シャイン 〜みんな輝いてる〜 第21話 草の根が実る頃 ”小さなお客様”の話を聞いた晃。 晃はある人物に光を合わせたいと考えた。 「光に紹介したい人がいるんだ」 突然。晃に呼び出された光・・・。 晃の車の助手席に光が乗っている。 「ごめんな・・・。休日に」 「いや大丈夫だ。今日は母さん、雅代(知り合いのヘルパーさん) さんと一緒にお芝居見にいったんだ」 「へぇ・・・。お母さん・・・元気になってきてるんだな」 「・・・。まだまだリハビリ中だけど、家の中にばかりいると いけないって母さん・・・。でも本当は私に時間つくってくれたのかもしれない。 たまには晃とどこかへ行っておいでって・・・」 「・・・いい・・・。お母さんだな・・・」 「うん・・・」 ”たまには母親から離れな!娘と四六時中一緒なんて 息が詰るんだよ!” 荒い言葉のなかに・・・ 母親の愛情を感じる・・・。 光は心の中で何度もありがとうと呟いた・・・。 「・・・さ、ついたよ」 晃が光を連れてきた場所。そこは・・・。 ゴク普通のマンションの一室。 『草の根グループ』という看板が。 (どういう意味だろうな・・・) 光はそう思いつつ中に案内されるとそこは ちょっとした何か、会社の事務所・・・といった感じで ディスクにはパソコンや周辺機器、書類類の棚など・・・。 雑然としている。 「おー!晃。待ってたぞ」 無精ひげを生やした中年の男が出てきて光と晃を 奥のソファに案内される。 「小汚いところですまんね。あ、自己紹介が遅れまして。 オレはここの一応代表やってます金崎です」 「よ、ヨロシク」 初対面の人間に未だに少し緊張がマックスになる状態は ひきづっている光・・・ 「晃から色々貴方のことは聞いてます。若いのに お母さんのお世話までして・・・いやぁワシの娘にも 身ならさせたい」 「い、いえ・・・」 かなりフレンドリーな金崎に光は少し慣れられるかな・・・ と思った。 「うちはどんなことしてる団体かを知りたい・・・ んですよね」 「え、あ、はい。あの・・・興味本位って言われたら 恐縮なのですが色んなお話が聞きたいと・・・」 「単純に言えば・・・。病院や色んな施設に美容院やら銭湯やらをつくっちゃったり 美容師やらマッサージ師を送り込んだり・・・。 人材派遣会社兼店舗開業、手広くやってる奴らなんです。ハイ」 「あ、は、はぁ・・・」 ザックバランな金崎。 ディスクワークをしているメンバー達も光に 向かって手を振ってくれた 中には車椅子の女性も。 (ふふ・・・本当にフレンドリーな・・・感じ) 「・・・、貴方もお分かりになると思いますがー・・・。 まぁ世の中は、健康な人間、お金に余裕がある人間 そんな人間のために、上手いラーメン屋も ショッピングセンターも出来てます」 「は、はぁ」 「でもね、病気の人間だって、心のトラウマで 悩んでる人間だって、楽しい思い、気持ちいい思いを したわけですよ?で、俺たちはその機会をつくろう っていうスタンスで色々活動してるわけです」 「・・・ご立派なんですね」 「ええ!!近々は、車椅子の方達専用の キャバクラとかメイド喫茶なんてのも思案してます。ふふ☆」 ドカ! 晃が金崎の足を踏んづけてナイスつっこみ。 「あははは。晃君。真面目だなぁ〜」 「金崎さんはマニアックすぎなんです。ったくー・・・」 二人のやりとりを見て (晃は金崎さんのことを・・・信頼してるんだな) そう光は思った。 「ああ。そうだ。今日、丁度晃と他のメンバーが 個人病院に行くことになってたんだっけ?」 「どうだ?光、行ってみるか?」 「はい・・・。是非」 (晃の実際の現場が見てみたい・・・) ということで光は晃に連れられて、個人病院へついていくことになった。 個人病院といっても外科・内科全般を受け入れている病院。 入院患者も100人以上いて・・・。 その病院の3階の患者専用の談話室。 『草の根床屋』 入り口には手作りの看板がたてられており。 「おー金やん!今日、まっとったでー!」 「俊やんあんたまーた風呂はいるのいやがったんだって? ったくー。くさい頭してまってくれたんかい」 入るなり強烈なキャラの患者と金崎の トークが炸裂。 「お。晃君。今日、リンスたのむで!トリートメント 変えたいんじゃわし」 「はいはい。ちゃんとご指定のリンスもって来ましたから」 晃も慣れた口調で会話する。 「あらまぁ。そちらは?」 「・・・こ、こんにちは」 「ふぅん・・・。晃君の彼女かい?随分また おもしろい”マスク”してるるんやねぇ」 (・・・(汗)) 関西弁のおじさん。 ストレートにつっこんできた。 「これ!俊やん!マスクじゃなくて!」 「ええ!?こりゃすまんかった。ハゲ頭さげるから 許してくれや」 おじさんは本当に頭を下げた。 (・・・た、確かにシマウマ・・・) 「・・・ワシのギャグ?通じんかったかの?」 「え、ぎゃ、ギャクだったんですか?」 「・・・、あんた天然な子やなぁ。ふふ。新鮮でええわい。 それによくみちゃ可愛いし」 (よ、よく見ないでください(汗)) なんか妙なコントな会話。 でも逆に少し緊張がほぐれて光は心に余裕が持てた気がした。 「んじゃ晃君たのむでー!今日は、”草薙君”風に してくれ」 「努力します」 晃は早速散髪を始める。 他のメンバー達もそれぞれ、各担当の患者の髪をセットしはじめる。 「今日は”床屋”であさっては”マッサージ” 週末は床屋と本屋・・・。ほら。あそこにスケジュールが かいてあるでしょ?」 ホワイトボードに一週間のリストが 貼り付けられていた。 「すごいな・・・。なんだか病院の中に 商店街があるみたいだ」 「そう!まさにオレ達が目指すのは、病院の中の 商店街。外に出られないならつくっちまえ!ってんで 色々がんばっているわけです」 口調はお軽いけれど 確固としたポリシーを金崎は持っているんだなと 光は感じた。 「晃君!ワシなぁ、看護婦のともみちゃんが 好みなんじゃぁ。胸もでっかいしのう〜」 「俊夫さん。今、看護婦、じゃなくて看護士って いうんですよ。それにセクハラで訴えられますよ?」 「わはっは。訴えられてみてぇな。ともみ ちゃんにもっと会える」 車椅子の中年の俊夫さんという男性の 髪を洗いながら、晃は活き活きした顔で話す。 (晃・・・。充実してるんだな・・・) 金のためじゃなく 誰かのため そして自分の遣り甲斐のため・・・ 晃の充実感ある表情が 光の心にも心地いい刺激を与えてくれる・・・。 「由美ちゃん、あ、ちょっとじっとして〜!」 晃の隣の席でカットしていた少女が突然体を動かして 暴れ始めた。 目に水が入って痛いらしく・・・ 「わッあぶない」 ベットから体がおちそうになった瞬間 光が寸での所で少女をキャッチ! 「おっとお姫様!お転婆は程ほどにいしてくださいまし!」 「・・・お、お姫様?」 「はい。髪の綺麗なお姫様。もっと可愛いお姫様に この美容師さんが仕立ててくれるそうですよ。ですから 少々・・・静かにお待ちください。プリンセス・由美ちゃん」 光はそっと少女をベットに戻し、 「これは幸せの苺キャンディ。綺麗になった後、 お召し上がりください。姫様」 少女の前髪をそっと撫でて離れた・・・。 その様子を見ていた晃と金崎。 あの少女を抱きとめた一瞬。 少女に負担がかからないようにと 膝を曲げてクッションになる体制で受け止めた。 金崎と晃はそれを見抜いて見ていた。 「お母さんの介助してる経験が物をいったんだと思います」 「はは。分かるさ。手の肌は荒れてるけど力強さを 感じた。会った瞬間にね」 「はい・・・」 まるで自分が誉められている気がして 晃は嬉しい。 「それに・。いい子だな。普通、こういう現場に 初めて来る奴はなにかしら戸惑うはずなのに物怖じしない」 「はい」 「晃が惚れたきもちがなんとなく分かるよ」 「・・・か、金崎さん(汗)」 頬を少し染める晃。 「それに案外胸があってスタイルもいいし」 「か、金崎さん(怒)」 「はっはっは。晃、お前の恋路の成就を願ってるよ」 バンバンと晃の背中をたたいて豪快に笑う金崎・・・ (適わないなぁ。この人には・・・) 懐の大きさと、大きな壁があるほど挑戦していくガッツに 晃は引かれ、金崎のメンバーに飛び入りした。 正直、最初はどう受け入れられるか不安もあったが ”カリスマ美容師!?んならおい、 うちの広告のモデルにならんか!?” 初っ端から強烈なギャグで受け入れられた。 それが晃にとってはとても心地よく 素直になれる空気を感じたのだ。 「晃・・・。あの子に言っていてくれ」 「え?」 「・・・笑顔が本当に綺麗だった・・・ってな」 「金崎さん・・・」 少女と話す光の笑顔を見て話す・・・ (光の良さを・・・分かってくれた・・。光の良さを・・・) 嬉しい。 自分が誉められたように 本当に嬉しい (光に早く伝えたい・・・早く・・・) 晃が光をここに連れて来てよかったと・・・ 心底思えたのだった・・・。 「金崎さん、今日は色々勉強になりました。 ありがとうございました」 「いーえ。いつでもまた来て下さい。それから・・・。 何卒、晃のことも一つヨロシク。一途な奴なんで」 「か、金崎さん・・・///」 最後の最後まで金崎ペースに少し困り気味の晃。 帰りも晃をヨロシクと何度も念を押されて。 「晃は・・・。いい人と出会ったんだな」 「ああ・・・、いい出会いだと思ってる」 車の中。 日は暮れて・・・ ラッシュアワーの道路を帰る。 「・・・晃すごく充実した顔してた・・・。 かっこよかった」 「あ、ははは照れるな。でも・・・確かに・・・。 充実っていうか・・・。遣り甲斐は感じてる。 オレの居るべきところは・・・ここだって」 ハンドルをにぎって話す晃・・・ 現場での顔と同じく何かに満ち足りた顔だなと 光には頼もしく見えた。 「金崎さんからの伝言」 「え?」 「・・・笑顔がゾクっとするほど綺麗だったって」 「・・・え(汗)そ、それって怖いってことか?」 「あ、いや、そうじゃなくて・・・」 晃、ちょっと墓穴を掘る。 「はは。いいよ。わかってる。私のこと ちゃんと顔のこと抜きで見てくれたってことは・・・」 「ああ。そうだよ。光の良さをちゃんと見てくれるんだ。 オレ、すっごく嬉しくて早く光に伝えたかったんだ」 (晃・・・) 頬を染めて微笑む晃から 晃の想いが伝わってきた・・・ 「”草の根”ってなんか好きな言葉だな」 「え?」 「・・・草の根っこさえ残っていれば・・・。 花や草は自然に力を蓄えて生えてくる・・・。根っこさえ あれば・・・」 光の脳裏に 家の花壇に植えたチューリップの球根が過ぎる。 「・・・前に住んでた人がきっと植えたものが 自然に生えてきたんだ・・・。それがとっても綺麗で・・・」 「そうか・・・」 「すごいよ・・・。生きるようとする力は・・・。 生きたいって思う強さは・・・」 その強さを誰よりも持っているよ・・・と 光に伝えたい。 「・・・光の心にも・・・咲いてるよ。きっと。 きっと・・・」 「・・・ありがとう。晃」 光の穏やかに微笑む。 「・・・あのさ。晃」 「ん?」 ”一途な奴なんですよろしく” 金崎の言葉が過ぎる。 「あ、いや、なんでもない・・・」 「光。なんかお母さんにお土産帰ろう」 「あ、う、うん・・・」 恋の草の根の行方はどうなることやら・・・。 窓から見える 夕暮れが 今日は少しいつもより優しいオレンジに映る。 川辺に生える草花が 活き活きと見えて・・・。 心の草の根 皆の根が心に根付いて生きる元気になればいい 明日へ繋がる元気に・・・