シャイン 〜みんな輝いてる〜 第12話 見合い写真 今時、もはや見合いという出会いは死語に近いかもしれない。 だが、まだまだ世間には存在する。 「ねぇーえ。登代子さん。ほら。どう。不動産屋の長男だってさ」 ヘルパーの雅代が登代子に写真を見せている。 「・・・さぁ。光にゃまだまだ・・・。色気づいてもいないしねぇ」 登代子は手に巻きつけたフォークでサクっと硝子の器に切られた梨をさした。 「あ、いや・・・。光ちゃんじゃなくて、一恵ちゃんにだよ」 「・・・え、ああ。そうなの」 「え、ええ・・・」 雅代は少し気まずそうに微笑んだ。 「・・・ま。写真嫌いな光には無関係な話か。写真に写しても まぁ、よってくる男はいないだろうし」 「・・・(汗)べ、別にそういう・・・」 あっけらかんと娘のことを言う登代子に雅代はちょっと戸惑う。 (は、話を変えなくちゃね) 「ね、い、一度だけ会うだけだって。どうかしらね。一恵ちゃんに 話してみてくれない?」 ・・・というわけで一応一恵に話す登代子だが・・・。 「はぁあ!??今時見合いって・・・」 「一恵。デカイ声だすな。はい、母さん、解したよ」 今日の夕食はタラの煮物。 光は細かい作業がまだしにくい登代子のために、煮魚の身を細かく くだいて、小さな器によせた。 「ま。お前の自由にしな。写真これだってさ。 あんたごのみの”つまぶき”とかいう俳優似だったよ」 「・・・!?」 たくあんをつまもうとしていた一恵の箸が止まった。 「しゃ、写真ぐらい見てもいいわよ」 こそっとテーブルの下で写真を見た一恵・・・。 (・・・85点。不動産屋の次男か・・・。会っとくだけでも 損はないか) なんだか乗り気になってきたご様子で・・・。 「会うぐらいいいわよ」 さすが現代っ子。抜け目がない。 というわけで何だかとんとん拍子に日にちまで決まってしまい。 そして当日。 写真写りには自信がある。 「フフン〜♪」 成人式に着る予定の着物を着て、髪を光に結ってもらう一恵。 「えへへ。お姉ちゃんが美容師でよかった。着付けただだもんね〜」 「・・・(汗)」 ぎゅ! 光は思い切り帯を締めてやった。 「ウグググ・・・」 「ほら!出来た!さっさと朝飯食べて支度しなよ!」 光は済ました顔で台所へ・・・。 着物姿でもがく一恵・・・。 (・・・馬鹿力・・・(汗)) しかしこれが光の一恵に対しての応援でもある。 (元気でやってこいってか・・・。ふふ。いいわよ。やってやる) しかし一つ問題が起きた。 呼んだタクシーが渋滞でまだ来ないというのだ。 「あーどうしよう!時間が・・・」 腕時計を見て焦る一恵。 「仕方ないな。行くぞ。一恵」 「へ?」 エプロンを脱いで車のキーを持って出る光。 「ちょ、ちょちょちょお姉ちゃん」 一恵をひょいっと助手席に乗せてエンジンをふかす光。 「んじゃ見合い会場へれっつごー」 (お、お姉ちゃんが同伴するって・・・(汗)) ブロロン・・・っ。 光、免許取立ての軽4は一路、某ホテルのロビーへ向かった。 「おおー。すげー・・・」 豪華絢爛。天上にはシャンデリア。 普段着そのままで・・・。 (・・・お、お姉ちゃん・・・(汗)) ロビーのソファにスーツを着た青年が・・・。 「一恵、あそこに居る人じゃないか?行って来い。 私、どっかその辺でブラブラしてくるよ」 「え、行って来いって・・・」 一人では不安な一恵。 光に視線を送った。 「・・・。あのさ、一緒にいってもいいけど・・・。 でも一恵が良く思われないんじゃないかって」 (せっかく綺麗になった一恵に・・・私なんかがくっついてたら 邪魔だよな) 「・・・。お姉ちゃんを見てなんか言う様な男だったらこっちから 願い下げだわ。ね、そうでしょ?」 「・・・一恵・・・」 光は一恵の頭をそっと撫でた。 「・・・。ありがとう。一恵・・・。ふふ。いつもより 素直な妹君で。ふふ。着物のせいかな?」 「んもう。元から素直だもーん・・・」 お茶目で時には辛口な一恵。 でも人一倍、姉想いなことを光は知っている・・・。 そして二人は見合い相手が座るソファに静かに近寄った。 「ああ!一恵ちゃん!待ってたのよ!」 仲人役の雅代が手招きしているが・・・。 「あ・・・、ひ、光ちゃんもきたのね・・・」 雅代は露骨に少し邪険な顔をした。 見合い相手の親子の反応を気にして・・・。 むっと一恵はして文句をいおうとしたが光は止めた。 ”・・・雅代おばさんにも立場があるんだ。仕方ないさ” と、光は耳打ちした。 納得がいかない一恵・・・。 少し重たい空気が流れる・・・。 「ささ、と、とにかく二人とも座りなさいな」 その場の雰囲気を必死で取り繕う雅代。 「じゃ、え、えーと、じゃあ自己紹介からしましょうか」 雅代は少し額に汗をかきながら見合いの進行をする。 「こちら、友坂義文さん。○○不動産の取締役さんなのよ」 少し真面目そうな見合い相手。 「初めまして。友坂です」 一恵に誠実な微笑を浮かべて会釈した。 (・・・かたそーそうな感じ・・・。でもこーゆー奴に限って 裏で何してるかわからないのよね。逆に思い切りチャラ男の方がマシだわ) 一恵の脳裏に俊也の顔が浮かんだ。 「で、友坂さんこちら、横山一恵さん。○○物産でOLさんしてらっしゃるの」 「初めまして」 一恵はその一言だけ・・・。 「・・・か、一恵ちゃん、それだけ?」 「うん。だって今、おばちゃんが言ってくれたから」 「そ、そう・・・(汗)」 (お姉ちゃんのこと見たとき・・・あんな顔する親子なんて) 一恵は見逃さなかった。 嫌悪な視線を送った一瞬を・・・。 「・・・で、あの・・・こちら一恵さんのお姉さんの光さん」 「・・・どうも・・・。初めまして・・・」 「ど、どうも・・・」 母息子は、気まずそうに会釈・・・。 (・・・仕方ないさ・・・。普通のリアクションだ) 慣れている。 初めて自分を見る人間は戸惑うのは当たり前。 (・・・”悪気”はない、仕方ないことなんだ。誰が悪いって ことじゃない・・・) 胸の痛みは相変わらずだけど・・・ しんどい現実を受け入れられる余裕が少し出来た・・・ と光は思った。 「・・・あ、あの。雅代おばちゃん。お見合いが終わるまで、ホテルの中ちょっと 見学してくるよ。滅多にこんな豪華な場所来られないからさ」 光は立ち上がった。 「そ、そうね。それはいいわ。屋上なんか眺めいいし」 雅代はあからさまにほっとした顔で光に勧めた。 (・・・何さ。何でお姉ちゃんが追い出されなきゃいけないの!) 苛苛する一恵。癖の貧乏揺すりが始まった。 それに気づいた光はテーブルの下で一恵の着物のすそをそっと 押さえた。 ”やめなさい。私は大丈夫だから・・・” 光の目はそう・・・一恵に伝えている・・・。 「・・・じゃあ、一恵、1時間ほどしたらまた来るから」 光は少し足早にロビーを離れた。 (ふぅ・・・。やっぱり・・・。ああいう場面は苦手だな・・・) 沢山の人が出入りするロビー。 人込みには大分慣れたが高級ホテルのような絢爛な場所は 緊張も過度に募る・・・。 (さて・・・と。どこで時間潰そうか) 豪華なホテルの中なんてどこへ行ってよいのやら・・・。 光はエレベーターの前で少しウロウロする。 チーン・・・。 エレベーターから降りてきた若いカップルの客。 (・・・) すれ違いざまに光に視線を送ったと思ったら 「なんか・・・”すごいモン”見たな」 「シッ!聴こえてるって!」 カップルの呟きが聴こえてきて・・・。 (・・・) 初めてじゃない。 こんなことは。 初めてじゃないけれど やっぱりチクリ・・・と胸の奥がきしんで痛い・・・。 光はポケットから帽子を取り出して深くかぶった。 (・・・。車の中で寝てるのが無難だな・・・) 光はトイレを済ませて、駐車場へ向かおうと出てきた。 「・・・ああ。そうなんだ。俺、今見合い中」 (・・・?この声は・・・) トイレから出てくると、男子トイレの前で見合い相手の男が 携帯電話で話していた。 「え?本気で結婚する気かって?んな訳ないだろ。お袋が どうしても面子がたたねぇってせがむから仕方なくだよ」 たばこをぷかぷかふかしながら話す。 (・・・。真面目男の裏見たり・・・の巻か) 「それがさ・・・。結構これがまたイケてる女だったんだよ。 でも姉貴って奴が・・・。なんていうか”人間離れ”しててさ」 (・・・) 話の矛先に雲行きが怪しくなってきた・・・と感じる光。 「写メで送ってやろうか?はは。でもあんな顔撮ったら 携帯がぶっ壊れそうかも。ハハハハ」 (・・・) ここがホテルじゃなかったら。一恵の見合い相手じゃなかったら。 (・・・一発お見舞いしてるのに・・・。あんな最低な奴・・・) でも光の拳は上がらない。 (・・・。私ことで一恵は今まで沢山嫌な思いをしてきたんだ・・・。 私の存在が・・・) 学校の友達を家に呼べなかったり・・・。 色々思い出す光・・・。 (もう私は・・・一恵の”マイナス”にはなりたくない) 光は思い切って見合い相手の男・友坂に声をかけた。 「・・・あの」 「え・・・。わッ!!」 背後から声を掛けられ、かなり大声で驚く友坂。 「あ、お、お姉さんっ」 友坂は慌てて携帯をきってポケットに突っ込んだ。 「あの・・・友坂さん。一つだけお聞きしてよろしいですか?」 「な、何でしょう(汗)」 「・・・貴方は本気で一恵と付き合うおつもりなんでしょうか? いい加減な気持ちでこのお見合いをしたのなら私は黙っちゃいられません」 「・・・い、いえ、あの・・・。そ、それは今後お互いに お付き合いしてみてからではないと・・・」 「私のことはどんなな風に言われても構いません。でも一恵のことは・・・」 友坂は目が泳いでいる。 思い切り会話を聞かれてしまったことを確信したらしい。 「・・・ちゃんと誠実な気持ちから言われおられると思っていいのでしょうか?」 「え、あの・・・そのあの・・・。も、勿論です。お、お付き合いするからには 真面目にお付き合いしたいと・・・」 「本当ですね?」 光はギロっと友坂を睨んだ。 「・・・(汗)は、はい・・・」 友坂の返事を聞いて光は静かに頭を下げた。 「・・・では・・・一恵のこと、よろしくお願いします・・・」 「・・・(汗)」 (一恵の幸せが待ってるなら・・・) そう思って頭を下げる光・・・。 「じょーだんじゃないわよ!!そんな奴に頭なんかさげないで!」 「一恵・・・!」 一恵が物凄い勢いで走ってきた。 「こんな下等な男に頭なんか下げることないわよ。おねーちゃん!」 「か、下等・・・!?」 「そうよ!アンタみたいなマザコン性悪、下等な男、 こっちから願い下げだわ!! バーカ!!」 一恵は友坂に向かって中指をたてて威嚇。 親子は一恵の啖呵に青ざめて・・・。 (か、一恵・・・。キレすぎだって(汗)) 「おねーちゃん、帰ろ!雅代おばちゃんには悪いけど こんな男の顔、一時たりとも見てたくないの」 「か、一恵・・・」 一恵は光のブラウスのすそをぐいぐい引っ張って ホテルを出て行く。 「・・・か、下等・・・(汗)」 友坂と母親は呆然と立ち尽くしていたのだった・・・。 駐車場。 車に乗り込む一恵。 「一恵・・・。あ、あんな事言ってよかったのか・・・?」 「うん。スッキリしたわよ。ずっと我慢してたんだから。 一発かましてやりたいって!」 着物の帯をほどいて深く息をつく一恵。 (・・・わ、我が妹ながら・・・勇ましい(汗)) 勇ましくて・・・。 可愛い妹。 「でも雅代おばちゃんには謝っておかないとな・・・」 「・・・。お姉ちゃんってば・・・。どうしてそこまでお人よしなの。 散々なこと言われたのに・・・」 「でもさ・・・。母さんが世話になってる人だし・・・」 (・・・。我が姉ながら・・・。優しすぎなのよね・・・。でも・・・) でもそこが・・・ 大好きだ。 「お姉ちゃん!どっかドライブ行かない?これから」 「え?」 「休日のやり直し!景色のいいところ行って、思いっきり おしゃべりしよう♪おねーちゃま」 光の腕に絡んで甘えてくる一恵・・・。 「・・・ったくー・・・。甘え上手で調子のいい妹め」 「ゴロニャーゴ☆」 アクセルを踏んで、光の車は一路、海岸沿いを走る。 「飛ばして、おねーちゃんもっともっとー!」 「わー!一恵、ハンドルにつかまるなってーー!」 二人の元気な声を乗せて 白のワンボックスカーは走る・・・。 姉妹の休日。 絆を深めた休日だった・・・。