて欲しいと願っていた・・・。 そして・・・。 「かすみ!!」 一夜が戻った。 「かすみ!!」 かすみの部屋に一目散に上がっていく一夜 そしてドアをあけて・・・ 「かすみ!!ほら!見てみろ!これでお前の好きな おじやが作れ・・・」 ドサ・・・ 一夜の手から 柚子2個とお米が入った袋が落ちた・・・ めちゃくちゃに荒らされた部屋の中 暴れた様子がすぐわかり・・・ 「か・・・す・・・み」 部屋は真っ暗・・・ ぼさぼさ髪・・・ 老婆のように・・・ 目の下のクマ そぎ落とされたような・・・頬 そしてかすみの瞳は・・・半目状態・・・ (声が・・・出ねぇ・・・) 自分があちこち 飛び回っている間・・・ かすみの状態が悪化していたことに 一夜はやっと気がついた・・・。 「かすみ・・・」 「・・・」 「かすみ・・・」 「何でもいいから・・・。返事・・・してくれよ・・・」 「・・・」 うつむいて 微動すらしない・・・ 「かすみ・・・」 (かすみの・・・こころが・・・止まってる・・・) 自分もあった 心の感覚を封印した時・・・ 体は動いていても 心が動かない 意欲が沸かない 食欲さえさえぎって・・・ 「・・・いち・・・や・・・」 「かすみ・・・!」 かすみのか細い声に一夜はかすみに駆け寄る。 「・・・きいて・・・いい・・・?」 「何を?何でも聞いてくれ!何でも応える! 何でも!!」 かすみの声が出るなら 喉が枯れるほどしゃべってもいい。 「・・・ココロと・・・カラダ・・・が 死ぬのって・・・。どっちが・・・つらいの・・・かな・・・」 「かすみ・・・」 「・・・ココロを・・・けしたい・・・」 「かすみ・・・」 「カラダが駄目なら・・・ココロだけで・・・いいから・・・」 かすみの 言葉一つ一つ・・・ かつて、暗闇の中にいた自分 のこころの言葉で・・・ 前向きな言葉が一番大嫌いだった・・・ 「かすみ・・・」 ココロが寒いとき ココロがくるしいとき ・・・言の葉など意味がない 必要なのは・・・ ”誰かの温もり” 一夜はそっとベットの毛布を手に取った。 かすみに触れないようそっと かすみの背中から包むようにかけて・・・ そっと 抱きしめた・・・。 「・・・。消えないよ・・・。だってかすみのこころは・・・ オレの中に在る・・・」 「・・・」 「消えても・・・。オレがいる・・・オレが・・・」 「・・・」 どんな言の葉がいいなんて わからない。 ただ・・・。 ”ひとりじゃない” ということを 伝えたい・・・ 「・・・オレのこころが生きてる限り・・・ かすみのこころも・・・生きてるから・・・活きてるから・・・」 「・・・」 そっと そっと 痛まないように 一夜はかすみをだきしめる 背中から 窮屈にならないように 優しく 静かに・・・ (・・・あ・・・) かすみの頬を ひとすじ・・・ たったひとすじ 涙が流れた・・・ 「・・・。お前が泣くなら・・・オレも・・・」 「・・・」 「かすみ・・・。かすみ・・・」 自分に優しい温もりを与えてくれた人。 自信を持って活きて行くことを教えてくれた人。 ・・・恋を教えてくれた人・・・ 「かすみ・・・」 ただ 愛しい人を抱きしめる。 教えてもらった 大切な大切な温もりを 伝え返す・・・ 「かすみ・・・お前は・・・アッタカイよ・・・」 (神様・・・。かすみのこころの・・・ 温度を戻してくれ・・・) そう願いながら・・・。 ずっと 一夜は かすみのこころが”活きる”よう・・・ 名を呼び続けながら・・・ 抱きしめ続けた・・・。