シャイン 〜みんな輝いてる〜 第18話 好きというプライド 「俊也ーぁ。もうー店に出ないのー?」 「・・・朝っぱらうるせぇな」 黒の下着姿の女が俊也のマンションの玄関をうろつく。 「俊也が店に出なくなってからつまんないのよ。”本部”の人も 言ってよ。戻って着て欲しいって」 女は脱いだストッキングを履きながら着替える。 「俊也の実力とステータスなら店2、3件任せてもいいって。 てんちょーさんになれるんだよ?」 カメラの調整を整える俊也に背中から絡む。 「きゃあッ」 女を突きとばす俊也。 「うるせえ。気が散る。出ていけ」 「・・・なによ!!もうッ!!」 バタンッ!! 女はバックを持って怒鳴って出て行った・・・ ホスト時代のなじみ客。昔なら何度か相手して機嫌もとるのだが 今はもうそんな気さえおこらない。 (・・・女の夜の相手も悪くないけど・・・。今はコイツの方が魅力的) カメラのレンズにキスをする俊也。 「・・・いつか・・・。お前でオレの”光という名の愛しい人”を撮りたいねぇ。 ふふ」 カメラに本気になった自分が今でも信じられない。 そのきっかけを作った”誰か”は分かっているが・・・。 (オレの本気・・・。どれだけ通用するか見せてやるぜ。光ちゃん) カメラを仕事にしてみよう。 そんな真面目な考えが浮かんでしまった自分が信じられない。 だが一度思ったことは行動に必ず移す。 それが”ホスト街の信長”と言われた俊也の心意気。 「で、どうですかぁー??オレ使ってみませんー?」 「・・・(汗)」 飛び入りで出版社に自分の撮った写真を売り込む。 客をもてなすホストのノリで。 「お前なんぞいらん。ホストみてぇな軽い奴に仕事 任せるか」 「へんしゅうちょうさーん。そういわずー。いい子 紹介しますよぉ」 当然、現実は甘くない。門前払いされるのがオチ。 俊也もそれは分かっていたが・・・。 「暇な奴に構ってらねぇ。帰りな」 「ああん。いけずぅー」 バタン!! 出版社の玄関。 見せた写真と共に追い返される俊也。 「・・・ったくぅー。おかしいぞ!このオレの才能を見抜けない なんて!」 お茶らけな自分を保ちつつも 結構厳しい現実に堪えている自分も感じる。 (・・・下手な鉄砲も数打ちゃ当たる・・・。論理は通用しねぇか) 20件目の出版社。 主に主婦向けの雑誌がメインだ。 「オレならどんな疲れた主婦もセレブな主婦に撮って見せます」 うたい文句をバシッと決めた 「・・・。よし。分かった。使ってやるか」 「えー!!ホントですかぁ。うわぁ。編集長さんやっぱり 目が肥えていらっしゃるぅ。他の出版社は目が節穴ですよ。 オレを相手にしないんだもん」 得意げにカメラをバックから取り出して 早速カメラマン気取り。 「・・・茶でもいレナ」 「へ?」 「使ってやるとは言ったがカメラマンとしてじゃねぇ。 丁度バイトの若い女が辞めたんだ。お茶くみ、コピー その多雑用諸々・・・。それが嫌ならとっと消えな」 「・・・あの・・・」 ビリビリリリ!! 恐持ての編集長。俊也の写真を目の前で破いて見せた。 「オレはお軽い奴を見ると虫唾がはしる。 目上の人間にまともな敬語も話せない奴なんてどこ行っても やっていけねぇぞ。帰んな」 「・・・」 流石に俊也のお茶らけキャラも通用せず。 呆気にとられて追い出された・・。 (・・・て、手ごわい・・・) 破り捨てられた写真の破片。 一番自信があったのに。 「・・・」 凹むタイプじゃないけれど。結構堪えております。 (・・・甘いいちごキャンディが恋しくなってきた) 疲れたりしんどきとき、行きたくなる場所はただひとつ。 「ひっかるちゃーんおっはよーん!!」 いつもより若干テンション高く光の元を尋ねる。 「こっちは会いたくない!掃除中だ!」 モップでまとわりつく俊也を追っ払う。 「お姉ちゃんは今、仕事中なの。俊也さんと違ってね」 会社帰りに立ち寄った一恵が応戦。 「いけず。今日はボク、傷ついてるの。ハートブレイク」 「私は今、珈琲ブレイクしてるんだ。邪魔しないでくれ」 「相手してよー」 苛苛する心を受けて留めて欲しい。 光なら分かってくれると俊也の心は高をくくっていた。 光に経緯を話すと・・・。 「その編集長さんが言った様に・・・バイトから頑張ってみたらどうだ」 「な・・・このオレにバイトの女の子になれってのかよ」 ”次を探せばいいじゃないか。焦らずに” そんな台詞を言ってあの苺キャンディをくれると俊也は 思い込んでいたのに・・・ 「・・・馬鹿言うな。プライド捨ててまで出来るか」 「・・・。写真が好きって気持ちが”プライド”ってやつじゃないのか?」 (・・・妙に説教臭くなったじゃねぇか) お茶らけ俊也も何だか苛苛してきた。 「はは。お前に言われたくねぇな。お前はどうなんだ。 知り合いから贈られた居場所でちまちまやってるお前にな」 「ちょっと!あんた何言うのよ。お姉ちゃんなんてね! 色んな仕事の面接どれだけこなしてどれだけ断れてきたと思ってんのよ!? 酷いところだと、写真見るなり”他探せ”って門前払いよ!?」 (・・・一恵。古傷が痛むフォローはいらんよ(汗)) 会社帰りの一恵。カッとなって口を挟んできた。 ”お客様の外見を整えるのが商売ですから・・・。すみません” そんな台詞は慣れていた光・・・ 面接にこぎつけたらいい方だった。 「落ち込んだけどね!お姉ちゃんは 俊也さんみたいに拗ねてなんかなかったわ!!」 一恵が怒鳴ったが光が止めに入った。 「・・・。俊也。私思ったんだけどその編集長さんは 俊也がもう一度来ること、待ってるんじゃないかな」 「あん?」 「見込みがある奴だと思ったから・・・。突き放したんじゃ ないかって・・・単なる私の勘だけど・・・」 「・・・」 確かに根拠のない理屈だ。 でも・・・ そんな風に都合よく解釈したら楽じゃないだろうか。 「・・・。私は・・・。俊也の写真・・・いいと思う。もっと沢山の人に 見てもらいたい。だから・・・踏ん張って欲しい・・・。ごめん。 あの・・・上手な言葉言えなくて・・・あの・・・」 鼻を頭をぽりぽりかく光。 「ぷ。クククク。はははは!」 「な・・・。なんで笑うんだ。人が真剣に・・・」 戸惑う光が可愛らしく映る。 説教臭くならないように必死に言葉を選びつつ言っていることが 丸分かりだから・・・。 「・・・はぁい。うわっぁりました。光ちゃん。 ボク、頑張るよ。愛しい光ちゃんのためにいい写真が撮れる様に 生まれ変わります!!」 そう言って光の手の甲に軽くキスした。 「なッ!!何すんだ!!」 「光ちゃんの愛を確かに頂戴いたしました。 ふふ。あ、あと苺キャンディも貰ってくね。じゃーねー!」 レジの隣に置いてあったキャンディの箱から一つ 拝借していった俊也。 「ったく調子のいい・・・。愚痴り来たのか何しに来たのかわからないな」 「ただ・・・。お姉ちゃんに会いたかっただけなんじゃない?ただ」 「・・・え?どういう意味だ」 (・・・鈍感) 一恵にはわかる。 俊也の心のよりどころが光になっていることを・・・。 「・・・それより一恵。あんたいつから俊也さんって 名前で呼ぶようになったんだ?もしや・・・。アイツめ、一恵に ちょっかいだしてんじゃないだろうな!?」 「ちょっかい・・・。出して欲しいな」 「な、なぬ!??それはいかんぞ。姉として・・・」 光はモップを握り締めて一恵を説得。 「あははは。おねーちゃんたら・・・」 優しい姉。妹思いの姉。 大好き姉・・・。けれど胸の奥で微かに感じるモヤモヤは・・・ (嫉妬・・・なの?) 複雑な想いが・・・一恵の胸を占めていた・・・。 そして一方俊也の方は・・・。 ここは俊哉が最後に寄った編集部。 あの恐持ての編集長がディスクに座って原稿のチェックをしている。 「おーい。誰か珈琲くれ」 「はーい。お待ちさまです」 (ん?) 男の声に顔を上げるとエプロン姿の俊也の笑顔が・・・。 「お前は・・・この間の・・・」 「お茶汲み、コピーなんでも僕お引き受けします☆ だからオレをどうぞ煮るなり焼くなり使ってください! おねがいします!」 編集長に頭を下げる俊也・・・。 「・・・まずい」 「え?」 編集長は俊也がいれた珈琲を一口飲んだ。 「もっとマシな珈琲入れられるようになったら カメラいじらせてやる。わかったか」 「・・・。は、はい!!わっかりましたぁ♪」 ”きっとその編集長さんは俊也を見込んだから突き放したんだよ” 光の言葉が過ぎる・・・。 (光の言ったとおりだな・・・。ふふ。さすがオレの ”愛しい人”・・・。ありがとうな・・・) 俊也のエプロンの中には あの苺キャンディが何個もはいっていたのだった・・・。