シャイン
〜みんな輝いてる〜
第14話 おいしいかったよ・・・光ちゃん ”嫌なことがあるならおいしいものでも 食べて元気だそう” よく人はそういうけれど おいしいものが食べられない人も居る 貴方が今、食べているキャンディ一つ。 貴方が今、噛んでいるガム一つ・・・。 おいしいと 甘いと 辛いと 感じられるのは 生きているから。 その当たり前の感覚がなくなっら 寂しい。 寂しいけど 代わりに知った痛みの分だけ 優しくなれる。 痛みの分だけ 人は・・・。
「はい。母さん。朝食」 そのお皿に盛ってあるおかずの種類に 登代子は深いため息をつく。 「・・・またか」 「どういう意味」 「おまえねぇ。少しはバランスってもん考えな」 朝食のメニューに文句を言う。 「ワタシャまだばあさんじゃないのに。なんだい。 このやわらかめのものばっかりは」 大根の煮物に ふのお味噌汁 「だって。食べやすいかと思ってさ」 「あたしゃ入院患者じゃないんだよ」 「ごめんそうだよな・・・」 病院の食事を思い出す。 栄養はバランスよく考えられいて患者の体にはとても いい。 でも”おいしいか”と聞かれたら・・・。 「・・・食べたいものを食べる・・・。当たり前のことなのに それが不便なだけでなんか・・・。希望が消えるっていうか 意気消沈するよな・・・」 「・・・食はひとの基本的な欲求・・・。それがなくなったら・・・。 生きる気力も半減するもんだよ・・・」 食べる。 おいしいね、 おいしいね・・・。おいしいものを食べると元気が出てくるね 体と心に余裕がある人は”食べる”ということで 元気になれる。 家族一緒に食事をすることで 家族の絆を深めることも・・・。 けれどその”食べる”ということが困難だったらどうだろう。 人間として当たり前のことが・・・。 「これ、光がつくったのか?」 「ああ」 光は弁当を晃の分も作ってきた。 「上手だな。相変わらず・・・」 上手そうにおにぎりをほおばる晃。 「美味しいよ。愛が篭ってる」 「あ・・・(汗)あの、そ、そういう誉め言葉はちょっと(汗)」 表現がロマンチックなのは嫌いじゃないが肉じゃがひとつに使う言葉でもないと 光は思う。 「・・・。おいしいって思える人はいいよな」 「え?」 「母さんが入院してるとき・・・。色んな病気と闘ってる人 と見たんだ・・・。中には流動食採って深刻な人もいて・・・さ」 病院のすぐ真向かいにファミレスがある。 窓際から楽しそうにおいしそうに 食事する光景が見える。 ”明るいおいしい食卓” 家族が楽しそうに食事をとる光景の一方で 毎日、薄味のメニュー、さらに細い管から採る食事の人もいて・・・ 入院患者さんの唯一の楽しみな テレビをつければ 芸能人がやたらうまそうな高級旅館の料理に舌鼓。 料理人を競わせてクイズ番組・・・。 『テレビの中に入って・・・あの料理食べたいねぇ』 そんな台詞を光は聞いた。 「当たり前のことが出来ない状態の誰かでも・・・。 一瞬でいいから”おいしい”とか”嬉しい”感じられたら・・・。 いいなって思うんだ」 生きてるって口から 舌から 感じられたら。 体の中に眠っているエネルギーが 刺激されるかもしれない。 美容室の隣の家のイトさん。 今年90歳という高齢のおばあさん。 去年、階段から落ちて腰の骨を折ってしまってからベットでの生活に なってしまった。 「この前、昆布の佃煮の作り方教えてもらったんだ。 教えたとおりに作ったら本当に美味しく出来た」 だから、髪のカットのついでに教えてもらった佃煮と煮物をつくって お裾分けしようと光は尋ねてみようと思ったのだ。 オゴリかも知れないけれど 髪を整えることで 少しだけお化粧することで 生きる”欲”が出てきたなら 食欲がないと言っていたイトさんが 食べてくれたら・・・ 「明日、おばあちゃんのとこ、行くんだ」 「俺も行くよ。というか行かせてくれ」 「・・・晃・・・。ありがとう」 一年前は 晃のサポート役のように光がついてきていたのに。 (成長したんだな・・・) 光の背中が頼もしく晃の目には映ったのだった・・・。 そして三日後・・・。 光と晃はイトさんの家へ・・・。 「光ちゃん。よくきてくれたわねぇ」 割烹着のイトさんの娘さんが快く二人を出迎えてくれて・・・。 今のおくの床の間に行くと・・・。 「イトさん。こんにちは」 「・・・はぁあ・・・どなたさんでしたかね?」 イトさんは光の顔をじーっと見た。 「誰だったかな。触ってみて」 光は帽子を脱いで自分の顔をイトさんに触らせた。 「・・・ああ・・・。光ちゃんだぁ・・・。髪の毛切ってくれた・・・」 「うんそうです。光です・・・こんなごっつい顔でごめんなさいです」 「・・・なにいうとる・・・。めんこいめぇした子、みたことない」 イトさんは光の顔をそれはそれは 何度も優しく撫でた・・・ 光もそれが嬉しいのかイトさんの手に自分の手を添わせる・・・ (・・・光・・・) 自分を受けいれてもらえた悦び イトさんが光を心から招き入れていることが 伝わってくる・・・。 「母は最近物忘れも出てきて・・・。人の顔も忘れるんだけど ああやって光ちゃんの顔を触ると思い出すみたいなんです」 「・・・そうですか・・・」 (オレには・・・できない触れ合いだな・・・) 心と心の・・・触れ合い。 そこには余計な言葉なくて肌と肌のぬくもりだけで 伝わりあう心・・・。 (光だから・・・できるんだな・・・) 人からの悪意を肌で心で 感じてきた光だから・・・。 それから光はイトさんの真っ白な髪をそっと触れて・・・ ベットを起こして・・・カットをはじめた。 「・・・はぁ・・・。光ちゃんの手は・・・あったかいねぇ」 「はは。面積が大きいから。グローブみたいでしょう?」 イトさんの顔の横でぱっと広げてみせる イトさんはにこっと笑った・・・ カットだけじゃない・・・ イトさんと話すことが楽しい イトさんも嬉しい (・・・人に受け入れてもらってるって・・・光は嬉しいんだな・・・) 否定され続けた人間は 人に認められたと感じた瞬間、活きる元気が沸いてくる。 光もイトさんも心が触れ合えたと 感じている・・・オーラを晃は感じた 「イトさんに教えてもらった佃煮・・・。作ってみたんです。 あ、薄め醤油です。ハイ」 「ほうう」 カットも終わり、光は紙袋から佃煮を入れたパックを取り出した。 「イトさんの佃煮には負けるけど・・・。 よかったら一口いかがですか?」 「・・・」 イトさんは少し戸惑った後・・・ 「あ、ごめんなさい。イトさん食欲なかったら・・・」 「うんにゃ。食べる・・・。ワシの佃煮・・・作ってくれたんだから・・・」 イトさんは一生懸命に起き上がろうとしたが体は動けず・・・ 娘に箸と皿をもってこさせた。 「・・・一口・・・口まで光ちゃんお願い・・・」 「あ、はい・・・」 光はそっと佃煮を箸でつまみ手をそえて イトさんの口まで運んだ・・・ イトさんは必死に噛もうかもうとしている・・・ だがイトさんは歯がない。 (・・・柔らかく柔らかく・・・煮たつもりだったんだけど・・・) 歯がないことを知っていた光。 舌で転がして溶けるくらいに柔らかく煮たつもりなのだが・・・ イトさんは一生懸命に舌でクッチャクッチャと音を立てて 食べる・・・ 一生懸命に・・・ 口から醤油を少し垂らしてでも・・・ 「イトさん・・・そんなに頑張らなくて・・・」 光はそっと口から垂れる茶色の汁を袖口で拭って・・・ だがイトさんは首を横に降って光の手をぎゅっと握った・・・。 「・・・おいしい・・・。ワシの佃煮のあじだぁ・・・。 ワシの佃煮の味・・・じいちゃんと食べた佃煮の味だぁ・・・」 イトさんの手をにぎる光の手に 涙が一粒落ちた・・・ 「じいちゃんと食べた・・・あじだぁ・・・」 「イトさん・・・」 「おいしいなぁ・・・。おいしいなぁ・・・。 じいちゃんの・・・じいちゃんの・・・じいちゃんの・・・」 イトさんの脳裏に蘇るダイスキだったおじいさんとの食卓・・・ 必ずあった佃煮。 蘇る懐かしい懐かしい味・・・。 貧しかったあの頃。 おかずが少ないのでダシの昆布で佃煮を 良く作ったイトさん・・・。 思い出す・・・ あの頃・・・ 「イトさん・・・泣かないで・・・。イトさん・・・」 光はイトさんの背中をそっとさすってあげた。 「おいしいよ・・・おいしいよ。光ちゃん、佃煮ありがとうね・・・。 ありがとうね・・・」 イトさんは胃が半分ない。 だから食欲はほとんどなくなって 流動食のようなものしか受け付けなくなっていた。 そのイトさんが・・・ 佃煮を食べた・・・ 「光ちゃんの佃煮・・・。また食べたいなぁ・・・ じいちゃんの味、食べたいなぁ」 「イトさん。佃煮、もっと研究して持ってきます!」 ”うんうん・・・”と言う様に イトさんは光のおでこを撫でてくれて・・・ その手から”ありがとう”と ぬくもりを確かに感じた・・・ それからイトさんはおかゆだが白米を食べる訓練をするようになって・・・。 光がつくった佃煮と一緒に食べられるようになったという・・・。 少しずつ固形食に変えていったという・・・。 「・・・いただきます」 晃のマンション。 光からもらった、佃煮をほかほかごはんの上に乗っけて 一口食べる・・・ (・・・ばあちゃんも・・・良く作ったよな・・・) 甘辛くて だけどどこか優しい味・・・。 ごはんと佃煮だけで・・・ 幸せな気持ちになれる・・・。 食べられるということは いかに幸せで・・・ いかに大切なことか・・・ 自分の口で噛んで 飲み込んだ食べ物は 人の体のエネルギーになり 考える力になり ・・・活きる力になる・・・ 豪華な料理も ささやかな料理も 自分の力で口で食べられるということの 幸せを忘れてはいけない おいしいと思える心の幸せを・・・
・・・管理人は食が相当細くなりました。 外食は出来ません。お腹こわすので。 沢山おいしいものが食べられる人がうらやましいです。 でも私は私なりに食べられるものを探しております。 それはそれで楽しいです。 ということで(どういうことだ)光の精神的な成長期なお話が続きます。 一貫性がない感じもしますが、恋愛面も少しずついれていきますので また今後ともよろしくお願いします。