シャイン 〜みんな輝いてる〜 第19話 キズナ 絆は目に見えない 見えないから人はカタチにして確かめたくなる けれど形にすればその絆が偽りだったと知ることもある それでも人は絆を求めて止まない。 キズナ・・・ それは気がつかない所に存在するもの・・・ キズナがほしい 気がつけばほら・・・ きっとそこに温かなキズナがある・・・
「ありがとうございました」 光が路地裏の美容室を手伝うようになって 半年が過ぎた。 主に近所の主婦達が来て光を娘のように可愛がってくれている。 (ありがたい事だよな・・・。感謝しないといけない) 光はそう思いながら毎日、家事と登代子の介助もしながら 頑張っている。 だが・・・。 世の中には暇な奴がいるものだ。 ”商店街の古い美容院には酷い顔の女が居る” そんな噂話が流れる。 誰が流したのか。 大人の汚い部分はすぐに子供に影響するものだ。 「ここだって。気持ち悪い顔の人いるって」 美容室の硝子越しにランドセルをしょったガキンチョが 数人光を見物に・・・。 ガキンチョたちに気づいた光は声をかけた。 「君達。何かようか?」 「え、あ、いや・・・別に俺ら、”お岩”さんを見に来たわけでもな・・・」 ガキンチョは慌てて口を押さえた。 「あ、さ、サイナラ〜!!」 ガキンチョの逃げ足の速いこと・・・。 (・・・ふぅ・・・。『見世物』になっちゃってるな) 「今度来た時・・・。お菓子あげてみるかな」 光は気を取り直して掃除。 ・・・辛くないといえば嘘になる。 どこへいっても、外見のことでトラブルがついてまわる。 (・・・構ってられない気にしもいられない) 痛む心を抱えながらも、この現実で自分は生きていくしかない。 (・・・どこ場所にも世界にも嫌な部分はある・・・。 けどいい部分もあるはずなんだ) 現に自分を可愛がってくれるおばさん達もいる 母もいる 姉思いの妹もいる・・・ (それから・・・) 「・・・光・・・!ごめん!遅くなって・・・」 「晃・・・」 それから・・・ 「今日はいい天気だな」 「あ、ああそうだな・・・」 最近・・・。心待ちにしている瞬間がある。 「丁度休憩してたんだ。珈琲入れるよ」 「ありがとう。光」 (・・・) 晃が自分に微笑みかけてくれる瞬間・・・。 無意識にその瞬間を求めている自分に気がつき始めた・・・。 「・・・?どうかしたか?光」 「あ、い、いや・・・なんでもない・・・」 知らない自分がもう一人出来たみたいな感覚。 晃を目で追っているなんて・・・。 「・・・光はどう?ここは慣れたか?」 「ああ・・・。慣れたって言ってもごらんの通り お客は閑古鳥。でもいいんだ。待ってる時間が 心地よくて・・・」 儲けを主としていない 誰かが元気な声で「こんにちはー!」と顔を出してくれる ことを待っている時間が光にとって”儲け”なのだ 「・・・光らしいな」 「本当はこんなんじゃいけないんだけどな。長女なのに 家には雀の涙しかお金いれてないし・・・。母さんの世話も ヘルパーさんに大分やってもらちゃってて・・・」 そう話す光の手はアカギレやら湿疹やらで荒れている。 ヘルパーを頼んでいるといっても 家の水仕事等は光がしているのだと晃にはすぐ分かる 「お母さんは光が光らしく活き活きしてることを望んでるんだよ。 自分のせいで娘に迷惑かけてるって気持ちのほうが、母親としては 辛いんじゃないかな・・・って偉そうか」 晃は少し照れくさそうに前髪をすくった。 「私は感謝しなくちゃな」 「え?」 「昔は私ばっかりなんで・・・って悲観ばっかりしてた でも本当は私のことを大切に想ってくれる人が身近にいるんだって すごく最近思うんだ・・・」 (光・・・) ”その中にオレも入ってる?” そう聴いてみたい晃。 だが光に”応え”を求めることは傲慢だ・・・。 (・・・こうして側に居られるだけでいい。いいんだ・・・) 求めることは愛じゃない キズナじゃない・・・ 「・・・晃。今日、夕食私の家で食べていかないか?」 「え?で、でも・・・」 「昨日さ、近所の人に美味しい野菜たくさんもらったんだ。 人助けだと思って食べにきてくれ」 「あ、ああじゃあお邪魔しようかな」 「サンキュ!よかったぁ!ふふ。料理頑張って作るから」 (光) ”もっと強いキズナがほしい” 光が笑うたびその想いが募る (抑えるんだ。抑えないといけないんだ・・・) 晃が子供の頃。一番ほしかったもの。 それは・・・ 揺るがない絆 信じることができる強い強い絆・・。 「ま、殺風景な家だけどあがってくれ」 「お邪魔します・・・」 晃が光の新しい引越し先をたずねるのは今日が初めて。 廊下にはスロープがつけられ、扉は全て段差なし 車椅子でも通れる広い廊下。 キッチンとリビングがありすぐ奥が登代子 のベットが・・・。 ”今の家を改築するのにお金つかったのに” (・・・お母さんのために・・・) 自分がアメリカにいた一年間。 光の日常がが劇的に変化したことを・・・ 家の作りから晃は想像できた・・・ 「んまぁ。真柴さん。散らかってますけど ゆっくりしてくださいな」 上半身を起こし、晃を出迎える登代子。 丁度、手にボールを握りリハビリ中だった登代子。 ボールが転がった。 「あ、こちらこそお母さん。突然押しかけてしまって・・・。 オレのことは気になさらず、続けてください」 ボールを拾ってそっと登代子の手に乗せた。 「すいませんねぇ。こんな格好で向かえちゃって・・・」 「いいえ。お招き頂いただけでオレは嬉しいです」 「ちょいと聴いたかい?光。真柴さんの優しさ。 今日の鍋、心を込めて作るんだよ!?いいね!」 キッチンに立つ光に渇を飛ばす登代子。 光は手を振って返事した。 「ったく・・・。あの子は・・・。調子がいいんだから」 光と登代子の会話に 晃の緊張もほぐれていく。 「おーっし!出来たよ〜。半年振りのすき焼きだ」 ぐつぐつ。 しらたきや春菊が煮えている。 登代子のベットの側にこたつを持ってきてそこで すき焼きパーティの始まりだ。 「光。アタシは肉中心で野菜は春菊大目にとっておくれよ」 「うるさいな。ちゃんと母さんの肉はとってあるよ。 たくー。食欲旺盛すぎだな」 こつん! 「イテ!」 テレビのリモコンの角で光の頭をつつく登代子。 「肉!一番柔らかいトコ入れるんだよ!」 「はいはい・・・ったく・・・」 (明るい・・・。親子だな・・・) 笑いが絶えない 晃の子供の頃・・・味わえなかった家族団らんという空気・・・。 晃は夢見心地・・・。 暖かな部屋で 温かな食べ物をみなで囲んで食べて・・・ 何気ない会話で笑いあう・・・ ”ばあちゃん・・・帰って来ない” 晃の子供の頃は 祖母が入院すればいつも一人の食事。 近所の知り合いに預けられて 緊張して味なんて分からなかった 「晃、食べるか?」 「あ、ああ、美味しく頂いてるよ」 「よかった。食事は一人でも多い方が美味しいから」 大切な人と食べる食事ほど・・・ おいしいものはない。 (・・・まして・・・。光の家族とこうして食事を囲めるなんて・・・) ”許されている” と思えてくる 自分は受け入れられていると・・・ 「・・・!?あ、あああ晃・・・!!?」 ぽたり・・・ 晃の頬に一筋流れるものが・・・ 「どどどどどどうしたんだ!?す、すき焼き泣くほど まずかったのか!??」 どもるほど焦る光。 「い、いやそうじゃなくて・・・。なんか・・・。 いいなって思って・・・。あったかい食卓って・・・」 「晃・・・」 「・・・って柄じゃないな。ごめん。湿っぽくなって・・・」 頬の涙をぬぐう晃・・・ 「あ、こ、これで涙拭いてくれ。はい」 「光。あんたこんな男前さんに台ふきで顔吹かせる気かい?」 醤油のしみがついている台ふき。 「・・・。あ、こ、これは失敬した。晃。あの・・・えっとあの・・・ その・・・」 慌てる光はふきんで汗を拭く。 「ふふ。ははははは」 くすっと晃が噴出した。 「だははは。光。顔に鼻の頭に醤油、つけて。ははは」 確かに鼻の頭が茶色くなってます。 「なっ・・・。あ、晃も母さんも笑うなって・・・。んもう! 肉もらうぞ!!」 がばっと真ん中で煮えていた肉をぱくりとほおばる光。 「こらーーー!!光、あんたって子は!肉返しな!!」 「わーーっ。母さん暴れるなーーー!!」 横山家の食卓から・・・ すき焼きのいい香りと賑やかな声が 響いてくる・・・。 そんな光景を門の前で眺めていたのは一恵・・・。 (・・・お母さんもおねえちゃんも・・・。真柴さんを 許しているの・・・?) 複雑な気持ちが捨てきれない一恵・・・。 だが光が晃を必要としているならば (・・・私が反対する権利なんてないよね・・・。 お姉ちゃんが笑顔でいることが一番大切だから・・・) 姉の恋を否定することなんてできない。 一恵は食事が終わるまで・・・楽しそうな光景を暫く車の中から見守っていた。 ガラガラ。 玄関が開いて晃と晃を見送る光が出てきた・・・。 「なんだ一恵。帰ってたのか」 「あ・・・こんばんは」 少し緊張気味に会釈する晃。 「すき焼き残ってるぞ。あっためて食べてくれ」 「うん・・・」 二階へ上がろうとした一恵・・・立ち止まり晃を見つめた。 「真柴さん」 「はい」 何か言われるのかと晃に緊張が走った。 「・・・また・・・。遊びに来て下さいね」 「あ、え、ありがとうございます」 「じゃ・・・!」 パタパタパタ・・・。 二階へ駆け上がっていく一恵。 (一恵さん・・・) 「ったくー。何だあいつは!相変わらず愛想がないな」 「いや・・・。そんなことないよ」 「え?」 「・・・。お姉さん想いの・・・素敵な妹さんだ。光・・・」 ”同情交じりの愛情ならやめてください” いつか言い放たれた言葉・・・ 自分に向けられた反発を身にしみたこともあった。 (・・・。オレは・・・。許されたって思っていいのだろうか・・・。 誤解したくなるほどに・・・。嬉しい・・・) そして・・・ (・・・光の心にも受け入れてもらえているって・・・。 誤解しそうだよ。光・・・) 門の前で・・・ 穏やかに微笑む光・・・。 「光・・・。今日は本当にありがとう。楽しかった」 「いや・・・。晃が喜んでくれたならそれでいいんだ。 色々世話になってるし」 「ありがとう。光・・・。ありがとう・・・」 想いを秘めた目の晃・・・。 「・・・っ///。や、やだな。連呼しないでくれよ・・・。 てっ照れくさいから・・・」 「なんか・・・。帰りたくなくなってきたな」 (えッ!?) ちょっと光には違う意味で聴こえた。 「でも家族団らんを邪魔するわけにいかないから・・・。 帰るよ」 (あ、な、なんだ。家族団らん・・・か。晃の発言は 動揺する発言が多いな・・・汗) 「じゃ。おやすみ。光・・・」 「あ、うん・・・。お休み・・・」 晃の背中・・・ (・・・) ひとりぼっちだよ・・・って言ってるみたいに 寂しそうに見える・・・ 「あ、あの晃・・・っ待ってくれ」 車の鍵を開けようとしていた晃を呼び止める光。 「どうかしたか?」 「あ、あの・・・わ、忘れ物・・・っ」 「忘れ物・・・?」 光は晃に苺のキャンディを手渡した。 「また・・・。来てね。家に。みんな待ってるから・・・」 「光・・・」 「じゃあ。おやすみ・・・!」 バタバタ・・・ バタン! ”また来てね・・・。家に・・・。待ってるから” (光・・・) 光が待ってくれる・・・? 自分を・・・? 苺キャンディを見つめる・・・ ”待ってるから・・・” 「光・・・」 手の中の苺キャンディ・・・ 大切に握り締める・・・ 想いが溢れそう・・・。 (光・・・。そんなに優しくすると・・・。期待する自分を抑えられない・・・ オレは・・・オレは・・・) 心の絆が・・・。 繋がっていると・・・。 光からもらった苺キャンディ・・・ 晃は大切にポケットにしまう・・・。 溢れ出そうな想いと一緒に・・・ (光・・・) ハンドルを握る晃の心は・・・ 光という名の心と繋がっていたい そんな想いが止まらなかった・・・