久遠の絆 第48章 でこぼこみち じゃりみち (・・・進路・・・か) 大学の卒業も近い。 かすみも意識せずにはいられない。 カウンセラーの道を進むなら、国家試験、さらなる専門知識を 知る必要がある。 だが・・・ この先のこと、 これから先のこと (・・・焦る・・・) 心理学科の参考書を見つめながら ため息をつく・・・。 頭では冷静な自分が居て、先のことを考えろというけれど、 頭の奥の奥はただ、焦りと葛藤の渦がぐるぐる ぐるぐる・・・。 (こんな・・・自分自身を支えきれない人間が・・・何を目指せばいいの?) 人の心に直接触れる仕事だ。 人の心に寄り添う心を養う期間が必要だ。 (・・・自分のことでいっぱいいっぱな私に何ができると・・・?) 迷いと焦りだけが 回復してきたかすみの食欲を減退させる。 「・・・ねぇ。時計。たまに・・・は止まってくれない?」 ・・・人生の、進路の考える時間ぐらい、 止まって欲しい。 (・・・でも止まっては・・・くれないのか・・・) 「・・・せっかちすぎるわよ。ゆっくりいこうよ!もう!」 目覚まし時計をつん!と指ではじた。 チッチッチ。 目覚まし時計はそれでも秒針は動くのだ・・・。 それに対して。 「一夜。お前のまかない、結構いけるぞ」 「ありがとうございます!」 板長からまかない食を褒められ、笑顔の一夜・・・ そのことをメールで知ったかすみは・・・ (いつのまにか・・・。一夜の方が・・・ 強く・・・確実に自分の道を生きてる・・・) 暗い部屋で小さく縮こまっていた 一夜の背中が 懐かしく感じさえする・・・。 『今度の休み、知り合いの牧場に電車で行こう』 一夜からの誘いだった。 久しぶりの遠出の外出。 かすみは体力をつけるいい機会だと思い承諾した。 日曜日・・・。 ガタンガタン・・・。 各駅停車の鈍行列車。 ゆっくりと田園風景の中、走っていく・・・。 「・・・。新幹線じゃ見られないよね・・・こんなに ゆっくりは・・・」 「・・・新幹線は料金高過ぎだ。庶民にあった 乗りモンを作るべし。政治家ども」 口が達者になった一夜にかすみはくすっと笑う。 (・・・やわらかい・・・笑顔だ) 無理のない 心が落ち着いている笑顔・・・。 「はー・・・」 でこぼこみち。 じゃりみち。 歩くとカシャガチャ、 まっすぐ姿勢をピンとはっては歩きづらい。 「・・・どんな道でも・・・。進めるさ・・・。 歩きにくいだけで・・・」 「そうだね・・・」 でこぼこ。 じゃりみち。 コンクリートのまっすぐな道は歩きやすくて楽だけど ・・・小さな発見はない。 「あ、ほら。見て。一夜。この小石、 ハート型みたいでかわいい」 と、ふたつの小石を見つけるかすみ。 「二人で持ってよう?ペアで」 「ぺ、ペアで・・・(喜)」 一夜はちょっと嬉しく・・・。 ポケットに二人は入れて再び歩き出す。 でこぼこ じゃりみち かすみと一夜は ゆっくりとゆっくりと 牧草地まで歩く・・・。 じゃりみちが終わったら上り坂の牧草地。 「いろんな・・・。道があるね・・・」 「ああ・・・」 どんな道も 少しずつでもいいから歩いていれば いつか どこかへは 必ずどこかへたどり着く。 ・・・まわり道したって 少しずつでも進めば 何かにきっと出会う。 「ほら。見て。可愛い花・・・」 「・・・お前に、に、似合うだろ」 「へへありがと」 耳に飾るかすみ。 そんなかすみに・・・ (か、可愛すぎるリアクションだろッ///) と、 ちょっと悶えた一夜。 そのまま二人は牧場のてっぺんにある 樫の木の元にすわって休憩をすることにした。 「はい。コーヒー」 「サンキュ・・・」 インスタントだけど・・・ じっくり歩いて登ってきた後のコーヒーの味は 少し疲れた体を温める・・・。 「私・・・。大学・・・。辞めようと思うの」 「えっ・・・なんで・・・」 「・・・。辞めてからの事は何にも考えてないんだけど・・・。 兎に角・・・。だた・・・。私が”行きたい”道は・・・大学にはない気がするの・・・」 「かすみ・・・」 「人が聞いたら贅沢な選択かもしれないけど・・・。 スタート地点に戻って・・・」 ”でこぼこみちか、じゃりみちか 自分の行くべき道を見直したい・・・” 「・・・。贅沢よね。我侭よね。でも・・・でも・・・ 私・・・。私の道を・・・考えたいの・・・」 「贅沢なんかじゃねぇさ。かすみ。かすみの道を 探すためのスタートなんだから・・・」 二人は立ち上がる・・・ 樫の木の葉が ゆっくりと風になびく・・・。 広々と翠の絨毯もゆれて・・・。 「・・・流れに・・・。任せたらいいんだ・・・。 焦らず・・・緩やかに・・・」 「・・・一夜・・・」 「自分を信じてさえいればきっと・・・。 ”応え”に辿りつく・・・」 一夜の 言葉一つ一つが かすみの心に沁みていく・・・。 「・・・?どうかしたか?」 「あ、いや、一夜、成長したなーって・・・。 すごいなぁって・・・」 「オレだってまだまだ発展途上だ。 ゆっくりまったり登ってくさ・・・な?そうだろ?」 「・・・うん」 (・・・ドキ) かすみは返事と同時に一夜の手を握った・・ 「ゆっくり・・・ゆーっくりいこうね・・・。私たちは・・・ 一緒に・・・」 「ああ・・・」 広がる草原を 見つめる二人・・・。 すぐ応えはなくとも でこぼこみち じゃりみち まわりみち 人より時間や厳しい現実があるかもしれないけど・・・。 あるけばきっと・・・ どこかに なにかに たどりつく。 「あ、あのよ。かすみ。一緒にって・・・ずっとか?」 「え?」 (そ、そそそそそれってもしかして・・・。 い、いゆる”逆プロポーズ”ってやつか!?///) ちょっと勘違いなんてしてまして(笑) 「あ、い、いやなんでもない・・・」 (・・・。オレの一人走りだな・・・。ま、いいか・・・) かすみの横顔が すがすがしい。 一緒に歩いていこうと 言ってくれただけで (・・・プロポーズ以上の言葉だよ・・・) 心と心が ずっと一緒・・・ 甘い言葉以上の 絆を感じる言葉を送られて 一夜はかすみとの心の距離がぐっと縮まった気がしていたのだった・・・。 そしてその夜。 居間にかすみはおじさんとおばさんをよんだ。 「おじさんおばさん・・・。私・・・ここを出て・・・一人暮らししようと 思います」 と、決意を告げた・・・ かすみの新たなスタートの始まり・・・