シャイン 〜みんな輝いてる〜
第10話 戸惑いの合鍵 朝。 (光・・・) 穏やかに自分に微笑み返す光の夢は 雀の鳴き声で消えていく・・・ 「夢か・・・」 もっと見ていたかった。 夢から醒めた瞬間が切ない。 一年の間、会えなかったブランクが 逆に晃の想いを強める・・・。 (携帯・・・) 晃は携帯のメールの着信を確認。 一番来て欲しい相手からのメールに晃の顔は子供のように綻んだ。 『おはよう。晃。今日はすごいいい天気だ。 朝から、布団3枚干したよ』 「ふふ」 『ってこんなことはどうでもいいんだっけ。あのさ、近所の おばさんから野菜たっくさんもらったんだ。晃にもお裾けしたくて。 休みのところ、悪いけどできたら取りに来てくれるか?』 「勿論。ふふ」 メールを返信する晃の指が軽快に動く。 『朝食食べたら即効もらいにいきます。晃』 光からの呼び出しなら 休みじゃなくてもいくつもり。 「よし。朝飯くって早く行こう!」 退屈だと思っていた休日。 想う人からのメール一通で楽しい休日になる。 (お。) 晃が光の家につくと。 「どりゃーーー!!」 光の威勢のいい声とパンパンという 豪快な音が聞えてきた。 「あ、晃、おっす!」 「ああ。何してるんだ?」 「ほら。天気いいだろ?畳あげて干してんだ。 換気よくしとかないと母さんの体に良くないからな。うりゃ!!」 バンバン! 布団たたきで畳をたたく光。 「元気がいいな。ふふ」 「ああ。あ、ご、ごめん。なんか妙な格好で(汗)」 割烹着を着て頭にバンダナを巻いた光。 「いやいや。可愛い奥さんってかんじだよ」 「お・・・(汗)」 晃の乙女チックな表現に光はやっぱり戸惑って・・・ (絶対晃に恋愛小説書かせたら旨そうだ) そう思うくらいに。 「あらまぁ。真柴さん」 「こんにちは。お邪魔してます」 晃は深々と車椅子の登代子に頭を下げた。 「晃に野菜取りに来てくれって言ったんだ。あ、待って。 今もって来るよ」 「いいよ。掃除の最中なんだろう?俺も手伝う」 「え」 晃はブラウスの袖をまくって 布団たたき棒で畳を叩く。 「あ、晃いいよ・・・」 「いや、手伝うよ。最近、体なまってるから、 運動になる」 「だ、だって、晃、綺麗な色のブラウスがホコリまみれに・・・」 「それで光の家の畳が綺麗になるなら・・・ってなハハ・・・」 (さっさわやかに言わないでくれ(汗)) バンバン!! 「やっぱり男の力は違うねぇ。いい音だ」 登代子は耳を済ませて聞いている。 バンバン!! 「これ、気持ちいーな!スカッとする!」 「あ、ああ・・・(汗)」 昨日。 本屋で晃のことが載っていた雑誌を見かけた。 きっとスタイリストにきちっと衣装を綺麗にしてもらって 取材されたんだろう。 (そのま、真柴晃に畳叩きさせてる私って・・・(汗)) 「光。一緒にやろうーぜ」 「え、あ、う、うん・・・」 バン!バン! 二人で一緒に叩く。 「いいねぇ。いい音だ」 (・・・な、なんか・・・。いいのかな。こんな ことさせても・・・(汗)) 登代子は海でも眺めるように 嬉しそうに畳たたきを眺める。 (・・・後で晃にクリーニング代、渡しとこう・・・(汗)) バンバン!! 大切なパートナーに 家の畳たたきをさせているなんて。 普通の女がおとこにやらせることじゃないかもしれないけど・・・。 (でもなんか・・・いいかな。こういうのも・・・) 甘い甘い 雰囲気じゃないけれど 青い空の下で 晃の笑顔が見られるなら・・・。 光は少しだけ そう思えたのだった・・・。 「はい野菜」 「うわー。旨そうだなー。ありがとう」 スーパーの袋に夏野菜、きゅうりやナスをいっぱい入れた。 「あ、そうだ。おれもお返しにこれ渡そう」 「え?」 晃が光に握らせたもの。 それは・・・。 「・・・?鍵・・・?」 「ああ。俺のマンションの鍵・・・。合鍵」 (あ、合鍵って・・・) 「それ・・・。光にもってて欲しい」 「で、でもこれは・・・こ、こういうのは”彼女”に・・・」 光は一旦は晃に返したが晃に再び握らされる。 「・・・。光に”しか”・・・渡さない」 まっすぐに 想いを込めて晃は光を見詰める・・・ 「でっ。でもさ・・・。あの・・・」 「重く受け止めなくていい。ただ・・・。ただ持ってて欲しいんだ」 (・・・晃・・・) けれど 晃の部屋の鍵。 光には晃の心のドアの鍵に思える。 ”俺の心をモット見て欲しい覗いて欲しい” そういわれている気がして・・・。 「ほら・・・あると便利って思ってくれたらいいから・・・。 だから受け取って欲しい・・・」 晃の 想いを秘めた目・・・。 (そ、そういう目が苦手なんだってば・・・) 「・・・わ、わかった・・・」 「じゃあまた明日!」 ブロロン!! 真新しい車のエンジンをふかせて晃は帰った。 (・・・合鍵・・・か) 自分の部屋に戻った光。 ”光だから持ってて欲しいんだ” あのフレーズに ぽわっと 心があったかくなる。 じっと 鍵を眺める光。 (・・・。なんか。このまんまじゃ愛想もないな) せっかくの鍵。 可愛い飾りでもつけてみよう (リボンかなにかあったはず・・・) がさごそ。 とっておいたリボン。 赤と白のチェック柄のリボンを (〜♪) 鍵につける・・・ (うん。いい感じだ) ”光にしか、わたさない” (・・・) ”光にしか・・・” トクン トクン・・・。 そのフレーズに 気持ちが高鳴る・・・。 (晃・・・) ふと・・・。 光は鏡の映る自分の顔を見た。 「・・・!」 はっと 温かな気持ちが一瞬で消えてしまう。 (な、何・・・浮かれてるんだ。私は・・・) ふわふわした気持ち。 (私は・・・浮かれてる身分じゃない・・・。母さんは 毎日頑張ってリハビリしてるのに・・・。私は・・・) 恋とか愛とか。 もっと切実な現実が あるのに (馬鹿だ。私は・・・) 光はそっと 鍵を机の奥底に閉う・・・。 (返すこともできないけど・・・。この鍵を 使うこともできない・・・。ごめん晃・・・今はまだ・・・) 奥底に 奥底に あのふわふわした気持ちを 一緒に封印した・・・ (晃・・・) 封印したのだった・・・