シャイン 〜みんな輝いてる〜 第15話 彼の部屋 「・・・。やばいな。これは」 夜。 なんとなく体調の異変を感じた光。試しに体温計で計ってみたら、まぁ。。 『38.5度』 (私だけなら薬飲んで寝ればいいんだけど・・・。母さんにうつったら 大変だ) 沢山の薬を服用している登代子。 不作作用で抵抗力が落ち、風邪を引きやすい状態なのだ。 以前、肺炎を起こしかけ入院したことも或る。 (母さんのヘルプ、一恵一人にはキツイよな・・・) 「ケホ」 光は携帯を取り出し、ヘルパーの雅代に電話。 風邪を引いてしまったことを話した。 「あ、でも私も出来るだけ手伝いますから。ケホケホ」 「駄目よ!それじゃあ!光ちゃん、貴方は風邪を治すことに専念しないと。 登代子さんにうつったりしたら大変でしょ」 「・・・はい。でも一恵ひとりじゃ・・・」 会社があるのに雅代がいない夜は一恵一人・・・。 「大丈夫!私も出来るだけヘルプするから光ちゃんは 休みなさい」 「でも・・・」 「いい機会だわ。光ちゃん。貴方今まで一人で無理してきたんだから・・・。 登代子さんもそう言っていたわよ・・・。ね!これは母親の命令なの」 「・・・はぁ・・・ゲホゲホッ」 雅代に押し切らてしまった光・・・。 (・・・母さん・・・。気遣ってくれてありがとうな・・・) 母親の愛情を感じる・・・。 (家にいたらまずいな・・・。とにかく医者に行って 薬貰って治さないと) 寒気がする。 ・・・光の財布の中も寒いらしい。 「・・・。ふぅ・・・。現実は寒い・・・。へっくしょん!」 冷えピタをあてながら医者に行く準備をする光。 (そうだ・・・。一恵に書いておくかな) 光は鼻をすすりながら、登代子の食事の作り方、ベットの起こし方など 簡単にノートに書いたのだった。 「・・・これでよし。一日だけ休ませて貰うけど・・・。一恵には負担掛けられない。 早めに治そう」 マスクをした光。 誰か客が来た 晃だ。 「ゲホゲホ。晃か・・・」 マスクごしに咳き込む。 風邪を引いたことを話すと・・・。 「俺のマンション来ればいい」 「え!?な、なんでそうなるんだ」 突然の申し出に驚く。 「お母さんにうつったらいけないし、でも光も 家で寝ていたら家の事気になって休んでいられないんだろう?」 「で・・・でも。駄目だよ。晃に風邪うつったら大変だ。 それに・・・」 「それに?」 (・・・なんだか・・・押しかけ女房というか なんというか(汗)) なんか妙にドキドキしそうで 余計に体が火照りそう。 「・・・。そんなに・・・嫌か・・・?光の役に俺はただ役に立ちたい だけなんだ」 「・・・でもさ・・・あの」 「駄目か?」 深く・・・ 深く 寂しそうな声・・・。 涙がこぼれてきそうなほどに・・・ (そ、その声は卑怯だ・・・晃) 「・・・。晃、やっぱりあの・・・ケホ・・・」 体がふらつく。 「光!?大丈夫か。やっぱりほっとけない。 行こう」 (・・・え、あ、あの。ちょ、ちょっと?あー・・・ 駄目だ・・・思考がさだまらん・・・) 光は熱でぼんやりして動けず・・・晃のペースに流されるまま・・・。 「光さんをお預かりさせていただきます」 「は、はぁ・・・」 (光が嫁に行くようだ) (お姉ちゃん、お持ち帰りされるようだ) と、唖然とした登代子と一恵・・・。 童話の中の王子のように光はお姫様だっこされて 車に乗せられていってしまった・・・。 「ふぅ。お姉ちゃんのことはじゃあ真柴さんに任せて・・・。 私、夕食つくるね」 「・・・」 登代子は無言で不安を伝える。 この前一恵が作った煮物がしょっぱかったから。 「・・・。分かったわよ。お寿司でもとるわよ」 にこっと無言で喜びを伝える。 (・・・くそ・・・。料理教室でも通うかしら) 電話帳をくる一恵だった。 「ケホ・・・」 熱でぼうっとしたまま、晃に肩車されて連れてこられたが・・・ (・・・。くそ・・・。もしかして風邪ひいたのは 晃が神様にお願いしたんじゃないか・・・) そう思うくらいに晃のペースで連れてこられてしまった。 3LDKぐらいだろうか。ぼんやりと部屋の様子が見える 必要最低限の家具のみで流行の雑誌に取り上げられてた晃の記事とは まるで違う・・・。 (・・・晃らしく・・・すっきりした感じだなぁ・・・) 「大丈夫か・・・?ほら、ここに横になって・・・」 ベットに寝かせられて布団をかけられる。 「ごめん。ソファベットしかなくて・・・固くないか?」 「・・・大丈夫・・・。うちは万年床みたいなものだから・・・。ケホ」 (・・・日の匂いがするな・・・。毎日干してるんだな) 些細なことだが・・・ 規則正しい生活感を感じ取る光。 「・・・今水枕つくってくるから・・・」 「いいよ。ケホケホ。晃。眠ればなおるから・・・」 「今日はオレの言うこときくの!病人は黙って看病されるもんだぜ」 毛布を整えて晃は嬉しそうな顔で台所へ・・・。 (・・・な、なんか・・・。晃が嬉しそうに見えるのは・・・。 気のせいか・・・、というより自惚れかな・・・) 「ケホ」 光はなるべく咳を押し込める。 (・・・晃に甘えちゃいけないのに・・・) 晃の住んでいる場所を見てみたかった。 そんな気持ちがどこかにあった。 一年・・・ 晃がどう変わってきたのか・・・ 「・・・!」 首筋がひんやり・・・。 晃がそっと光の頭を持って水枕を置いた。 「どうだ・・・?冷えてるか?」 「ああ・・・。世話かけるな・・・。申し訳ない」 「・・・ぷっ」 「?」 晃は何故か噴出した。 「光・・・。なんかオヤジっぽいぞ。その言い方」 「・・・なっなんだよ。長年こ、こういう口調なんだ。仕方ないだろう。 ゴホ・・・」 「はいもう寝ましょうね。病人はふふ・・・」 「こ、子ども扱いするなって・・・」 (か・・・完全に晃は・・・お母さん気分なのか(汗) でもまぁいいか・・・) 「ふふ。光は健康優良児だって想ってたけどやっぱり 風邪ひくんだなぁ。ははは」 「あ、当たり前だ。風邪ぐらい・・・ひくさ。ケホ」 前に比べて 晃はよく笑うようになった。 ”ごめん。光ごめん” この単語を連発していて・・・。 (・・・笑っていてくれた方が・・・私は嬉しい。 晃には・・・) 晃は両肘をついて、 微笑んで光の寝顔を見つめている・・・ 「・・・。晃」 「ん?」 「そんなに見られてると・・・逆に眠れんのだが」 「あ、そうか?じゃあ後ろ向いて座っているよ。昔話でも しようか?」 「・・・。子ども扱いすんなって・・・。でもまぁ聞こうかな」 晃はベットに背もたれ、 話し始める。 「昔々・・・。あるお姫様がいました。そのお姫様は恥ずかしがり屋で いつも一人でした」 (・・・どんな話かな) 光は目を閉じて耳を澄ます。 「お姫様をいつも見ている少年がいました。恥ずかしがり屋のお姫様を なんとか外の世界を見せてあげたいとずっと思っていました」 (・・・。なんか・・・昔話というより・・・) 誰かと誰かをモデルに晃が創作した話だと光は思いつつ聞いている・・・ 「お姫様は少年の導きで外の世界に少しずつ知るようになり 沢山笑うようになりました。少年はそれが嬉しくて堪りません・・・」 (・・・晃。本当にロマンチストだな・・・(汗)私は そんな話おもいつかない///) 布団の中で手をぱたぱた顔をあおぐ。 「・・・お姫様と少年はとても仲良くなりました。でも少年は 段々欲張りになってもっともっとお姫様と仲良くなりたくて・・・」 「・・・」 「少年はお姫様を・・・。ってまだ最初の方なのに 寝たのか。光・・・」 静かに寝息を立てる光・・・ 「・・・これからが肝心なところなのに・・・」 光の前髪をサラッとすくう・・・ 「・・・ねぇ。お姫様・・・。少年はどうやったらもっと・・・ もっと・・・仲良くなれるのかな・・・なぁ・・・」 あどけない寝顔・・・。 ”じっと見られるの・・・。苦手なんだ・・・” (・・・) ・・・眠っている間なら・・・見つめられ続ける・・・。 「・・・お姫様は・・・。少年のことを・・・好きになってくれる のでしょうか・・・?なぁ・・・?」 「・・・」 光の頬をそっと手の甲で触れる・・・。 例えば 恋心というゴールがあるとして ゴールへ向かうハードルが超えようとすると光は背を向けてしまう。 ”晃・・・。ごめん・・・。私・・・。私・・・。恋とか愛とか・・・ まだ怖い・・・。想像できない・・・。自分が怖いんだ・・・” どれだけ一緒に笑い合えるようになっても 複雑な想いの中の”溝” 互いの間にある・・・ 言葉では表せない 複雑で奥が深い・・・ 流行の恋愛映画のように 甘い台詞で育める恋愛なんて望んでないけれど 望んでないけれど・・・ ”もっと、もっと近づきたい・・・” 「・・・。”少年”は・・・ずっと待ってるから・・・。 お姫様が・・・。オレのこと見てくれる日を・・・」 「・・・ふがッ」 可愛らしいくしゃみで光は返事をする・・・ 晃はくすっと笑って・・・ 光の額のタオルをそっと代える・・・。 「・・・おやすみ・・・。光・・・」 夜は 更けていく・・・ 優しい眼差しを眠る光は夢の中で感じていた・・・。 チュン・・・ 晃の瞼に朝陽が反射する 「・・・ん・・・。ん?」 目覚めるとベットに光の姿が無い・・・ (光・・・!?) ”・・・ごめん・・・私・・・無理だ・・・” 夢で聞いた光の声・・・ 「光・・・!!」 バタンッ。 晃は洗面所とキッチン、部屋を手当たり次第に探す。 「光ッ。光!!」 ガチャリ。 洗面所から光が出てきた。 「・・・あ、晃・・・?」 「光・・・はぁ・・・。なんだそこにいたのか・・・」 「晃?どうかしたのか・・・?そんなに焦って・・・」 「いや・・・」 ”・・・晃とは一緒に居られない・・・” 夢の中の・・・光の冷たい声・・・ 嫌われていなくなったのかと思った・・・ 「・・・。光のほうこそ、大丈夫なのか?歩き回って・・・」 「ああ。咳は残ってるけど熱は大分下がった。晃のおばあちゃんの 薬が効いたみたいだ。今日は家に帰れそうだ」 「そうか。でももう少し・・・せめて午後までは休んだ方がいい」 「え、で、でも晃・・・」 晃は光の手を掴んだ。 「・・・頼む・・・。もう少し・・・」 (あ、晃・・・?) 止め処もなく不安そうな・・・ 「・・・。わ・・・わかった・・・。じゃあ・・・ もう少し世話になる。でも昼前には帰るから」 「・・・そうか。じゃあ朝食にしよう。オレ、お粥作ってやるから」 「え、いいよ自分で・・・」 落ちたタオルを拾うと手を伸ばす。 (あ・・・) 手が重なって・・・ 視点が合う・・・ (光・・・) 晃の真っ直ぐな・・・ 琥珀色の瞳が・・・ 「光・・・」 (あ・・・ッだ、駄目だ・・・っこの空気ッ) 「じゃあお粥頼むッ・・・じゃあっ・・・寝させてもらうよッ。」 バタンッ! 光は慌てて寝室へ戻っていった。 (光・・・) 一緒に居る時間時々・・・ 光との間にある溝を越えられそうな”入り口” に出会う一瞬がある。 でも光は背を向けてしまう。 (・・・仕方ないんだ。光に何か求めるなんておこがましい って分かってる。でも・・・) もっともっと 近寄りたい。 もっと・・・ 晃の気持ちは光も 感じている。 全身が火照るほどにいつもいつも・・・。 (ごめん。晃・・・。ごめんな・・・) 熱い・・・ 熱いのはきっと風邪のせいだろうが・・・。 (・・・風邪じゃない動悸もある・・・) 動悸の理由はもう分かってる・・・。 (ごめん。晃・・・もう少し待ってくれ・・・。ごめん・・・) 「ケホ」 シーツに包まる光は咳払いしながら晃に謝ったのだった・・・。