シャイン
〜ハッピーバースディ〜
光の元に一通の通知がとどく。
それはホームぺるパー2級合格の通知だ。
「・・・やったーーー!!」
朝の食卓で万歳三唱をする光。
「お姉ちゃん、やったね〜!」
「ふ。私の娘なら当然」
登世子はすまし顔でたくあんをポリポリと噛む。
「ちと大人気なく騒ぎすぎた(汗)」
少し照れくさそうに光は味噌汁をすする。
「ふふ。すぐ照れて謙遜するところ、かわゆいよ〜。お姉ちゃん」
「姉をからかうんじゃない(照)」
「からかってないよ。女の子はねー。そういうはにかみむ所にきゅんっと
なるものなのよ。やっぱりお姉ちゃんっのそういう男性的な部分、あたし好きv」
と、ひょいっと光の玉子焼きを一つ失敬する一恵。
「こらーー!!褒め殺ししながら何をする」
「うふふー。コングラッチレイション!お姉ちゃんいってきまーす!」
ぺロッとお茶目に舌をみせて一恵は学校へ登校していった・・・。
「たく・・・。我ながらなんて調子のいい妹だ」
「ふふ。あれはあれで祝ってるのさ。可愛い妹じゃないか。」
「うん・・・。母さん」
光は合格通知『合格』という文字を見つめる・・・。
たった二文字だけど光にとっては深い深い喜び・・・。
大学受験や高校受験のようなおおきな試験でもないけれど、
頑張った目標に手が届いた・・・
「・・・母さん・・・。私・・・。嬉しい・・・。大袈裟かもしれないけど・・・。
自分が何だか認められたみたいで・・・」
「・・・。認められたのさ。光が勉強した・・・その結果が。だから謙遜しないで
素直に喜べばいい・・・」
「うん。ありがとう・・・」
薄っぺらい紙切れ・・・。だけどきっと光にとってはとても大きな『自信』となる・・・
「大袈裟ついでにでっかい鯛でも買ってくるかね」
「母さん!いくらなんでもそれは大袈裟すぎ。・・・秋刀魚でいいよ。安かったよ」
「・・・ったく・・・。あんたって子はんっとに謙虚すぎだよ・・・」
光の前髪をくしゃっと撫でる登世子・・・。
自信という心の宝石をまた一つ自分の力で見つけてくれたことが・・・
愛しい・・・。
「じゃあ秋刀魚でいっぱいやるか。光」
「いいね。熱燗でやろう。母さん」
不器用に照れる。
(光はやっぱり父親似だ・・・。不器用な生き方だけど・・・
根っこはしっかりしていて・・・。じっくり自分の道を耕していく・・・)
光の穏やかな微笑みから娘の成長を感じた朝だった・・・。
※
夕方。
「ケホケホ・・・」
今日は移動美容室の予約も入っておらず、光と晃は事務所・・・
というか晃の家の掃除をしていた。
机を整理していると・・・。
晃の免許証が落ちた。
「・・・。へぇ。晃って10月生まれなのか」
そしてあることに気づく。
(○月○日・・・?って今日じゃん!)
今日、晃の誕生日。光は予定表のホワイドボードを見た。
(・・・。そうか。誕生日・・・)
「・・・。そうだ」
光は掃除機を片付けると財布を持って出かける。
「晃。ちょっと台所借りるね」
「あ?何するんだ?」
「・・・ふふー。とってもそれは出来てからのお楽しみー。
晃は事務所の掃除しておいてねー」
晃は首をかしげながら書類の整理を続ける・・・
(一体なんだろうな・・・。ま・・・。光が楽しめるならなんでもいい・・・)
台所にたつ光の後姿を見つめて晃は思う・・・
(・・・毎日・・・。当たり前のように光がそばにいる・・・。元気な姿で・・・笑顔で・・・)
光の笑顔が・・・
晃の心にエネルギーを与えてくれる。
(・・・。彼女が生きる”一日”が・・・。少しでも幸せでありますように・・・)
心の中で祈る・・・
毎日。毎日・・・
「・・・じゃーん」
「これ・・・」
甘い香り・・・。台所から光が運んできたのは。
「23回目の誕生日おめでとう〜♪」
ホットケーキに蝋燭がいっぽんたてられている可愛いケーキ。
「光どうして・・・」
「さっき免許書みたから。今日でしょ?だからさ。ささやかな
お祝いをって思って・・・さ」
光はカーテンを閉め、蛍光灯のスイッチを切った。
「それに・・・。もう一つお祝い事があって・・・。これ」
光は合格通知書を晃に見せた
「・・・光。凄いじゃないか・・・!」
「凄い・・・ってほどのこともないんだけど・・・。なんか柄にも無く
嬉しくて・・・。なんか・・・。自分が少し・・・認めてもらえたって・・・」
少し照れくさそうに頬をぽりっとかく光・・・。
「そんなことない・・・。充分光の頑張りが努力が認められたってこと
じゃないか・・・。よかったな・・・。なんかオレすげぇうれしい。
・・・嬉しいよ・・・!」
満面の笑みで言葉を送る晃に光の顔も綻ぶ・・・。
「・・・ありがとう。私も嬉しい。晃にそう言ってもらえて・・・」
二人はくすっと笑いあう・・・。
光は一本、マッチをすって蝋燭に火をつける・・・。
小さな炎・・・
「誕生日か・・・。誕生日を誰かに祝ってもらうなんて久しぶりだな」
「そう・・・なんだ」
「ああ・・・。自分が生まれた日・・・。なんて特別でもなんでもなかったから・・・」
「・・・」
晃の言葉に重みとかんじる光・・・。
寂しげな子供の時代だったのかとうかがわせて・・・
「私も子供時は誕生日って嫌いだった」
「どうして?」
「・・・。大人になるのが・・・。何だか怖かった・・・。大人になれば
沢山辛いことが待ってる気がして・・・。でも辛いことだけじゃなかったよ」
光は合格通知を手にした。
「頑張ることが楽しい・・・。そう思える自分に出会えたから・・・」
「光・・・」
「晃がそのきっかけをくれた・・・。すごく感謝してるんだ。
だから晃の誕生日、一緒にお祝いしたかった」
「光・・・」
誕生日を祝われるより・・・
光の言葉の方がより嬉しい・・・
自分のせいで、前を見て歩く当たり前の余裕さえ奪ってしまった
”光が一生・・・笑顔を忘れてしまったらどうしよう”
”光が一生、俯いたまましか外を歩けなかったらどうしよう”
”光が一生・・・希望を持てなかったらどうしよう・・・”
光の顔に火傷が負われたときから・・・
オレの心の時計は止まった・・・
地面を這いずり回って痛みを訴える光の姿がが・・・
”光が一生・・・笑うことを忘れてしまったら・・・オレは生きていけない”
オレは自分の命が在る事すら憎み続ける・・・
ポタ・・・
「・・・!??あ、あ、晃・・・!?」
晃の頬から一筋・・・涙が伝う・・・
「ど、どどどどどどうしたの!??な、なんかあたし・・・
変なこと言った!??した!??」
光は慌てふためいてオロオロ・・・。
ハンカチをポケットから取り出す。
「ってちがった。これ、ティッシュだった(汗)」
「ぷっ・・・。ティッシュでいいよ」
「ったく。変な晃・・・。泣いたり笑ったり・・・」
ポケットティッシュを受け取る晃・・・。
光がそばにいる。
光が自分の誕生日を祝ってくれる・・・。
”私は恋なんて出来ない・・・”
光のその言葉で封印した”何か”が・・・
溢れそうだ・・・
「・・・。嬉しいよ・・・」
「え?」
「・・・。光・・・。今日が嬉しい・・・。生まれて一番嬉しい誕生日だ・・・。
一番嬉しい愛しい誕生日だ・・・」
「晃・・・」
(・・・)
トクン・・・
”愛しい”というフレーズに
光の心の奥の弦が少し震える・・・
「お、大袈裟だな・・・っ。と、とにかく火、消してくれ」
「ああ」
晃は炎をじっと見つめる・・・
小さな炎・・・
だが確かな温もりと明かりが灯って・・・
まるで・・・
「アッタカイ・・・。光みたいだな。この炎」
「・・・え?」
「暗い部屋でも・・・。小さな明かりでも・・・。ちゃんと光ってる・・・
温かい光・・・」
(晃・・・)
「・・・」
「・・・」
晃の瞳は・・・。
深く・・・
切なく・・・深い・・・
何かを秘めた・・・
(・・・晃・・・?)
蝋燭の灯火が・・・見つめあう二人を
照らす・・・
「イヤだ。しんどい。やめてくれ。晃・・・見つめられるっていうの苦手なんだ・・・。
息が詰まる・・・。苦しい・・・。・・・こんな顔を見つめられるなんて・・・」
光は顔を思わず背ける・・・
弱い自分を射抜かれるようで・・・
晃はハッとした。
「ご、ごめん・・・。ごめん。ごめん。オレ・・・。ごめん・・・。
悪い・・・。ゴメン・・・」
無意識に・・・
”封印”した想いが出そうで・・・
「そ、そこまで謝らなくても・・・(汗)あ・・・晃はもっと可愛い女の子と見つめた
方がいいよ」
「・・・。そんな子いねぇよ」
真顔の晃・・。
「・・・あ、そ、そう・・・。と、とととにかく火、消してくれよ」
(・・・なんだ。今の安心感は・・・)
光は戸惑いながらケーキを晃の前に差し出す。
「勿体無い・・・。もう少しだけ見ていいか?」
「え?いいけど」
「・・・。見続けてたいんだ・・・。この灯りを・・・。あたたかな光りを・・・」
晃の瞳・・・
(なんて・・・。穏やかなんだろう・・・)
一緒にいて初めて見る・・・
「あ、そうだ。肝心な台詞言うの、忘れてた」
光は晃に向かって正座した。
「誕生日、おめでとう!晃・・・」
「ありがとう。オレも言わなきゃな・・・。合格おめでとう」
晃も正座して光に伝える。
「ふふ・・・。なーんか・・・。くすぐったいね」
「ふふ・・・ああ・・・くすぐったいな」
二つの”おめでとう”・・・。
小さく揺れる炎が一層・・・優しくなる・・・。
「暫く一緒に見てようか。晃・・・。二つの”おめでとう”の蝋燭・・・」
「ああ・・・。一緒に見ていよう・・・」
(・・・二人でずっと・・・)
「あったかい灯りだね・・・」
「ああ・・・。アッタカイ・・・」
辺りが暗くても・・・
ちゃんと照らす・・・
行くべき道を案内してくれるように・・・
苛まれた心も
全ての想いを包んで・・・
二人は並んでただ一本の蝋燭の灯りを
見続けたのだった・・・