銀色のハーモニカと鮭弁

あいつとケンカして。

2週間たった。

あたし、思わず、あいつのアドレス、消去しようと思った。

けど・・・。

削除ボタンおせなかった・・・。

だって・・・。押せなかったんだもん。

今も押せなくて・・・。

押せなくて・・・

ケンカの原因はささいなこと。

最近、全然会えなかった。

メールしても返事来ないし・・・。

浮気でもしてるんじゃないかって思って・・・。

色々悪いことばっかり考えた。

あいつ・・・。結構格好いいからもててた・・・。

ずっとあいつとは『友達』だった。

でもあたしは『友達』じゃなくて・・・。

あたしが冗談半分で

「することもないし・・・。付き合う?あたしら?」 って言ったら・・・。

「いいんじゃねぇ?おもしれーかもな」 ってホントに面白そうな顔で言った。

でもあたしは嬉しかった・・・。

だって。だって・・・。 『友達』から『彼女』になれるだもん!

あたし・・・。

その日一緒に食べたコンビニの弁当のおかず全部言えるよ・・・。

しゃけと、肉団子と焼きそばと・・・。

なのに。あいつは・・・。

あいつは忘れたのかな・・・。

そのあいつの友達から、メールが来た。

あいつ・・・。事故ったって・・・。

横断歩道渡ってるとき・・・。

「こら!どこ見てんだ!ねーちゃん!」 (え・・・?)

気がつくと、あたしは横断歩道の真ん中につったてた。

信号が点滅してる。

あたしはあわてて走って渡った。 (なんで・・・)

で、目の前には病院が・・・。

あいつが入院してるっていう総合病院・・・。 (なんで・・・。こんなところに・・・)

あたしは引き返そうと思った。

だって・・・。今あったらまたケンカしそうなんだもん・・・。

「春香!」

あいつの声・・・。

2週間ぶりのあいつの声。

あたしはなぜだかドキドキした。

「春香!お前、何やッてんだ。こんな所で」

松葉杖のあいつ。

右手にギブスをしてた。

「あ、あんたこそ、なにやってんのよ!」

「あのな。お前、俺の姿見ろ。これが女ナンパしにいく姿にみえるか?」

「み、見えるわよ・・・。あんたなら・・・」

「けっ・・・。病人相手に言いますねぇ。春香チャンは。そのふくれた顔がまた可愛いんですがね」

口は元気みたい。あたしは少し安心した。

「なぁ。お前、腹へってねぇ?俺さ、そこのコンビニで弁当買ってきたんだ」

「・・・」

グウウ。

あたしのお腹は正直者。

あたしの代わりに返事した。

「ふはははは!すっげーお約束的返事だな。んじゃ、昼飯にするべ。するべ」

このお調子者・・・。このペースに乗せられてあたしは病院の庭のベンチに連れて行かれた。

「さー。メシだぞ〜♪病院の飯はもうマジきつくて。味、全然ねーの」

コンビニの袋をごそごぞしながら博之は弁当をだした。 (あ・・・。それ・・・) 『あの時』の鮭弁当・・・。

おかずまで一緒・・・。

「おお。うまそううまそう♪」

きっと忘れてるんだろうな・・・。

この鮭弁・・・。あたしにとってはロマンチックじゃないけどすごく思い出なのに・・・。

「そう言えば、あのときもこうして二人で鮭弁喰ってたよなぁ・・・」

「え?」

「ほら・・・。体育館の裏でさ・・・。お前が俺に『愛の告白』した時。愛の告白が鮭弁の味だなんて、現実的ちゅーか笑えるけどな・・・」

「・・・」 (覚えてたんだ・・・)

「あ、今、お前、『覚えてたんだ』って思ったろ?へへん!お前、恋愛においてだな、告白した日ちゅーのは最大のポイントなんだぞ。純愛主義の俺が忘れるわけはない!あははは!」

「な・・・。何が純愛主義よ!何の連絡もしないで・・・!あたしは・・・。って何よ!ソレ!」

博之は突然、あたしにきれいな白い細長い箱を渡した。

「こんなものではぐらかそうったって・・・」

「いいから開けてみ。開けてみ」

博之があんまり言うからとりあえず開けてみる。

中に入っていたのは・・・。

銀色のハーモニカだった。

「これ・・・」

「裏、裏見てみ。裏」

裏には・・・。 “HIROYUKI&HARUKA” と掘ってあった。

「お前ほら・・・。前にさ。俺がギターやってるからお前もハーモニカ吹きたいって言ってただろ?んで、あの楽器ショップのハーモニカ」

「うん・・・。でも。これ、5万はしたでしょ!?」

「ふっ。そこは『愛』のため〜♪時給1000円のバイトちゃんしましたの。雨の日も風の日も僕は工事現場で赤いランプを振り続けたのであります。そんな時、酔っぱらいが運転した車が僕にむかってきたのであります!嗚呼、僕の運命やいかに・・・。ってげ・・・」

自分の武勇伝に酔ってる博之にすごく腹が立った・・・。

そしてそれ以上に・・・。博之が無事でよかったって思ったら・・・。

だめ。

涙がでちゃうじゃないの・・・!

「おい・・・。お前、ここで泣く場面じゃないだろう!」

「バカ言ってんじゃなわよ・・・。一人でいいかっこして・・・」

「あ、でも久しぶりに春香の涙みちゃったー♪俺だけの涙ー♪」

誰か・・・。こいつの調子のいいの治してくれないかな。

足のけがは治ってもお調子者は治らないって思った・・・。

「な、感動しただろ?だからさ・・・」

「だめ!あんた、さっき鮭弁食べたでしょ!」

「いいじゃーん・・・。思い出の鮭弁なんだから・・・。春香・・・」

あたし立ち上がって博之はベンチに倒れた。

「い・・・今はともかく足を治しなさいよね!」

「・・・。足を治したら感動のキスくれんのなら、俺がんばって治します!ね、どうせならキスよりもっと豪華でもいいぜ♪」

「豪華って?」

「春香自身くれるとか」

「ば、バカーーーー!」

病院中にあたしの『バカー!』が響き渡ってしまった。

あたしは自分の声なんて恥ずかしいの忘れるくらいにドキドキしてしまっている。

いつもこうだ。

どこまで本気なんだか冗談何だかわかんなくて。

でも、一言一言に一喜一憂して・・・。

あたしは・・・。

そんな自分、嫌いじゃないから・・・。

「・・・。ハーモニカ・・・。ありがと・・・。足・・・。早く治してよ・・・。早く二人でさ・・・。ライブしたいから・・・」

「アイアイサ!春香どの!」

「もう・・・。博之ってば・・・」

「俺ってば何?何?」

「あんたってば・・・」

あんたってば・・・。

博之あんたってば・・・。

お調子者でいい加減な奴だけど・・・。

あたしの最高の『彼』だよ・・・!

あたしはそう3月の空に言った。

「ねー。春香ちゃん。俺っば・・・の先は何?気になるじゃんかよ」

「うるさい!早く鮭弁食べちゃいなさい!」

「あーんして。あーん・・・」

「一人で食べなさい!」

子供みたいな奴だけど・・・。

大好き・・・。

FIN

最近の若者(?)を意識して書いてみたのですが、携帯もってない私にはイマイチ感覚が分かりませんでした・・・(汗)
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