シャイン
〜晃 17歳 秋〜
神様。 己を弱さからこの世で一番綺麗な笑顔を傷つけた。 一番尊い笑顔に代えがたい痛みと苦しみを背負わせた。 神様。 あの子の笑顔が戻るなら俺はなんだってする。 神様。 だけどオレは・・・ どこまでも罪深い人間です。 苦しみを背を背負わせたあの子を幸せを願うのに 願うのに・・・ オレが一番今、欲しいものは・・・ 『オレだけに笑いかけてくれるあの子』 だった・・・
晃17歳。秋。 突然中途半端な時期に愛美の学校に転校してきた少年は 外見の美しさとは裏腹にその態度は無口で近寄りがたい。 『カッコいいけど・・・。なんか裏でヤバイ連中とツルンデるって話』 『関わるとなんか怖そう・・・』 いい意味でも悪い意味でも女子達の噂の的だった晃。 愛美は晃の瞳の奥の秘められた何かを感じ取っていた・・・ (彼は・・・。何か確固たる”決意”を持ってる・・・) 一度も言葉をかわすことはないが惹かれていく自分を感じていて・・・。 (もっと知りたい) 愛美の中に想いが芽生えた頃。 愛美は晃と突然接近する場面を迎える・・・。 それはある日の夕方。部活が終わり、教室の忘れ物を取りに行こうとしいたとき・・・ (あれ・・・。真柴くん?) 3年であるはずの晃が2年生の教室に入っていく姿を見つけた。 (どうして・・・) 愛美の足が自然と晃を追いかける・・・ (何してるんだろ) そうっと教室を覗く愛美・・・。 窓際の一番前の席を・・・虚ろな表情で見下ろす晃がいた・・・ (あの席がどうかしたのかな・・・それにしてもなんて・・・。なんて 切ない顔しているの・・・) 晃の横顔が・・・愛美の心を捉えて離さない・・・。 ガタン! ドアを思わず動かしてしまい、晃が愛美に気づく・・・ 「あ・・・。ご、ごめんなさい。あ、あの真柴くんにプリント渡そうと思って・・・」 愛美は焦った顔で晃にプリントを渡す・・・。 晃は黙って受け取る。 「・・・あ、あの・・・。真柴くんここで何してるの?」 「・・・」 無表情の晃・・・。愛美に緊張感が増す。 「・・・お前・・・。知ってるか?」 「え、え、な、何を?」 「この教室は・・・。夜間部の教室にも使われてるってこと・・・」 「え?ああ、聞いたことはあるけど・・・。詳しいことは知らない・・・」 「・・・」 晃は机を静かに撫でる・・・ 「んじゃあ・・・。この席に座ってる子の名前・・・あんたしらねぇか・・・」 「その席の子がどうかしたの・・・?」 「・・・。別に」 晃が口ごもる。 好きな男の気持ちには女心は敏感になるものだ。 愛美はその席の主の存在が晃にとって特別な人間だと悟った。 思わず愛美は突っ込んで聞きたくなる。 「・・・。その席の子って・・・。真柴君の・・・好きな人・・・。とか・・・?」 「・・・」 突然、踏み込まれたといわんばかりにギロっと愛美を睨む晃・・・。 「ご、ごめん・・・。詮索するようなこといって・・・。でも何だか その席を見つめる真柴くんがとても優しく見えたから・・・」 「・・・。優しい・・・?オレが・・・?優しいなんて言葉はオレにはふさわしくもねぇ・・・」 「どういう意味・・・?」 「・・・オレは噂どおりの酷い人間ってことさ・・・」 晃は悲しそうに・・・深くいきをついた・・・。 「プリント持ってきてくれたお礼だ。一つだけ教えてやるよ。この席の人間はオレにとって・・・」 「真柴君にとって・・・?」 「・・・。オレの心全部だ」 橙に染まる晃の横顔・・・ 凛々しくそして・・・ (哀しいの・・・) 晃の魂が篭ったその一言は・・・ 愛美の心に深く深く・・・ 焼きつけられる・・・。 (心全部そのものだなんて・・・。そんなに・・・そんなに・・・ 激しく好きな人なの・・・?) 晃の哀しみの奥にあるもの・・・。 (それが知りたい・・・) 晃に惹かれる自分を感じる愛美・・・。 次の日。愛美は晃の悲しみの一旦を垣間見ることになる・・・。 屋上で友人と弁当を食べながら愛美は話す。 「ねぇ知ってる?真柴くんって夕方に一人、2年の教室に残ってるんだって」 「え?」 「何してんだろね。もしかして盗みとか?」 「馬鹿なこといわないでよ!!そんな簡単に疑うもんじゃないわ!」 ムキになる愛美・・・。 「・・・。あんた。もしかして・・・」 「ち、違うよ・・・。ただ・・・。人を簡単に疑っちゃいけないって・・・」 昼休みが終わり愛美と友人が教室に戻る・・・ 相変わらず晃は一人、椅子に座り窓を眺めていた。 晃の少し後ろの席。男子達が何か噂話をしている。 「なー。知ってるか?夜の”お岩”」 「なんだそれ」 「夜間部の生徒でサ・・・。なんかすごい顔の女の生徒がいるんだってよ」 晃の肩がピクッと反応したことに愛美は気づく・・・。 「噂なんだけどさ。人前に出られないから夜間部受験したって 話だぜ。本当に幽霊だな」 「それじゃあ本当に”幽霊”だな一度は拝んでみたいもんだぜ」 「何なら今度の学園祭のお化け屋敷に出てもらうか。クハハハハ」 バキ・・・ッ!! 一瞬だった・・・ 晃の拳が男子生徒の胸倉をつかみ、激しく殴る。 バキ・・・ッ!!! ドカ・・・!! 晃は凄まじい剣幕で男子生徒に馬乗りになり殴りまくる 「キャアア!!だ、誰か、誰か先生呼んできて!!」 女生徒たちが騒ぎ出した。 周囲もお構いなしに晃は拳を止めない・・・ 「真柴君!!やめて!!」 愛美が晃の腕を掴んで止めに入る。 「うるせぇえ!!離せッ!!!」 「この人殴ったって・・・。何か変わるわけじゃないよ・・・っ」 愛美の言葉でピタリ・・・晃の拳が止まった・・・。 「・・・真柴・・・くん・・・」 「・・・」 ガタン! 晃は教室を飛び出した・・・ 「真柴くん・・・!!」 追いかける愛美・・・。体育館の裏まで追いかけた・・・。 「真柴くん・・・」 「・・・。くそ・・・。くそ・・・。くそぅ・・・!!」 コンクリートの壁に行き場の無い拳を打ち付ける晃・・・ 「真柴君・・」 「・・・。クソ・・・。オレのせいだ・・・。すべてオレの・・・オレの・・・」 泣き崩れる晃・・・。打ちつけた手から血が流れて・・・ コンクリートについた晃の血と・・・ 頬を伝う涙が・・・ 愛美の眼(まなこ)に焼きついたのだった・・・ これが晃 17歳 秋の出来事だ・・・
「晃。私、トキさんからお手玉もらっちゃったよ」 「ふふ。光。完全に孫と思われたんだな」 得意先の老人ホーム先からの帰り。 車の助手席でホームで知り合ったおばあさんからもらったお手玉を嬉しそうに 投げて遊ぶ光・・・ 最近、少しずつだが散髪の依頼も増えてきて 二人の仕事振りも起動に乗り始めていた・・・ 「・・・と。いけない。母さんから夕飯の買い物たのまれてたんだった・・・」 「ならオレがスーパーまで送っていくよ。いや、俺も買い物あるから」 「え?いいよ。遠回りになる」 「遠慮しなくていい。ふふ。光の買い物につきあいたいんだ」 「・・・。でも・・・。私と一緒だと・・・。晃が・・・」 夕方のスーパーは混んでいる。 自分ひとりだけならどんな視線も無視できるけど・・・ 「・・・。オレが光と一緒に買い物したいんだ。余計な視線なんて 気にならない。もし光になんか変な視線送ってくるやついたら俺がたてになる。 だから・・・。堂々としててくれ」 「・・・晃・・・」 「・・・オレを信じろ。な!」 ”信じろ!” 晃の信じろ!は光のキーワード。 「・・・ウン!」 光は元気よく返事をして二人でスーパーへ・・・。 (うわ・・・。やっぱ結構混んでる・・・) 普通の人ならどうってことない程度の人ごみでも、光にとっては・・・。 心と背中に緊張が入って固くなる・・・。 今でこそ買い物が出来るようになったが、前は買い物客が少ない時間帯しか 来られなかった。 「光。買い物のメモ見せて」 「あ、ああ・・・」 晃はカートに買い物メモの品物をゆっくり入れて行く。 「・・・。ねぇ。晃。大根さ・・・。こっちの方が締まってっていいよ」 「いいや。こっちのほうが艶があって上手そうだ」 二人は品定めをしながら籠にいれていく・・・。 「秋刀魚、安い!でも養殖ものか・・・」 「脂身、薄そうだよな」 二人で会話しながら買い物なんて・・・ (・・・あんまり気にならない・・・) 晃が光の影になるように外側にたってくれて・・・ 「光。ほら、豆腐」 「うん」 (晃、ありがとう・・・) 心の中で一つ、光はお礼を言った・・・ 光たちがレジに向かおうとして・・・。 向こうから可愛らしいミニスカートの女の子とすれ違う・・・ (・・・可愛い子だなぁ) 光がふと思ったとき。 「あ・・・。晃・・・?」 「愛美・・・?」 晃と愛美互いに顔を見合って立ち止まる・・・ (・・・知り合い・・・?) 光は晃の影に少し隠れ、帽子を深くかぶった。 「久しぶり・・・!元気!?」 「ああ・・・」 「前の美容院やめたってきいてたけど・・・。」 愛美は後ろの光に視線を送った 初対面の人間には極度に緊張が走る・・・。それは今も健在で 視線を無意識に合わせないように意識が回ってしまう。 「あ・・・。紹介するよ。今、オレの仕事一緒に手伝ってもらってる 横山光さん」 光は軽く会釈する・・・ 「こ、こんにちは・・・」 「こんにちは。私、美容学校時代の同級生の葉山愛美です。 よろしく」 「よ、よろしく・・・」 光は少し驚いた。大抵、光と初対面の人間は、光を見たとき、一瞬 戸惑った表情を浮かべるのに愛美は とても穏やかに笑った・・・ 「・・・あ。晃。私、先、レジ済ませてくるよ」 「え。あ、光・・・」 光は買い物カートを押してレジに走っていった・・・ あきらかに光は自分と愛美に気を使ったことがわかる。 「ごめん・・・。私、なんか・・・」 「いや。愛美が謝ることはねぇよ」 「・・・。晃、あの人・・・?”例のあの子”」 「・・・。ああ」 愛美の心が少し痛んだ。 晃の”例のあの子”は・・・ 『オレの命そのものさ』 だから・・・。 「晃は・・・。許されたってことなのね・・・」 「・・・。許されるとか許されないとか・・・。 関係ねぇ・・・」 「え・・・?」 「ただ・・・。オレがただ・・・。一緒にいたいだけ・・・。 それだけさ・・・」 (・・・晃・・・) 愛美の脳裏に・・・蘇る、夕焼けの教室。 光の机を撫でていた晃・・・ あのときの。あのときの 深い深い悲哀の目・・・ 今も変わらない・・・ 晃の激しい深い哀しみを愛美は今も確かに感じる・・・。 一方・・・ レジを待つ列に並ぶ光は遠めに二人を見つめていた。 (”愛美”って名前で呼んでたな・・・。晃) 名前で呼んだ”仲”なのか・・・と思うと少し複雑な気持ちが湧いてくる・・・。 (ん?) 背後に視線を感じる光・・・。 振り返ると男子高校生たちが光の方を見てくすくす笑っている・・・ ・・・いや・・・”笑って”いるんじゃない。 ”嘲笑って(あざわらって)”いるんだ・・・。 すぐ分かる。よく分かる・・・ (・・・大丈夫・・・大丈夫・・・。初めてじゃない。こんなこと ぐらい、もう平気だ・・・) 微かに震えはじめる足を必死に堪えて光は レジに籠を置いた。 パシャ。 (・・・え・・・?) パシャ。 妙な音に再び男子高校生たちに視線をやるとなんと・・・ 携帯電話のカメラを縦に光に向けていたのだ。 パシャ。 ニタニタと笑いながら・・・ 珍しいものを撮るような顔で・・・ (・・・) 籠を握り締める光の手が震えてきた・・・ (・・・。無視すればいいんだ・・・無視だ・・・) だけど・・・ 光の胸はこの場から立ち去りたい気持ちで一杯で・・・ 「このクソガキどもがぁ!!!!」 晃の声が響いた。 一瞬のうちに晃は男子高校生二人の胸倉を両手で掴み、当たりは騒然とした空気が流れる。 「・・・何撮ってんだよ・・・。てめぇら・・・」 「べ、別に・・・。あ、ちょ、ちょっとメール打ってただけで・・・っ。 すいません、すいません」 「・・・」 晃の凄みに男子高校生たちは恐怖を覚える。 もの凄い力でつかまれ・・・。 「真柴くん!」 愛美が止めに入ろうとしたとき・・・。 「はい、晃、ストーッぷ!」 光が男子高校生と晃の間に割って入った。 笑いながら・・・ 「晃。すんごい顔してるよ。ちょっとストップ」 「光・・・。けど・・・っこいつら」 「うん。分かってる。けど・・・。晃。騒ぎになる方が私、 辛い・・・。だからその手、降ろしてあげて・・・」 「・・・光・・・」 光は晃に穏やかに微笑んで頷いた・・・ それから光は男子高校生たちにこう言った。 「あのさ・・・。私見てどうこう言うのは勝手だけど・・・」 「え・・・あ・・・」 「ここ、スーパーだよね?公共の場で パシャパシャってするの、よくないよね?マナーは守ってほしい・・・」 「あ、あの・・・」 微笑んで携帯を高校生達の手に返す光・・・。 「す、すいませんでした・・・っ」 高校生達は周囲からの怪訝な視線に罰悪そうに走ってスーパーをでて行った・・・。 「・・・お騒がせしましたっ。お買い物を続けてくださいっ」 光は帽子をとり周囲に頭を下げる・・・ (光・・・) ぺこぺこと周囲に頭を下げる光の背中が痛い・・・ 晃は感情的になってしまった自分を 恥じた・・・。 (真柴君・・・) 晃の気持ちが伝わる愛美。 ”俺のせいで・・・俺のせいで・・・” と自分の拳を打ちつける高校生の晃が蘇った・・・ 「こーら。晃。そんな顔しなーい。また”俺のせいで”って 思考、やめましょう」 「光・・・」 「晃までそんな湿気のある顔したらさ・・・。私、その方が辛い・・・。 でもその辛さもいつかはね、私の”強み”になるって信じてる」 「光・・・」 光はスーパーの袋に大根やにんじんを詰めながら話す・・・。 「でも助かったよ。晃が怒ってくれて・・・。」 「え?」 「晃が怒ってなかったら・・・。私の合気道三段の腕があの高校生達を 襲ってましたから。へへ・・・」 光はぱきぽき腕をならす。 にこにこ笑いながら・・・ 「光・・・」 「あ、晃。お友達さん途方にくれちゃってるよ。私、車に先、戻ってるねー」 スーパーの袋、二つ両手にかかえてすたこらと 駐車場に出て行く光・・・。 ”私は大丈夫だから・・・” (・・・当たり前に買い物するだけでも・・・。光にとっては・・・) 光がそうでも晃の胸には”自分のせいで”という念が拭い去れない・・・ 「真柴くん・・・」 「・・・。見てただろ・・・?彼女にあんな想いをさせて ばかりだ・・・」 「・・・」 愛美はかける言葉を頭の中で探すが出てこない・・・ 「・・・。彼女は・・・。オレが罪悪感感じていればいるほど 余計に辛いって・・・。”オレのせいで”っていう気持ち捨てろって 言うんだ・・・。でもオレが彼女に強いて(しいて)しまった ことはきえねぇんだから・・・」 「・・・。真柴くん・・・」 「安っぽい罪悪感なんて感じてる暇ねぇって光が教えてくれた・・・。 オレは・・・光が一日一日を・・・元気で笑顔で過ごせるように・・・ オレは祈るだけだ・・・。側で・・・見守っていきたいんだ・・・」 光が落としていったじゃが芋を拾う晃・・・。 「・・・光の笑顔が・・・。オレの・・・」 (晃・・・) 刹那を秘めた瞳は変わらないけれど・・・ どこか柔らかい穏やかさを感じられる・・・ 「オレ行くよ。光が待ってるから」 「え・・・あ、う、うん・・・」 「じゃあな。元気で・・・」 ”光が待ってるから” 愛美の心が疼く・・・。 晃の深い哀しみ。切なさ・・・。 全ての源には (・・・光さんがいる・・・) ”てめぇええ!!何撮ってやがる・・・!” 光ために怒り 嘆き・・・ 光の笑顔と幸を願いを望み、そして・・・ (晃自身も・・・。光さんを求めているんだ・・・。光さんの心を・・・) ”オレの心・・・そのものさ” 17歳の晃の言葉の意味が・・・ 今やっと・・・ わかる・・・ (・・・) グシャリ・・・。 卵パックを持っていた愛美の手が・・・卵を握りつぶされた・・・ 激しい嫉妬という力で・・・ 「・・・葉山さん・・・だっけ?よかったの?」 「ああ。話すことも特に無かったし・・・」 「・・・ふーん・・・」 ハンドルを握る晃の顔をバックミラー越しに覗く。光。 (・・・なんで私、気にしてんだろ・・・) 「そ、それにしても。晃。すんごいブチ切れ方だったよねー。 ま、ホントに晃がやってなかったらあたしがあの高校生達に 一発かましてたけどさ・・・!!」 シュッシュっと軽くパンチを可愛らしく打つ光。 晃は一瞬、重くるしい表情を浮かべる・・・ 「ってまたー。そういう顔しないって言ったでしょ?」 「あ、ご、ごめん・・・」 「晃・・・。私ね。『一日一個、いちごキャンディ』運動心かけてるんだよ」 「いちごキャンディ?」 光はくすっと笑ってポケットからいちご色の飴玉を取り出した。 「辛い事があっても・・・。このキャンディ一つ。 食べて一日を頑張る・・・!魔法のキャンディなのだ・・・って。かなり、 こどもっぽい?」 「いや・・・。可愛いいよ。それにこのキャンディ、いい匂いがする・・・。 本当に甘くて優しい・・。疲れが和むな・・・」 「うん。優しい味・・・。だからね、もしね。私のそばに疲れた人とかいたら この飴玉、あげてるんだ・・・。飴玉一つあげるだけの事だけど・・・。 私でも誰かに何かしげあげられるんだって思えたら、嬉しいだ・・・。自己満足かもしれないけど 」 「・・・。自己満足なんかじゃねぇさ・・・。光の優しさだろ・・・?」 小さな桃色のキャンディ。 光はパクッと口に入れた・・・ 「これで、”優しく”なれました・・・。なーんてね・・・。 ふふ。でも・・・一日一日を・・・大事大事に・・・。大事に・・・したいんだ・・・」 大切そうに・・・ 大切そうにキャンディを握り締める・・・。 (光・・・) 「晃も一個・・・いる・・・?」 「ああ。貰うよ」 光はハンドルが離せない晃の口にキャンディを一個、そっと入れた・・・ 「これで晃も今日・・・。また一つ優しくなれました・・・。なんてね。へへ・・・」 「なれたよ。絶対・・・」 「晃・・・」 「光のお陰でオレは・・・」 バックミラーの中で・・・ (え・・・) 熱い眼差しの晃と・・・ 光の視線が 繋がる・・・。 (晃・・・) プップー! (!) 後ろの車のクラクションにビクッと肩を震わせる光。 「あ、晃、前、青だよ。青・・・」 「あ、ああ、そうだな。ぼうっとしてた」 晃はアクセルを踏む・・・ 「運転主、社長、真柴晃社長、しっかりしてください!」 「へーい。ふふ・・・」 (・・・なんでドキっとしてんだ・・・。私・・・) 微かな戸惑いを感じる光。 オレンジ色の太陽が 助手席に差し込む・・・。 限りなく優しくて・・・ 甘いいちごの香りがした・・・。 光、22歳。秋の夕暮れだった・・・。